運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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8 騎士一族と黒鉄編

3-3

 私が放った言葉に煽られて、殴りかかってきそうな勢いの取り巻きたち。

 そもそも、フェルム侯爵が引き連れてる人たちって誰よ?

 総騎士団長としてここにいるなら、本部の人たちだし、フェルム一族としてならフェルムの血縁者か使用人だし。

 どちらの関係者であっても、長が侮辱されたらいい気分はしないだろう。

 しかし、それをあからさまに表に出すのと出さないとでは雲泥の差。

 今、フェルム侯爵の周りにいるのは、ただフェルムの権力に追従するだけの人たちに見える。

 まったく本当に、フェルム侯爵も大したことない。

 私の中でそう断定したその時。

「失礼しました、ルベラス魔導公殿!」

 怒りを露わにしている集団の後ろから、雷のような声が響いた。

「閣下、こんなヤツ!」

「そうですよ、閣下!」

 がやがやと騒ぎが起きる。

 が、

「黙れ!」

 言葉通り、雷が落ちた。

 さきほどまで騒いでいた人たちは揃って、雷に打たれたように静まり返る。

 グレイだったら、ここで大嵐になるところで、フェルム侯爵は一喝しただけで騒ぎを終息させてしまった。

 人を圧する力はさすがというべきか。

 鎮圧のセラである私ですら感心してしまうほどの圧倒感。フェルムの長、そして、王宮騎士団のラスボスが、人を割って私の前に現れる。

 フェルム侯爵は、私の目の前までなんなく進んできた。

 私とフェルム関係者たちの間には、フィリアとバルトレット卿が立ちふさがっていたはずなのに。
 見ると二人はフェルム侯爵の圧に負けたのか、額に汗をにじませて、侯爵に道をあけている。

 いやいや、二人以外にもニグラートの騎士はいるのに、みんながみんな、フェルム侯爵ただ一人に圧倒されてしまっていた。

 そして、みんなが怯んでくれたおかげで、フェルム侯爵は私のすぐ目の前。


 ザザッ


 音を立てて、フェルム侯爵が私の前に跪いた。片膝をたて片膝を地面につける、騎士が陛下の御前でよくやる、あれだ。

 うん。やり過ぎ。

 止めて。
 お願いだから止めて。

 集まっている他の騎士団の人たちも、大注目しちゃってるから。

 だいたい、先に私を格下扱いしてきたのは目の前に跪くフェルム侯爵だ。私はその間違いを冷静?に指摘しただけ。
 指摘されたフェルム侯爵は、許しを請うべく跪いている、と。

 あれ?

 いいのか、これで。

「大変失礼いたしました、ルベラス魔導公殿。しかも部下の礼儀もなっておらず、重ね重ね申し訳ありません」

 首をひねる私の眼下で始まった謝罪。

 見たくはないけど、フェルム侯爵の後ろでは、取り巻いていた人たちまで跪いている。
 表情はいろいろ。神妙にしている人もいれば、興味深げにみている人、悔しそうにしてる人、はたまたこちらを睨みつけている人まで。
 逆恨み、されないよね。これ。

「部下の教育も責任を持ってしっかりしてくれるってことだし、次から気をつけてくれればいいから」

 片手をヒラヒラとさせて、勝手に部下の教育の責任も押しつけてしまう私。

 早急にどうにかして。
 とくにあの、睨みつけている人。

「寛大なお言葉、誠にありがとうございます」

 深く頭を垂れていたフェルム侯爵は、私を見上げて、そう答えた。

 私は立つように促すと、ザザッと音を立てて、フェルム侯爵は立ち上がる。

 デカい。

 思わず、見上げてしまった。

 フェルム侯爵の孫にあたるクラウドやフェリクス副隊長とは、ちょっと違うデカさ。
 クラウドのお兄さん、カイエン卿も含めて、背が高くて引き締まった体格ではあるけど、デカいとまではいかない。

 侯爵は、肩がガッチリ、腕や足も太くて、身体に厚みがあった。
 どぢらかといえば、グレイやベイオス閣下の体格寄りだ。

 グレイやベイオス閣下も、背が高い上、筋肉がガッチリしていて厚みがある。その二人とフェルム侯爵は同じくらいの体格なのだ。年は二人よりかなり上なのに。

 見上げてみると、山のように感じる。ゴツゴツしているから岩山かな。

 魔法的な《威圧》を使っている気配はないので、この圧倒感は内面から発せられている物だと、私は思った。

 同時に、ヴァンフェルム団長の言葉も思い出す。

 強さってなんだろう?

 あの時、団長が投げかけていたのは、『一番強いから後継者になる』では、『一番早く生まれた男子だから後継者になる』と、大して変わらないのではないか、ということ。

 前者は努力や才能とは無関係、後者は強さ以外は不要と言っているようなもの。しいていえば、後者には努力でどうにか出来る余地があること。

 でも、持って生まれた才能も影響するだろうし、そうなると努力で挽回は難しいし。

 なんだか、話が堂々巡りだ。

 私が何も言わないのを見て、フェルム侯爵は言い訳のようなことを喋り出す。

「孫の想い人だと聞いたので、ただのお嬢さんだと思っておりました」

 うん? 孫、孫って、どの孫だ?

 クラウドはフォセル嬢と婚約したようだし、ヴォードフェルム隊長とはあまり関わりがないし、フェリクス副隊長はストーカーしてるだけだし、残るは…………

「ヴェルフェルム団長は、ただのお嬢さんに求婚させないでしょ」

 私はカイエン卿を思い浮かべて、話を返した。

 そう。求婚してきたのはカイエン卿だけ。

 なんだけれども。

 仕事でもこなすかのように、淡々と求婚してくるカイエン卿には違和感しかない。
 言葉に心がこもっていなくて。誰かから無理やり言わされてるような感じ。

 十中八九、カイエン卿の母親のヴェルフェルム団長の指示だろう。

 上昇志向が強く出世欲が強いヴェルフェルム団長は、フェルムの次期後継となるために、子どもの婚姻も利用して、足場をしっかり固めているわけだ。
 第一騎士団の団長というだけでも十分過ぎるくらい、凄いのに。

 と、いうような思いも込めて、『ただのお嬢さん』を強調させて言い返したら、

「ですな」

 と、あっさり肯定してくる。しかも澄ました顔で。

 おそらく、フェルム侯爵も似たようなことはやってきたんだろうな、と確信してしまった。

 まぁ、高位貴族は政略結婚が普通。
 自分の家門の力を高めるため、婚姻で家門同士のつながりを持ったり勢力を延ばしたり、そんなことが常套手段の世界では、ごくごく当たり前の話だった。

 その事については私も理解している。

 私だって、後ろ盾を得るために、グレイとの婚約を選んだのだから。

 それでも、そんなフェルム侯爵の態度を見ていると、なんだか無性に腹立たしく、ムシャクシャしてくる。

「だとしても、相手がいる人に求婚させるのは、どうかと思う」

「あぁ、あの話は本当だったんですな」

 チクリと嫌味のようなことを言ってあげると、フェルム侯爵は飄々とした態度で、とんでもない言いがかりをつけてきた。
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