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〈二十三〉
しおりを挟むじゃり――。
砂礫を噛む音がした。驚いて振り返ると、男がふたり、立っている。
「ほおれ、見ろ」
鮫島がにたりと笑った。暗く湿った陰に湧く錆を思わせる声だ。
「荒れ果ててんのにしめ縄だけ新しいってのがどうも、なあ。怪しいと思ったんだよ」
「はい、まことに」
「やつの骸は見つからんし、街道へもう出ちまってるんなら他の連中が見つけるだろうし――ちょいと遊んでから山を下りてもよかろうよ」
「ええ、それはもう、先生のおっしゃるとおりで」
ぬぼう、とした酒に焼け錆びついた声の男が揉み手をせんばかりに返す。
「これはこれは。鄙には珍しい別嬪じゃないか。ほう。――におうねえ、あのいけ好かない野郎のにおいがする」
口もとはにたにたと崩れているのに、目が笑っていない。
――なるほど、まるで違う。
これでは同じ道場にいても勝五郎とは気が合わなかったろう。
勝五郎ほどではないが、鮫島も背が高い。
隆々としているというより鋭く、しなやかだ。懐手をしたままのだらしなくくつろいだ姿勢ながら、鮫島には次の瞬間に何をするか分からない不穏な空気がある。里の周りで小動物を罠猟や弓矢で獲るくらいで荒事の経験のないるいには、ふたりの実力に差があるのかも分からない。
焚き火を挟んで男たちと対峙し、るいはめまぐるしく考えを巡らせていた。懐剣は家の中、手には焚き火を掻き熾すのに使った棒が一本あるのみ。
朝早くに深山を去った勝五郎は今ごろ、どこを歩いているだろうか。るいの脳裏を、無骨で眼光鋭い大男の意外に人なつっこい笑顔がよぎった。
――時間を稼ぐためなら、何でもしよう。
勝五郎が戦うべきなのは目の前の男ではない。父親の仇だ。本懐を遂げる前にこんなところで時間と労力を食いつぶすわけにいかない。それならば追っ手をひとりでもふたりでも減らそう。力及ばずとも時間だけなら自分でも稼げる。
「おい女、黒江はどこだ」
焚き火の向こうで鮫島が懐手をしたまま問いかける。つれの男がじり、と距離を詰めてきた。
――逃げるか、それとも抗うか。
るいはぎゅっ、と棒を握りなおした。
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