480 / 555
8 騎士一族と黒鉄編
2-10 リザルトの報告
しおりを挟む
遠距離通信用の魔導具が映し出す向こう側から、もの凄い破壊音が聞こえてくる。
破壊音と一言で表現すると、音がして瞬時に終わったように思えるかもしれないが、実際の破壊音は長々と続いていた。
何かに当たり散らすように、物が壊れる音がひたすら聞こえる。
音だけではない。
「なんで、こんなタイミングで大噴出が!」
「落ち着け、グレイアド。そういうときもあるさ」
物に当たり散らしているのは、俺の直属の上司、殲滅隊の隊長だった。
それをそばでなだめているのはニグラート辺境伯であるベイオス閣下。
どうやら、隊長をなだめるのは形だけで、実際はからかって煽っているようだ。
おそらく、隊長のそばには殲滅隊の副隊長が、ベイオス閣下のそばにはニグラートの騎士団長辺りがいる。
なのに、この有様だということは、二人は間に入るのを諦めたのだろう。誰だって命は惜しいし、怪我もしたくはないから。
かく言う俺も、被弾はしたくないので、この騒ぎを魔導具越しに眺めているだけ。
時間は無駄にすることになるが、命には代えられないので我慢する。
「おっさん、俺が参加できないのを嬉しがってるだろ!」
「なわけあるか。闘技会はこっちにとっても重要イベントなんだし」
「なら、なんでそんなに、嬉しそうなんだよ!」
「いやぁ、お前が焦る姿を見るのは久々だからなぁ」
言い合いはまだまだ続きそうだ。
闘技会の一部で、ニグラートは堂々一位抜け。その結果報告書と、別途、各騎士団の戦力分析書を手元に用意して、成果を報告しようと通信を繋いだところ、この有様。
俺も疲れてるのにな。
ため息をついて、遠距離通信用の魔導具の画面をコンコンと叩く。
すると、
「にゃあ」
わざとらしい猫の鳴き声。
黒い毛並みに金眼の猫の顔が魔導具の画面いっぱいに映し出された。
と思った次の瞬間。
画面から猫の顔がにゅっと飛び出してくる。
いつ見ても慣れないというか、気持ち悪いというか。
黒猫は画面から頭を突き出して、そのまま身体をよじらせて、きつそうに画面を通り抜けた。
「にゃあにゃあ」
そして、ぶるぶるっと身体を震わせ、大きく伸びをすると、目の前にくるりと身体を丸めてあくびをし始める。
「にゃああああああ」
ふてぶてしい。
思わず、目の前からつまみ出したくなるのをぐっと我慢して、寝ている黒猫をなるべく見ないように……と言っても目の前でふてぶてしく寝ているので、どうしても見てしまってイラッとした。
隊長とお嬢のペットじゃなければ、今頃、冷たい遺骸となっているだろうに。運のいいヤツだ。
けっきょくのところ、隊長の機嫌が悪いのは、大噴出のせいでニグラートを離れられないこと。お嬢と仲むつまじく寝起きが出来ないこと。
加えて、こっちがわざと流した偽情報(隊長とお嬢が婚約破棄寸前)が気に入らないこと、偽情報に踊らされたフェルムがわらわらとお嬢に群がること。
て、たくさんあるな。まったく。
俺はため息をつくと、寝そべる猫を、手にした報告書でつついた。
「にゃぁぁぁぁ」
嫌そうに身体を起こす猫に報告書二冊を押しつけると、仕方がないなとでも言いたげな顔で二冊とも口にくわえる。ひょいっと。
けっこう分厚くて重さもあるそれをくわえて、すたすたと通信用の魔導具に向かう猫。
唐突に画面に顔をこすりつけたと思ったら、
ずぶっ
と猫の顔が画面にめり込み、そのまま、ずぶずぶと身体まで入り込んで、最後には長い尾がするっと入って、去っていった。
いや本当に、何度見ても慣れないよな。
「とにかく。こっちは一週間で片を付ける」
猫が通り抜けてすぐ、隊長から画面越しに声がかかる。
手にはさっき俺が猫に渡した報告書。
無事に隊長に渡ったようだ。ざざざっと大急ぎで目を通す隊長の口調は真剣そのもの。
言い合いになっていたベイオス閣下は、今は画面から見えない。
殴り合いでもして閣下が負けたんだろうか。もう若くないんだから、いい加減、隊長をからかうのは止めればいいのに。
ともあれ、俺の返事は一つだ。
「こっちは何としてでも、二部を持ちこたえます」
「シアに無理はさせるな」
「それは仕方ないでしょう。隊長がいない以上、お嬢が守りの要ですから」
「おい」
凄まれても、仕方ない物は仕方がない。
俺はきっぱりと隊長に言い返す。
「お嬢が旗の守りに徹しているので、二部は最悪でも引き分け以上に持ち込めます」
「分かった。絶対にシアを攻撃側にさせるなよ」
凄まれはしたものの、隊長は話が通じない人ではない。お嬢以外のことでは。
今回はお嬢が関係するが、あくまでも中心は闘技会。
少しうなり声をあげはしたが、あっさりと了解してくれて、こっちも安堵の息を吐いた。
「もちろんです」
それから俺は、隊長とあれこれ会話をして通信は終了。
通信を終了させる前に、隊長に似合わず寂しそうか顔を見せたのが、印象に残った。
俺を介して、お嬢の様子や活躍ぶりをあれこれ聞くんじゃなくて、直接、本人に聞けばいいのに。
「まったく。隊長もいつまでお嬢とギクシャクしているつもりなんだろうな」
そういえば、俺。
お嬢の事細かい行動報告を、隊長から命じられてたな。
次の報告では、お嬢報告書もつけるか。
俺は二部の戦いに向けての作戦をよそに、そんなことを考える。
お嬢報告書を提出する前に、隊長とお嬢が仲直りすることを願いながら。
破壊音と一言で表現すると、音がして瞬時に終わったように思えるかもしれないが、実際の破壊音は長々と続いていた。
何かに当たり散らすように、物が壊れる音がひたすら聞こえる。
音だけではない。
「なんで、こんなタイミングで大噴出が!」
「落ち着け、グレイアド。そういうときもあるさ」
物に当たり散らしているのは、俺の直属の上司、殲滅隊の隊長だった。
それをそばでなだめているのはニグラート辺境伯であるベイオス閣下。
どうやら、隊長をなだめるのは形だけで、実際はからかって煽っているようだ。
おそらく、隊長のそばには殲滅隊の副隊長が、ベイオス閣下のそばにはニグラートの騎士団長辺りがいる。
なのに、この有様だということは、二人は間に入るのを諦めたのだろう。誰だって命は惜しいし、怪我もしたくはないから。
かく言う俺も、被弾はしたくないので、この騒ぎを魔導具越しに眺めているだけ。
時間は無駄にすることになるが、命には代えられないので我慢する。
「おっさん、俺が参加できないのを嬉しがってるだろ!」
「なわけあるか。闘技会はこっちにとっても重要イベントなんだし」
「なら、なんでそんなに、嬉しそうなんだよ!」
「いやぁ、お前が焦る姿を見るのは久々だからなぁ」
言い合いはまだまだ続きそうだ。
闘技会の一部で、ニグラートは堂々一位抜け。その結果報告書と、別途、各騎士団の戦力分析書を手元に用意して、成果を報告しようと通信を繋いだところ、この有様。
俺も疲れてるのにな。
ため息をついて、遠距離通信用の魔導具の画面をコンコンと叩く。
すると、
「にゃあ」
わざとらしい猫の鳴き声。
黒い毛並みに金眼の猫の顔が魔導具の画面いっぱいに映し出された。
と思った次の瞬間。
画面から猫の顔がにゅっと飛び出してくる。
いつ見ても慣れないというか、気持ち悪いというか。
黒猫は画面から頭を突き出して、そのまま身体をよじらせて、きつそうに画面を通り抜けた。
「にゃあにゃあ」
そして、ぶるぶるっと身体を震わせ、大きく伸びをすると、目の前にくるりと身体を丸めてあくびをし始める。
「にゃああああああ」
ふてぶてしい。
思わず、目の前からつまみ出したくなるのをぐっと我慢して、寝ている黒猫をなるべく見ないように……と言っても目の前でふてぶてしく寝ているので、どうしても見てしまってイラッとした。
隊長とお嬢のペットじゃなければ、今頃、冷たい遺骸となっているだろうに。運のいいヤツだ。
けっきょくのところ、隊長の機嫌が悪いのは、大噴出のせいでニグラートを離れられないこと。お嬢と仲むつまじく寝起きが出来ないこと。
加えて、こっちがわざと流した偽情報(隊長とお嬢が婚約破棄寸前)が気に入らないこと、偽情報に踊らされたフェルムがわらわらとお嬢に群がること。
て、たくさんあるな。まったく。
俺はため息をつくと、寝そべる猫を、手にした報告書でつついた。
「にゃぁぁぁぁ」
嫌そうに身体を起こす猫に報告書二冊を押しつけると、仕方がないなとでも言いたげな顔で二冊とも口にくわえる。ひょいっと。
けっこう分厚くて重さもあるそれをくわえて、すたすたと通信用の魔導具に向かう猫。
唐突に画面に顔をこすりつけたと思ったら、
ずぶっ
と猫の顔が画面にめり込み、そのまま、ずぶずぶと身体まで入り込んで、最後には長い尾がするっと入って、去っていった。
いや本当に、何度見ても慣れないよな。
「とにかく。こっちは一週間で片を付ける」
猫が通り抜けてすぐ、隊長から画面越しに声がかかる。
手にはさっき俺が猫に渡した報告書。
無事に隊長に渡ったようだ。ざざざっと大急ぎで目を通す隊長の口調は真剣そのもの。
言い合いになっていたベイオス閣下は、今は画面から見えない。
殴り合いでもして閣下が負けたんだろうか。もう若くないんだから、いい加減、隊長をからかうのは止めればいいのに。
ともあれ、俺の返事は一つだ。
「こっちは何としてでも、二部を持ちこたえます」
「シアに無理はさせるな」
「それは仕方ないでしょう。隊長がいない以上、お嬢が守りの要ですから」
「おい」
凄まれても、仕方ない物は仕方がない。
俺はきっぱりと隊長に言い返す。
「お嬢が旗の守りに徹しているので、二部は最悪でも引き分け以上に持ち込めます」
「分かった。絶対にシアを攻撃側にさせるなよ」
凄まれはしたものの、隊長は話が通じない人ではない。お嬢以外のことでは。
今回はお嬢が関係するが、あくまでも中心は闘技会。
少しうなり声をあげはしたが、あっさりと了解してくれて、こっちも安堵の息を吐いた。
「もちろんです」
それから俺は、隊長とあれこれ会話をして通信は終了。
通信を終了させる前に、隊長に似合わず寂しそうか顔を見せたのが、印象に残った。
俺を介して、お嬢の様子や活躍ぶりをあれこれ聞くんじゃなくて、直接、本人に聞けばいいのに。
「まったく。隊長もいつまでお嬢とギクシャクしているつもりなんだろうな」
そういえば、俺。
お嬢の事細かい行動報告を、隊長から命じられてたな。
次の報告では、お嬢報告書もつけるか。
俺は二部の戦いに向けての作戦をよそに、そんなことを考える。
お嬢報告書を提出する前に、隊長とお嬢が仲直りすることを願いながら。
22
あなたにおすすめの小説
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
【完結】純白のウェディングドレスは二度赤く染まる
春野オカリナ
恋愛
初夏の日差しが強くなる頃、王都の書店では、ある一冊の本がずらりと並んでいた。
それは、半年前の雪の降る寒い季節に死刑となった一人の囚人の手記を本にまとめたものだった。
囚人の名は『イエニー・フラウ』
彼女は稀代の悪女として知らぬ者のいない程、有名になっていた。
その彼女の手記とあって、本は飛ぶように売れたのだ。
しかし、その内容はとても悪女のものではなかった。
人々は彼女に同情し、彼女が鉄槌を下した夫とその愛人こそが裁きを受けるべきだったと憤りを感じていた。
その手記の内容とは…
【完結】あなたのいない世界、うふふ。
やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。
しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。
とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。
===========
感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。
【完結】呪言《ことほぎ》あなたがそうおっしゃったから。
友坂 悠
恋愛
「君はまだ幼い、私は君を大事にしたいのだ」
あなたがそうおっしゃったから。
わたくしは今までお飾りの妻でがまんしてきたのに。
あなたがそうおっしゃったから。
好きでもない商会のお仕事を頑張ってこなしてきたのに。
全部全部、嘘だったというの?
そしたらわたくしはこれからどうすればいいっていうの?
子供の頃から将来の伴侶として約束された二人。
貴族らしく、外あたりが良く温厚に見えるように育ったラインハルト。
貞淑な令嬢、夫を支えるべき存在になるようにと育てられたアリーシア。
二人は両家に祝福され結婚したはず、だった。
しかし。
結婚したのはラインハルトが18になった歳、アリーシアはまだ14歳だった。
だから、彼のその言葉を疑いもせず信じたアリーシア。
それがまさか、三年後にこんなことになるなんて。
三年間白い結婚を継続した夫婦は子を残す意思が無いものと認められ、政略的な両家のしがらみや契約を破棄し離縁できる。
それがこの国の貴族の婚姻の決まりだった。
元は親同士の契約に逆らって離縁しやり直すための決まり事。
もちろん、そんな肉体的繋がりなど無くても婚姻を継続する夫婦は存在する。
いや、貴族であれば政略結婚が当たり前、愛はなくても結婚生活は続いていく。
貴族の結婚なんて所詮そんなもの。
家同士のつながりさえあれば問題ないのであれば、そこに愛なんてものがなくってもしょうがないのかも、知れない。
けれど。
まさかそんなラインハルトから離婚を言い出されるとは思ってもいなかったアリーシア。
自分は傾いた家を立て直すまでのかりそめの妻だったのか。
家業が上手くいくようになったらもう用無しなのか。
だまされていたのかと傷心のまま実家に戻る彼女を待っていたのは、まさかのラインハルトと妹マリアーナの婚約披露。
悲しみのまま心が虚になったまま領地に逃げ引き篭もるアリーシアだったが……
夫と妹に、いや、家族全てから裏切られたお飾り妻のアリーシア。
彼女が心の平穏を取り戻し幸せになるまでの物語。
[完結]私を巻き込まないで下さい
シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。
魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。
でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。
その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。
ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。
え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。
平凡で普通の生活がしたいの。
私を巻き込まないで下さい!
恋愛要素は、中盤以降から出てきます
9月28日 本編完結
10月4日 番外編完結
長い間、お付き合い頂きありがとうございました。
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる