我慢を止めた男の話

DAIMON

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第二話『新しい体で海賊退治』

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「はあ~」

 思わず息を吐く。
 我ながら怒涛の展開だった。

 交通事故で死んで……。
 人生に後悔して……。
 異世界の神様に出会って……。
 転生させてもらって……。

 こうして、異世界に送られて……。

「日本での人生全部より濃い気がしたな……」

 さて、一息ついて気分を入れ替えて……これからどうするかな?

 先ずは現状の確認か。

「あ、服が変わってる」

 簡素なズボンと靴とTシャツ。
 日本で死んだ時の格好と違う。
 多分こっちでも変に見られない格好を神様がサービスしてくれたんだろう。
 ありがたや、ありがたや。

 まあ、他には何もないが、贅沢は言うまい。

 で、この場所だが……正面は海、左右は砂浜、後ろには……森。

「ふ~む……」

 見る限り、深くもないが……流石にこの身一つで未知の森に踏み込むのは無謀か。

「あ、そういえば」

 神様から貰ったこの体、ちょっと試しておいた方がいいな。

 どうやって試すか……体力テストみたいな?
 何があったかな?
 えーと……よく覚えてないが、短距離走、長距離走、走り幅跳び、ボール投げ、垂直跳び、握力、反復横跳び、屈伸……あと何があったか。
 うん、忘れたな。
 何しろやったのは、20年は前のことだからな。

 とりあえず、覚えてる限りでやってみよう。
 先ずは短距離走、距離とタイムなんかは適当だ。

「よーい……」

 クラウチングスタートの体勢など取ってみる。
 さて、どうかな?

「ドン!」

ドン!!

「ごあ!?」

 吹っ飛んだ!?
 砂浜が爆発した!?

「ふぬ!」

 思わぬ衝撃で体勢が崩れたが、なんとか持ち直して着地!

 後ろを振り返ると……結構な距離を吹っ飛んだらしい。
 俺のガバガバ目算で、少なくとも10メートル以上……。

 それにスタート地点と思しき砂浜がかなり抉れてる……まるで爆発したみたいに。

「マジか……」

 こんなにパワーがあんのか、この体……?
 神様、本当にこの体、人間の枠に収まってます?

 その後、戦慄しつつも体の調子を調べてみたら……軒並み化け物級だと分かった、少なくとも地球人感覚で。

 これなら大抵の事は出来るし、大抵の敵も退けられそうだ。

 とは言え、生まれてこの方、サバイバルなんてした事のない俺にとって、森とは未知のフィールドだ。
 自然と警戒心が跳ね上がる。
 異世界なら、モンスターだの魔物だの呼ばれる猛獣の類がいる事だろうし。
 さりとて、このままここにいても日干しになるだけ、森に入るのは一旦無しにしても、せめてどこかに行かなければ……。

「う~ん……こういう魔法ってありかな?」

 困った時に魔法を試してみる。
 イメージは、周囲の生物の気配を探知する魔法……漫画とかでよくある、気とかそういうのを探すイメージ……。

「……お?」

 目を閉じて意識を集中していると、何だか辺りそこらから反応を感じる。
 これは成功したかな?

 大小様々……方向的に森の中……かなりバラけてる小さな反応、これは小動物か虫か?

 範囲を広げてみる……。

「お?」

 なんか結構な数が密集した場所があったぞ。
 気配の大きさも割と揃ってるし……これは、もしかして村か何かか?
 方向は……海に向かって左の方。

「行ってみるか」

 他にアテもないし。
 行ってみるか。
 違ったら、また別の場所を探そう。

 探知の魔法を頼りに、気配が集まった場所を目指して歩き出す。
 海岸を歩いていると、ヤシの木とかもあってリゾートビーチっぽい。
 空も晴れて、海も綺麗だし、何だか解放感で良い感じだ。

 暫く歩いていると、何に出くわす事もなく砂浜が終わり、岩場に入った。

「良い感じの磯だなぁ。色々と余裕があれば釣りとかしたいところだが……」

 残念、そんな事をしている場合じゃない。
 頭を振ってまた歩く。

 岩場を上って降りてを繰り返し……結構歩いたとは思うが、この体全然疲れないからよく分からない。

 魔法で探知した気配の集まった場所も大分近づいている筈なんだが……。

「お?」

 岩場を抜けた所で、平らで道っぽい地面の線を発見。
 更に、その線の先にーー村か町発見!

「やっと着いたか!」

 喜び勇んで俺はその町に向かって走った。
 徐々に近づくその町の規模は村以上町未満というところ。
 帆がついた小船が何艘か留められているが、漁船だろうか?
 あ、金無いんだよな……何か仕事でもさせてもらって稼げないかな?
 冒険者ギルド~とか。

 などと色々と想像しながら町に走っていたが、町が近づくにつれて異変に気付いた。

「これは……」

 町のそこかしこ、樽やら木箱やらが壊れて木片が散らばっている。
 近くの建物や地面にも、砕けて穴が空いていたり、焦げ跡がある。
 オマケに全然人がいない……。

 これは、もしかして……何かに襲われたのか?

「おい、そこのてめえ」

「!」

 町中に入ってすぐ、突然の声に振り向くと、バンダナを頭に巻いた人相の悪い男が3人、ニヤニヤしながらそこにいた。

「見かけねえツラだなぁ?よそ者か」

「ケッケッケ!運が悪かったな。この町は今、オレたちゴードン海賊団が支配してんだ」

「よそ者は見つけ次第身包み剥いで殺せって船長命令でな。可哀想だが死んでもらうぜぇ、ギャッハハッ!!」

 うわ~、絵に描いたような海賊の下っ端だ。
 てか、海賊とかいるんだな、この世界……物騒な。
 しかし、何だか自分でも不思議なくらい落ち着けている……。
 日本にいた頃なら、ちょっと顰めっ面で辺りを睨んでるオッサンにすらビビって避けていた俺なのに……この体のおかげかな?

「おい、何黙りこくってんだよ」

「ビビって声も出ねえかぁ?」

 おっと、下っ端がナイフ片手に迫っている。
 このままだと刺される。
 転生して一日足らずでまた死ぬのは御免だ。

 こうなったら殺られる前にやるしかない――この体ならやれるだろう。
 勢いだ、やってやる!

「ぎゃッ!?」「ごげッ!?」「がはッ!?」

 不意打ち上等――1人は顔面に真正面から拳を叩き込み、1人は頬を裏拳で殴り払い、1人は腹に前蹴りで吹っ飛ばし――上手く言った様でそれぞれ一撃ずつで倒せた。

「ふぅ~……これは」

 両手を握って開いてを繰り返す。
 幾ら不意が決まったとはいえ、大の男を一撃で倒すなんて……どうやらこの体のパワーは本物の様だ。
 あんなに素早く動く事も出来なかったし、殴る蹴るで人間を吹っ飛ばすなんて、今までの俺には絶対に不可能だった。
 あと今気づいたが、殴った拳も全然痛くない。

 とんでもない筋力と瞬発力、それに頑丈さ……なるほど、これはチートだ。
 この体なら、この物騒な世界でもやっていけそうだ。

 しかし、油断は禁物――今倒したのは下っ端、まず間違いなく三下の部類だ。
 本物のヤバい奴がどこにいるかも分からない。
 警戒はしていこう。

 まあ、それはさておき――。

「所詮下っ端か。大したもんは持ってない」

 下っ端三人から戦利品を回収。
 しかし、手に入ったのはいかにも鈍なナイフ2本とサーベル1本、それと少々の硬貨……。
 硬貨は2種類、色と模様がそれぞれ違う。
 銀色のが3枚、赤茶色のが16枚――多分これが通貨だろう。
 確か貨幣価値はまだ分からないが、とりあえず無一文から脱出だ。

 やってる事は完全に追い剥ぎだが、相手は海賊だし、こっちを殺そうと寄ってきたんだから、このぐらいいいだろう。

 用がなくなった下っ端どもは、服を剥いで紐がわりにして縛り上げ、そこらの物陰に隠す。

「さて、と……」

 奴ら、この町を支配しているとか言っていた。
 つまり、他の海賊がいる。
 でも、港や海を見る限り海賊船らしき船は見当たらない。
 部下を置いて、何処かに行ってるのか?
 裏切られるとか、部下がヘマしてどこぞに通報されるとか考えないんだろうか?

 いや、町や人を支配しようなんて海賊の考えなんかどうでもいいか。
 とりあえず、潰しておこう。
 正義の味方を気取る気はないが、そういう輩は見てて不快だ。
 もう不快な輩から逃げて我慢はしない。

 それに、何人いるか知らないが海賊団一つを潰せば、武器やカネ、食料とかの旅に必要な物資も手に入るかも。
 上手くいけば一石何鳥ものボロ儲けだ。

 うん、テンション上がって来たな。
 状況に酔っぱらってきたともいうか、まあいいや、何でも。

「よし、とにかく行こう」

 先ずは海賊の居所を探す。
 出来れば、まだ見つからないでいきたいところだ。

 俺は警戒しながら町を歩いた。
 その間に町と港の見張りと思しき海賊の下っ端を6人ばかり見つけ、背後から奇襲でシバキ倒し、内1人を物理的に締め上げて町の酒場が奴らの溜まり場になっている事を聞き出す事に成功した。
 あと、そいつらが持ってた武器とカネは全部貰っておいた。

 手持ちは硬貨沢山とサーベル3本、ナイフ4本に増えた。
 どれも鈍らっぽいが、武器は多いに越した事はないだろう。

「あそこか」

 建物の陰から様子を伺うと、西部劇に出てきそうな跳ね扉の建物があった。
 下っ端に聞き出した海賊どもの溜まり場だ。
 遠いが、男の野太い笑い声が少し聞こえるから間違いないだろう。
 締め上げた下っ端の話では、今、船長は取引とやらに一味の半分を連れて船でこの町を離れている。
 酒場には副船長と一味の残り、数は22人……。

 さて、どうするか。
 海賊の下っ端は難なく倒せたが、相手が多い……。
 少し、怖気づいてしまった……。
 出来れば安全に片付けたいところだが……。

「……いや」

 そうやって逃げてきたんだ、俺は、日本で。
 折角、チートな体を神様から貰ったんだぞ。
 ここで、退いたら日本にいた時と何も変わらんぞ!

「よし……!」

 やってやる!
 こうなったら勢いだ、気勢を上げろ俺!
 折角異世界に来たんだ!
 チートな体も貰っただろ!
 冒険しなくてどうする!

 いやまあ、戦いとかは必要限でいいし、名を上げるとかも要らないんだが思うままに行動してみてもいいだろう。

「よ、よし……!」

 行ってみようか。
 意を決して、酒場の戸を潜る。

『あ?』

 飲み食いしていた海賊どもが一斉にこっち見た。

 大多数の下っ端の向こう……カウンターには他よりやや体のデカくて頭に牛の角を付けた兜の男が骨つき肉を食っている、あれが多分副船長だろう。
 その向こうで慌てた顔とオロオロした様子の線の細いオッサンはこの酒場のマスターかな?
 他にも、チラホラ乱暴にされている若い娘さん達が……。

 うん、ムカついて頭冷えたわ。

「なんだぁ、てめえ?見ねえ顔だな、よそ者かぁ」

 近くにいた海賊の三下が、近寄ってきて絡んできた。
 目付きや態度、口調が癇に触る。

「ぐべぇッ!?」

 つい横に殴り飛ばしてしまった。
 飛んだ先にあったテーブルや椅子が壊れ、そこにいた海賊もついでに吹き飛んだ。
 店の物壊しちまったな。
 マスターに悪い事したかな?
 でも、下っ端がふっ飛んでくれたおかげで、少し気持ちが落ち着いた。

 ふぅ、と一息ついてから副船長の野郎に声をかける。

「おい、そこのデカいの。お前がゴードン海賊団とやらの副船長だな」

「……ああ、そうだぜ」

 ジョッキを煽り余裕をかまして振り返る副船長。

「そうと知ってて喧嘩売るたぁ威勢のいい若造だ。俺達のボスはあの――がッ!?」

 確認さえ取れればいい。

 容赦無用――速攻で倒すのみ――瞬時に間合いを詰めて、こめかみにパンチを叩き込む。

ドゴン!!

 副船長の野郎がふっ飛んで壁に穴が開いた。

「~~ッッ!!??」

 マスターが目玉を飛び出させ顎が外れそうなほど口を開けて副船長が飛んだ先と俺を交互に見る。
 見れば、壁の穴の向こうで副船長が仰向けに倒れていた。

『ふ、副船長ぉ~~!!??』

 目を飛び出させて叫ぶ海賊の下っ端ども。

 注意が逸れた、チャンスだ――!

ドガガガガガガガガガガッ!

『ぎゃああぁぁぁ~~~~ッ!!??』

 全員ぶっ飛ばしてやった。
 弱かった――いや、その表現は違う――神様から貰ったこの体がやっぱり反則チートなんだ。

 それにしても……人に向かって殴る蹴るの暴行をしておきながら、俺は動揺していない。
 少しドキドキはしてるが、不思議と落ち着いている……返り血の付いた両手を見ても、震えもないし、血が付いて汚いぐらいにしか思わない。
 聞いてなかったが、神様が精神面も調整しておいてくれたんだろうか。

「お、おおぉ……!」

 そんな声がして振り返ると、マスターがフルフルと震えていた。

「あ……!」

 拙い、俺が暴れたせいで店がボロボロに……べ、弁償とか求められたらどうしよう?
 もしくは俺の方が海賊以上にビビられたら……ちょっとショックだ……。

「あ、あの……」

「す、凄い!!」

「は、はい?」

「あの凶暴な海賊たちを、あんなにあっさり倒しちゃうなんて!!」

「うえ?」

 マスターの反応は俺の思っていたのと違った。
 喜色満面の笑みで俺を見てくる。

「ありがとう!本当にありがとう!!おかげで助かったよ!そうだ!早くこの事を皆に知らせなくっちゃ!!」

 言うや否や、マスターは外へ飛び出して行く。

「――お~~い!!みんな~~!!助けが来たぞ~!!もう大丈夫だぞ~~!!」

 いや、ちょ!
 あー、行っちゃったよ……。

 仕方ない、とりあえず海賊どもを身包み剥いで纏めて縛り上げておこう。



 その後、町中の人間が集まって俺を取り囲み、俺はヒーローみたく祭り上げられてしまった。
 こんな経験、今までに無かったから恥ずかしくて堪らない。

 それに、喜ぶのはまだ早い……。

 交易船を襲いに行った船長とその部下どもが残っている。

「ぐふッ、はぁ、はぁ、はは、ははははっ!馬鹿どもが、ぬか喜びしやがって……!船長は夕方には帰ってくる。船長が帰ったら、てめえら全員皆殺しだぁ!!おい若造!てめえもだぞ!多少腕に覚えがある様だが、船長に掛かればてめえなんざ――ぶごッ!?」

 気が付いた副船長の野郎が色々と喚き散らしたもんで、思わず蹴り倒してしまった。

 それはさておき、実際、船長は副船長より強いはずだ。
 そうでなければ、無法の荒くれ者を纏めるなんて無理だろう。
 それに船なら大砲とかが積まれてる筈……撃たれて町に被害が出たら拙い。

 これは、また奇襲で速攻仕留めるしかないな――もう賽は投げられた。

 やってやる!

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