運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

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1 王女殿下の魔猫編

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 近づいてきた足音の主が、唐突に荒げた声を私たちにぶつけた。

「何をやっている」

 いや、何をやっているもなにも。そちらだってまずは挨拶でしょ。

 ムッとして、声の方に顔を向けると、そこにはヴォードフェルム副隊長似の容貌の騎士。
 顔も似ているうえ、黒髪、藍色の瞳もまるでいっしょ、なのに目つきだけがどことなくキツい。そして偉そう。

「あ、身長はヴォードフェルム副隊長の方が高いかな」

 思わず口に出た言葉が聞こえたのか、ギロッと睨まれる。

 と思ったら、そのまま後ろに付き従えている騎士を引き連れて、私たちの前を素通りした。
 付き従う騎士が微妙な顔つきをしているところから察するに、

「気にしてたんだ」

「エルシア、静かに」

 間髪入れずに注意してくるのは、私の隣にひっつくように立つヴォードフェルム副隊長。
 チラッと見上げると、偉そうな騎士に顔を向けたままで、表情はよく読み取れない。

 その偉そうな騎士が、第一隊のカニス隊長のそばまでやってくると、くるっとこちらを振り向き、よく通る声で号令をかけた。

「第一騎士団、第三隊、整列しろ」

「第三騎士団、第一隊も整列だ」

 カニス隊長も続いて号令をかける。

 ビシッと列を揃える騎士たち。

 なんだけど。

「一と三、紛らわしいよね」

「エルシア、だから静かに」

 ヴォードフェルム副隊長は顔を片手で覆い、半分諦めた調子で私に注意を促してくるけど。
 私のつぶやきに整列した騎士全員が微妙な顔をしたのを、私は見逃さなかった。

 うん、みんな揃って同意見なんだわ。




 整列だけさせておいて、偉そうな騎士はカニス隊長と何事か話し込んだまま。

 こちらには何の指示もないので、今のうちにと隣のヴォードフェルム副隊長の袖をくいっと引っ張る。

「もしかして、あの偉そうな人。ヴォードフェルム副隊長の家族か親戚?」

「…………俺の兄だよ」

 一瞬、言葉につまるも、あっさりと教えてくれた。
 でもなんだか、答えたくなさそうな表情だったのは、どうしてだろう。

「ふん。第三騎士団は相変わらずだな。
 カニス隊長。もっと、規律を引き締めた方がいいのではないか?」

 またもや、ギロッとこちらを見る。

「まったく、実の弟がこの程度だとは嘆かわしい」

 そう言って、ため息をついた。

 はぁぁぁぁぁぁ?!

 何その態度! 超、絶、ムカつくんだけど!
 第一騎士団がそんなに偉いわけ?!

 ムカつきマックスの私は、だから、言ってやったのだ。

「ふーん。第一騎士団も、たいしたことなさそうね」

 態度だけは偉そうな、ヴォードフェルム副隊長の兄というヤツに向かって。

「そこの女、何か言ったか?」

「フェリクス、エルシアの口を塞げ!」

 偉そうな騎士、改め、第一騎士団のヴォードフェルム第三隊隊長と、第三騎士団のケニス隊長の怒号が同時に飛ぶのを、横目で見ながら、私は言葉を続け……

「第一騎士団て、名前ばかりの、見かけだお……もごっ」

 ……たかったが、途中で口を塞がれる。

 塞いだのはもちろん、ヴォードフェルム副隊長だ。ケニス隊長の指示通り、物理攻撃で攻めてきた。力ではさすがに勝てない。ズルい。

 フェリクスってのはヴォードフェルム副隊長のファーストネーム。
 ヴォードフェルム隊長とヴォードフェルム副隊長とで紛らわしいので、副隊長はフェリクス副隊長って呼ぼうかな。




 と、突然。

「ううっ」「くっ」

 口を塞がれた状態で、ぐっと引き寄せられ、くるっと回転、フェリクス副隊長の背後に無理やり移動させられた。

 その直後。

 ガキーーーーンと剣戟が響く。

「ヴォードフェルム隊長!」

「フェリクス!」

 息を飲む。

 フェリクス副隊長は、私を引き寄せた状態で抜刀し、ヴォードフェルム隊長からの一撃を受け止めていた。

 ギチギチと剣が触れ合って、金属が軋む嫌な音が続く。

 片手で剣を受け止めきれなくなったのか、フェリクス副隊長が私の口から手を離した。空いた手を、剣を握っている手に添える。互いに力が入ったままだ。

「フェリクス、何をしてる?」

「それはこっちのセリフだ。うちの魔術師殿に何するんだよ」

 緊迫した空気が辺りに漂う。

「礼儀のなってないヤツに、礼儀正しくする必要があるか?」

 ムカッ

 フェリクス副隊長の兄弟とは思えないほど、ムカつくんだけど。
 他人を見下した発言をしないと、生きていけないのか、こいつ。

「まったくだわ。礼儀のなってない騎士に、私が礼儀正しくしてあげる必要なんてないわよね」

「お前、言わせておけば!」

 ギシッ

「エルシア、お願いだからおとなしくしててくれ」

「だって。あいつ、最初にフェリクス副隊長ことをバカにしたし。いちいちムカつくことばかり言うし」

「エルシアが俺を名前呼び…………」

「はぁ?」

 フェリクス副隊長も、兄弟とはいえ、バカにされるようなことを言われて悔しくないのだろうか。

 私も昔は、自分が至らないから、自分の努力が足りないから、だから誉めてもらえないんだと思っていた。

「いや、エルシアが俺のために怒ってくれるのは、凄く凄く嬉しいんだが。俺がもっと努力すれば良いだけの話だから」

 ほら。

 フェリクス副隊長も同じように思ってる。

「フェリクス副隊長は努力しなくたって、身長は勝ってるじゃないの」

「だから、エルシア。おとなしくしてくれ」

「この生意気女!」

 ヴォードフェルム隊長からフェリクス副隊長への圧が、さらに強くなった。

 ところで、周りの騎士たちやカニス隊長に動きはないけど、この騒ぎを見物しているだけなの?

 私はフェリクス副隊長の背中越しに、そっと辺りを窺う。

「……………………。」

 周り全員が固まってる。

 中には、微妙な視線を送る者、頭や顔に手を当ててヤレヤレといった感じの者、ため息をついている者と様々。

 止める気はないらしい。

 カニス隊長はというと、やっぱり同じように、はぁーっとため息をついていた。

 これはどういう反応なんだろう?

「ヴォードフェルム隊長、エルシアを刺激しないでくださいませ。
 他騎士団の魔術師とはいえ、しっかり使いこなせるのが第一騎士団です」

 誰も止めないのを見かねたソニアが、声を上げてくれた。なんだか、残念な響きが含まれているように感じる。

「カエルレウス嬢は、この生意気で無礼な女の肩を持つのか」

「ヴォードフェルム隊長。エルシアはこう見えても同期最強。敵対しても利はございませんわ」

「こいつがか?」

 ソニアの言葉で、とりあえず、剣を退かせたヴォードフェルム隊長は、相変わらずムカつく発言を繰り返す。

「ムカつくから、殴っていい?」

「ダメだ、絶、対、ダメだ」

「協力しろとは言われたけど、仲良くしろとは言われてないし」

「それでもダメだ。絶対に、ダメだ」

 同じく剣を退いたフェリクス副隊長に、頑として止められる私。
 あいつに負けるとでも思われているようで。なんだか、悔しい。




「ふん、第三騎士団の魔術師ごときが、この俺に勝てるわけがないだろう」

「とにかく、ノア・ヴォードフェルム。兄弟ケンカは任務時間外でやってくれ。
 それと、もう少し互いに歩み寄れ。迷惑だ」

 カニス隊長がヴォードフェルム隊長に注意を促す。

「もしかして、いつもこんな感じ?」

「エルシアは黙れ」

 つい口に出した言葉を、カニス隊長に遮られたけど。周りの騎士たち全員が無言でコクッと首を縦に振った。

 つまり、これはこの兄弟の、いつものことらしい。

 はぁ。

 騎士の名門家系も大変だわ。

 とりあえず、ケンカらしきものが収まって、固まっていた周囲がザワザワし始めた。

「にしても、組み合わせが悪かったな」

「誰だよ、エルシアを連れてきたやつ」

「うちのダイモス魔術師殿だよ」

「今回の件はエルシアが適任なんだと」

 組み合わせが悪いというのは、ヴォードフェルム隊長とフェリクス副隊長のことなのか、黒髪の魔術師である私が参加したことなのか。

 聞いてみようとした矢先、ソニアがみんなに聞こえるように、大きな声を上げた。

「ええ、その通り。今回の件はすべて、エルシアにかかっていますわ!」

 だから、誰か。今回の件が何なのか、そろそろ説明してほしいんだけど。
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