運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

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5 覆面作家と水精編

6-1 その後

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 それから数日の間に、フォセル嬢の活躍と新作の小説の話題はあっという間に広まった。

 こうなると、闘技会の開催よりも五強の杖のお披露目会の開催を期待する声が、がぜん高まってくる。

 王宮や本部ではお披露目会の準備の目処が付き、日程の調整が終わって、後は公表を待つだけとか。

 アクアとフォセル嬢の対峙からまだ三日、私が訴えられた冤罪事件から数えても十日も経たないうちに、状況が目まぐるしく変わっていく。

 変化が激しくて、私なんて、頭の中を整理してついていくのがやっとなんだけど。

 そんな中でも、変わらない人、変化を気にしない人もいたりする。




「エルシア!」

 昼休憩入ってすぐの、まだガラガラな食堂に大声が響く。言うまでもない。第一隊のフェリクス副隊長だ。

 窓側の四人掛けの席に座り、バルザード卿も交えて食事をしているところに、フェリクス副隊長は乱入してきたのだ。

 しかも、思いっきりグレイを睨みつけている。

「なんで、毎日毎日、この男といっしょに官舎から出てくるんだよ!」

 毎日毎日って。ストーカーか。そちらの方が人としてマズいだろう。

 芋と鶏肉のシチューを口に運びながら、私は適当に答える。

「え? いっしょに暮らしてるから?」

 相変わらず、第三騎士団の食堂のごはんが美味しい。上級職向けの食堂も良かったけど、庶民的なこちらの方が私の口に合ってるかも。

 これでフェリクス副隊長の邪魔さえなければ、美味しくランチを堪能できるのに。

 そう思いながらフェリクス副隊長の方に視線を走らせると、どういう訳だか、フェリクス副隊長がぷるぷると震えていた。

「いっしょ? いっしょだと? やっぱり脅されてるんだな」

「え? 脅されてるって、誰が誰に?」

 いきなりの小声だったので、何がなんだかよく聞き取れない。

 聞き返すと、フェリクス副隊長はグレイを思いっきり指差して、ぐわっと大ボリュームを出し始めた。食堂にビンビン響く。

「エルシアがこの男にだよ! いっしょに暮らそうとか、いっしょに風呂に入ろうとか、いっしょに寝ようとか! この人でも殺しそうな顔で、ぐいぐい迫られたりしてないだろうな?」

 いきなりの大声に、私はビクッとなってスプーンを咥えた状態で固まった。

 指さされているグレイの方は、顔色ひとつ変えず食事を続けている。まるで、聞く価値もないとでもいうように。

「脅されてはないけど」

 たまに迫られてはいるな。

 グレイだし。ぜんぜん嫌じゃないし。騒ぐほどのことでもないし。

 行儀悪くスプーンを咥えたまま返事をする私に、フェリクス副隊長は詰め寄ってきた。

「じゃあ、なんでいっしょの官舎に住んでいるんだよ?!」

 フェリクス副隊長の絶叫の後、食堂内がシーーーンと静かになった。

 他にも何人か、早いお昼を食べに来た騎士がいるのに、誰も何も喋らない。食器の音ひとつしない食堂に、ただ、沈黙だけが流れる。

 て。私はお昼を食べたいんだけどなぁ。

 私を食い入るように無言で見つめているフェリクス副隊長。

 もしかして、なにかしらの返答しないといつまでもこのまま、とか?

 それは困る。落ち着いてごはんが食べられない。私は意を決してスプーンを置く。それからフェリクス副隊長の目を見て答えた。

「私の保護者だから?」

 そして再び続く沈黙。

 声が聞こえてるはずなのに固まったまま動かないフェリクス副隊長。食堂にいる他の騎士たちも誰も何も反応しない。ざわざわもない。

 おい。なんとか言え。反応しろ。

 私が不機嫌に睨みつけると、フェリクス副隊長はようやく我に返った。

 ちなみにまだ指はグレイを差したまま。

「ほ、保護者?」

 かすれた声が聞こえる。さんざん絶叫していたから、喉を傷めたようだ。

「そう、保護者」

 そういえば、前にフェリクス副隊長に言ったことがあったな。保護者を紹介するって。

 剣術大会の祝勝パーティーで会えたら紹介すると言っておいて、面倒だからと会わずに終わったんだったか。会わなかったから、もちろん紹介もしなかったな。

 いまさらだけど、紹介しておこう。

「私の後援で保護者の、グレイアド・ルプスです」

 私の紹介を聞いて、フェリクス副隊長は錆びたドアのようなぎこちない動きで、首をグレイの方に向ける。ギギキと音が聞こえてきそうだ。

 グレイはグレイで、私の紹介を受けてうむっと頷き、

「シアの後援で保護者の、グレイアド・ルプスだ」

 と名乗る。グレイは腕を伸ばして、自分を指差すフェリクス副隊長の手をがしっと握る。半ば強引に握手を交わした。

 握手が終わったのにフェリクス副隊長は動こうとせず、呆然としている。

「保護者ってあれだよな、親っていう意味の?」

「保護者っていったらあれですよ、私を保護するって意味の」

「親じゃないのか?」

「いまさら親なんて要りません」

「ごめん、俺、今、訳が分からないんだけど」

 他の国はどうだか分からないけど、グラディア王国で保護者とは、私が言った意味合いで用いる。それが転じて『親』という意味も加わった。

 しかーし。大事なのはそこじゃない。

 ここで大事なのは『後援』。

 家門外の人間の後援となる場合、フォセル嬢のように『養子』となる他、もう一つの措置が取られる。

「後援の保護者と言ったら、普通は年寄りだろ? 後援が若いって。それじゃあ、婚約者みたいじゃないか」

「みたいもなにも、婚約者ですけど」

 しれっと答えると、フェリクス副隊長の目が大きく見開かれた。

「後援で保護者、その養子でないなら、後は婚約者ですよね」

「ごめん、俺、今、理解が追いつかない」

「フェリクス副隊長、疲れてるんですよ」

「あぁ、そうだな。家に帰って寝てくる」

 そう言って、フェリクス副隊長は私たちに背を向けると、フラフラ歩いていく。

 ガンガン、あちこちのテーブルにぶつかり、食事をしていた騎士たちからは意味ありげな視線を向けられて。

「大丈夫なのかなぁ」

「寝れば治るだろ」

「そうだね」

 ところで、今は昼休憩なんだけど。どうやって家に帰って寝るつもりなんだろう。

 私は、ケニス隊長に怒鳴られるフェリクス副隊長を想像しながら、残りのシチューを大急ぎでお腹に入れる。

 私とグレイを共通主にする魔王猫が、大事な手紙を持って現れるまでのわずかな時間、私はまったりとしたお昼を満喫するのだった。
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