41 / 64
後編
第十三章 隣国からの来訪者-4
しおりを挟む『『『科学!!?』』』
ディルクがその名を口にすると、ガルは目に見えて青ざめ、ネスレイは硬直、マナは珍しく動揺を露わにした。
そして軍の可能性を告げると皆一様に顔を険しくし、戦う構えを見せる。
(やっぱりライサのことは言わなくてよかったな)
下手をすると、帰すなり捕らえるなりといった話になったかもしれない。
まぁあとは各々の判断に任せようーーディルクが報告のみを済ませ通信を切ろうとすると、不意にネスレイから声がかかった。
『ディルク』
皆の顔がいつになく張り詰めている。一瞬ディルクは彼女の疑いがかかったのかと緊張した。
しかしふっとガルが緊張を解き、頭をかきながらネスレイの言葉に続く。
『あ、あー俺も気になってたんだ。えーと、つまり君はどのくらい、科学を知ってる?』
「え?」
一斉の沈黙。三者三様にディルクの言葉をじっと待っているのがわかった。
とりあえずライサのことではないようで、ディルクはそっと安堵する。
そしてふと、亡き師の言葉を思い出した。
ーーあたしの遠目や通信が効かないのはそこくらいだからねーー
長く行方不明になった時でも、この同朋たちから特に何も聞かれることはなかったが。
ディルクは苦笑して皆の方に向き直った。
「やっぱ知ってた? 俺が隣国に行ってたこと」
すると皆ホッとした顔をしつつ、それぞれに返してきた。
『なんとなく』
『王子の行方不明の時には結構、言われたよな、陛下から。まぁ君と一緒だろうから心配も深入りもしなかったけど』
『誰も突っ込んで聞いていなかったんですねぇ』
初めて知る真実にディルクは苦笑した。
知ってて敢えて今まで何も聞かずに黙っていてくれた、その機転に感謝する。
「流石に軍とか武器とかわかんないよ、悪いけど」
『でも今回の襲撃の正体に気づけたのは大きいですね。助かりますよ、ディルク』
皆が求めるのはその情報。
そう、圧倒的に情報が足りない。ディルクの薄弱な知識ですら重宝される程に。
チクリと胸が痛んだ。だって自分は重要な情報源になり得るライサのことを隠しているのだから。
でも逆に情報を得るために、彼女は何をされるかーーわかったものじゃない。
そしてそれを助ける者は今この世界には存在しない。
彼女は魔法使いの敵であり、そして同郷の軍にも邪魔な存在だろう。
ディルクは一人この世界のため孤軍奮闘する彼女を、出来る限り守りたいと思った。
彼は続けて王都で待つ王子にも個別に連絡を入れた。
『軍!? 隣国から……それは確かなのかい、ディルシャルク』
王都に戻らず随分たつ。久しぶりの王子との会話だが、その顔に笑顔は見られなかった。
「俺の見る限りは確実。ラクニアは一番隣国に近いだろう。たまたま侵攻の足がかりにされてたんだと思う」
王子が目に見えて青ざめる。
同朋達とは異なった理由での動揺。もう随分交流がないといっても、隣国の恋人のことをこの王子が忘れている筈はない。
『ど、どうしようディルシャルク。た、戦うことになったら……戦争に……敵国になったら……』
会えないだけでは済まないかもしれない。命の取り合いを、しなければならない。
『姫……ああ、姫……僕は、どうしたら……』
「幸い、爆発事件は収束したがな」
あまりに王子が震えているので、ディルクは少しだけフォローを入れた。
『ほ、本当かい!? 流石ディルシャルク! ラクニアの民たちが気付く前に、このまま撤退してくれればいいんだけど』
(いや、俺じゃないし、そう簡単にはいかないだろうが)
爆弾を解体し、攻撃を端から無効にしただけで、大元を叩いた訳ではない。
どこかに軍の拠点があるはずだ。
ガルが街の隅々まで知らない者がいないか目を光らせているが、如何せんラクニアは広すぎる。敵が何人来ているかはわからないが、ごく数人、いや、数十人でも探すのは至難の技だろう。
『姫は……このことを知っているのだろうか』
「どうかな。でもあの王女様なら……」
続けようとして口をつぐむ。あまり王子に不用意なことは言えない。
でも、なんとなく確信している。
ーーーーあの王女なら、知っていたら、止めようとするのではないかーーーー
遠い異国のことで知りようもないが、もしかしたら今頃、王族相手に彼女なりに戦い、助けが必要な状況なのかもしれない。
(あれ……?)
不意に何かが引っかかった。パズルのピースが綺麗に合わないような、もやもやした感覚。すぐそこに答えがある気がするのに。
「マスター!」
サヤが心配そうにディルクの顔を覗き込んだ。王子との連絡を終えてから随分と思考に耽っていたようだ。
「あ、ああ、フィデス、悪いな。少し考え事してて……どうした?」
「リーニャの母親も回復して、ライサさん、当初の目的の通り王都に向かうようです。なので、私も可能なら同行しようと思っています」
「そうか」
あの中年の女性は回復したのか、流石科学だなと、ディルクは心の中で感心する。 部下の手前、無関心を決め込んだが。
「すまないが、もう少し目を離さずにいてくれないか」
「かしこまりました」
合流も考えたが、軍の拠点を探すには一人の方が動きやすい。
(なんでもかんでもライサ任せにするのもな)
額のサークレットと残っている僅かな魔力を確認し、ディルクもガルとは別に軍の捜索を開始した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。
【あらすじ】
異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。
それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。
家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。
十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。
だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。
最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。
この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。
そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。
そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。
旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。
☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。
☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜
るあか
ファンタジー
僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。
でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。
どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。
そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。
家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる