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〈六〉
るいは納戸から古ぼけた手箱を持ち出した。そっと戸を閉め、囲炉裏端で蓋を開ける。布に包まれたすりこぎのような棒と、古びた冊子を取り出す。囲炉裏の灰に埋めておいた残り火をかき熾し、そのぼんやりした明かりを頼りにるいは表紙に「作法之書」と書かれた冊子を開いた。
「確か、このあたり……」
数えきれぬほど読み返した作法書をぱらぱらと繰る。男女の交合を描いた挿絵にるいは頬を染めて見入った。
「女が上だと百閉、――やはり茶臼、茶臼のばしかしら」
作法書は深山の里に伝わる閨の手引き書だ。貴人のおとないをうけたときに慌てず騒がず、つつがなく御たねをいただくために必要となる知識や技術が書かれている。
「はっ、いけない」
こんなことをしている場合ではない。
勝五郎との同衾を貴人との交合に見立てるなど、訪れがあるんだかないんだか分からない貴人だけでなく、勝五郎に対しても失礼だ。
「お稽古を、しなければ……」
気が重い。
るいはのろのろと立てた膝を開いた。
「まずは十回揉んで……」
作法書の稽古の手引きを、御婆にいいつけられたとおり諳んじている。勝五郎がやってくるまでは毎日稽古を欠かさなかった。ただし、途中までである。
――歌も物語も諳んじ書もよくするというに、どうして、これだけのことができぬのか。
御婆が何度も嘆いていた。
稽古は、貴人が訪れたときに円滑に交合を行うためのものだ。おとなしやかに従順に、淫らでありながら淫らに堕しすぎず誘い御たねをいただかなければならない。決して貴人を拒んではならないし、痛がって貴人を萎えさせてもならない。乙女となった者は、貴人の訪れまでに指二本で己の秘所をほぐし準備を調えることとされている。
るいの秘所は、指一本すら迎え入れることができない。
秘唇を指ではさんで揉む。作法書では十回とされているが、るいは二十回揉む。剛の者であればこの時点で秘所がほころぶと御婆はいっていた。ぐりぐり外側からいじってもるいの秘所は蜜をたたえない。
――こうも濡れないのでは、貴人さまも苦労される。
――おまえが乙女として不出来だから貴人さまがおいでにならぬのだ。
何度も叱られ、なじられた。
厳しい師であった御婆が亡くなって数ヶ月、もう貴人の訪れはないだろうと確信しているが、それでもはかばかしくない稽古はつづけていた。
――日々励めばいずれ、指一本なりと飲み込めるようになろう。
やはり痛くて指を入れることはかなわないが、いつか指二本で秘所をほぐすことができれば、貴人を迎え入れる準備が調う。
――張型でこじ開けるという手もあるが……。
恐ろしいことを御婆が口にしたこともある。このときは、未通女でなければ御たねをいただけないこともあるとかで硬い秘所をこじ開ける話は棚上げになった。
るいは、すりこぎのような棒を包んだ布をといた。中から、貴人の肉棒のかたちをした張型を取り出す。御婆が木を削ってつくってくれたものだ。左手で秘唇を揉みながら右手に掴んだ張型を眺める。
「こわい……」
指ですら入らないのだ。こんなふざけた大きさをした棒など、入るわけがない――。そう思っていた。張型よりさらに太く長い勝五郎の肉棒を見てしまった今はなおのこと思う。無理。絶対に入らない。
しかし、あれだけ努力を重ねてもどうにもならなかった秘所が、勝五郎と同衾して潤んだのだ。こんなことは初めてだった。同衾の最中に稽古をはじめるわけにいかない。さすがに乙女のつとめ、閨の稽古が普通でないことくらい、るいも分かっている。だから同衾の途中、秘所が潤んだところで奥の間を脱け出せば稽古の次の段階に進めるのでは、――不出来などでなくちゃんとした乙女になれるのでは、そう考えたのだ。
「駄目だ……」
奥の間から脱け出したわずかな間に秘所は乾いてしまっていた。
そもそも、貴人の肉棒はこんな大きさ、こんなかたちなのだろうか――。るいは右手の親指で張型を撫でた。冷え冷えとして硬く、表面は小刀の削り跡でざらつく。勝五郎のものは、こうではなかった。ふとぶととして硬く張りつめて同時に弾力があり、あたたかくすべすべとしていた。
きゅむ。
心の臓がつままれたように切ない。
かれの力強い腕、熱い肌、その香りを思い浮かべると
ぬちり。
秘所の奥から蜜が滲み出た。
「あ、……しょうごろう、さま……」
「呼んだか」
「ひゃっ」
ごとり。
張型が板張りの床に落ちる。
驚き、文字通り飛び上がって振り返ると、勝五郎が立っていた。
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