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魔女への入門
第十四話 カインの過去
しおりを挟む「え、あれ、あれ?」
突然変わった風景にシアは全力で戸惑った。
目の前には突如現れたモニュメント。そして今し方いたはずの村が遥か下の方に見える。ゴマのように見えるのはホウキで空を飛ぶ魔女達か。
「ウィッチアイ。村が一望できる丘。結構いいところだろ」
どうやらカインの魔法で転移をしてきたようである。
「シア、ちゃんと話をしよう。もう、喧嘩抜きで」
モニュメントの傍に腰をかけると、カインはシアを真正面からじっと見つめた。少女ではない見慣れた幼馴染みの姿で。
「外へ戻れる最後のチャンスだ。さっきも言ったが、シアは被害者だ。本当はこの村にだって来られない……来なかったはずだ。魔力さえなければ……」
カインが村の外に出たのは、たまたまだったのだという。
五歳になる直前、高熱を出し、体力も魔力も極限まで落ち込んだ。初めて街の大きな病院へ担ぎ込まれたのだと。
男児だし魔力値はこのまま消滅すると思われた。村で一緒だった母も時を同じくして病で亡くなった。
だからそのまま父の元に移り、村の外で生活を送り始めたのだ。
「半年後くらいかな、突然魔力が戻ってさ、俺より父さんが驚いたの何のって。でももう学校も始まってたし……シアとも会ってた」
村でよく遊んだ仲間ももう散り散りで、母もいない。そしてようやく仲良くなってきた父やシア、クラスメイトとも別れたくなかった。
だから絶対人前で魔法を使わない条件で父親の元に残りーーそれから三回だけ会った十個歳上の姉ルカにも、明かさず今まで過ごして来た。
「父さんは一般人だからさ。領主のことも知らなくて。俺も魔力が渡るなんて実感なくて。キスも……そうそうしないだろって、ずっと……」
カインは俯きながら、堪えるように話した。
だからなのか。キスをした後すごい勢いで突き放され、こっ酷く振られた。
「魔力が渡ったって、すぐにわかった。こわかったんだ。すごく……」
シアの人生を狂わせたーー激しい自己嫌悪に襲われた。
これ以上はいけないと、敢えて距離を置き続けた。
「悪かったな。俺の認識が甘かった……一緒にいる、リスクだけでも伝えておけばよかった。そうしたらあの時のシアだって、俺と付き合おうなんて思わなかっただろうし」
「えっ」
「ま、過去の話だよな。俺もすっかり嫌われたし……もう、終わったことだ」
「……」
何だかおかしい……大事なことが抜けているーーとシアは思った。
それなのにカインは何事もなかったように話を続ける。
「この村さ、びっくりだろ。いまだにネットもないし、村の掟ガチガチで。ルカも離れてた分他人みたいでさ……まあ家族だけど」
まだまだ全てが目新しく、魔法も興味津々なのかもしれない。でも、この先を考えるならば。
「絶対、外の方がいい。シアは……好きになった奴とは一緒にいたいだろ。魔女の夫婦は普通別居だぞ。ジェシカやマルクにだって、外にいればまたいくらでも会える」
「カインは?」
「俺も村から出なかったら、何も思わなかったかもしれないけど……」
「待ってよ! そうじゃないよ、カインは? そういえば私聞いてないよ、一回も。カインが私のことどう思っているか!」
そう、大事なことーーシアは昔も今も、カインの気持ちを聞いていない。付き合わないとか、嫌われたとか、そんなことばかりだ。
腕を掴み詰め寄るが、カインはそっとその腕を振り解き無言で立ち上がった。
目の前にはホウキに乗った大魔女がいる。
「話は終わりだ。ルカ、シアは村から追放にしてくれーー俺の、領主の権限でもなんでも」
「カイン!」
まただーー告白の時と同じ、何も教えてくれず、ただ一方的に突き放して。
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