運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

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9 亡魔術師の金冠編

3-6

 ドシーーーンという派手な音は、私の目の前で突然、起きたように見えた。

 機を狙っていたのだろうけど。

 派手な音を起こしたのはフィリアだ。本名はフィルア・ロード。かわいい顔をしていても、れっきとした男性。間違いなく男性なのだ。

 そのフィリアがエンデバート卿を投げ飛ばした。細い腕(グレイ比)でよくあんな大男を投げ飛ばせるなぁ、と感心する。

 投げ飛ばされ、地面でのたうち回るエンデバート卿から呻き声が上がった。

「この前まで、あたしに言い寄ってたくせに!」

 ちょっと低めの金切り声を出し、目をつり上げて怒る……振りをするフィリアに、エンデバート卿はたじたじとなっている様子。

「ま、待ってくれ。これには訳が!」

「言い訳だなんて。往生際の悪い! それでも騎士?!」

「いや、だからこれには訳があるんだ!」

 不実?を責めるフィリアに、大慌てで言い訳をしようとするエンデバート卿。これはこれでおもしろい。

「(フィリア、とりあえず『訳』ってヤツを聞いてみたら?)」

 こっそりと、フィリアに耳打ちする私。

 こっそりと耳打ち、と表現したけど、フィリアと私の間にはかなりの距離があり、バルトレット卿とグレイがいる。

 直接、耳打ちは出来ないので、

「シア。俺の背中で何をやってるんだ?」

 グレイの背中に魔法陣を展開させて、フィリアの耳元に私の声を飛ばしているという。

「いやちょっと、フィリアに指示出し」

「ならば、黒幕を引っ張り出すよう伝えてくれ」

「黒幕って、メッサリーナ殿のこと?」

 私はグレイの背中に魔法陣を出したまま、グレイの脇にひょこっと顔を出した。グレイは無言でうむっとうなずくと、先ほど見ていた王宮魔術師団の建物を指差す。

「あぁ。あそこにいるから」

「いやでも、離れてるよね? エンデバート卿はここにいるんだから、エンデバート卿がメッサリーナ殿を連れてくるのはムリじゃない?」

 私は王宮魔術師団の建物とエンデバート卿を交互に見てから、首を横に振った。どう頑張ったってムリだろう。

 すると、グレイは不思議そうに言葉を返してくる。

「しかし、あの男を見張ってはいるだろ? 指示通りに行動しているか。何か重大な失敗をしでかしていないかどうか」

「あぁ」

 なるほど。つまりグレイはこう言いたいわけだ。

「私に求婚しようとしているエンデバート卿が、フィリアに求婚しだしたら、それはメッサリーナ殿の思惑とは違う行動になるってことだね」

「違う行動を取ったら、修正しないといけないからな」

 グレイの言うとおりなら、メッサリーナ殿は見張るのを止めて、エンデバート卿を注意しに現れる。

 しかし。

「それでも向こうが動かなかったら?」

 裏でエンデバート卿を動かしているなら、あえて今ここで姿を現すようなことはしないのでは?

 私がそんな問いかけをしても、グレイは冷静だった。

「その時はその時。また別の方法がある」

 そう言って、フィリアとエンデバート卿とのやり取りを静かに眺めているので、私はフィリアに指示を出した。

「(フィリア。訳を聞くついでに、自分への気持ちは嘘だったのかって揺さぶって。ついでに求婚もしてもらって)」

 こんなところかな。

 私が指示を告げると、少し離れたところにいるフィリアは肩をすくめた。

「お嬢のムチャブリがひどい」

 いやいや。そのムチャブリな指示を出させたのはフィリアの上司(=グレイ)なんだけどね!

 こうして、一大茶番が幕を開けることになった。

 題して、フィリア(男)とエンデバート卿のラブラブ大作戦!




「エンデバート卿。いえ、バルシアス様」

 フィリアの低くて甘い声が辺りに響く。

 なんだなんだと通りがかりの数人がフィリアの声に足を止めた。

「ところで、バルシアスって誰?」

 軽くよろめくグレイ。私の声が聞こえたのか、グレイの少し前に立つバルトレット卿がガクッとずっこける。

「なんか、変なこと、言ったかな、私」

「変なことじゃありませんよ、お嬢」

 バルトレット卿が私たちの方を振り向いて、口をとがらせた。責めるようなことを言われても知らないものは知らないのだ。

 バルザードやバルトレットなら聞いたことがあるけど、バルシアスなんて私の周りにはいない人だったから。

「目の前にいるでしょうが。バルシアス・エンデバート卿本人が」

 あー

 エンデバート卿のことか。

 なるほど。名前呼び。愛称呼びをするほど距離は詰まっていない。
 それでも、『家名呼び』よりは『名前呼び』の方が遥かに親密感が出る。

 フィリアに名前呼びをされたエンデバート卿。天にも昇る心地になるとこんな表情をするんだろうなぁ、と思うお手本のような顔。

 頬を赤らめて、口をぽかんと開けて、と思ったら急にもじもじと身体をくねらせた。
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