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復興編
第二十七章 始動-3
しおりを挟む「じゃあ次の課題は……あー、ちょっと休憩いれるぞ、キジャ」
ディルクが何かに気づいたように声をかけた。それに応じてはいはい、とキジャは手を休める。
ライサが来るのだろう。本人が気づいているかはわからないが、二人のラブラブっぷりは見てる方が恥ずかしい程、惚気全開だった。
「ディルク!」
まもなくライサが姿を現す。しかし今回は一人ではなくリーニャも一緒だった。
キジャは話し相手が出来たのにホッとして声をかける。
「どうしたんだ、リーニャ」
「わからへん。でもただ事やない思て来てみたん。時期が来たのやもしれへん」
「時期? なんの?」
前々からキジャは思っていたが、リーニャはあの二人のことに妙に詳しい。
魔法世界で知り合ったとは聞いていたが。
「ライサもディルク兄ちゃんも、王都に戻らなあかんのかも……」
「ライサはともかく、何で兄貴が王都に……戻る……?」
言いかけて表現に違和感を感じる。
「兄貴は魔法世界の王都出身なのか? もしかして」
「兄ちゃんが王都に戻るんは、大事なんや……」
リーニャは心配そうに二人を見守っていた。
◇◆◇◆◇
戦争は終わったように見えていても、戦後の混乱は今もなお続いていた。
先の戦いで隣国に奪われたその地域では、内乱が頻繁に起こっている。表向きは何も報道されていないが、犠牲者も数多く出始めていた。
解散したはずの死の軍が、再び活動を始めたという不穏な噂も流れている。
先の学会にダガー・ロウが顔を出したことも、それを裏付ける要因となっていた。
その日の夕方、研究室に集まった皆に、ライサとディルクは事の次第を説明し、皆を驚かせた。
「王女様、それに魔法世界の王子も……ご存命なの!?」
ナターシャは信じられないといった目で二人を見た。
曰く、一時でいい、彼らのいるセディーユ地方へ身を隠して欲しい、と。
先程ライサがもう一人の宮廷博士ブルグから受けた連絡は、間もなくこの場所に、使者という名の追っ手がかかるという情報だった。
ヴィクルー博士も厳しい顔をしている。同じ内容を受け取ったに違いない。
しかし当のライサは落ち着いたものだった。
「いい機会だと思うの。いつかは王都に決着をつけに行かなくちゃって思っていたし」
ヤオスはそれを聞くと、傍らのディルクに掴みかかった。
「ディルク、お前知ってて行かせるのか! 王都が危険と知りながら、何故止めない!」
「やめなさいよ、ヤオス」
ナターシャと他の同僚達もヤオスを止めにかかる。
ディルクは何も言わずされるがままになっていた。
リーニャが見かねてディルクを庇い、ヤオスに言い返す。
「ディルク兄ちゃんかて王都に帰らなあかんのや! 何も知らんと適当なこと言うのやめとき!」
「やめろ、リーニャ!」
慌てて止めたが遅かった。
リーニャの言葉はその場にいた皆を動揺させるのに十分効果的だった。
やがて、ナターシャが静かに声をかける。
「あなたも……というより、この場合の王都は、別の場所を指す、ということでいいのよね、ディルク?」
ディルクは苦笑した。
散々キジャの訓練をしていて、魔法使いとバレない訳はないと思っていたが、みな知ってて変わりなく接してくれていたのだと知る。
彼は最近ようやくバンダナを着け始めた己の額を、トントンと指し示した。
「最近魔力が一気に回復してきて、早くも限界なんです、このバンダナ。ちゃんとあっちでサークレット調達しないと、キジャとリーニャにも近寄れなくなっちゃうんですよ」
「なぬ! 兄貴は宝石つきの上級魔法使いだったのか!」
芸術のような魔法だとは思っていたけど、とキジャは驚いた声を上げた。
しかしヤオスも他の皆も、魔法使いのサークレットの意味など、知ってはいても実感がわかない。
リーニャはそんな雰囲気になおも不機嫌になる。ディルクはそんな彼女にそっと笑みを浮かべ、ありがとな、と呟いた。
微妙な雰囲気が漂い、皆一斉に静まり返る。
その時突然、部屋の空気にキンッ、と刺激が駆け抜けた。
魔法使いの三人が敏感に反応する。
『――……と……げき、ん、きゅう……』
全魔法使いを対象にした魔法通信であることに三人は気がついた。
しかし誰がどこから何を伝えようとしているのかが聞き取れない。
ディルクは他の二人も聞きとれていないことを見て取ると、なおも意識を集中した。
『ーー緊急事態、王都、襲撃……! 王都、襲撃!』
「え、王都!?」
キジャが声をあげると、ディルクが突然力強く、その人物の名を叫んだ。
「マナっ!!」
突然のことで皆一斉にディルクに視線を向ける。
彼の声と同時に、呼んだ人の姿が空中に現れたのを魔法使い三人は確認する。立体映像のような姿である。
ジジ……と、ところどころが電波障害のように途切れ途切れになりながら、その人物の姿が浮かび上がった。
ディルクが通信に覚えのある気配を感じ、その名を呼ぶことで相手に応答を呼びかけたのである。
『……ク、ディルク、ですか!? 生きて……たの、ですか!?』
「マナフィ様!」
キジャも叫んだ。マナは彼にも目を向け、心底驚いた顔をする。
「お前こそ、こんな魔法使って大丈夫なのか?」
毒ガスにより後遺症が遺ったマナは、一人では生活も難しいほどだったはずだ。
『はい、幸いドパが……時間魔法、得意、少しずつ……損傷を受けた、組織……修復しています。それよりディルク!』
はっと視線を戻すと、マナは厳しい顔で懸命に本題に入った。
『大変……す。……うとが……王都が、襲撃を受けました!』
「な……にっ!?」
ディルクの顔が瞬時に青くなった。
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