運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

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9 亡魔術師の金冠編

5-5

 グレイが部屋から出ていってすぐ、私は準備に取りかかった。なにしろ、

「契約印の消去なんてやったことないし」

「本当に時間がないんだ。考えていないで動いてくれ」

「身も蓋もない」

 王太子殿下に急かされて、私がまずやったことは、フォセル嬢に指示を出すこと。

 ベッドに寝たきりのままでは、全身状態がよく分からない。だから、身体を起こしてベッドに腰掛けてもらったわけ。

 そもそも、私は『鎮圧』なのよ。回復や治癒を得意とする金冠ならともかく、鎮圧を得意とする人間が体調まで細かくみられるわけがないのよ。

 開き直りたい気分で、私はフォセル嬢の目の前にイスを持ってきて座った。目と目がちょうど同じ高さで、視線がばちっと合う。フォセル嬢の碧眼に不安げなものが混ざっているけど、表情は少し明るくなっていた。
 
 しかし、フォセル嬢の顔色自体はどす黒いままなので、殿下に言われなくても急がないといけない。

 そのことが私の心をさらに急かす。

 大急ぎで、全身の魔力の流れを確認すると、やはり流れが弱くなっている。

 人工魔力結晶で無理に流れる魔力を多くした、その代償で、魔力が流れる道=魔力経路が傷んでいるんだ、これ。見ていてとても痛々しく感じる。

 あまりの痛々しさに、思わず、目を背けてしまった。

 血管に傷が出来れば血が出てくるように、魔力経路に傷が出来れば魔力が漏れる。
 魔力を吸い取られていないのに、顔色が悪いのも、身体が弱っているのも、魔力が漏れ出ていることが原因のようだった。

 こんな状態になるまで、フォセル嬢はあの魔力結晶を食べ続けていたんだ。騙されているとも知らないで。

 なんだか、泣きたくなってきた。

 自分の父親がクズなのは分かっていたけど、関係ない人たちまで使い捨ての道具のように扱うなんて。怒りを通り越して、吐き気がする。

 さて。今のフォセル嬢の状態をどう説明しようかと思っていると、身動きしない私をクラウドが指差して、失礼なことを言い始めた。

「あの。俺、いや、私が口を挟むのもなんですが、本当に、エルシアで大丈夫なんですか?」

 どういう意味よ、それ。

「ルベラス魔導公は、信頼されてないようだな」

「クラウド、私をなんだと思ってるのよ!」

 クズ男に対するのと別な怒りが湧き起こってきた。

「いや、だって、今、エルシアがやったことないって。動かないでぼーっとしているみたいだし」

「やったことがないのと、出来ないのとは、別問題だから」

 いや、本当に失礼なヤツだわ。何にも分からないからこその暴言だとは分かっていてもムカついてくる。
 まぁ、それだけフォセル嬢のことが心配なんだろうけどね。でもそれはそれ、これはこれ。

 失礼なクラウドは置いといて。次の段階に進むべく、私はフォセル嬢にまた指示を出した。




「契約印を見せてくれない?」




 魔導具と契約すると、主の身体に契約印が刻印される。だから、フォセル嬢の手にも印が刻まれてる、と思って、私はフォセル嬢に手を差し伸べた。

 フォセル嬢は無言で、私の手のひらに右手を乗せる。

「へぇぇ。手の甲に契約印って入るのか」

 横からクラウドがのぞき込むようにして、フォセル嬢の右手の甲を眺めるけれど、

「何もないぞ?」

 ぱっと見で分かるわけないんだな、これが。

 フォセル嬢の手にそっと私の魔力を吹きかけると、右手の甲に複雑な模様が現れ、クラウドが「おっ?!」と声を漏らす。

「手の甲に契約印が入るから、魔導具との契約は二本までなんだよね」

 手は二本しかないから杖も二本まで。至って単純なルールだ。

「そもそも、一本でも魔力をごっそり持っていかれるから、普通の人間で二本持ちは不可能なんだよ」

 王太子殿下が余計なことを言うのを聞き流して、私はフォセル嬢の契約印をじっくりと観察した。

 何かおかしい。

 フォセル嬢の手の甲を食い入るように見つめて、おかしいところを見つけようとしていると、殿下もクラウドとは反対側から、契約印をのぞき込んできた。

 そして、

 私と同じように首を傾げると、自分の右手の甲を確認する。

 殿下もフォセル嬢の契約印に不審なものを感じている。私はそう確信した。

 私も右手の甲にセラフィアスとの契約印がある。左手にはクラヴィスとのもの。私も殿下に倣って自分の手の甲を見る。ついでにフォセル嬢のものと並べてみた。

 すると、疑惑の答えが目の前に浮かび上がってきた。

 チラッと殿下を見ると、殿下も自分の甲を見て、答えに行き着いたようだった。

 ふむ。

 かなり面倒なことになったかも。




 私が心の中でため息をついていた時、もう一つの問題も深刻になってきていた。

「なんだか。ミシミシする音が大きくなってきているような?」

 と、クラウド。

 私はフォセル嬢の契約印に集中していたせいで、気がついていなかったけど。言われてみれば、ミシミシとずっと音がしている。

「契約印に接触があれば、向こうにも分かるからな」

 殿下がさらっと説明するのに、クラウドが食いついてきた。

「向こうはルプス卿がどうにかしてくれているのでは?」

「無理を言うな。魔物や魔獣を相手にするのとは訳が違う。
 それに対外的には、向こうは王宮魔術師団の筆頭と五強。辺境伯家の子息よりも上に見られるだろうから」

 向こうがどんな状況になっているのかは分からないけど、グレイが不利な状況にはまちがいなさそう。
 それはつまり、こちらへの攻撃が弱まらないことを意味する。

「だから、急いでくれ」

「そんなこと言われても」

「仕方なかろう。結界の維持は専門ではない」

 殿下の専門は、統率とか人心掌握とか。
 結界が専門ではないのは百も承知だけれど、そこはそれ、どうにか持ちこたえてほしい。私がフォセル嬢をどうにかするまでの間でいいから。

 ともあれ、今はおしゃべりをしている場合ではない。

「ちょっと面倒というか大変な状態になってるんだけど、いいかな、フォセル嬢?」

 私の言葉にフォセル嬢はしっかりと頷いた。その目にはすべてを受け入れる覚悟が宿っているように、私は感じたのだった。
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