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6 辺境伯領の噴出編
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それから、大急ぎで別れの挨拶にまわって、私たちは帰ってきた。
もちろん、官舎にではなく、王都にあるグレイの館に!
え?
グレイ、王都に自分の館があったのかって?
うん、それについてはちょっといろいろあるのだ。
まず、王都騎士団のルールとしては、原則、団員は王城内の官舎住まい。
ただし、幹部クラスは優遇されていて、王都内なら自由に住まいを決められる。貴族の子息なども同様だ。
あと、新旧市街にタウンハウスがある場合もいいらしい。
グレイ自身は子爵位を持っていてルプス子爵名義の領地もあるけど、ルプス子爵名義のタウンハウスは持っていない。
王都に自分名義の家がないので、官舎住まいだと。
ところが。
グレイはルプス子爵名義のタウンハウスがないだけで、養子に入った家門、ニグラート辺境伯家には立派なタウンハウスがある。
自分の養家のタウンハウスなんだから、実質、グレイの館。
でもまぁ、それは良いとしよう。
タウンハウスに住むか、官舎に住むか、選択肢はあるのだから。
謎なのは、グレイが私の官舎に住んでいること。
なーんで、私と同じ官舎を使ってるのかって?
そ、れ、は、
私が聞きたい!
まぁ、私もグレイが後援なので、グレイの館に住んでいても、ぜんぜん問題はないんだけど。
定期的に王都にやってくるときも、タウンハウスではなく私の官舎に泊まっていたグレイ。
思えば、私の官舎って単身者用ではなく妻帯者向け。つまり、二人で住む前提の官舎なのだわ。
私の後援の保護者は、最初から、私と二人で住もうとしていたんじゃないかと、変に勘ぐってしまう。
さてさて。
そのグレイの館、正確には北部辺境伯である、ニグラート辺境伯家のタウンハウスは、王都でも貴族など上流階級が住居を並べる旧市街にある。
ベイオス閣下やグレイのおばあさまが用事があって王都に出てきたとき、快適に生活するための居宅、それがこのタウンハウスだ。
「毎回、馬で移動していたので、気にもとめなかったんですが」
ニグラート辺境伯家のタウンハウスに向かう途中、車の窓から外を見ていたバルザード卿がそう前置きして話し始める。
「まぁ、バルザード卿は転移魔法、使えないもんね」
「そんなの使えるのは隊長やお嬢だけですよ」
話を途中で遮られて、ちょっと嫌そうな表情。
「ごめんごめん、それで? 何か気になることでもあるの?」
私もいっしょになって外を見た。
「ゆっくり見たことがなかったんですが、この辺て、森だか公園だか分からないような、だだっぴろい邸宅ばかりですね」
身も蓋もないことをつぶやく。
私もふだんはこうやって車に揺られながら旧市街を眺めることなんてないので、車窓から見える景色の一つ一つがなんだか新鮮に感じた。
確かに、バルザード卿の言うように、森みたいな木々の塊や公園のような作りの敷地が、嫌に目に付く。
そして一軒一軒というか、一場所一場所というべきか、一つ一つのタウンハウスがやけにデカい。
当たり前だけど沿道から中の建物は見えなくて、小さな森や小さな公園、高い壁、大きな門が見えるだけだった。
「当然だろ。この辺は侯爵以上の家格の屋敷だからな」
私の隣に座るグレイが、そんなことも知らないのかと言わんばかりの顔をしている。だから仕方ないでしょ。ふだんはこんなところを馬車で通らないんだから。
グレイの解説では、旧市街でも王城に近いところは高位貴族で、遠いところは家格が低い貴族のタウンハウスだそうだ。
大きな邸宅を通り過ぎると、グレイの解説通り、高位貴族の比べてこじんまりとした邸宅ばかりとなる。十分、大豪邸なのに小さく見えてしまうのは、最初にデカすぎる邸宅を見たせいだろう。
ちなみに、辺境伯家は侯爵位と同等なのに、タウンハウスの位置は旧市街の端だという。
おかげで、なかなかつかない。
辺境伯家が端なのには理由があった。
「ニグラートはタウンハウスの敷地内に、宿舎と演習場を持ってるからな」
フェルム侯爵家が武家家門なのは有名な話だけれど、現在、国のへりで国土を守っているのは北部と東部の辺境伯家になる。
辺境伯家はどちらも大規模な騎士団を組織し、魔物や魔獣との戦いに備えていた。
その騎士団の分隊が王都のタウンハウスにも駐留しているため、広い土地が確保できて、自由に訓練が出来る端の方に邸宅を構えたんだとか。
まぁ、理由はそれだけではないと思うけど。
「万が一の時は、王都の防衛戦力にするためじゃないの?」
私がそう問いかけると、グレイは何も答えず、静かに笑うだけだった。
そんなわけで、大公家や公爵家よりも遥かにだだっぴろいグレイの館にたどり着くまで、かなりの時間がかかってしまった。
午後一で引継を終え、帰りながらあちこち挨拶をして、官舎から取り急ぎ必要な物を持ち出して。ようやく到着したニグラート辺境伯家のタウンハウス。
邸宅というよりは、小さな要塞。
そんな印象を受ける門と塀が私たちを乗せた馬車を出迎える。
警備の騎士たちの敬礼を受けながら、門の中に入るとさらにさらに車は移動して、今度こそ本当に建物の前に到着した。
「うぅぅ、お尻が痛い」
車から降りてぐぐぐっと伸びをする。
私の後ろからグレイとバルザード卿が降りて、積んである荷物を降ろし始め、それを見たタウンハウスの使用人たち、騎士たちが手伝い始める。
実のところ、この荷物とバルザード卿がいなければ、お尻を痛めてまで車に揺られることはなかったんだよね。
なにせ、私はクラヴィスの転移魔法が使えるし、グレイは主従契約している魔王猫の力を使えるし。王城の官舎からここまで歩くことなく移動が可能だったから。
クラヴィスを持たず、魔王猫とも契約する前は、王城の転移魔法陣で移動したりもしてたっけ。
さらにその前は、やはり、今日と同じように馬車に揺られてたんだよな。グレイといっしょに。
昔を思い出しながら、運ばれていく荷物を追いかけるように私はてくてく歩く。グレイは定位置である私の隣を歩き、バルザード卿は自分の荷物を抱えて先に行ってしまっている。
邪魔する者がいなくなったおかげで、私の思い出はさらにさらに過去へと遡っていった。
もちろん、官舎にではなく、王都にあるグレイの館に!
え?
グレイ、王都に自分の館があったのかって?
うん、それについてはちょっといろいろあるのだ。
まず、王都騎士団のルールとしては、原則、団員は王城内の官舎住まい。
ただし、幹部クラスは優遇されていて、王都内なら自由に住まいを決められる。貴族の子息なども同様だ。
あと、新旧市街にタウンハウスがある場合もいいらしい。
グレイ自身は子爵位を持っていてルプス子爵名義の領地もあるけど、ルプス子爵名義のタウンハウスは持っていない。
王都に自分名義の家がないので、官舎住まいだと。
ところが。
グレイはルプス子爵名義のタウンハウスがないだけで、養子に入った家門、ニグラート辺境伯家には立派なタウンハウスがある。
自分の養家のタウンハウスなんだから、実質、グレイの館。
でもまぁ、それは良いとしよう。
タウンハウスに住むか、官舎に住むか、選択肢はあるのだから。
謎なのは、グレイが私の官舎に住んでいること。
なーんで、私と同じ官舎を使ってるのかって?
そ、れ、は、
私が聞きたい!
まぁ、私もグレイが後援なので、グレイの館に住んでいても、ぜんぜん問題はないんだけど。
定期的に王都にやってくるときも、タウンハウスではなく私の官舎に泊まっていたグレイ。
思えば、私の官舎って単身者用ではなく妻帯者向け。つまり、二人で住む前提の官舎なのだわ。
私の後援の保護者は、最初から、私と二人で住もうとしていたんじゃないかと、変に勘ぐってしまう。
さてさて。
そのグレイの館、正確には北部辺境伯である、ニグラート辺境伯家のタウンハウスは、王都でも貴族など上流階級が住居を並べる旧市街にある。
ベイオス閣下やグレイのおばあさまが用事があって王都に出てきたとき、快適に生活するための居宅、それがこのタウンハウスだ。
「毎回、馬で移動していたので、気にもとめなかったんですが」
ニグラート辺境伯家のタウンハウスに向かう途中、車の窓から外を見ていたバルザード卿がそう前置きして話し始める。
「まぁ、バルザード卿は転移魔法、使えないもんね」
「そんなの使えるのは隊長やお嬢だけですよ」
話を途中で遮られて、ちょっと嫌そうな表情。
「ごめんごめん、それで? 何か気になることでもあるの?」
私もいっしょになって外を見た。
「ゆっくり見たことがなかったんですが、この辺て、森だか公園だか分からないような、だだっぴろい邸宅ばかりですね」
身も蓋もないことをつぶやく。
私もふだんはこうやって車に揺られながら旧市街を眺めることなんてないので、車窓から見える景色の一つ一つがなんだか新鮮に感じた。
確かに、バルザード卿の言うように、森みたいな木々の塊や公園のような作りの敷地が、嫌に目に付く。
そして一軒一軒というか、一場所一場所というべきか、一つ一つのタウンハウスがやけにデカい。
当たり前だけど沿道から中の建物は見えなくて、小さな森や小さな公園、高い壁、大きな門が見えるだけだった。
「当然だろ。この辺は侯爵以上の家格の屋敷だからな」
私の隣に座るグレイが、そんなことも知らないのかと言わんばかりの顔をしている。だから仕方ないでしょ。ふだんはこんなところを馬車で通らないんだから。
グレイの解説では、旧市街でも王城に近いところは高位貴族で、遠いところは家格が低い貴族のタウンハウスだそうだ。
大きな邸宅を通り過ぎると、グレイの解説通り、高位貴族の比べてこじんまりとした邸宅ばかりとなる。十分、大豪邸なのに小さく見えてしまうのは、最初にデカすぎる邸宅を見たせいだろう。
ちなみに、辺境伯家は侯爵位と同等なのに、タウンハウスの位置は旧市街の端だという。
おかげで、なかなかつかない。
辺境伯家が端なのには理由があった。
「ニグラートはタウンハウスの敷地内に、宿舎と演習場を持ってるからな」
フェルム侯爵家が武家家門なのは有名な話だけれど、現在、国のへりで国土を守っているのは北部と東部の辺境伯家になる。
辺境伯家はどちらも大規模な騎士団を組織し、魔物や魔獣との戦いに備えていた。
その騎士団の分隊が王都のタウンハウスにも駐留しているため、広い土地が確保できて、自由に訓練が出来る端の方に邸宅を構えたんだとか。
まぁ、理由はそれだけではないと思うけど。
「万が一の時は、王都の防衛戦力にするためじゃないの?」
私がそう問いかけると、グレイは何も答えず、静かに笑うだけだった。
そんなわけで、大公家や公爵家よりも遥かにだだっぴろいグレイの館にたどり着くまで、かなりの時間がかかってしまった。
午後一で引継を終え、帰りながらあちこち挨拶をして、官舎から取り急ぎ必要な物を持ち出して。ようやく到着したニグラート辺境伯家のタウンハウス。
邸宅というよりは、小さな要塞。
そんな印象を受ける門と塀が私たちを乗せた馬車を出迎える。
警備の騎士たちの敬礼を受けながら、門の中に入るとさらにさらに車は移動して、今度こそ本当に建物の前に到着した。
「うぅぅ、お尻が痛い」
車から降りてぐぐぐっと伸びをする。
私の後ろからグレイとバルザード卿が降りて、積んである荷物を降ろし始め、それを見たタウンハウスの使用人たち、騎士たちが手伝い始める。
実のところ、この荷物とバルザード卿がいなければ、お尻を痛めてまで車に揺られることはなかったんだよね。
なにせ、私はクラヴィスの転移魔法が使えるし、グレイは主従契約している魔王猫の力を使えるし。王城の官舎からここまで歩くことなく移動が可能だったから。
クラヴィスを持たず、魔王猫とも契約する前は、王城の転移魔法陣で移動したりもしてたっけ。
さらにその前は、やはり、今日と同じように馬車に揺られてたんだよな。グレイといっしょに。
昔を思い出しながら、運ばれていく荷物を追いかけるように私はてくてく歩く。グレイは定位置である私の隣を歩き、バルザード卿は自分の荷物を抱えて先に行ってしまっている。
邪魔する者がいなくなったおかげで、私の思い出はさらにさらに過去へと遡っていった。
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感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
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