我慢を止めた男の話

DAIMON

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第三十一話『今度は城か……』

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「――強情な奴め!いい加減に吐いたらどうだ!?」

 はぁ……もうウンザリだ。

 帝国の手先の偽商人に襲われ、返り討ちにした俺は、運悪く王国の兵士に見つかり、連行され、こうして執拗な取り調べをもう3日も受け続けている……。

 この3日、俺は飯も水も貰っていない。
 荷物や装備は着ていた服以外、全部取り上げられた。
 風呂どころか手枷を嵌められっぱなしで顔も洗わせてもらえない……。
 手枷には『魔法封じ』の効果がある様だ……が、威力が弱いのか俺には効いてない。
 だからこっそり魔法で水を出して、それを飲む事で喉の渇きだけは何とかなっている。
 顔を洗うまでやると見張りにバレそうだし、バレると拘束が追加されそうで嫌なので何とか我慢している。

 外との連絡など許されず、地下牢と尋問部屋を往復するばかり……。

 詰め所の中の、石の壁と格子窓の尋問部屋で、俺は努めて冷静に事情を説明したが……まるっきり信じてもらえなかった。

 それどころか、取り調べを担当している、俺を見つけた顎髭の兵士はあろう事か、俺を王国民を連れ去ろうとした帝国の手先だと決め付けてきた。
 あの偽商人は王国内の共犯者で、殺したのは口封じという設定……。

 何でそうなるんだ……?

 兵士は俺に「アジトはどこだ!?」「仲間は何人だ!?」「帝国は何を企んでいる!?」等など、怒鳴り散らしながら尋問してくる……。
 しかし、どんなに聞かれても知らないんだから答えようがない。

「知らないって何度言えば分かるんだよ……?」

「おのれぇ、まだ強情を張るか!!」

 全く、話しにならない……。
 偽商人の遺体とかちゃんと捜査したのか……?
 或いは捜査してコレなのか……?

 嫌気が差してくる……。
 これまでの経緯から、ガルナス帝国がヤバい国みたいに漠然と思ってきたが、目の前の兵士の態度とか、今日までの俺の扱いとかを考えると、フラムベル王国だって似たようなものじゃないかと思えてくる……。

 もういっそ力尽くでこの国からもオサラバして、どこか帝国も王国も関係ない所でひっそり悠々自適に暮らそうかな……?

 そんな事を考えていた時だった――。

バタン!!

「今すぐその不当な尋問を止めなさい!!」

 そんな鋭い声と共に尋問部屋の扉が勢い良く開け放たれた。
 そこにいたのは――

「え!?あ、アニータっ!?」

 アニータだった――何故ここに!?

「な、なんだお前は!?誰の許可を取って入って来た!?」

 兵士は狼狽えた様に叫ぶ。
 すると――

「私だ」

 兵士に答える渋く低い声――今度は黄土色の髪をオールバックにした結構ゴツい偉丈夫が入って来た。

「へッ!?はッ!?しょ、将軍閣下ぁ!??」

 おやま、お偉いさんか。
 顎髭兵士が態度を一変させて狼狽えている。

「な、なな、何故閣下がこんな所に……!?」

殿の護衛兼付き添いだ。あとは兵の不始末の処理と言ったところか……」

「なっ!?え……!?お、王女殿下ぁっ!?」

 将軍とやらの言葉に、顎髭兵士が飛び出さんばかりに見開く。

 てか、『王女』だと……?
 アニータが……?!

「そんな事はどうでもいい!彼を直ちに解放なさいッ!」

「うえ!?お、恐れながら殿下っ!こいつは憎き帝国の手先で……!」

「黙りなさいッ!まともな捜査もせずに何を言うかッ!!大体、魔導士団の報告で彼の無実は証明されている!!解析結果が出たのは昨日のことだ!!知らないとは言わせないッ!!」

「ヒィッ!?」

 アニータの一喝で、身を竦ませる兵士。
 無様でいい気味だ……少しだけ胸が空いた。

「将軍!!」

「はっ。やれやれ、我が軍の兵士の質はここまで落ちたか……嘆かわしい。貴様には謹慎を命じる。処分は追って通達する」

「は、はひぁぁ~~!!」

 その場に崩れ落ちる様に土下座をする兵士……無様過ぎて、もう、逆に苛つく。
 俺はこんな奴に3日も時間を奪われたのか……。

「ジロウ!大丈夫!?」

 駆け寄ったアニータが、どこからか持って来ていた鍵で、俺の手枷を外してくれる。

「はぁ、大丈夫……とは言えないな。飲まず食わずで3日は、流石にキツかった……」

「なっ!?貴様ぁ……!!」

「ッ!?」ビクッ

 青筋を浮かべたアニータの絞り出す様な声に、兵士が体を竦ませる。

「殿下、この者の処分はお任せ下さい。今は彼を」

「っ、ええ、そうね!ジロウ、立てる?」

「ああ」

 椅子から立ち上がり、アニータに付き添われて部屋を出る。
 ああ、腹が減った……風呂に入りたい……ストレスがヤバい……。
 日本にいた頃の普通の人間だったら、精神がへし折れていたかも知れないな……。

「それにしてもアニータ、どうしてここに?」

「ちょっと複雑になるんだけど、先ず私が城で将軍と話している時に、冒険者ギルドの支部長が訪ねてきたのよ」」

 ああ、フラン支部長か。
 王都に戻って来てたんだな。

「私も将軍も、支部長とは知り合いでね。少し談笑していたのだけど、そこへ兵士から報告が入ったの。『帝国の間者と思しき男を逮捕した。その男がブラックスミス・ダニロの真印付きの剣を持っていた』とね。それで私・将軍・支部長の3人でその剣を見る事になって、将軍と支部長が真印が本物な事を確認して、私は貴方が持っていた剣だと気付いたのよ」

 『青天』の真印……つまりダニロさんのおかげで、俺は救われたのか……。
 アニータもだが、ダニロさんに感謝だな……。

「その時フラン支部長からも貴方の名前が出て驚いたわ。ジロウ貴方、フラン支部長と知り合いだったのね」

「ああ、支部長の剣の事でちょっとな」

「そう。話を戻すけど、私はバーグ砦まで駆けつけてくれたジロウが帝国の間者の訳ないと思ったし、フラン支部長も『ブラックスミス・ダニロが真印を託す人間がそんなくだらない事をする筈がない』ってジロウの容疑に否定意見を述べたの。それで将軍と協力して色々調べたら、貴方の容疑を晴らす報告はとっくに上がっている事が分かって……同時に貴方が未だに拘束されている事もわかって、急いでやって来たのよ」

「そうだったのか……」

 通路を歩きながら事情を聞いていると、アニータの表情がどんどん曇っていく……。

「……アニータ?」

「……ごめんなさい、ジロウ」

「おいおい!?」

 何故そこでアニータが深々と頭を下げる!?

「こんな仕打ち、謝って済む事ではないけど……私には、謝る事しか出来ない」

「止してくれ、アニータ!今回の事は、君がやった訳じゃないだろう!?」

「例え兵士が起こした事でも、私にはこの国の王女として、王族の一員としての責任がある……!」

「っ、例えそうだとしても、俺はアニータに頭を下げられる事を望まない!」

 アニータとは付き合いは短いが、性根の良い奴だと思っている。
 王女とかそんな事は正直どうでもいい。
 良い奴だと思っている知り合いが、一部の馬鹿のしでかした事で責任を負わされるなんて、納得がいかん。

「頼むから頭を上げてくれ、アニータ。君に頭を下げられる方が俺は辛い」

「……ごめんなさい。ありがとう、ジロウ」

 ふぅ、何とか頭を上げてくれたか……。
 表情は曇ったままだが、一応の一区切りは付いたと思うから、ずるずる引き摺られる事もないと思いたい。

「……それにしても」

「?なに?」

「王女であらせられましたか、アニータ様」

「今更っ!?ていうか止めて!そんな変な言葉遣い!」

 変とは失礼な。
 精一杯の丁寧な言葉を使っているのに。

「王家の方々に対して気安い態度を取る訳には……」

「止めてったら!今まで通りでいいわよ!いえ寧ろ今まで通りがいいわ!」

 ふむ、こんなものか。

「じゃあ、お互いに今まで通りといこうじゃないか、アニータ。お互いに、変な気を遣わないって事で」

「え……あ」

 アニータは一瞬キョトンとする、すぐに察した様だ。
 一度深呼吸をする。

「すぅ、ふぅ……ありがとう、ジロウ」

「まあ、お互い様って事で」

 この話、変な空気はここまでって事だ。



「――あ!ジロウ!」

 詰め所の出口付近に来たところで、そんな声が掛かった。
 見れば、そこにキャスがいた。

「おう、キャス。久しぶり」

「久しぶり、じゃないでしょ!捕まってた割りに軽いわねアンタ!?」

「気軽な訳じゃねえよ。解放されて気が抜けてんだよ……」

 まさか、『シャバの空気はうまい』ってヤツを実感する日が来るとは思わなかった……。
 何のかんの疲れているのかもな……。

「――ジロウさん」

「あ、フラン支部長」

 フラン支部長もいたんだ。
 声を掛けられてやっと気付いた、俺とした事が……やっぱり疲れているっぽいな。

「今回は災難でしたね」

「いえ。支部長も口添えしてくれたと聞きました。ありがとうございます」

「お気になさらず。大した事ではありません。ギルド支部長として冒険者の自由と尊厳を守る責務もありますし、何より、貴方には個人的な大恩があります。助力は惜しみませんよ」

 師匠の剣とダニロさんの事を言っているんだろうが、大恩とは大袈裟な……。

「ジロウさんの装備類は、私の方で確保してあります。王国の兵士は信用なりませんからね」

「――手厳しいが、今は返す言葉がないな」

 後ろから男の声――振り返ると、アニータが将軍と呼んだ男が追いついて来ていた。

「ワイルズ将軍」

「殿下、一度王城にお戻りください。そして冒険者ジロウ・ハセガワ、君にも同行してほしい。今回の件、正式に謝罪させてほしい」

 アニータに声を掛けた後、俺にそう言ってくる将軍……。

 う~ん、どうしよう?
 正直なところ行きたくない……。
 アニータはともかく、今や王国の軍人の類には、何をされるか分からない不信感がある。
 出来れば、この場で解放して、もう放っておいてほしいんだが……。

「ワイルズ将軍、ジロウは今釈放されたばかりなのよ!3日も不当な仕打ちを受けたばかりなのに、この上こちらの都合で引っ張り回してどうするの!?」

「無論、承知しております。故に先ず、私の権限で軍の治癒術師による最大限の治療を彼に受けてもらおうと考えております。また、必要に応じて静養の為の客室、食事など、最大限の賠償も手配する心積りです」

「あ……うぅん、それは、確かに……でも……うぅぅん……ジロウ、どうかしら?」

「どう、と言われても……」

「ジロウは何も気にしなくていいの!望みを言って。私は貴方の意思を尊重するわ」

 アニータにそうまで言われると、逆に断るのが悪い気がしてくる……。
 アニータが悪い訳ではない、俺の染みついた悪癖だ……相手に悪いと思うと断りきれないという……。

 くそぉ、どうする……?
 どうするのがいい……?

「ジロウさん、参考までにお伝えしますが」

 フラン支部長?

「このワイルズ将軍は信用してもいいと思いますよ。強かではありますが、卑劣な男ではありません。悪いようにはしないでしょう」

「はぁ……」

「それに、貴方が行くと言うのなら、私も同行し、また不当な扱いを受ける事のない様に監視しましょう」

 む、フラン支部長が来てくれるなら、一定心強いな。

「言葉に棘を感じるが、私は一向に構わんし、謝罪する側の立場も弁えているつもりだ。アニータ殿下も言われた事だが、冒険者ジロウ・ハセガワ、君の意思を尊重する」

 ワイルズ将軍が、俺を正面から見据えて言った。
 俺に人を見抜く目なんて大層なものはないから、将軍の心中なんて分からないが、ここまで言うのなら受けてもいいかと思えてきた。

「……分かりました。伺います」

「感謝する」



 こうして俺は、牢屋から一転、王城に向かう事になった――。

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