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後編
第十四章 王女との約束-2
しおりを挟むサヤはもう一人、泣きじゃくる少女を連れていた。
名はリーニャ、十一歳。ひょんなことから、一緒に王都に行くことになったラクニアの少女だ。
一分一秒を争うこの状況で報告に来るのに、リーニャ一人を置いて来ることなど出来なかったという。
「うちが……ひっく、うちがライサを責めてまったんや……っ。何者かて、ライサは母ちゃん助けてくれたのに。嫌なこと全然せぇへんかったのに!」
何かあったらどうしようと少女は泣き続ける。
(ライサの異国人としての違和感に気づいたか……時間の問題かとは思ったが)
しかし二人とも、ライサへの疑惑よりも彼女の身の安全を心配しているのに、ディルクは少し安堵する。
これならば彼女のことを話しても大丈夫だろうかと。
四聖や将軍達が目を光らせているとはいえ、女の子が一人で何の憂いもなく歩けるほど安全な世界ではない。実際ライサは最初、賊に襲われている。
今は早急に二人を納得させ、行動を起こさねばならなかった。
ディルクはリーニャの頭をぽんぽんと撫でると、すっとしゃがみ目線を合わせ、安心させるように言った。
「リーニャ、だっけ。俺はディルク、フィデスの上役だ。よろしくな」
リーニャは不思議そうにディルクを見つめる。
額にはグレーの目立たない輪っか。だが、彼も上級魔法使いだと確認する。
「ライサは大丈夫だ。必ず無事に保護する。だから、まず落ち着こうな」
初対面にも関わらず、彼の言葉と態度はリーニャを不思議と安心させた。少女は涙を拭き、コクンと頷く。
サヤが横からディルクに囁いた。
「マスター、既にボルスが動いています。それに探索魔法も使いましたが……」
「見つからないんだろ。何となくわかった、状況が」
見つからないというのは、逆にわかりやすい。
対象が探索魔法に引っかからないよう結界で防御しているか、もともと目で見えないかのどちらかだからだ。
そしてこの優秀な部下達の探索魔法は、少々の結界くらい簡単に突破して見破れる。
強力な結界を張れる程の上級魔法使いというよりは、目で見えない隣国の軍の基地に連れて行かれた可能性の方が遙かに高い。
少なくとも野獣や野盗に襲われているという心配はない。隣国の軍の拘束が、どこまで穏やかなのかは微妙なところだが。
(宮廷博士なら、即殺されることもないはずだ……たぶん)
ディルクは祈るように考え立ち上がると、心配そうな彼女達に一つの真実を告げた。
「二人ともいいか、まずひとつ伝えておく。ライサは……隣国人だ」
「え?」
「なん……やて?」
「リーニャのお母さんが元気になっただろ? あれが科学だよ」
続けて科学の軍がラクニアに入り込んでいること、おそらく彼女はその連中に拉致されたことを伝える。
同じラクニア出身にも関わらず、二人の反応は対照的だった。
まずサヤの顔が真っ青になり、ふらふらとその場に崩れ落ちて行く。
「フィデス!」
慌てて彼女を支え、リーニャを振り向くと、こちらはむしろ顔が紅潮するほど興奮している。
とりあえず倒れそうにないことを確認すると、ディルクはサヤを支えて岩場の日陰に座らせ、小声で囁いた。
「大丈夫か? フィデス」
「は、はい。ちょっと、いえかなり驚いて……申し訳ありません」
「お前の方が王子の件も知ってるし、耐性あるかと思ってたけどな」
王子の想い人を知るのは、ディルクの他には王子の主治医として呼ばれたサヤだけである。
「でも……何故同胞の軍に狙われるのです?」
「ライサは軍とは無関係どころか爆破妨害してまわってたからな。多分……王女の使者だ」
それでーーと続けようとしてサヤの状態に目を走らせた彼に、彼女は苦笑して言った。
「大丈夫です、動けます。どちらに?」
「そうだな、戦力がいる。まず、ガルにライサが軍に拉致された報告と救出の手筈ーー隣国人ってことも伝えてくれ。あと今ラクニアにいる風子の兵二十を動かしたい。頼んでいいか?」
言うと風子への指令書にサインをしてサヤに渡す。受け取ったサヤは即座に転移していった。
ディルクはそれを見届けると、傍らの少女へと向き直る。
「リーニャは、怖いとかショックとかないのか?」
「もちろん怖いねん、科学は罪人やからな。でも母ちゃん救ったもんも科学なら……罪人上等や」
「へぇ」
彼女の言葉に感心する。意外と将軍などより理解が早いかもしれないと。
これならこのまま無理にラクニアに帰さなくてもいい気がする。
「リーニャは目がいい方か?」
「どっちか言うと、よくないねん」
「そっか、それは好都合。これから目に見えないものを探すからな」
そう言って手近に広がる森へ向かっていく。
「この森の何処かってところまで、当たりをつけてんだ。ライサのことも探しながら話すから、手伝ってくれるか?」
「見えへんって……何探すん?」
「そうだなぁ。建物くらいの大きさで、すっごい見えにくいものなんだよな。何もないのに何かにぶつかったりすればビンゴなんだけどさ。とりあえずおかしい所見つけたら教えてくれよ」
そしてふと声を落とすと、人差し指を立て、秘密という仕草をする。
「何せ、ライサがいるのは科学の中だからな」
ゴクリと息を飲む気配が伝わる。しかしリーニャはその恐怖に身震いしながらも、一緒に探す意思を見せた。
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