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〈二十五〉 ★
* * *
注: 主人公が暴行を受ける場面があります。残酷描写が苦手なかたはブラウザバックをお願いいたします。
* * *
「元の顔が分からなくなるくらい、殴ってやる。黒江にかわいがられた痕も隠れるぐらい、殴ってやる。――泣け、喚け。赦しを乞え」
「おまえなどに、屈するものか」
「生意気な女め――!」
手が振り上げられるのを感じる。痛みはもう厭だという思いと、もうすぐ痛みも感じなくなるだろうという諦めが交錯する。空気の塊が移動し、砕けたかわらけに似た痛みがぐしゃぐしゃと鳴る頭にぼんやりと、鈍い殴打音が伝わってくる。
「……?」
手が落ちてこない。
のろのろと顔を上げると、目の前に壁があった。その壁は勝五郎の背割り羽織と同じ模様で見覚えのある打飼袋が斜めにかかり、ぎりぎりと力が漲っている。
「鮫島、るい殿に何をした」
「く、黒江……、逃げたのでは、なかったのか……」
怒号が飛び交い、空気が逆巻く。朦朧とした視界で刀がぎらりぎらりと踊る。一瞬のようにも、永遠に続くようにも思えた。
山道が飛ぶように通り過ぎていく。
気がつけば、るいは勝五郎に背負われていた。香ばしい肌のにおいに、血と汗のにおいもする。
「しょ、ごろう、さま、お怪我は……」
「るい、るい殿!」
「お怪我、は」
「ないが……」
「左腕、使っちゃ駄目です……」
「それどころではない! あらかた、治っている」
「もう、……なんで戻っていらしたんですか」
「鮫島が深山へ、――山を登っていったと麓で聞いて矢も盾もたまらず――」
「でも、……ちょうど、よかった、お伝えしたい、ことが……」
体に力が入らない。
寒い。
冷えが骨までしみこむようだ。痛みがぼんやりと遠い。あまり意識をたもっていられない気がする。
「志馬野に着いたら、麓の、薬種問屋、臼居屋とつなぎをつけて、くださいませ」
「分かった、臼居屋だな」
「金子を、預けてございます、……お役立て、ください」
「今は、それどころでは……!」
「本懐を、遂げてくださいませ」
「るい殿」
「仇を、討つのです。放っておいては、なりません……。これから、勝五郎さまの、人生にかかわるひとびと、たいせつなおかたに、害が及びます」
仇討ちだなんだと、事件当事者だけで斬った張ったしているだけならそのまま放っておいてもよかったかもしれない。しかし仇は安寧を得るために手段を選ばなくなっている。勝五郎の立ち回り先を調べてつぶしてまわることも考えられる。
「るい殿、……もうしゃべるな」
「うるさい」
「え?」
「聞け。私の話を、聞け」
「あ、ああ」
「これから、申し上げることを、覚えてください……一回しか、申しません……。江戸神田須田町、水油仲買、三好屋……それから鎌倉河岸の弓師、……」
遠のきかける意識を必死でつなぎとめ、るいは鮫島が興奮に任せてぺらぺらとしゃべった仇の潜伏先や金回りなど支援者の情報を伝えた。
「よう、ございました。お伝え、できて……」
「もうすぐ、志馬野だ、しっかり、……るい殿……!」
自分はもう、いい。これから出会う大切な人との幸せのために、仇を討ってほしい。
るいの意識が遠のいた。
注: 主人公が暴行を受ける場面があります。残酷描写が苦手なかたはブラウザバックをお願いいたします。
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「元の顔が分からなくなるくらい、殴ってやる。黒江にかわいがられた痕も隠れるぐらい、殴ってやる。――泣け、喚け。赦しを乞え」
「おまえなどに、屈するものか」
「生意気な女め――!」
手が振り上げられるのを感じる。痛みはもう厭だという思いと、もうすぐ痛みも感じなくなるだろうという諦めが交錯する。空気の塊が移動し、砕けたかわらけに似た痛みがぐしゃぐしゃと鳴る頭にぼんやりと、鈍い殴打音が伝わってくる。
「……?」
手が落ちてこない。
のろのろと顔を上げると、目の前に壁があった。その壁は勝五郎の背割り羽織と同じ模様で見覚えのある打飼袋が斜めにかかり、ぎりぎりと力が漲っている。
「鮫島、るい殿に何をした」
「く、黒江……、逃げたのでは、なかったのか……」
怒号が飛び交い、空気が逆巻く。朦朧とした視界で刀がぎらりぎらりと踊る。一瞬のようにも、永遠に続くようにも思えた。
山道が飛ぶように通り過ぎていく。
気がつけば、るいは勝五郎に背負われていた。香ばしい肌のにおいに、血と汗のにおいもする。
「しょ、ごろう、さま、お怪我は……」
「るい、るい殿!」
「お怪我、は」
「ないが……」
「左腕、使っちゃ駄目です……」
「それどころではない! あらかた、治っている」
「もう、……なんで戻っていらしたんですか」
「鮫島が深山へ、――山を登っていったと麓で聞いて矢も盾もたまらず――」
「でも、……ちょうど、よかった、お伝えしたい、ことが……」
体に力が入らない。
寒い。
冷えが骨までしみこむようだ。痛みがぼんやりと遠い。あまり意識をたもっていられない気がする。
「志馬野に着いたら、麓の、薬種問屋、臼居屋とつなぎをつけて、くださいませ」
「分かった、臼居屋だな」
「金子を、預けてございます、……お役立て、ください」
「今は、それどころでは……!」
「本懐を、遂げてくださいませ」
「るい殿」
「仇を、討つのです。放っておいては、なりません……。これから、勝五郎さまの、人生にかかわるひとびと、たいせつなおかたに、害が及びます」
仇討ちだなんだと、事件当事者だけで斬った張ったしているだけならそのまま放っておいてもよかったかもしれない。しかし仇は安寧を得るために手段を選ばなくなっている。勝五郎の立ち回り先を調べてつぶしてまわることも考えられる。
「るい殿、……もうしゃべるな」
「うるさい」
「え?」
「聞け。私の話を、聞け」
「あ、ああ」
「これから、申し上げることを、覚えてください……一回しか、申しません……。江戸神田須田町、水油仲買、三好屋……それから鎌倉河岸の弓師、……」
遠のきかける意識を必死でつなぎとめ、るいは鮫島が興奮に任せてぺらぺらとしゃべった仇の潜伏先や金回りなど支援者の情報を伝えた。
「よう、ございました。お伝え、できて……」
「もうすぐ、志馬野だ、しっかり、……るい殿……!」
自分はもう、いい。これから出会う大切な人との幸せのために、仇を討ってほしい。
るいの意識が遠のいた。
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