運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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8 騎士一族と黒鉄編

2-10 リザルトの報告

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 遠距離通信用の魔導具が映し出す向こう側から、もの凄い破壊音が聞こえてくる。

 破壊音と一言で表現すると、音がして瞬時に終わったように思えるかもしれないが、実際の破壊音は長々と続いていた。

 何かに当たり散らすように、物が壊れる音がひたすら聞こえる。

 音だけではない。

「なんで、こんなタイミングで大噴出が!」

「落ち着け、グレイアド。そういうときもあるさ」

 物に当たり散らしているのは、俺の直属の上司、殲滅隊の隊長だった。
 それをそばでなだめているのはニグラート辺境伯であるベイオス閣下。

 どうやら、隊長をなだめるのは形だけで、実際はからかって煽っているようだ。

 おそらく、隊長のそばには殲滅隊の副隊長が、ベイオス閣下のそばにはニグラートの騎士団長辺りがいる。

 なのに、この有様だということは、二人は間に入るのを諦めたのだろう。誰だって命は惜しいし、怪我もしたくはないから。

 かく言う俺も、被弾はしたくないので、この騒ぎを魔導具越しに眺めているだけ。
 時間は無駄にすることになるが、命には代えられないので我慢する。

「おっさん、俺が参加できないのを嬉しがってるだろ!」

「なわけあるか。闘技会はこっちにとっても重要イベントなんだし」

「なら、なんでそんなに、嬉しそうなんだよ!」

「いやぁ、お前が焦る姿を見るのは久々だからなぁ」

 言い合いはまだまだ続きそうだ。

 闘技会の一部で、ニグラートは堂々一位抜け。その結果報告書と、別途、各騎士団の戦力分析書を手元に用意して、成果を報告しようと通信を繋いだところ、この有様。

 俺も疲れてるのにな。

 ため息をついて、遠距離通信用の魔導具の画面をコンコンと叩く。

 すると、

「にゃあ」

 わざとらしい猫の鳴き声。

 黒い毛並みに金眼の猫の顔が魔導具の画面いっぱいに映し出された。

 と思った次の瞬間。

 画面から猫の顔がにゅっと飛び出してくる。

 いつ見ても慣れないというか、気持ち悪いというか。

 黒猫は画面から頭を突き出して、そのまま身体をよじらせて、きつそうに画面を通り抜けた。

「にゃあにゃあ」

 そして、ぶるぶるっと身体を震わせ、大きく伸びをすると、目の前にくるりと身体を丸めてあくびをし始める。

「にゃああああああ」

 ふてぶてしい。

 思わず、目の前からつまみ出したくなるのをぐっと我慢して、寝ている黒猫をなるべく見ないように……と言っても目の前でふてぶてしく寝ているので、どうしても見てしまってイラッとした。

 隊長とお嬢のペットじゃなければ、今頃、冷たい遺骸となっているだろうに。運のいいヤツだ。




 けっきょくのところ、隊長の機嫌が悪いのは、大噴出のせいでニグラートを離れられないこと。お嬢と仲むつまじく寝起きが出来ないこと。

 加えて、こっちがわざと流した偽情報(隊長とお嬢が婚約破棄寸前)が気に入らないこと、偽情報に踊らされたフェルムがわらわらとお嬢に群がること。

 て、たくさんあるな。まったく。

 俺はため息をつくと、寝そべる猫を、手にした報告書でつついた。

「にゃぁぁぁぁ」

 嫌そうに身体を起こす猫に報告書二冊を押しつけると、仕方がないなとでも言いたげな顔で二冊とも口にくわえる。ひょいっと。

 けっこう分厚くて重さもあるそれをくわえて、すたすたと通信用の魔導具に向かう猫。

 唐突に画面に顔をこすりつけたと思ったら、


 ずぶっ


 と猫の顔が画面にめり込み、そのまま、ずぶずぶと身体まで入り込んで、最後には長い尾がするっと入って、去っていった。

 いや本当に、何度見ても慣れないよな。

「とにかく。こっちは一週間で片を付ける」

 猫が通り抜けてすぐ、隊長から画面越しに声がかかる。

 手にはさっき俺が猫に渡した報告書。
 無事に隊長に渡ったようだ。ざざざっと大急ぎで目を通す隊長の口調は真剣そのもの。

 言い合いになっていたベイオス閣下は、今は画面から見えない。

 殴り合いでもして閣下が負けたんだろうか。もう若くないんだから、いい加減、隊長をからかうのは止めればいいのに。

 ともあれ、俺の返事は一つだ。

「こっちは何としてでも、二部を持ちこたえます」

「シアに無理はさせるな」

「それは仕方ないでしょう。隊長がいない以上、お嬢が守りの要ですから」

「おい」

 凄まれても、仕方ない物は仕方がない。
 俺はきっぱりと隊長に言い返す。

「お嬢が旗の守りに徹しているので、二部は最悪でも引き分け以上に持ち込めます」

「分かった。絶対にシアを攻撃側にさせるなよ」

 凄まれはしたものの、隊長は話が通じない人ではない。お嬢以外のことでは。
 今回はお嬢が関係するが、あくまでも中心は闘技会。

 少しうなり声をあげはしたが、あっさりと了解してくれて、こっちも安堵の息を吐いた。

「もちろんです」

 それから俺は、隊長とあれこれ会話をして通信は終了。

 通信を終了させる前に、隊長に似合わず寂しそうか顔を見せたのが、印象に残った。

 俺を介して、お嬢の様子や活躍ぶりをあれこれ聞くんじゃなくて、直接、本人に聞けばいいのに。

「まったく。隊長もいつまでお嬢とギクシャクしているつもりなんだろうな」

 そういえば、俺。

 お嬢の事細かい行動報告を、隊長から命じられてたな。

 次の報告では、お嬢報告書もつけるか。

 俺は二部の戦いに向けての作戦をよそに、そんなことを考える。
 お嬢報告書を提出する前に、隊長とお嬢が仲直りすることを願いながら。
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