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後編
第十八章 是正-1
しおりを挟む時戻しーーやり直しの人生ーーーー
絶望の中、奇跡的に生きて再び会うことが出来たのに、ライサの心はボロボロだった。
あの別れの時、離れることが彼女を守ることだと思っていたのに、お互いボロボロになっただけだった。
しかも彼女のトラウマは他でもないディルクだ。
戦争でライサが直接殺そうとした存在。殺したと思っていた存在。
もう離れたくないと思ったのに、ディルクが彼女に近づく度にあの戦いの傷をえぐる。避けられるのも仕方のないことだった。
会えたのに立ち直れないーー日に日に辛くなる毎日は、もう戻らないのだという現実を深く刻み込んだ。
結局自分は変わっていない、オーラがなくても大事な人を傷つける存在にしか成り得ないのだと思い知る。
ならせめて、彼女の望むようにしてあげようと思った。
あの日のナリィを思い起こす。もう戻らない、幼き日の憧れの女性。
何を犠牲にしてでも彼女を救うのに使った手段ーー時戻しの魔法。
これを施行することによって起こりうる周囲への影響を、ディルクは誰よりもよく知っていた。
ナリィのことは何処へ行ったかも誰に引き取られたかも、そして新しい名前すら知らない。
今は亡き恩師の呟きが思い起こされる。
そんなのもう、別人じゃないかーーーーと。
ナリィ・プティールという人物は実際もうどこにも存在しない。これは死と生まれ変わりの魔法ーー。
元気で若々しかったシオネは唯一の家族を失い、瞬く間に老いていき、そして亡くなった。
彼はその様を一番近くで見届けていた。
ライサ・ユースティンがこの世から消えるーーディルクはもう一度、その未来を思い描く。
身体が震え、手足が痺れる。身体中で拒否反応しているのがわかる。
しかしどんなに絶望の未来でも、もう命を粗末にはしないと誓う。
何度も死にかけ、助けられたーーそして彼らやディルクが助けたくても助からなかった同胞達を思えば、泣き言など言えない。
同朋を亡くし、たくさんの命を見殺しにし、この手にかけた。大事な人も救えなかった。その償いはまだ始まってもいない。
しかし彼女がいない未来には、もう幸せなど欠片もありはしない。
だからこれから先は一人で、今までの罪を背負って精一杯人生を終えるーー。
それがきっと、自分に相応しい未来なのだろうと腹を括る。
ディルクは覚悟を決め、彼女に最後のキスをした。
◇◆◇◆◇
「……まだ大丈夫か、時間」
キジャとリーニャが抱き合う二人を見て、そそくさと立ち去り一時。ディルクはようやく腕を緩め、ライサを解放して聞いた。
「う、うん、ディルクは?」
「見ての通り、弟子が気をまわしてくれまして……お陰様で……」
「私もだ……」
なんだか可笑しくなり、二人でくすくす笑う。
しかしふと見え隠れする戸惑いの表情。想いを確かめたとはいえ、過去が清算されたわけではない。
「あ、あのね、ディルク、私……」
ディルクは彼女の思いを察すると、先の方を指差した。
「場所、変えるか……もう少しちゃんと話そう……ライサ」
言うと魔法を発動させ、向こうに見えている小高い丘に、二人は転移した。
柔らかい草の上で二人は並んで腰を下ろす。見上げれば雲一つない青空が広がっている。
先に口を開いたのはディルクだった。
「……ありがとな、ライサ。止めてくれて。俺を……忘れずにいてくれて……」
ライサはゆっくり首を振った。
「死にそうな顔、してた。おかしな話、撃った時より余程……」
彼女の瞳にディルクが映る。ずっと避けられていたその瞳に。
「咄嗟に動いてた……きっとこの選択は、貴方を今度こそ殺すーーーー間違いだって」
そんな言葉を聞いてもディルクは何ら違和感もなかった。そのくらい先程の精神状態はまずかったと思う。
彼はそっとライサの頬に手を添え、自分を映した瞳を見つめた。
「死ぬつもりじゃ……なかったんだけどな。まぁ、死んだような人生にはなってたのかな」
言って彼女の肩に顔を伏せるディルクを、ライサは抱きしめずにいられなかった。
愛されているのが、必要とされているのが嫌でも伝わる。そして彼女は今まで避けていた己の行動を振り返り後悔する。
ここまで追い詰めてしまっていた、彼もギリギリだったのかとーー。
「ディルクは……どうしてそんなに……私を好きでいてくれるの? 変だよ……」
ライサは蚊の鳴きそうな声で呟いた。
彼を殺そうとした、彼の大事な仲間を死に追いやったーーその罪を忘れる訳にはいかないのだから。
「そうだな……お前はどうなんだ? この国の王族、みな殺しの指令だしたの……俺だけど……」
「えっ?」
ライサの身体が突如緊張した。
科学世界の王宮が墜ちた戦いは、この国では最も残酷な結果として伝えられている。
王族は容赦なくほぼみな殺し、城もありとあらゆる物が盗られ壊され焼かれ、警備兵の生き残りも数える程だ。ディルクが以前直接見てきた通り、王都は未だ喪に服している者も多い。
しかしライサは今本人から聞くまで、その黒幕が彼とは想像もしていなかった。
「あの王宮の戦いの指揮を……ディルクが?」
「直接手を下したわけじゃないけどな。ちょうどお前と対峙してたし。でも指令出したのも、そのための完璧な王宮の見取り図を渡したのも俺だな」
青ざめるライサを振り返った彼の目は、ぞっとする程冷たかった。
「俺が将軍一の雷子に言った。王族を抹殺せよ、一人も逃してはならないーー」
「!!」
ライサが口元を押さえ、何も言えずにいると、ディルクはふっと苦笑する。
「本当は俺……会わせる顔ないんだよ……王女さんに」
魔力も戻らずライサのそばを離れたくなかったという理由はある。だが今でもやはり、二人に会いに行くのは躊躇してしまう。
「だから……なんとなくわかる。お前がララやベコを攻撃したときの心境も。俺への躊躇いも……」
絶望的な瞬間があった。とにかく全てを終わらせたくて、願いも希望も情すらも、あらゆるものを捨てた瞬間が。
「全部捨てて滅ぼしたくなってーーだからお前もあんな兵器造ったんだろ。ライサがすすんで兵器を造りたいと、人を殺したいと思うような奴じゃないことくらい知ってる」
そしてその巨大な力を止めるために、街を守るために、ガルもネスレイも将軍達も逝った。マナも倒れてしまった。
科学世界の王宮も王族がほぼ全滅し、凄まじい犠牲を出した。
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