精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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2 新人研修編

2-0 就職は騒ぎの第一歩

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 私が第一塔の塔長室に仮配属されてから、二週間が経過した。

 何事もなく順調に研修は進んでいる。

 と、言いたいところだけれど、世の中はそう甘くない。
 技能なしに対しては、さらに厳しい。

「なぜ、あなたのような平凡な方が、塔長室所属になるのかしら?」

 そして今、私の目の前には、ルミアーナ・エレバウトさん(恋人なし、十九歳)がいた。

 明るい金髪がクリンクリンしている。高く一つにまとめているので、クリンクリンがかわいい。目は金茶。よくある色だ。

「おかしくはなくて?」

 私にそう言われても困るんだけどね。決定権ないし。
 文句は私の上司の人に直接、言ってほしい。

「こんな平凡な方が、あの、レクシルド様のおそばにいるだなんて」

 エレバウトさんは上級補佐官だ。
 長いこと、第一塔長の塔長室配属を希望している、と言っていた、本人が。

 第一塔長の王子さまを崇拝している、王子さま大好き人間だ。

 あの王子さまのどこが良いのか、正直、ちょっと理解できない。

 あの人、ラウとやり合うくらいのくせ者だし。フィールズ補佐官なんて『ものぐさ』って呼んでたし。

「あたくしの方があなたより、何倍もレクシルド様に相応しいでしょうに」

 返事をしたくても、相応しいの基準が分からない。困ることが続く。

 上司の人よ、自分の女性関係くらい自分でどうにかして。

「仮配属です。研修が終われば他部署に回されますので」

 だから毎回、同じ言葉しか返せない。

「あら、塔長室で研修だなんて、もっとおかしいでしょう?」

 そして毎回、同じ文句を言われる。
 だから、そう言われても困るんだって。

 こんな感じで、ほぼ毎日のように誰かに絡まれるのだ。
 今日は資料整理の最中、第一塔の二階、資料室に本やら書類の束やらを戻しに行ったときに、絡まれた。

 資料室はところ狭しと書架がたくさん列をなしている場所。窓はない。
 資料の貸し借りと資料整理で担当者がいる以外は、基本、静か。

 そんな場所なので、エレバウトさんの高い声がおもしろいほど、よく響く。

 これだけ騒げば誰かに注意されてもおかしくないのに。
 いつものやりとりなので、もはや、何事かと見る人すらいない。

 ちなみに、エレバウトさんの出現率が一番高く、ついで出現率が高いのは、マギナローザ・ノルンガルスさん。
 ノルンガルスさんには昨日、第一塔の入り口で絡まれた。

 何かと絡んでくるのは、今ではこの二人だけ。

 あとは絡むというよりは、グループで私の陰口を言っていたり、グループで無視してきたり。
 その程度なので実害はない。

 まぁ、グランフレイムの頃と変わりはないので耐性はできている。
 どこに行っても、こんな感じなんだと思って、ちょっとがっかりしたけど。

 塔長室に配属になった当初は、階段から突き落とされたり、階上から水をかけられたり、物が降ってきたり、書架が倒れてきたり、そんなことがよくあった。

 でも、その場に居合わせた人は翌日には消えていて、不思議に思ったものだ。

 行政部の多忙な部署に異動になったり、王都から離れた地域の担当になったり、家庭の事情で退職したりで、その数、ざっと十人ほど。

「年明けから春にかけては、急な異動や退職が多いからな」

 この前、ラウに訊いたら、にっこり笑って教えてくれた。
 師団長だけあって、ラウは人事のことにも詳しい。さすがだと感心する。

 さて、問題は目の前にいるエレバウトさんだ。

 どうしよう。

 研修期間中にトラブル起こしたくない。
 なんとか、穏便にお引き取り願いたい。

「あのー、これ置いてすぐ戻らないといけないので」

「あら? 雑用は楽なお仕事でよろしいわね」

 これ、重いから楽ではないんだけどな。しかも、ずっと立ち話してるしな。

「あたくしなんて、小さいメダルやら偽造の護符やら、鑑定で大忙しですのよ」

 忙しいなら、自分の部署に戻ればいいのに。ずっと立ち話してるから暇なのかと思ってたわ。

「それで、あなた。あたくしの、」

「いた! エレバウト!」

 バーンと大きな音がして、資料室の扉が開かれた。

 エレバウトさんの同僚の人かな。あちこち駆け回ったんだろう、ぜいぜいと肩で息をしている。
 資料室の担当者は、さすがに嫌ーな顔をして、闖入者を睨んでいた。

 エレバウトさん、呼ばれてるよ。

 闖入者と目が合い、押し黙るエレバウトさん。
 と思ったら、くるっと私の方に向き、話を続け始めた。

「えーっと、それで、」

 …………見なかったことにするようだ。

 そんなこと、相手が許すはずもない。
 ましてや、あちこち探し回ってようやく見つけたんだろうし。

「エレバウト! さっきから呼び出してただろう! 何してる! 鑑定が大量にたまってるんだ! さっさと戻れ!」

「ひっ。きょ、今日はこの辺で終わりにして差し上げますわ!」

 こうして、エレバウトさんは穏便に回収されていった。

 エレバウトさんの所属は鑑定室だ。

 鑑定室と情報室は、第一塔の花形で人気部署。
 あの様子では鑑定室はかなり大変な状況のようだ。逆に、そんな中、よく抜け出してきたよな。

 ふー

 私は一息ついて、手に持った本やら資料の束やらをカウンターに置いた。
 担当者に説明し、書類を作ってもらう。

 本はここで借りた分なので返却、資料の束はこっちで作成した分なので持ち込み。それぞれ、書類にサインして終了。

 これだけの仕事なのに、精魂尽き果てる。

「やぁ、大変だったね。ご苦労さま」

 塔長室に戻ると、上司の人がのほほんと声をかけてきた。

 うん? この様子だと、エレバウトさんに絡まれていたのを知ってるのかな?

「上司の人、ご自分の女性関係はご自分でなんとかしてください」

「おーい、言い方」

 手にした書類をパタパタさせ、自分のイスにふんぞり返る上司の人。

「エレバウトくんも、鑑定技能は優秀なんだけどねー」

 やっぱり知ってたんだ。

「鑑定技能だけじゃ、ここは無理なんだよねー」

 どうやら、エレバウトさんの塔長室配属は、夢のまた夢ってとこらしい。

 はー

 鑑定依頼が集中しているようで、鑑定室もしばらくの間、忙しいそうだ。
 忙しい間だけでも、エレバウトさんの襲撃がなくなりますように。
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