81 / 157
魔界の王と天界の最高位と
3
しおりを挟む
ラシュレスタがあわてて袖で目元を拭った。
あれほどまでに恋い焦がれ、待ち望んでいた再会だというのに。まさか、こんな不本意な形で、その時を迎えるとは―――
だが、決して心の乱れや弱さを露わにしてはいけない。途方もなく厄介な輩がすぐそこにいるのだから。
気配でわかるのだ。今、その心中はどれだけの歓喜に満ちているだろうか。まさに同じように言葉もなく感極まっているのだ。
会いたくて会いたくて、会いたくてたまらない相手。
愛して愛して愛して、それでもまだ愛し足りない相手。
どれほどまでに渇望しているか。渇求しても渇求してもし足りない相手。
自分の全て。核たる存在が紛れもなく、今そこに、目の前にいる・・・その至福とその息づく質感をひしひしと味わっているに違いない。
(シャルスティーヤさま・・・)
気を引き締めながらも、ラシュレスタもまた噛みしめるようにして見つめる。
変わらぬ神聖さに麗しさ。力強くいて、それでいて凜々しく、雄々しくていて、それでいて優美なる・・・その容貌も身のうちから泉のごとく溢れ出る聖性も、言いようのない美しさ。
ただひたすらまでに魅入られずにはいられない、唯一無二の存在。愛おしくてたまらない。
だが、一つだけ今までとは異なる点に気がつく。
(あの瞳の色は・・・)
季節と時刻で様相を変える空のように、同じ青さでも色味を変化させる瞳。大好きな美しい瞳。
それが今、日が沈む夕暮れ時の空のように、赤みの強い橙黄色の色合いを帯びている。
初めて見る色。美しいが違和感がある。さらに、ビリビリと肌を刺すような霊気の力強さは、この身が堕天したゆえの感覚なのだろうか。
怒るといった感情とは無縁の癒やしと共鳴の最高天使。けれども、もしかしたら心情を損なわれているのでは・・・と邪推せずにはいられない。
「まずは先に・・・」
発した声すら輝きの矢を放つような、凜とした美声が切り出した。
「この者は今が天寿の時ではない・・・」
シャルスティーヤが手のひらを流れるような所作で前にかざす。と同時に、叩きのめされて気を失っているサニキニウスの身体を、ボワンッと金色に光る球体が包みこんだ。
流血と打撲と陥没と、傷だらけの巨体をくるんだ状態で、光る球が浮かび上がり、スーッと上昇し始める。
手のひらと腕を使って、上へ押し上げるような仕草をシャルスティーヤが見せた。
「ネイオロス・・・」
「はっ」
あえて距離を取った上空での待機を事前に命じられているのだろう。
白金の天使たちを引き連れた、六枚羽の三大天使「神の戒め」ネイオロスが届いた球を厳かに受け止めた。冷ややかに中の人物を見つめた。
「そして、その者も・・・まだ任せている使命がある」
今度はシャルスティーヤがラシュレスタの抱えるルーカへと手を向けて、招き寄せるような動作を見せる。
ふわんっと小柄な身体がラシュレスタの腕から離れた。
優しい光の風に乗って運ばれていく。シャルスティーヤが両手を広げて受け止めると、その額に慈しむように美しい唇をつけた。
あれほどまでに恋い焦がれ、待ち望んでいた再会だというのに。まさか、こんな不本意な形で、その時を迎えるとは―――
だが、決して心の乱れや弱さを露わにしてはいけない。途方もなく厄介な輩がすぐそこにいるのだから。
気配でわかるのだ。今、その心中はどれだけの歓喜に満ちているだろうか。まさに同じように言葉もなく感極まっているのだ。
会いたくて会いたくて、会いたくてたまらない相手。
愛して愛して愛して、それでもまだ愛し足りない相手。
どれほどまでに渇望しているか。渇求しても渇求してもし足りない相手。
自分の全て。核たる存在が紛れもなく、今そこに、目の前にいる・・・その至福とその息づく質感をひしひしと味わっているに違いない。
(シャルスティーヤさま・・・)
気を引き締めながらも、ラシュレスタもまた噛みしめるようにして見つめる。
変わらぬ神聖さに麗しさ。力強くいて、それでいて凜々しく、雄々しくていて、それでいて優美なる・・・その容貌も身のうちから泉のごとく溢れ出る聖性も、言いようのない美しさ。
ただひたすらまでに魅入られずにはいられない、唯一無二の存在。愛おしくてたまらない。
だが、一つだけ今までとは異なる点に気がつく。
(あの瞳の色は・・・)
季節と時刻で様相を変える空のように、同じ青さでも色味を変化させる瞳。大好きな美しい瞳。
それが今、日が沈む夕暮れ時の空のように、赤みの強い橙黄色の色合いを帯びている。
初めて見る色。美しいが違和感がある。さらに、ビリビリと肌を刺すような霊気の力強さは、この身が堕天したゆえの感覚なのだろうか。
怒るといった感情とは無縁の癒やしと共鳴の最高天使。けれども、もしかしたら心情を損なわれているのでは・・・と邪推せずにはいられない。
「まずは先に・・・」
発した声すら輝きの矢を放つような、凜とした美声が切り出した。
「この者は今が天寿の時ではない・・・」
シャルスティーヤが手のひらを流れるような所作で前にかざす。と同時に、叩きのめされて気を失っているサニキニウスの身体を、ボワンッと金色に光る球体が包みこんだ。
流血と打撲と陥没と、傷だらけの巨体をくるんだ状態で、光る球が浮かび上がり、スーッと上昇し始める。
手のひらと腕を使って、上へ押し上げるような仕草をシャルスティーヤが見せた。
「ネイオロス・・・」
「はっ」
あえて距離を取った上空での待機を事前に命じられているのだろう。
白金の天使たちを引き連れた、六枚羽の三大天使「神の戒め」ネイオロスが届いた球を厳かに受け止めた。冷ややかに中の人物を見つめた。
「そして、その者も・・・まだ任せている使命がある」
今度はシャルスティーヤがラシュレスタの抱えるルーカへと手を向けて、招き寄せるような動作を見せる。
ふわんっと小柄な身体がラシュレスタの腕から離れた。
優しい光の風に乗って運ばれていく。シャルスティーヤが両手を広げて受け止めると、その額に慈しむように美しい唇をつけた。
0
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
記憶を失くしたはずの元夫が、どうか自分と結婚してくれと求婚してくるのですが。
鷲井戸リミカ
BL
メルヴィンは夫レスターと結婚し幸せの絶頂にいた。しかしレスターが勇者に選ばれ、魔王討伐の旅に出る。やがて勇者レスターが魔王を討ち取ったものの、メルヴィンは夫が自分と離婚し、聖女との再婚を望んでいると知らされる。
死を望まれたメルヴィンだったが、不思議な魔石の力により脱出に成功する。国境を越え、小さな町で暮らし始めたメルヴィン。ある日、ならず者に絡まれたメルヴィンを助けてくれたのは、元夫だった。なんと彼は記憶を失くしているらしい。
君を幸せにしたいと求婚され、メルヴィンの心は揺れる。しかし、メルヴィンは元夫がとある目的のために自分に近づいたのだと知り、慌てて逃げ出そうとするが……。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる