運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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8 騎士一族と黒鉄編

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「という手はずでお願いします」

 リザルトは最後にそう締めくくって頭を下げた。

 情報戦という言葉から想像したものと、かなりかけ離れた内容の説明と指示があって、私の頭の中は混乱状態。

「え? 意味が分からないんだけど?」

「お嬢にはお願いしてないので、意味が分からなくても大丈夫です」

 なんだか、軽く蔑ろにされてる私。

「なら。今の説明は誰向けなのよ!」

 語気を強めると、隣から声が聞こえた。

「そりゃ、僕向けの話だよな」

「セラフィアス。今ので分かったの?」

「だから僕向けなんだよ、主」

 なんと。あれだけの説明で、セラフィアスは自分に対してのものだと見破ったようだ。

「そして、あたしたち向けですよね」

 いつの間にか、フィリアとバルトレット卿も話に加わる。

「つまり、お嬢はいつもの調子で、どーーーんとしてればいいんですよ」

「つまり、普通にしてればいいってこと? 誰かに何か聞かれたら?」

 リザルトが私に与えた情報戦の内容を思い出して、私は小さく頭を振った。うまく切り返せる気がしない。

 そんな私の様子を見たセラフィアスが、どういうわけか自信満々で、講釈をし始めた。

「なぁ、主。ここでいう情報戦は真偽不明の話をばら撒いて、相手を混乱させたり、思惑通りに動かすことだ」

「それはそうだろうけど」

「その真偽不明の話を真に受けて、主に質問してきたとしたら? それって失礼な話だよな?」

「それはそうだね」

「ならば主は、失礼だ!と怒っていればいいんじゃないか?」

 セラフィアスの言い分はもっともだ。

 真偽不明の話はそもそも偽情報。偽情報なんだから肯定も出来ないし、かといって否定したら情報戦の妨げにもなりそうだし。

 失礼だと怒り出せば、言葉に出して肯定も否定もしてないことになる。

「でも、怒ったら、図星だから怒ってるとか思われない?」

「向こうが勝手に思ってるだけだろ? 主はただ相手の失礼さに、腹を立ててるだけなんだから」

 まぁ、もっともではある。

「でも、どうして今の話がセラフィアス向けになるのよ?」

「それはだな、主。僕も情報戦に加担するからだな!」

「えっ?」

「僕には超強力で超噂好きで超有名な知り合いがいるんだよな。そいつに、『真偽不明な噂』と断りを入れた上で、話して聞かせるんだよ」

 セラフィアスが言う『超強力で超噂好きで超有名な知り合い』って、一人しか思い浮かばない。

「まさか、ケルビウスにそんな偽情報を掴ませるつもり?!」

 私はくるっと身体をひねってセラフィアスの方を向く。そこには涼しい顔のセラフィアスが何事もなかったように座っていた。

「だから主は情報戦に向いてないんだよ。いいか、主。偽情報をケルビウスに聞かせるんじゃなくて、『真偽不明な噂』を聞かせるんだよ」

 私が訳が分からないという顔をしていたせいで、セラフィアスの講釈にフィリアが説明を加えてきた。

「お嬢。『真偽不明』と断言した上で、話を聞かせるんです。信じる信じないは聞いた人の判断となりますね」

「それって、いいの?」

「いいもなにも、向こうが勝手に勘違いをするのを止めることは出来ませんよね?」

「でも」

 私は口ごもる。

「私とグレイが仲違いで婚約破棄寸前だなんて。そんな噂をグレイが聞いたら、グレイが暴走しそうなんだけど」


 シーーーーーーーン


 周りが一瞬で静まり返った。

 うん、みんなも分かってるんだ。この情報戦の最大の難点は味方であるグレイだということを。

 そもそも、どうしてそんな噂話を流そうとしているのか。

 発端はバイフェルムが参加するという話にあった。




 バイフェルムの話を確認した時のこと。

「お嬢も知ってたんですね。けっこう出回ってる上、本部が否定してないようなので、おそらく事実ではないかと」

 と、軽く肯定したリザルト。

 次の瞬間、嫌な笑いを浮かべながら、「使えそうだな」とつぶやいたのを私は聞き逃さなかった。

 じーーーっと見つめていると、今度はニタッと笑いだす。

「バイフェルムの主、フェルム侯爵が出てくるとなると、フェルム一族が派手に動き始めますね。
 優秀さをアピールすれば、後継者争いで優位になりますから」

「闘技会で勝ち上がるために、なりふり構わなくなるってことか」

「確かに、闘技会優勝もアピールにはなりますね」

 なんだか、歯に物が挟まったような言い方だ。言いたいことがあるなら、ズバッと言えばいいのに。

 私が無言で先を促すと、ヤレヤレといった表情でリザルトは話を続けた。

「お嬢。そもそも、フェルム侯爵が今回は一部の試合から観戦する理由、なんだと思いますか?」

「見たい試合があるから?」

「どの試合だと思います?」

 そんなこと聞かれても。フェルム侯爵なんて知らないただのおじさんだし。

「今回の目玉は『鎮圧のセラ』の出場なんですよ、お嬢」

「げげ。私?」

「強いが偉い、強いがすべてのフェルムです。お嬢を見に来るわけですよ」

 まぁ、出場する以上、見られるのは仕方ないことだからね。と思っていると、リザルトはとんでもないことを口にし始めた。

「強いが偉い、強いがすべてのフェルムですからね。お嬢の強さをチェックするだけで終わりになるとは、到底、思えません」

「観戦するんだから、出来るのは実力チェックくらいでしょ」

「甘いですよ。お嬢を見たら、お嬢の強さを欲しがって、フェルムに引き入れようとするかもしれません」

 そんなバカな話あるわけがない。

 そうは思ってみたものの、リザルトの表情は真剣そのものだった。

「例えば、フェルム侯爵の孫だとかと婚姻を勧めてくるとか」

「そんな相手、グレイが瞬殺するでしょ」

 というか、フェルム侯爵を闇討ちしそうだよね。

 私は最近の出来事を経て、グレイへの評価をすっかり改めていた。

 真面目で紳士で堅物で硬派なグレイは、私に格好良く見られたいグレイの頑張りだったことも判明したし。
 若い騎士に厳しかったのは、単に私と年が近いのを僻んだだけだったし。

 グレイは完璧な人間なのではなく、年頃の成人男性だったわけなのだ。

 それを知ってるはずなのに、リザルトはどんどん物騒な話をし出す。

「その隊長とお嬢が仲違いして、例えば、婚約破棄寸前だったとしたら?」

「婚約破棄寸前どころか、婚姻済みだけど」

「誰も知りませんよ、そんな情報」

 まぁ、そうかもしれないけど。

「フェルム侯爵は強さを求める。一番強いフェルムの人間を後継者にするつもりですよ。
 そして鎮圧のセラは強い。つまり、お嬢を手に入れたフェルムの人間こそが次期フェルム侯爵です」

「発想が飛躍しすぎててヤバい」

 でもまぁ、言いたいことはなんとなく分かった。

「フェルムを揺さぶって、内部分裂をさせるつもりなんだね」

 私が導き出した解答に、リザルトはニヤリと笑うだけだった。
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