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3 王子殿下の魔剣編
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終始、クスクスと笑われながらも、見学会は進んでいって、ようやく私は最後の言葉を言い切った。
「ここの説明は以上です。あとは声をかけるまで、じっくりと見学してください。接触しないかぎり、自由に見ていただいて大丈夫です」
最後は三聖の部屋。
とはいえ、三聖はすべて主持ちなので、この部屋で何かを待っている存在などいないのだけれど。
そうは考えていない研修生たちは、模造品の三聖に釘付けになっている。
あぁ、疲れた。
面と向かって直接何か言ってこないにしても、説明中にずっとヒソヒソクスクスされると、さすがにストレスがたまる。
ともあれ、これで説明は終わりだ。
「何か質問などあれば、直接、私までお願いします」
お決まりの言葉を伝える。
さきほどまでの反応から、私に質問なんてありはしないだろうけどな。
と、思ったとたん、
「はいはい、ヴェルフェルム先輩! 質問があるんですが!」
「あ、俺も! ヴェルフェルム先輩!」
「ヴェルフェルム先輩、三聖について質問したいんですが!」
「おい、俺が先だぞ!」
研修生たちがわっと一斉に喋りだした。予想通り、私に質問はない。
代わりにクラウドが質問責めにあう。
ふだん、こんなに人気になることはないので、クラウドも満更ではない様子。
役割分担としては、説明役は私で誘導役がクラウド。
なので、質問を受け付けて回答するのが私で、質問する人を統制して整然とさせるのがクラウドってことになるんだけれど。
クラウドに研修生たちの質問が集中しているので、統制する人がおらず、研修生がクラウドに向かっていって押し合いになっている。けっこう危ない。
初めは満更でもない様子だったクラウドも、押し合いになって、統制する役目がいないことにやっと気がついたようだ。
「いや、待て待て。落ち着いて。いいか、質問は順番にしてくれ」
クラウドが声を張り上げるが、誰も聞いちゃいない。
次々ととめどもなく質問がなされていく。
「ヴェルフェルム先輩は、三聖の剣に触れたことがあるんですか?」
「あの剣は魔剣なんですよね?」
「ここに展示されながら、主を探してるんですよね」
「俺たちの中から主が出たりもするんですか?」
うん? 私、説明したよね?的な質問もされてるけど?
どうやら、私の説明なんて聞いちゃいないようだわ。まぁ、ずっとヒソヒソクスクスやってたもんな。
別に、見学態度が何かの評価に繋がるわけでもないからね。
「あーあ、つまらないの」
「おい、エルシアァァ! お前も案内係だろ!」
え? 私?
「案内係といっても、私は説明役でクラウドは誘導役だし」
「ごちゃごちゃ言ってないで。整理するのを手伝えよ!」
「えー、それって誘導役の仕事でしょ? 私、説明役だから、誘導役の仕事はやったことがないんだよね」
嘘だけど。
「くそっ」
クラウドは役立たず発言をする私に、行儀悪く舌打ちをする。
本来ならクラウドは、自分に来た質問を私に振って、クラウド自身は見学者の振り分けをしないといけなかった。
なのに、自分に来た質問だからと、自分が受けてしまったのだ。
三聖の部屋の中の警備をしている騎士も、クラウドが自分で質問を受けたときはギョッとしていたし、現在の状況を見て「ほらみろ」という顔をしている。
私も同様に「そうなるよね」という顔で、クラウドの様子を警備の騎士の隣で眺めていた。別に、高みの見物というつもりではない。
つもりではないんだけれども、いつも私に仕事をさせる側のクラウドが、大勢の研修生に囲まれて身動きがとれずに慌てている様は、それなりにおもしろい。
そのうえ、私に仕事をさせる人物不在のおかげで、私はのんびりすることができた。
これが世に言う「二度おいしい」というヤツか。
今回は仕事の見学だからと三十人もの研修生が『三聖の展示室』に入っちゃったからね。いつもの三倍。統制がとれるわけがないよね。
なのに、クラウド。後輩たちにちやほやされて調子に乗っちゃってさ。
と思っていた横から、警備の騎士のつぶやきが。
「クラウドのヤツ、調子に乗るから」
「先が思いやられるな」
どうやら、私と同じことを考えながら、眺めているようだ。
「なら、案内係を代わってあげればいいのに」
首を傾げながら突っ込むと、
「案内係の騎士はイケメン担当だから」
「そうそう。あいつ、顔は良いからな」
「地味な俺たちは黙って立ち仕事だよ」
「地味だけど重要な仕事だしな」
しれっと返事を返す二人。
三聖の展示室は第三騎士団が担当しているので、案内係も警備もすべて第三騎士団の騎士だ。
案内係の説明役は魔術師だという決まりがあるので、自然と私が担当している。
誘導役はいつもクラウドが担当だったので、新人騎士が担当する決まりでもあるのかと思っていたのに。
まさかのイケメン枠。
「確かにクラウドは顔は良いけどね」
そんな会話を続けながら、私たちは大勢の研修生にもみくちゃにされるクラウドを、離れたところからおもしろおかしく眺め、暇をつぶすのだった。
そもそも、なんで、研修生を対象とした三聖の展示室の見学会をすることになったのかというと、すべてはあの団長の一声から始まったのだ。
「ここの説明は以上です。あとは声をかけるまで、じっくりと見学してください。接触しないかぎり、自由に見ていただいて大丈夫です」
最後は三聖の部屋。
とはいえ、三聖はすべて主持ちなので、この部屋で何かを待っている存在などいないのだけれど。
そうは考えていない研修生たちは、模造品の三聖に釘付けになっている。
あぁ、疲れた。
面と向かって直接何か言ってこないにしても、説明中にずっとヒソヒソクスクスされると、さすがにストレスがたまる。
ともあれ、これで説明は終わりだ。
「何か質問などあれば、直接、私までお願いします」
お決まりの言葉を伝える。
さきほどまでの反応から、私に質問なんてありはしないだろうけどな。
と、思ったとたん、
「はいはい、ヴェルフェルム先輩! 質問があるんですが!」
「あ、俺も! ヴェルフェルム先輩!」
「ヴェルフェルム先輩、三聖について質問したいんですが!」
「おい、俺が先だぞ!」
研修生たちがわっと一斉に喋りだした。予想通り、私に質問はない。
代わりにクラウドが質問責めにあう。
ふだん、こんなに人気になることはないので、クラウドも満更ではない様子。
役割分担としては、説明役は私で誘導役がクラウド。
なので、質問を受け付けて回答するのが私で、質問する人を統制して整然とさせるのがクラウドってことになるんだけれど。
クラウドに研修生たちの質問が集中しているので、統制する人がおらず、研修生がクラウドに向かっていって押し合いになっている。けっこう危ない。
初めは満更でもない様子だったクラウドも、押し合いになって、統制する役目がいないことにやっと気がついたようだ。
「いや、待て待て。落ち着いて。いいか、質問は順番にしてくれ」
クラウドが声を張り上げるが、誰も聞いちゃいない。
次々ととめどもなく質問がなされていく。
「ヴェルフェルム先輩は、三聖の剣に触れたことがあるんですか?」
「あの剣は魔剣なんですよね?」
「ここに展示されながら、主を探してるんですよね」
「俺たちの中から主が出たりもするんですか?」
うん? 私、説明したよね?的な質問もされてるけど?
どうやら、私の説明なんて聞いちゃいないようだわ。まぁ、ずっとヒソヒソクスクスやってたもんな。
別に、見学態度が何かの評価に繋がるわけでもないからね。
「あーあ、つまらないの」
「おい、エルシアァァ! お前も案内係だろ!」
え? 私?
「案内係といっても、私は説明役でクラウドは誘導役だし」
「ごちゃごちゃ言ってないで。整理するのを手伝えよ!」
「えー、それって誘導役の仕事でしょ? 私、説明役だから、誘導役の仕事はやったことがないんだよね」
嘘だけど。
「くそっ」
クラウドは役立たず発言をする私に、行儀悪く舌打ちをする。
本来ならクラウドは、自分に来た質問を私に振って、クラウド自身は見学者の振り分けをしないといけなかった。
なのに、自分に来た質問だからと、自分が受けてしまったのだ。
三聖の部屋の中の警備をしている騎士も、クラウドが自分で質問を受けたときはギョッとしていたし、現在の状況を見て「ほらみろ」という顔をしている。
私も同様に「そうなるよね」という顔で、クラウドの様子を警備の騎士の隣で眺めていた。別に、高みの見物というつもりではない。
つもりではないんだけれども、いつも私に仕事をさせる側のクラウドが、大勢の研修生に囲まれて身動きがとれずに慌てている様は、それなりにおもしろい。
そのうえ、私に仕事をさせる人物不在のおかげで、私はのんびりすることができた。
これが世に言う「二度おいしい」というヤツか。
今回は仕事の見学だからと三十人もの研修生が『三聖の展示室』に入っちゃったからね。いつもの三倍。統制がとれるわけがないよね。
なのに、クラウド。後輩たちにちやほやされて調子に乗っちゃってさ。
と思っていた横から、警備の騎士のつぶやきが。
「クラウドのヤツ、調子に乗るから」
「先が思いやられるな」
どうやら、私と同じことを考えながら、眺めているようだ。
「なら、案内係を代わってあげればいいのに」
首を傾げながら突っ込むと、
「案内係の騎士はイケメン担当だから」
「そうそう。あいつ、顔は良いからな」
「地味な俺たちは黙って立ち仕事だよ」
「地味だけど重要な仕事だしな」
しれっと返事を返す二人。
三聖の展示室は第三騎士団が担当しているので、案内係も警備もすべて第三騎士団の騎士だ。
案内係の説明役は魔術師だという決まりがあるので、自然と私が担当している。
誘導役はいつもクラウドが担当だったので、新人騎士が担当する決まりでもあるのかと思っていたのに。
まさかのイケメン枠。
「確かにクラウドは顔は良いけどね」
そんな会話を続けながら、私たちは大勢の研修生にもみくちゃにされるクラウドを、離れたところからおもしろおかしく眺め、暇をつぶすのだった。
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