精霊魔法は使えないけど、私の火力は最強だった

SA

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3 武道大会編

5-2

 テラはしばらく無言だった。
 ただただ、デュク様の寝息だけが聞こえる。
 私はテラが口を開くのを静かに待った。

 私の感覚で五分程度の時間が経っても、テラに反応はない。

 これ以上待っても時間の無駄かな。

 そう思って、三番目の痕跡を探しにいこうと立ち上がろうとした、そのとき。

「なんで、分かった?」

 テラがようやく口を開いた。

 にゃー

 デュク様も起きて、赤い目で私を見ている。

「視れば分かるわ」

「それで、どうして、三番目が君の邪魔をすると決めつける?」

「決めつけてはないわ。でも、今まで邪魔ばかりされてるし」

 ラウと出会った最初の魔物遭遇、鑑定の儀の帰り道での魔物襲撃、自然公園での魔物召喚。

 おそらくすべて、三番目が関わっている。

 赤種が魔物を生み出すなんて話は聞いたことがないので、召喚魔法で呼び出しているのだろう。

 それで、あの魔法陣《混沌獣の召喚》か。

 いずれにしても、毎回毎回、魔物と戦っている。そんな大した強さじゃないから、深刻な事には至らなかった。
 とはいえ、気持ちのいいものじゃない。

「そうか? 結果として、君にとっては良い方向に進んだだろ」

「そうかな。すべてラウに捕獲されて終わってるような気がする」

 私にとって、グランフレイムでの人生より、ラウとともに歩む人生の方が、はるかに良いものなのには間違いない。

 間違いはないけど、魔獣をけしかけられて『結果として良い方向』なんて言われても、素直に喜べない。

 私はジロッとテラを眺めた。

「つまり、テラも共犯か」

「違う。最初のを見逃しただけだ。結果的に、君は自由に生きられるようになっただろ」

 最初の?

 ちょっと引っかかる言い方だな。

 まぁ、それは後からでも追求するとして、私はこれ見よがしに自分の首を見せた。

「捕獲されてこの状態で、自由だって言うの?」

 ラウと交わした伴侶の契約は、赤種の鑑定眼には首輪のように視える。
 テラの朱眼にも、この首輪がしっかりと視えていることだろう。

「………………黒竜の関与は想定外だ」

 テラは下を向いた。私の首輪から目を反らすように。

 テラの視線の先、膝の上にはデュク様がいて、相変わらず、にゃーとかわいい声をあげている。

「テラが何かやったんじゃないの?」

「違う。本当に違うんだ」

 責められているとでも思ったのか、テラはバッと顔をあげ、慌てて説明を始めた。

「黒竜に関しては何もやってない。鑑定の儀で初めて君に会って、そのときに気づいたんだ」

 テラは一瞬、言葉につまり、また話し始めた。

「君が黒竜と仮契約していることに」

 テラと初めて会ったとき。テラは私を見るなり、こう言っていた。『一足遅かったみたいで、残念だな』と。
 あの時点で、すでに、伴侶の契約のことを分かっていたんだ。

「分かっていたなら、なんで、教えてくれなかったの?」

「教えたところで、何ができるんだよ。仮契約は済んでいたんだし」

「心の準備とか」

「準備したところで、何も変わらないだろ。それに余計なことをして、黒竜に睨まれたくなかったしな」

 なんだか、おもしろくない。

 でもこれで、テラが余計な関与をしていないことは分かった。
 余計な関与をしたのは三番目だよね。

「後は君も知ってるとおり。覚醒して暴走した君の力が、僕らの手に負えないことが分かって、黒竜の助けを借りた」

「その対価が婚約許可書と婚姻許可書か」

「仕方ないだろう。あのままでは、君も、そして世界も危なかったんだ」

 テラが真面目な顔でそう言ったが、危ないという実感はまったくない。

 にゃー

 デュク様も、テラの話をつまらなさそうに聞いているようだ。

「黒竜は仮契約をした上で、執着の鎖で君を縛っていたから。暴走している君の力を抑えられると思ったんだよ」

 テラは息を吐いた。
 同時にデュク様がもぞもぞと動き出す。

「だから僕は、共犯でも何でもない。世界の平穏を守っただけだ」

「なら、三番目のことを隠してたのは?」

「隠してはない。説明する機会がなんて、なかっただろう」

「とにかく、あの猫を見つけて、どう処理するかはそれから決めるから」

「ダメだ! 三番目に関わるな!」

 思わず、テラが大きな声をあげた瞬間、テラの注意がデュク様から反れた。

 フワッ

 テラの腕から抜け出すデュク様。

 テラがあっと声をあげたときには、デュク様は私の肩にひらりと飛び乗っていた。

「それは私が決める」

「分かった。最初から説明するよ」

 デュク様が私の肩から頭の上に移動した。けっこう重いかも。
 意識だけ、この空間にいるはずなのに、不思議と重みを感じる。

 デュク様はそんな私に構わず、頭の上でにゃーと鳴いた。テラに話の先を促すかのように。
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