我慢を止めた男の話

DAIMON

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第三十三話『酒が美味い』

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「それでは、私はここで失礼します。ジロウさん、気分が回復したら一度ギルドまで来てください。依頼の報酬をお渡ししたいので」

 王城を出て少し大きな通りに出たところで、フラン支部長と別れた。

「やれやれ、やっと終わったわねえ。ジロウはこれからどうするの?アタシはちょっと買い物行きたいんだけど」

「流石にこれから何かする気にはなれないな……宿に帰って休むよ」

 治療は受けても、疲れた気分までは治っていない……。
 落ち着けるところでちゃんと休みたい。

「そう。じゃあ夕食まで別行動にしましょうか」

「おう」

 軽く手を挙げてキャスも別方向に歩いて行った。

「ふぅ~……」

 一息つけた。
 1人になると気が抜ける。
 張り詰めていた緊張の糸が一気に緩んだ様だ……。
 他人がいると一定気を抜けないのは、ある種の見栄かな?

 って、そんな事どうでもいい。
 変な事考えてないで、早く宿に帰ろう。
 また厄介事に巻き込まれたりしない様に!

 俺は早足で宿に帰った――。

「あ~~、やっと落ち着けたぁ~~」

 3日振りの宿の部屋、取り戻した装備類を外し、身軽になってからベッドに身を投げ出す。
 全力の脱力……言葉にすると変だが、とにかく力を抜く。
 こうしていると、やはり疲れていたんだと実感する……。
 一先ずこのまま寝ちまうか……。

「はぁぁ……」

 脱力したまま目を閉じていると、すぐに眠気がやってくる……。


 ……。


 …………。


 ………………。


「……ぐぅ……ぐが?」

 あれ……?

 俺は、いつの間にか眠りに落ちていたらしい……。
 どのくらい寝ていた?

「んん~~!」

 腕を上げて体を伸ばすと完全に眠気が覚めた。
 頭もスッキリしている。
 どうやら回復した様だ。

 ベッドから起き上がり、木製の窓を開けて外を見る。

「夕方か……」

 空が紅く、薄らと星が見え始めている。
 城を出たのが昼過ぎだから……3・4時間ぐらい寝ていたのか。
 流石に丸一日以上寝ていたという事はないだろう。
 夕食まで~と言っていたから、寝過ごしていたらキャスが起こしに来るだろうし。

 コンコンコン

『――ジロウ~、起きてる~?』

 おっと、噂をすれば――ちょっと違うか?

「ああ、起きてるよ。今出る」

 ドアを開けると、軽装のキャスがいた。

「少し早いけど、夕食行かない?アタシお腹空いちゃってさ」

「ああ、いいぞ」

 昼は豪華過ぎるフルコースを頂いたが、舌と体に馴染む居酒屋メニューが恋しかったところだ。

「今日は俺が奢るよ」

「えっ、マジ?そんなこと言うとアタシ遠慮しないわよ?」

「構わん。丁度が入ったからな」

 ワイルズ将軍からの賠償金、金貨50枚――大金だが、縁起が良いとも思えない金だ。
 こういうものは、景気良く使ってしまうのが良いだろう。

「おー!ジロウったら太っ腹~♪よっしゃあ!今夜は飲みまくるわよー!」

「おいおい、潰れるなよ」

 潰れたら置いていこう……。

「置き去りにしたら殴るわよ?」

「潰れる前提で言うなよ……」

 そんなやり取りをしつつ、宿を出て酒場へ向かった。

「ここよ、ここ」

 キャスに案内された酒場は宿から少し歩いた所にあり、店構えは程々に大きい。
 俺達が夕食や晩酌には少し早いと思った時間なのに、既にガヤガヤ賑わっているから、繁盛店なんだと分かる。

「結構美味しいお酒を置いてるのよ。肴もきっとアンタ好みだと思うわ」

「へえ~」

 キャスの奴、王都初めてとか言ってたのに、よくこんな店知ってるな?
 もしかして、俺が捕まってた3日の間に……あ、いや、フラン支部長の剣の事も含めたら……え~と、依頼を引き受けてダニロさんの所に行って、その日の内に鍛錬が始まって丸一日……それから帰って来て一晩寝て……で、街をブラついてたらあのクソ野郎に襲われて返り討ちにして、顎髭兵士に3日間拘束されてたから……合わせて5日か。
 それだけあれば、キャスくらいフットワークが軽ければ酒場の1軒や2軒見つけられるか。

「ジロウ?どうかした?」

「っ、いや、何でもない。ただ、3日振りに酒が飲めるなぁと思っただけさ」

「お務めご苦労様」

「お務め言うな。冤罪だっつーの」

「んじゃ出所祝いにパーッといきましょー♪」

「人聞きの悪いこと言うな!」

 ケラケラ笑いながら先に中に入るキャス。
 ちくしょう、他人事だと思って揶揄いやがって……!
 奢るの止めようかな?
 それとも、逆に徹底的に酔い潰して置き去りにしてやろうかな……?

 キャスの揶揄いに眉を顰めつつ、俺も酒場に入り、席に着いてサクッと酒と料理を注文する。

「とりあえず麦酒エール!大ジョッキで!あと串焼きと揚げ魚と煮込み!全部塩をうんと効かせてくれ!」

 こうなれば憂さ晴らし、好きなだけ飲んで食ってやる!
 体に悪い?
 知らんなそんな話!

「アタシも麦酒エール!肴は腸詰ソーセージとチーズ盛り合わせと、あと海老のニンニク油煮込み!パンもちょうだい!」

 キャスも注文する。
 腸詰ソーセージか、それもいいな。
 次、注文しよう。

 暫く待つと、ウェイトレスがジョッキと料理の皿を持って来た。

「お待ちどう様ー!」

 待ってましたーってな。

「そんじゃ――」

「やりますか――」

「「乾杯!」」

 ジョッキを軽くぶつけ合い、中身を一気に煽る。

「ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ……ぶはぁ~~!!」

 美味い!!
 つい一気してしまった!

「おーい!麦酒おかわりー!」

「はーい!」

 すかさずおかわりを注文――来るまで料理に取り掛かる。

「くぅ~!塩気が沁みるなぁ~!」

 体に悪そうな背徳の塩味――しかし、それがいい!
 素材の持ち味を活かした上品な味付けのフルコースメニューが悪いとは言わないが、やはり俺はまだこういうジャンクな味が欲しい。

「はい、おかわりお待ちー!」

「おう!ゴッ、ゴッ、ゴッ!」

「おー、今日はグイグイいくわねえ、ジロウ」

「ぶはっ!まあな」

 今日はこの3日を取り戻すつもりで飲む気だからな。

 あ、3日で思い出した。

「ところでキャス、聞きたかったんだが」

「なによ?」

「キャスはどうやって俺が捕まってたのを知ったんだ?」

 仮に宿に戻ってなくても、俺が捕まった事と直接は繋がらないはずだ。
 キャスがわざわざ俺を探した……というのも、どうもしっくり来ない。
 嫌な想像だが、もし万が一、俺が捕まっていた事が街中で触れ回られたりしていたら……流石に恥ずかしくて王都に居られないんだが……。

「ああ、それ?ギルドで聞いたのよ。Aランク冒険者が王国兵士に捕まったらしいって」

 キャスが言うには、他の冒険者やギルドの職員が話していたらしい。
 『王国の兵士がギルドまでやって来た』『ギルド証を出して身許を照会しろと言ってきた』という様な噂話的なものが囁かれているのを聞き、キャスは職員に詳しく聞いて、俺が捕まった事を知ったそうだ。

「そういう事だったのか」

「知った時は流石に焦ったわよ。まさかアンタが逮捕されるなんて思わなかったから。どうしたらいいか分からなくて軽くパニクったしさぁ」

 そう言って腸詰ソーセージを囓り、麦酒エールで流し込むキャス。

 確かに、パーティーを組んだ仲間がいきなり逮捕されたと聞けば焦るよな……俺も同じ立場ならきっとそうなる。

 仲間、か……。
 俺も少し変わったかな?

「……フッ、ゴッ!ゴッ!」

 変な感慨を酒で流して飲み込む。
 何を考えているんだ、俺は……。

 で、話の続きだが――

 キャスは一先ず、ギルドでパニクりながらも、どうするか・どうにかできないかを必死に考えた……。
 その時、フラン支部長がデンゼルから戻り、事情を知ってすぐに城へ向かおうとした目撃――反射的にフラン支部長の前に出て、自分がジロウの仲間である事を話し、同行を申し出て、フラン支部長がそれを承諾――俺が釈放された所で再会、という事だった訳だ。

「……今更かもだが、悪かったな、面倒を掛けちまって」

「いいわよ、別に。でも、まあ、借りだとか思うなら、今度稼ぎの良い依頼を取ってよ。そんで、その分け前の割り増しで手を打つわ」

「……しょーがねーなー、分かったよ」

 なんて事ない、という態度のキャスに、思わず笑ってしまった。
 残りの酒を流し込む。
 全く、酒が美味い日だな!

「おーい!麦酒エールおかわりー!」

 今夜はとことん飲むか――!



 てな訳で――



「ウィ~……」

 気分よく調子良く飲みまくった訳だが、俺は丁度良く酔ったのに対し、キャスは完全に潰れた。
 勘定を払って、潰れたキャスを背負って退店――宿に戻る。

「ほら、キャス。着いたぞー」

「ウ~……ム~……」

 ダメだなこりゃ……起きる気配無し。
 仕方ないのでそのまま運び、キャスを部屋のベッドに寝かせ、一応解毒アンチドーテの魔法を掛けておいた。
 これで明日の朝、起き上がれないほどの二日酔いにはならないだろう。
 俺も部屋に戻る。

「はぁ~、飲んだ飲んだ」

 ベッドに仰向けで寝っ転がると、何とまあ心地よいこと……酔っている事もあって、体が浮遊している様な感じがする。
 今は気持ち良いが、きっと明日の朝になったら、疲れた様な怠い様な感じになるんだろうな。

 だから、というのも変だが、今はこの心地よい感覚のまま寝てしまおう……。

「ふわぁ~~……」

 明日は、フラン支部長を訪ねるかな……。
 色々口添えしてくれた礼を言わないと……。

「…………ぐぅ……」

 あれこれ考えている内に、俺は寝ていたーー。


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