運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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7 王女殿下と木精編

3-0 エルシア、周囲からの絡みに付き合う

 グレイがやってきた翌日。

「お嬢。なんで、こそこそと移動してるんですか?」

「面倒くさい招待客がいるから」

 ニグラートのタウンハウスから、直接、デルティ殿下の王女宮へ行こうとしたその途中で、私は会いたくない人物を見かけてしまった。

 王城の中を堂々と歩いているその人物は、真っ直ぐ、第三騎士団を目指して歩いている模様。

 私は広い通りの方から外れ、木々の間を細く延びていく沿道に身を潜めながら、様子を窺っていた。

「あの人、ホント、面倒なんだよね。もう金冠も銀冠も決着がついてるんだから、私の目の前に現れないで欲しいわ」

「新リテラ王国の騎士団長とかいうヤツですね」

「そうそう。確か、バルシアス・エンデバートとか言う人」

 バルトレット卿も私の真似をして、こっそりと身を潜めている。

「新リテラでは隊長があいつをボコボコにしたんですよね。さすがは、隊長です」

 そう。

 新リテラ王国への使節団の時は、グレイとバルザード卿がいきなり私の護衛騎士をすることになって。

 元々、フェリクス副隊長とクラウドが護衛騎士を務めることになっていたから、最初は困惑したけど。

 この二人ではおそらく、エンデバート卿に対抗できなかった。というか、エンデバート卿側に陥れられて、フェリクス副隊長は拘束されちゃったんだったわね。

 まぁ、グレイとバルザード卿が私をそばで守るため、わざとフェリクス副隊長とクラウドを身代わりにした…………ような感じだったけど。

 フェリクス副隊長やクラウドでは、グレイほどの図々しさとふてぶてしさは持ち合わせていないから。
 拘束されたのがグレイとバルザード卿で、私のそばにいたのがフェリクス副隊長とクラウドだったら、エンデバート卿側に太刀打ち出来なかっただろう。そう思うとゾゾッとする。

 そんな因縁のあるエンデバート卿ではあるけど、向こうに見つからなければどうってことはない。

 私は身を潜めながら、自分の潜伏能力の高さに対して、えへんと胸を張りたい気分になった。
 小さくかがんで胸を張っても、ただの変な人にしか見えないので、やらないけど。

 私が、えへんな気分にまで到達している中、フィリアとバルトレット卿は未だにグレイを讃えている。

「隊長、物理では誰にも負けないしねぇ」

「隊長、一人いると便利です、お嬢」

「護衛に保護者に恋人に夫まで一人四役」

「生存本能は人一倍強いし、野外活動も慣れてますから、深山で遭難しても安全ですよ」

 おや?

「やけにグレイ推しなんだけど、グレイと裏取引でもしたの?」

 私の質問に一瞬黙る二人。
 視線をさっと交わす。

 怪しい。

 半眼で見つめる私の視線を感じたのか、再び、二人は喋り出した。

「…………直属の上司なんですから、裏取引も何もありませんよ、お嬢」

「今、変な間があったよね?」

「あたしたちは普通に隊長を慕ってるんです。隊長がいるおかげで、以前より、大噴出の被害が少なくなったんですから」

「隊長はニグラートの絶対的な英雄なんですよ、お嬢」

「まぁ、グレイが英雄なのは認めるけど。中身はエッチなことしか考えてない成人男性だからなぁ」

 世の中の男性という生き物は、みんな、グレイみたいな感じなんだろうか。

 と思って、フィリアやバルトレット卿をチラ見する私。フィリアの見た目はともかく、どちらも立派な成人男性。同じでないとは言い切れない。

 その成人男性たちは、年頃の若い女性に向かって、酷いことを言い始めた。

「隊長の性欲の対象はお嬢だけですから、安全ですよ?」


 ゲホッ


 言い方が酷すぎて、むせる。

 慌てて口に手をあてて、エンデバート卿の方を見ると、何も気づかずにそのまま離れたところの建物に入っていった。

 もう、普通にしてても大丈夫そうだ。

 私は普通に立ち上がって、二人を真正面から見る。

「あのね、私が安全じゃないでしょ」

「お嬢の貞操が安全じゃないだけで、周囲は見事に安全です」

「だから、私を生贄にするのはやめて」

「「………………………………。」」

「無言で肯定するのもやめて」

 二人の酷い反応にこれ以上言い返す気もなくなった私は、二人に背を向けると、王女宮を目指して再び歩き始めた。




 私が無言で歩いていると、自然と二人は後ろからついてくる。そして話題はエンデバート卿の話に。

「そういえば、あいつも長なんですよね」

「騎士団長みたいよね、新リテラの」

「騎士団長なのに国を離れてるんですか。ダメなヤツですね」

「うちの隊長なら、泣く泣くお嬢と離れて領地で仕事するわね」

「隊長、仕事はきっちりこなしますから。出来る男って感じで格好良いですよね」

 なんか、何気にエンデバート卿をけなして、グレイを持ち上げてるような。

 やっぱり怪しい。

 ヒソヒソ声なのにしっかり私に聞かせるような調子なところも、見事に怪しい。

 私の前で自分のことをほめちぎるよう、グレイが二人に指示を出しているのか、自主的に二人がやっているのか。

 裏取引についてはフィリアは否定した。でないなら業務命令という線もある。公私混同って言葉を今度、叩き込んであげようか。

「まったくだわ。そうだ。あいつがうちのお嬢に何かしてきたら、あたしがもぐわ」

「え、もぐ?」

 もぐ、という言葉を聞いて、思わず足を止めた。

 もぐ。

 よく、グレイも使っている言葉だ。

 昔は『もぐ』の具体的な意味がよく分からず、困惑したんだったわ。




 十三歳くらいの私は、

「何を?」

 と聞き返して、首がよく傾けていた。まぁ、仕方ないと思う。十三歳の私には『もぐ』の意味がまったく分からないのだから。

 私には分からないのに、グレイだけでなく、殲滅隊の他の人たちも使っていた。そして、使うたびに、

「お嬢の前でそんな言葉を使ったら、隊長に殺られますぜ?」

 で、終わる。

「え、みんなには通じてる!」

 ぐるっと首を回して、殲滅隊のみんなを見てしまった。なんだか負けた気がして悔しさがこみ上げてくる。

「男性用語というヤツです、お嬢」

「男性用語。男性用語で、私は負けた…………」

 がっくりと肩が落ちる。

「お嬢、勝ち負けにこだわりすぎです」

 勝者からの慰めなんてほしくない。十三歳の私はそう思っていたけど、つい最近、『もぐ』の意味を理解してしまったのだ。

 あれをもぐのか。

 知らない方が良かったかな。




 とりあえず、私の気持ちなど知る由もなく、フィリアは明るく声を上げた。

「とにかく、お嬢に近づいたら、相手の大事な物をもぎ取りますので。ご安心ください」

「なんか、安心しちゃいけないような気がする」

 具体的にどうもぐのかは、想像しないようにして、私は正直な感想を伝えた。

 まぁ、この二人は私の感想など興味はなさそうで、どちらかというと、エンデバート卿の実力に興味が集中している。

「実力も隊長の方が断然上だと、バルザードが言ってましたよ?」

「なら、安心してもぎ取れるわね」

「ロード先輩、もぎ取るから離れてください」

 行き着く先が、もぎ取れるかどうかなのが、微妙なところだけれど。

「さあ、お嬢。さっさと王女殿下のところへ行きましょう!」

 微妙な気分の私は、もぐ気満々のフィリアと何かに狼狽えるバルトレット卿を連れて、いそいそと王女宮を目指したのだった。
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