運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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1 王女殿下の魔猫編

3-10 殿下は集まる

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 カエルレウス嬢とルベラス嬢をそれぞれの出迎えに引き渡すと、俺は王女殿下のところへと戻った。
 王女殿下は庭園でまだ何かやっていたらしく、俺は王女殿下の移動にちょうど間に合う。

 王女殿下は皆を労うと、すたすたとした足取りで、第三王子殿下のところへ向かった。




 で。今は第三王子殿下の応接室で、爆発している。

「あぁぁぁぁぁぁぁ、何なのよ! あの傲慢な魔術師は!」

 王女殿下の訪問は、伝令によって伝えられていたようで、つくとすぐ、応接室に通されたのだ。
 ま、先に訪問を知らせずに突然押し掛けるのは、第二王子殿下だけだしな。

 ともに応接室に入室するのは、俺ともう一人。後は部屋の外で待機する。

 テーブルにはすでに茶菓子が用意され、王女殿下の到着に合わせて、茶が振る舞われた。

 少しして、第三王子殿下がやってくると、王女殿下の愚痴が爆発し始めて。
 王女殿下付きの俺たち二人と、第三王子殿下付きの二人、合わせて四人は見ぬ振り聞かぬ振りに徹し始める。

「わたくしが何をしたって言うのよ!」

「最年少魔術師で、しかも、五強の杖持ちなのが気に入らないんだろうな」

 王女殿下の爆発を、やんわりとなだめる第三王子殿下。第二王子殿下より年は若いが、しっかりしている。

 その王子殿下が、王女殿下の話をおもしろそうに聞いていた。

「ねちねちねちねちと自分の自慢話ばかりして、口を開けば、自分は優秀だ有能だなんて言って!」

「まぁ、彼女はあの代の魔術師では、トップだったからな」

「あの代の中では、というだけでしょ」

「今回は相当機嫌が悪いな」

 王女殿下もいつもなら、一言二言、爆発すれば収まるのに、今回はそうとう頭にきているようだ。ま、無理もない。

 こうなると、怒りの矛先は他のところにも向かっていく。

「トリー兄さまはいいわね」

「何がだい、優秀で有能な妹よ」

「お気楽で」

 例えば、身近な人物などに。

「おいおいおいおい、酷いなぁ。こんなに話を聞いてあげてるのに」

 八つ当たりじみた妹の言い分に、慌てる兄。端から見れば仲のいい兄妹の口喧嘩だ。
 自分の家族との違いを見て、思わず、微笑みそうになる。

「デュオニスお兄さまはともかく。アキュシーザまでも、あの傲慢魔術師の味方なのよ」

「アキュシーザがか? うーん、それはなぁ」

 仲のいい兄妹に見えるとしても、やはり、王子と王女。第三王子殿下も第三者が絡むとなると、言葉を濁す。

「わたくしだけが悪者扱いだわ」

「安心しろ。僕もユニー兄さんも、デルティが悪いわけではないこと、分かっているから」

 分かる人が分かっていればそれでいい、では済まないのが貴族社会。そういった事情を含めて分かっているからこそ、気に入らない王女殿下。

 セイクリウス嬢も、ただの傲慢な女性ではない。
 自分の言動や立ち振る舞いを計算し、『優秀さを目の敵にされ、キツい性格の王女に厳しく当たられる可哀想なご令嬢』という印象を、あちこちで振りまいている。

 だから、余計に王女殿下のしゃくに障るのだろうな。

「それでも気に入らないのよ、あの女!」

 興奮する王女殿下の気を逸らそうと、第三王子殿下は、別の話題を持ち出した。

「それで、元凶の魔猫は誰が落ち着かせたんだ? セイクリウス嬢か? それともアキュシーザ?」

「違うわ」

 急に静かになる王女殿下に対して、優しく問いかける王子殿下。

「ならば、デルティがやったのかい?」

「第三騎士団の魔術師よ、たぶん」

「たぶん?」

「傲慢魔術師がキャンキャン騒いでいたから、そっちに気を取られて、よく見てなかったのよ」

 ま、俺は見てたけど。

 王女殿下たちが気を取られている隙に、魔猫、アキュシーザの魔力を隠れ蓑にして、見事に制圧していた。

 俺自身は魔術師としての素養はないが、魔力はある。
 それに、魔術師との戦闘を想定した訓練を幼い頃から叩き込まれていたので、魔力の動きには敏感だった。

「なのに、なぜ、第三騎士団の魔術師だと思うんだい?」

「あの場にいたし、それに、前に暴走したときに捕まえたのは、その魔術師だったから」

 根拠は弱いが、推察として間違ってはいない。

「ふーん、セイクリウス嬢よりよっぽど優秀じゃないか」

「そうなの! しかも杖持ちだって話なの! 黄色い旗がついている棒、らしいんだけど」

「黄色い旗のついた棒? そんな冗談みたいな杖があるわけないだろう」

 あぁ、俺もそう思うんだが。

 クラウドの話ではどうやら、その冗談みたいな杖が本当に、ルベラス嬢の杖のようなんだよな。

「でも、エルシア嬢はその黄色い旗がついた棒を持って、三聖の展示室の案内もしているらしいわ!」

「エルシアって言うのか。かわいい名前だな」

「そう。エルシア・ルベラス嬢よ! 見た目もかわいらしいわ。黒髪で金眼なの。そうだ、兄さま。兄さまの王子妃にどう?」

 王女殿下、今度は別方面に暴走し始めたな。ほら、第三王子殿下が困っているだろうに。俺だけでなく、近衛全員が気の毒な視線を王子殿下に向ける。

「どう?って言われても、会ったことないし」

「今度会わせてあげるわ!」

 王女殿下の無茶ぶりは続く。こうなったら止まらないのが王女殿下だ。

「だいたい、なぜ、僕なのか聞きたいんだけどな」

「エルシア嬢は魔塔の孤児院出身の平民なの。身分的なところから、王太子妃は難しいでしょ?」

「うん? 王子妃はいいのかな?」

「優秀な魔術師は、王室でも必要としているでしょ?」

「確かにそうだけど。黒髪金眼の魔術師って、別のところで、誰かから聞いたような気がするんだよな」

「とにかく検討してよ、トリー兄さま!」

 冷静に応対する王子殿下に対して、それなりに理屈っぽい説明をする王女殿下。最後はやや押し込み気味。

 はぁ、と大げさにため息をついてから、王子殿下は説得を試みる。

「あのな、デルティ。王子妃はそんなに簡単に決められるものではないんだ。
 それに、ルベラス嬢に恋人がいたら? 愛する二人の仲を引き裂くつもりかい?」

 そんなことは考えもしなかった、という表情が王女殿下の顔全面に出た。

 恋人がいるかいないかは分からないが、ヴォードフェルム兄弟とうちの弟クラウドが競り合っているんだったよな。
 ま、フェルムは黒髪好きが多いからな。

 そして王女殿下は、王子殿下の言葉に動かされたようだ。

「そうね、兄さまの言うとおりね」

「もう少し、相手を知って、仲良くなってから。考えるのはその後でも遅くないだろう?」

「そうね、そうするわ!」

 こうして王女殿下の爆発は、被害を出すことなく無事に終息したのだった。




 その日の夕刻。

 王女殿下の警護が交代となるとすぐ、俺は王太子殿下の執務室へと向かう。

 今日の業務報告だ。

「それでデルティの様子はどうだ?」

「怒り心頭でした」

「想定内だな」

 毎日の決まりきった報告なので、王太子殿下もとくに動じてはいない。

「セイクリウス嬢以外に、アキュシーザ様にも、怒りを向けられています」

「それも想定内だ」

 手元の書類を捲りながら、俺の報告を淡々と聞いている。

「あと、第三騎士団の魔術師殿が気に入ったようです」

 ピクッ

 ここで初めて、今までにない反応があった。

「黒髪金眼の魔術師か? エルシア・ルベラスという名の?」

 こくりと頷く俺の前で、王太子殿下はしばらく考え込んだのち、小さく頷いた。

「そうか、分かった。デルティには話をしておこう」

 ふっと顔を上げてどこかを見る。

「明日はあの日だからな。ちょうどいい」

 そうつぶやく王太子殿下の声が聞こえたような気がした。
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