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後編
第十九章 王都の指導者-2
しおりを挟む国王不在の静かな王宮の側、東聖の自室で、ディルクは椅子に腰掛けながら貴金属屋の主人にもらった銀の指輪を眺めた。
以前ライサが来た時にどうやってかサイズを測り、作ってくれていたらしい、結婚指輪。
もちろんディルクと同じデザインで、自分の方もサイズがきっちり合っている。
いつ測ったんだと聞いたら、「貴金属屋をなめちゃいかんよ」との一言だった。
「謎なスキルだな、あのオヤジ……」
腑に落ちない部分はともかく、自分がこれをはめることになるなんて、思いもしなかった。
「結局言いそびれたしなぁ、東聖辞めたいなんて」
もっとも次世代候補に心当たりがあるわけでもないし、キジャは素質があってもまだまだ早い。
そして民の前で壇上へ上がった時、嫌な気分どころか、高揚している自分に気がついた。
王都の危機と聞いた時は、ライサを一人にしてまでも駆けつけてしまった。
「あーやりたいのか、俺。なんだかんだ言って東聖を」
だって王子も行ってしまって、誰がこの都をーーあの連中をまとめるんだ。俺がいないとてんでダメじゃねーかと。
「うーん……うぬぼれ?」
「自惚れるくらいで丁度いいと思いますよ、ディルシャルク殿」
「……フラムか」
見ると扉のところに炎子フラムが立っていた。将軍の鎧を解き、幾分ラフな絹の衣服をまとっている。
ディルクは彼を横のソファに導き、自分も前に座る。
グラスを二つ用意して氷を満たし、瓶をキュポンと開けると、香りのいいラム酒をいっぱいに注いだ。
「まずはいろいろお疲れ様でした。見事なお手前。このフラム感服いたしました」
「フラムこそ、俺がいない間いろいろありがとう。お疲れ」
グラスをカチンと鳴らし、二人はまず一口喉を潤す。
「その指輪、奥様への贈り物ですか?」
奥様という響きに、ディルクはかっと顔を赤らめた。いや、このお酒が強すぎるのかもしれない。
「はは、貴方もそんな年になりますか。早いですなぁ。私が手合わせでこてんぱんにやられたのは、つい昨日のことに思えますのに」
「お前……口調丁寧になったくせに、突っ込み入れるところは変わらんな」
「あれはたしか七年ほど前……」
「いやもういいから! 俺も大人気なかったし。あんたに恥かかせて悪かったし、ばーちゃんにも怒られて……」
赤い顔のまま、ディルクは目を伏せる。何でも力任せに出来ると信じていた子供の頃。
修行の合間、隣国との行き来で寝不足の中、新米将軍の炎子とはよく手合わせをしていたのを思い出す。
「そっか、俺がキジャくらいの歳のころか。聞きたいんだろ、キジャのこと」
するとフラムは感極まった顔で身を震わせた。
「あの子は……ちょうど戦時中、一年くらい前ですか。私が戦場に行っている間にララの自宅からいなくなってしまったのです。知らせを受けていったん戻り、方々捜し回ったのですが見つからず。私はあの子に小さい時から魔法を教えています。護身の魔法も、移動の魔法も。生きていれば人並みには戦えるし、帰ることも出来る筈なのに……」
「うん、死の軍の捕虜として隣国に連れて行かれてたんだ。俺が会ったのも隣国」
「な、な……んと……」
「お前の名前聞いたときは、驚いたよ、ほんと」
ディルクは包み隠さずキジャの身に起こったことを話した。
フラムは話を進めるにつれ、どんどん目を赤らめていき、ついには涙を滴らせる。
「辛い思いを……見つけていただいてなんと御礼を申し上げたらよいか……」
「礼を言うなら、教授とリーニャだな。彼女はすごいよ、キジャを元気にしたのは彼女だと思う」
それに、とディルクは続ける。
「魔法の基礎教えたのはフラムだろ。リハビリも理解も早くて教えやすいよ。本人にその気があるなら四聖の座も狙えると思う」
「あ……ありがたき幸せ! 本当に。ありがとうございます!」
ディルクはそれを聞き微笑むと、自分のグラスをぐいっと空ける。そしてふと端にある棚に目をやると、そこで何やらゴソゴソ物色し始めた。
炎子は横目に少し落ち着きながら、ラム酒を少しずつ味わっている。
「あった、こんなものかなぁ」
ディルクは何やら取り出すと、炎子に向かってニヒッと笑った。
「サークレット。額が治ったらキジャも石つけてやらないとさ」
「き、キジャのを見ていただいていたのですか!!」
炎子は飛び上がってディルクの右手にあるサークレットを覗き込んだ。小さな水晶が三つ輝いている。
「や、俺シンプルなのがよくて、あんまり派手なの持ってなくて……てかお下がりで悪いんだけど」
「と、とんでもない!! といいますか、申し訳なさすぎて、その……っ! あの、東聖殿、出来れば私が用意をしたいのですが、あちらにはお急ぎですか!?」
「いや、魔力が戻るまでは戻りたくても無理なんだけど」
しかし現在、街の復興中にも関わらず魔法を一切使っていないーーというか皆に使うなと言われている。
そしてやはり残してきたライサが心配なので、薬なども使って思いつく限り魔力回復に努めており、かなりの速度で戻ってきている。
明日には自分もサークレットをつけられるし、夜には宝石つきでも問題なく飛べるようになるだろう。
「では明日! 明日の昼までに用意して参ります! こうしちゃいられない、すみません、今日はこれで失礼いたします!」
「お、おお! 明日な。いいの用意してやれよ」
はい、という元気な返事と共に炎子は東聖邸を後にした。
視線を遠く、街の中心へ向ければ、夜を徹して復興作業が続いている。皆タフだ。
進軍した国王軍が戻るころには、大方元通りになっているに違いない。
任せていい、皆を信じて頼っていいーーーー。
ディルクはようやく、本当に東聖として、王都の皆と共に進むことができる気がした。
「新しい国半分、王都半分。仕事減らしてくれないか、交渉しないといけないなぁ」
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