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前編
第四章 帰国と再訪-2
しおりを挟むまたもや大怪我の末、辿り着いたのはラクニアの西方、随分前になくなった村の廃墟だった。
例によってネスレイの力もあり、ガルが迎えに来てそのまま西聖の館に運ばれ、手当をしたりと大騒ぎだったという。
シオネとナリィもすぐさま飛んで来た。
だが、無事とわかると、シオネはいったん王都に戻り、看病のためナリィが残ったらしい。
「ったく、お前は! 俺に感謝し尽くしてもいいんだからな!」
こちらも懐かしい悪友の言葉に、ディルクは珍しく素直に頷いた。
「うん、ありがとうガル。めっちゃ回復早いや。お前の治療術、言うだけあったんだな」
体を軽く回し、自己治療した時よりも遥かに早い回復に、ディルクは感心する。
「どんなヘマしたらそうなるんだよ。いろいろ骨折してるしさ……てか、お前最近骨折した? 痕があったけど」
「あっはは、まぁね。生傷絶えなくてさぁ」
「てか今までほんっと何処行ってたんだよ? ネスレイでも見つけられなかったって」
秘密、と言うとディルクはゆっくり身体を横たえた。
戻って来てまだ三日。悪友の魔法でも体力までは戻らない。
しばらく休養が必要だった。
(隣国に行って、戻って来たんだな、俺……)
以前決めた通り、ディルクはこのことを誰かに話すつもりはなかった。あくまで自分一人の行動で済ませようと思っている。
だからこそ、他に影響を与えないよう、細心の注意を払わなければいけない。
しかし、このまま隣国を諦める気も毛頭なかった。
(とりあえず、身体が治ったら、まず結界を越える方法探さないとな)
ディルクは王宮の図書室、王都の王立図書館を思い浮かべ、どの辺に参考文献がありそうか考える。
そうこうしているうちにウトウトしてきて、回復するため、深い眠りに堕ちていった。
◇◆◇◆◇
数日後、王都に戻ったディルクは、久しぶりの故郷に我知らずほっとした。
馴染みのある日常の風景。
考えてみたら、故郷を離れ、何日も外泊なんてしたことなど今までなかった。
「やっぱり、家っていいなー」
離れてみて初めてわかる、帰る場所がある有り難さをひしひしと感じる。
「なんだい、年寄りみたいなことを言って」
即座に年寄りに突っ込まれてしまい、ディルクは微妙な顔をした。
シオネは五ヶ月の失踪についてあまり詳しくは問いつめなかった。話さないなら、秘密ならばそれでいいと言わんばかりに。
代わりに屋敷の奥の方からサークレットを持って来て、彼の額に着けさせた。
西聖の館で世話になっていた時から仮のものをつけてはいたのだが、それよりも少しだけ重みを感じる。
「あれ、前より宝石ひとつ多い?」
「外すんじゃないよ。大きすぎるオーラは凶器にもなる」
科学世界で久しぶりにオーラを見たとき、以前よりずっと大きくなっていたのを思い出す。
隣国で誰にも見えないとわかっていても、何となく自分で落ち着かなかったので、手ぬぐいやターバンを巻いたりはしていたが。
「もうちょっとシンプルなのない? こう、大きい宝石じゃなくて、細かい宝石が埋め込まれてるようなの」
「宝石が強調されていない方がいいのかい。変わった子だねぇ」
上級魔法使いにとってのサークレットの宝石は、言わば顔であり、階級だ。人は宝石によって権力を見分けているといっていい。
しかし、また行く予定の科学世界でも外さないのなら、なるべく目立たないものがいい。
クアラル・シティは王都から離れた都市だから平気だっただけで、異国人である彼をこれからも誰にも見つけられない保障もない。
ディルクはダイヤの細かく埋め込まれた目立たないサークレットを選び、それと付け替える。
シオネはその効果を確認すると、もうしばらく養生するよう言い渡した。
「完全に回復したら、サボった分容赦なくいくからね」
師のスパルタな言葉すら、今は懐かしかった。
◇◆◇◆◇
東聖の屋敷に書斎はあまりない。
目下貴族街の中心に王立図書館があるし、目の前にある宮殿には十分すぎる本が収められているからだ。
そして東聖シオネの直弟子という肩書きは、あらゆる書籍を閲覧できるものであった。
まだ万全ではないが、動けるようになったディルクは早速王宮を訪れた。
身分証をださなくても、この王宮で彼を知らない者はいない。ディルクは誰に咎められるでもなく、王宮の資料室へ向かった。
「結界魔法結界魔法……えーと、混合結界における解除の仕方……いや解除じゃなくてー」
分厚い結界魔法大全(禁帯出)をとりだすと、パラパラと高速で項目をチェックしていく。
「あった! 通過法! うう、なんか難しい……」
一目で上級魔法の応用とわかる。その呪文の意味や起源から理解した方がいいかもしれないと考え込む。
「毎度大怪我とか勘弁だしなぁ」
かといって隣国を諦めることなど出来ない。
どうにかして新学期に間に合わせたいし、出来ればこの世界と両立したい。
ディルクがうーんうーんと唸っていると、すぐ側から親しい声がかかった。
「やあ! 来てたんだ、ディルシャルク」
シルヴァレン・エル・ディ・オスフォード、十五歳。この国の第一王子である。
ディルクが上級魔法使いに昇格してから知り合い、そろそろ三年ほどだろうか。それでも十分、ため口で会話できるほど二人は仲の良い友人であった。
「結界魔法の勉強かい? 今でも十分強力な結界張れるじゃないか」
ディルクの横から覗き込み、王子は不思議そうな顔をする。しかし書物に没頭する彼からあまり反応がないので、王子は更に続けた。
「しばらく顔見なかったけど、どこか行ってた?」
興味深々の王子に、だがディルクは淡々と返答した。「秘密」と。
隣国に行ってたなんて言ったら、おそろしく面倒なことになりそうだと勘が働く。
後々それが正しかったことを知るわけだが、そんなことを全く知らない王子は、あまりの彼の素っ気無さにうるうる涙を滲ませた。
王子はがっくりと肩を落としつつ、自分の用事へと向かう。出された課題の資料を探しに来ていたのだ。
目的の本を取って座り、パラパラとページをめくり始める。
すぐ後ろでディルクが本に没頭しており、まわりに人はいなかった。
時計の針の音に紙をめくる音。
しばらくすると、それに混じって時折小さなため息が聞こえてくるのにディルクは気がついた。
(珍しいな、ため息なんて。課題がわからないとか?)
ディルクが振り向き、王子の背後からそっと覗き込むと、そこには課題と思しき本一冊と、数枚の少女の似顔絵が広げられていた。
「わあっ! ディルシャルク!」
「ストルン家の次女と、メデク家の長女?」
名前はなんだったっけとディルクは考え込む。確かこの間のお茶会にいたようないなかったような、と。
「そういえば、随分絡まれてたな、娘より親に。何? お見合いでもすんの?」
「そう~もう五回目」
みんながっちり着飾って綺麗なお嬢さんだけど、上辺だけで隙も見せないし、よくわからなくてーーなどとため息を吐く。
(愚痴なんて、珍しいな)
「結婚なんて言われてもピンと来ないよ。容姿と階級だけで決めるもの? 恋ってナンダロウ」
そんな王子の手元をよくよく見れば、課題っぽい本は、有名な恋愛文学の一つであった。
ディルクも最初の数ページで投げ出した記憶がある。
次期国王の役目を考えれば、お見合いに課題を絡めた訳ではないだろうが。
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