52 / 590
1 王女殿下の魔猫編
5-5
踏み出した先は、いつものように緑豊かな場所だった。
木も生えていて、茂みもある。花も咲いている。ちょっとした森の中のようにも見えなくもない、そんな場所。
そしてここの木は、葉っぱ一枚、小枝一本たりともいつもと変わりがない。虫もいなければ動物もいない。風も吹かないし、枝が折れたり葉っぱが千切れたりすることもない。湿った土の臭いも乾いた木の皮の臭いもしない。
生き生きとした見かけとは真逆の、見せかけの庭園。それがここだ。
今、入ってきた扉から中央の建物に向けて続く苔むした石畳をしばらく歩き、中央辺りでピタリと止まって後ろを振り向く。
「よし」
私は頭の中で手順を確認しながら頷いた。
黄色い旗を手にした私のすぐ後ろには、クラウドがピタリと張り付き、さらに後から来る見学者たちを誘導している。
役割分担としては、私が説明係でクラウドが誘導係。
加えて言えば、今回の参加者は全員が初めてではないので、文句もなければ余計なお喋りもない。そういう面ではとてもストレスのない見学会だった。
「ちっ」
まぁ、クラウドにとってはストレスだらけの見学会だろうけど。
クラウドが小さく舌打ちするのを目で注意すると、クラウドは気まずそうに了承の合図をしてくる。
さきほどまでは、アルバヴェスペルのおじさんたちと楽しそうにしていたのに、やはりやりにくいらしい。やたらと、六人組の最後の人物を気にしているのが、丸わかりだった。
ポンポンと無言でクラウドの肩を叩く。
なんだかんだ言っても、クラウドは誘導。立って歩いてそれだけでいいから。
「すまん」
私の意図を察して、小さく短く答えるクラウド。私はニコリと笑って応じる。
さぁ、ここは私が頑張らないとな。
さて、しばらく待っていると、マリーアンたちの三人組がまず入ってきて、後から六人組が静かに入ってきた。
全員が初めてではないこの場所を、しばし眺めてもらう。
私の予想を裏切り、ベテラン見学者たちの反応は、初めての見学者たちと大きくは変わらず。私はちょっとビックリした。
何度来ても、ここは不思議な場所なんだろう。
「この前も思いましたけど、ここの中庭は本当に不思議ですわぁ」
「自然の庭ではありませんからね」
マリーアンが中庭をぐるーーっと見回して、しみじみとつぶやいた。
「あらぁ、やっぱりそうですのぉ?」
何気に答えた私をパッと見ると、マリーアンはいたずらっぽく笑う。
「葉っぱ一枚、落ちてないし、綺麗すぎるというか。絵に描いた庭園という感じがしますわぁ」
「なかなか、鋭いですね」
そう、ここは自然の森でも人工の庭園でもどちらでもない場所だったのだ。
石畳の上を歩いていった先、本来の『三聖の展示室』の中へ、マリーアンたちを招き入れる。
入ったところは小さな絵が飾られている他は、何もないホールのようなところ。実はここにすべての秘密があった。
マリーアンも二回目の参加で、秘密を握るこの小さな絵にようやく気づいたようだ。
「あらぁ、この絵。この前もありましたっけ?」
「ずっと前からここにあります。この前、見学に来たときもありましたから、見ているはずですよ」
「なんだかどこかで見たような景色ねぇ。そうだわ、さきほどの中庭。間違いないですわ」
「そうです。この絵と同じ光景が三聖の展示室の周りに再現されています」
いつ描かれたのか分からないほど古いこの絵。
三聖の展示室が作られたのと同時期なのか、それより新しいのか、それすらも分からない。
しかも、ただの絵ではなく立派な魔導具で、古代リテラ王国時代の遺物というとんでもない代物だ。
魔法的処置がなされていたのは、三聖の展示室だけではなく、その周りの景色も含めてだったということになる。
「再現? ということは、さきほどの庭園は魔法ですの? 凄いですわぁ」
この絵も『三聖の展示室』の建物と同様に古代リテラ王国時代の魔法なので、未だに仕組みも解明できていない。
まぁ、三聖のケルビウスあたりに聞けば分からなくもないんだろうけど。
なにせ、ケルビウスは性格に難ありの厄介な杖だから、そう簡単に教えてくれるはずもない。今の今まで解明されていないのが何よりの証拠だと思う。
「でも、そんな凄いことを、見学会ではなぜ説明されませんの?」
「メインは三聖五強の紹介ですので。質問があれば他のことも説明しています」
と言ってはいるものの、実際の理由は『未解明で説明しきれない』ため。なんとも嘆かわしい理由だった。
三聖五強そのものだって、未解明だし説明なんて出来はしないのに。どうして人間はこうも偉そうにするんだろう。
私は手にした黄色い旗をそっと撫でた。
「あらぁ、気づいた人だけの特権ということかしらぁ」
「さぁ? 私は手順通りに行っているだけです。皆さんがどう受け取るかは、私には関係ありませんので」
私はマニュアル通りに言葉を返すと、決まりきった古代リテラ王国の建国詩を語り始めた。
「この国は、
一つの全きものによって生み出され、
三つの聖なるものによって形作られ、
五つの強きものによって平定された」
一通りの説明が終わると、私は次の部屋へと参加者を誘う。
「さて、そろそろ、五強の部屋に行きましょうか」
その言葉に、今まで静かだった六人組の目がキラリと光ったのを私は見逃さなかった。
木も生えていて、茂みもある。花も咲いている。ちょっとした森の中のようにも見えなくもない、そんな場所。
そしてここの木は、葉っぱ一枚、小枝一本たりともいつもと変わりがない。虫もいなければ動物もいない。風も吹かないし、枝が折れたり葉っぱが千切れたりすることもない。湿った土の臭いも乾いた木の皮の臭いもしない。
生き生きとした見かけとは真逆の、見せかけの庭園。それがここだ。
今、入ってきた扉から中央の建物に向けて続く苔むした石畳をしばらく歩き、中央辺りでピタリと止まって後ろを振り向く。
「よし」
私は頭の中で手順を確認しながら頷いた。
黄色い旗を手にした私のすぐ後ろには、クラウドがピタリと張り付き、さらに後から来る見学者たちを誘導している。
役割分担としては、私が説明係でクラウドが誘導係。
加えて言えば、今回の参加者は全員が初めてではないので、文句もなければ余計なお喋りもない。そういう面ではとてもストレスのない見学会だった。
「ちっ」
まぁ、クラウドにとってはストレスだらけの見学会だろうけど。
クラウドが小さく舌打ちするのを目で注意すると、クラウドは気まずそうに了承の合図をしてくる。
さきほどまでは、アルバヴェスペルのおじさんたちと楽しそうにしていたのに、やはりやりにくいらしい。やたらと、六人組の最後の人物を気にしているのが、丸わかりだった。
ポンポンと無言でクラウドの肩を叩く。
なんだかんだ言っても、クラウドは誘導。立って歩いてそれだけでいいから。
「すまん」
私の意図を察して、小さく短く答えるクラウド。私はニコリと笑って応じる。
さぁ、ここは私が頑張らないとな。
さて、しばらく待っていると、マリーアンたちの三人組がまず入ってきて、後から六人組が静かに入ってきた。
全員が初めてではないこの場所を、しばし眺めてもらう。
私の予想を裏切り、ベテラン見学者たちの反応は、初めての見学者たちと大きくは変わらず。私はちょっとビックリした。
何度来ても、ここは不思議な場所なんだろう。
「この前も思いましたけど、ここの中庭は本当に不思議ですわぁ」
「自然の庭ではありませんからね」
マリーアンが中庭をぐるーーっと見回して、しみじみとつぶやいた。
「あらぁ、やっぱりそうですのぉ?」
何気に答えた私をパッと見ると、マリーアンはいたずらっぽく笑う。
「葉っぱ一枚、落ちてないし、綺麗すぎるというか。絵に描いた庭園という感じがしますわぁ」
「なかなか、鋭いですね」
そう、ここは自然の森でも人工の庭園でもどちらでもない場所だったのだ。
石畳の上を歩いていった先、本来の『三聖の展示室』の中へ、マリーアンたちを招き入れる。
入ったところは小さな絵が飾られている他は、何もないホールのようなところ。実はここにすべての秘密があった。
マリーアンも二回目の参加で、秘密を握るこの小さな絵にようやく気づいたようだ。
「あらぁ、この絵。この前もありましたっけ?」
「ずっと前からここにあります。この前、見学に来たときもありましたから、見ているはずですよ」
「なんだかどこかで見たような景色ねぇ。そうだわ、さきほどの中庭。間違いないですわ」
「そうです。この絵と同じ光景が三聖の展示室の周りに再現されています」
いつ描かれたのか分からないほど古いこの絵。
三聖の展示室が作られたのと同時期なのか、それより新しいのか、それすらも分からない。
しかも、ただの絵ではなく立派な魔導具で、古代リテラ王国時代の遺物というとんでもない代物だ。
魔法的処置がなされていたのは、三聖の展示室だけではなく、その周りの景色も含めてだったということになる。
「再現? ということは、さきほどの庭園は魔法ですの? 凄いですわぁ」
この絵も『三聖の展示室』の建物と同様に古代リテラ王国時代の魔法なので、未だに仕組みも解明できていない。
まぁ、三聖のケルビウスあたりに聞けば分からなくもないんだろうけど。
なにせ、ケルビウスは性格に難ありの厄介な杖だから、そう簡単に教えてくれるはずもない。今の今まで解明されていないのが何よりの証拠だと思う。
「でも、そんな凄いことを、見学会ではなぜ説明されませんの?」
「メインは三聖五強の紹介ですので。質問があれば他のことも説明しています」
と言ってはいるものの、実際の理由は『未解明で説明しきれない』ため。なんとも嘆かわしい理由だった。
三聖五強そのものだって、未解明だし説明なんて出来はしないのに。どうして人間はこうも偉そうにするんだろう。
私は手にした黄色い旗をそっと撫でた。
「あらぁ、気づいた人だけの特権ということかしらぁ」
「さぁ? 私は手順通りに行っているだけです。皆さんがどう受け取るかは、私には関係ありませんので」
私はマニュアル通りに言葉を返すと、決まりきった古代リテラ王国の建国詩を語り始めた。
「この国は、
一つの全きものによって生み出され、
三つの聖なるものによって形作られ、
五つの強きものによって平定された」
一通りの説明が終わると、私は次の部屋へと参加者を誘う。
「さて、そろそろ、五強の部屋に行きましょうか」
その言葉に、今まで静かだった六人組の目がキラリと光ったのを私は見逃さなかった。
あなたにおすすめの小説
マジメにやってよ!王子様
猫枕
恋愛
伯爵令嬢ローズ・ターナー(12)はエリック第一王子(12)主宰のお茶会に参加する。
エリックのイタズラで危うく命を落としそうになったローズ。
生死をさまよったローズが意識を取り戻すと、エリックが責任を取る形で両家の間に婚約が成立していた。
その後のエリックとの日々は馬鹿らしくも楽しい毎日ではあったが、お年頃になったローズは周りのご令嬢達のようにステキな恋がしたい。
ふざけてばかりのエリックに不満をもつローズだったが。
「私は王子のサンドバッグ」
のエリックとローズの別世界バージョン。
登場人物の立ち位置は少しずつ違っています。
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
4人の女
猫枕
恋愛
カトリーヌ・スタール侯爵令嬢、セリーヌ・ラルミナ伯爵令嬢、イネス・フーリエ伯爵令嬢、ミレーユ・リオンヌ子爵令息夫人。
うららかな春の日の午後、4人の見目麗しき女性達の優雅なティータイム。
このご婦人方には共通点がある。
かつて4人共が、ある一人の男性の妻であった。
『氷の貴公子』の異名を持つ男。
ジルベール・タレーラン公爵令息。
絶対的権力と富を有するタレーラン公爵家の唯一の後継者で絶世の美貌を持つ男。
しかしてその本性は冷酷無慈悲の女嫌い。
この国きっての選りすぐりの4人のご令嬢達は揃いも揃ってタレーラン家を叩き出された仲間なのだ。
こうやって集まるのはこれで2回目なのだが、やはり、話は自然と共通の話題、あの男のことになるわけで・・・。
傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~
キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。
両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。
ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。
全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。
エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。
ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。
こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。
【完結】前提が間違っています
蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった
【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた
【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた
彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語
※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。
ご注意ください
読んでくださって誠に有難うございます。
【完結】王命の代行をお引き受けいたします
ユユ
恋愛
【 お知らせ 】
先日、近況ボードにも
お知らせしました通り
2026年4月に
完結済みのお話の多数を
一旦closeいたします。
誤字脱字などを修正して
再掲載をするつもりですが
再掲載しない作品もあります。
再掲載の時期は決まっておりません。
表現の変更などもあり得ます。
他の作品も同様です。
ご了承いただけますようお願いいたします。
ユユ
【 お話の内容紹介 】
白過ぎる結婚。
逃れられない。
隣接する仲の悪い貴族同士の婚姻は王命だった。
相手は一人息子。
姉が嫁ぐはずだったのに式の前夜に事故死。
仕方なく私が花嫁に。
* 作り話です。
* 完結しています。
聖女は歌う 復讐の歌を
奏千歌
恋愛
[悠久を生きる魔女①]
*②と②´まとめました。バッドエンドです。後味が悪い部分があります。ご注意ください。
幼なじみの令嬢との婚約を解消して、新たに聖女と王太子が婚約した。といった騒動があった事は私には関係の無いことだと思っていた。
ドンドンと扉を叩く音が聞こえ、薬草を調合する手を止め、エプロンを外しながら玄関に向かった。
こんな森の中の辺鄙な場所に誰がきたのかと、首を傾げながら取っ手を掴んだ。
そもそも、人避けの結界を張っているのに、そんな場所に侵入できるのは限られている。
カチャっと扉を開くと、予想通りの人の姿を認めた。
「エカチェリーナ、助けて!」
開けるなり飛び込んで来たのは、この国の王太子と婚約したばかりの聖女、ヴェロニカさんだった。
コテンと首を傾げた私に彼女が頼んできたことは、第二王子を救うことをだった。
彼女に同行して、城で私が見たものは…………