我慢を止めた男の話

DAIMON

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第三十七話『若い2人』

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「くそぉっ!こんにゃろー!!」

「ギシャア!!」

 悲鳴を聞いて駆けつけてみると、袋小路で戦闘が起こっていた。

 片や若い男女の冒険者パーティー……。
 片や剣を持ったリザードマン3体……。

 冒険者の方は見覚えがある。
 ビクスビーのギルド支部でチラッと見かけた、若い冒険者の2人だ。
 運悪くリザードマンどもに遭遇してしまったか……。

「はぁ、はぁ……ちくしょぉ……!」

「はぁ、はぁ……うぅ、どうしよう、ジョージ……」

「諦めるな、リリー!こんな所で死んでたまるもんか!」

 劣勢だな……2人とも怪我をしてボロボロだ。
 男の方が何とか食い下がって耐えているが、このままだとやられてしまう。

「キャス、加勢するぞ」

「はいよ」

 俺とキャスは2人を助けるべく、リザードマンの背後から仕留めに掛かった。

「ふんッ!」

「ギギュッ……!?」

 俺はリザードマンの首を両手で捻り折り――

「よっ」

「ギ……?!」

 キャスはナイフでリザードマンの首をひと刺し――

「ギギッ!?」

 仲間が唐突に殺られて、最後の1匹が動揺した。
 すると――

「だりゃあッ!!」

「ギャアッ!??」

 その隙を突いて、男が剣を手に突進、体当たりの様に全身でぶつかりながらリザードマンの胸に突き刺した。
 剣は背中まで貫通し、リザードマンと男が一緒に倒れ込んだ。

「ギ、ギィィ……ッ!」

「こ、こいつ、まだ……!?」

 倒れたリザードマンが身を捩る。
 痛みに耐えているのか、それとも自分を刺した男に反撃しようとしているのか、緩慢ながら爪を立てて腕を持ち上げている。

 トドメを刺さないと危ないか――と思ったその時。

「ジョージ避けて!」

「ッ!」

 娘の声で跳ねる様に男がリザードマンから飛び退く。

ボォン!!

 その直後、リザードマンの頭が爆発した――娘の持つ杖から撃ち出された火の玉が直撃したのだ。

「「や、やった……!」」

 男と娘の声が重なる。

「「はぁぁ~~……」」

 そして2人揃ってその場にへたれこんだ……。

「……大丈夫か?」

 声を掛けると、また2人揃ってこっちを見てきた。

「ああ……ありがとう、おかげで助かったよ……」

「怪我は?」

「ああ、ポーション持ってる……」

「……ジョージ、ポーションの瓶、割れてる」

「げえ!?マジかよ……!」

 見れば、娘がリュックから割れた小瓶を取り出して困り顔をしていた。
 戦っている最中に身軽にする為に放り捨てたか?
 リザードマンに襲われ、折角買ったポーションも無駄に……災難だな。

「こいつを使え」

 俺は持っていたポーションを2本差し出す。
 すると2人は驚いた顔になる。

「え!?い、いいのかっ、おっちゃん?!」

 聞いてくる男に俺は頷いて見せる。

「ああ、構わない」

「ッサンキュー!恩に着るよ!」

 嬉々とポーションを受け取った男は1本を娘に渡し、2人揃って飲み下す。
 すると、2人の体が僅かに発光し、傷がみるみる塞がっていく。
 流石はファンタジーな薬、元地球人の目から見ると効き目が凄い。

「はぁ~、生き返ったぁ!ホントありがとな、おっちゃん!もうダメかと思ったぜ~」

「ジョージ!ダメだよ、お礼はちゃんとしないと!あのっ、本当に、助けてくれてありがとうございました!」

 娘が居住まいを正して頭を下げてくる。
 男の方は随分とフランクというか、まあ俺は歳の事は気にしないタイプだからおっちゃんと呼ばれても別に構わないし、口調に嫌味も感じないから問題ない。

「気にしなくていい。偶然通り掛かったら声が聞こえたから、来てみただけだからな」

「言っとくけど、アンタ達、この男は特別お人好しだと覚えときなさい。他の冒険者はこんなに優しくないからね」

 と、固い口調で警告するキャスだが、わざわざ注意を促す辺り、人の事は言えないだろう。

「いや、でも本当に助かった。2人が来てくれなかったら、きっと、オレもリリーもアイツらに食われてた。オレはジョージ、ジョージ・アーデン。この恩は忘れねえ。いつか必ず返す!」

「わ、私も忘れません!あ、私、リリー・ボルジャーっていいます」

「俺はジロウ、ジロウ・ハセガワだ。よろしくな」

「キャス・クライトンよ。まっ、よろしくね」

 4人で自己紹介を交わす。

 さて――

「ところで、このリザードマンどうする?」

 倒れたリザードマン3体の死体……ギルドに持ち込めば多少の金にはなるか?

「そうねぇ、嵩張るけど捨てていくのも勿体無いから、一度戻って買い取りに出しましょう。広場に確かギルドの主張買取所があったはずよ」

 キャスも俺と同じ考えの様だ。

「お前らはどうする?」

「え?どうするって?」

 首を傾げる男ーージョージに、俺はリザードマンの1体を指差す。

「そいつはお前らが倒したんだから、お前らの獲物だ。一度外に出て買取に出すなら一緒に行かないか?まだ探索するっていうなら、それはそれで止めないが」

「あ、いや、オレたちも戻るよ!ポーションも無くなっちまったし、正直、ジロウ達が一緒に行ってくれると助かる」

 苦笑い気味に言うジョージ。
 見ればリリーもやや申し訳なさそうに笑っている。

「じゃあ行くか」

 しかし、リザードマンを担いで歩くのは目立ちそうだな……。
 そう思いつつも、他に方法が無いので我慢してリザードマン2体を担ぎ上げ――おっと、キャスが仕留めた方はまだ血が流れている。
 ジョージ達が倒したリザードマンも、焼け焦げているがやはり胸の傷から血が出ているな。
 このまま担ぐと服が汚れる……仕方ない、野営用の毛布で包むか。
 毛布は新調しよう。

「ジョージ、そのまま担ぐと汚れるから、これでリザードマンを包みな」

「おう、サンキュー!」

 ジョージに予備の毛布を渡してから、手早くリザードマンを包んで、改めて担ぎ上げる。

「うお、凄え……!リザードマン2匹を軽々と……!よしっ、オレも!」

 ジョージも自分達が倒したリザードマンを担ごうとする。

「ふんぬッ!」

 重いのか、かなり力んで持ち上げた。
 しかもジョージの方が小柄な所為で、リザードマンの足先と尻尾が地面に付いている。

「……ジョージ、俺が持ってやろうか?」

「ふ、ぐっ……いや、いい!オレだって冒険者っ!自分の獲物くらい、自分で運ばなきゃ……!」

「待ってジョージ!今、強化魔法かけるから」

 そう言うとリリーが、持っていた杖をジョージに向ける。

下位筋力強化レッサーストレングス

「おっ、軽くなった。サンキュー、リリー」

 なるほど、あれは支援魔法か。
 この世界の魔法体系では、自身を強化するのが強化魔法、他人を何かしら強化するのが支援魔法で呼び分けられる。
 難易度の上下は特に無く、適性によって向き不向きが変わるだけだと聞いた。

「じゃあ行くか。キャス、先行して偵察頼む」

「オッケー」

 では移動開始――。

 ジョージ達がリザードマンに襲われていた事から少し警戒したが、戻りの道では何にも、それこそ他の冒険者・探索者にも遭遇せずに外に出れた。

 そして、さっさとリザードマンを買取へ――ダンジョンの入り口からほんの数分歩いた所に設けられた冒険者ギルドの出張買取所に行き、運んできたリザードマンを査定してもらった。

「え~!?1匹たった銅貨5枚~!?」

 不満の声を上げるジョージ。
 買取所の割とマッチョなオッサンギルド職員は、こういう事に慣れているのか肩を竦める。

「仕方ないんだよ。元々、リザードマンはそれほど高値が付く様な魔物じゃない上に、近頃は供給過多で値が下がってるからな」

 聞けば、リザードマンで素材として価値があるのは、革製品の材料になる皮と、飾り物や魔法の触媒などに使える牙ぐらい、肉は硬くて煮ても焼いても食えたものではなくワンチャン出汁が取れるという事もない、内臓も毒にも薬にもならず……解体の手間を考えると、殆ど旨味のない魔物なのだとか。

「文句があるなら、買い取らなくてもいいんだぞ?」

「ちぇ~、分かったよ……」

 ジョージは口を尖らせ不満そうながら、買取額の銅貨5枚を受け取る。

 俺も銀貨1枚を受け取って、買取所を後にした。

「あ~あ、死ぬ思いしたってのにこれっぽっちかぁ……これじゃあポーション代にもなんねえよ」

「仕方ないよ、ジョージ。次、頑張ろう……」

 割に合わない、と肩を落とすジョージとリリー。
 どんな事でも最初から上手くいく事は稀、初めの内は失敗を繰り返して徐々に結果を出せる様になっていくものだ……俺も入社したての頃は分からない事だらけの上に失敗ばかりで、こんな筈じゃなかったって……うっ、頭が……。

「ちょっと、ジロウ?大丈夫?」

「え?」

「いま一瞬、死んだ魚みたいな目してたわよ……?」

「…………大丈夫だ、ちょっと嫌な事を思い出しただけ……」

「……そう、分かった」

 何だか、キャスに気を遣われた……。
 いかんいかん。
 全く、もう何年も昔の事なのに……心の古傷トラウマって、ふとした拍子に疼くから困る……。

 でえいッ!
 止めだ止めだ!
 気分を変えるぞ!!

「ジョージ、リリー」

「うん?何だ?ジロウ」

「俺達は今日はもう上がる。で、良ければ一緒に飯でも食いに行かないか?奢るぞ」

「マジで!?行く行く!」

「ちょっとッ!?もうジョージったら!!このっ!」

ゴン!

 リリーが杖でジョージの頭をシバいた。

「あ痛!?何すんだよリリー!?」

「ジョージはちょっと黙ってなさい!!」

「あ、はい」

 おお、あの威勢の良かったジョージが一瞬で黙らされた。
 リリー、少し気弱なのかと思ったが、きっちりジョージを尻に敷いていたか。

「ジロウさん!」

「あ、はい」

 リリーの雰囲気につい俺まで変な感じの返事をしてしまう。

「奢りだなんて悪いです!ただでさえ命を助けてもらったばかりなのに!貰ってばっかりで私たち何も返せません!」

 リリー、しっかりした娘だ。
 こりゃあ将来、良い嫁さんになりそうだ。
 ジョージ、羨ましい奴め。

 会って間もないのに、何だかこの若い2人が気に入ってしまった自分がいる――。

「助けたのも、奢ると言ったのも、全部俺が勝手した事さ。そんなに重く捉えなくていい。迷惑なら、断ってくれていい」

「あ、いえ、迷惑とかじゃなくて……!」

「リリー。ジロウがこう言ってくれてるんだから、断る方が悪いって」

「だけど……」

 うーん、どうにも唐突過ぎて困らせてしまった様だ。
 俺も少し舞い上がってたかな?

 よくよく考えれば、命を救われたとはいえ会ったばかりのオッサンに「飯奢るぞー」とか言われても、そりゃ反応に困るよな……。

「あー、すまん、2人とも。困らせたみたいだな。今の話は忘れてくれ」

「え、あ……!」

「待ってくれよジロウ!ほらリリー!お前が遠慮し過ぎるからあ!」

「う~、だってえ~」

「ああいや、俺が思い付きで言ったのが悪かったんで――」

「――だあッ!もうッ!喧しいわ!!」

「「「ッ!?」」」

 不意のキャスの一喝に、思わず俺達は揃って言葉を詰まらせた。

「つべこべ言い過ぎなのよアンタらッ!とっとと行くわよ!!黙ってアタシについてらっしゃいッ!!」

「「「あ、はい」」」

 キャスの謎の迫力に逆らえず、俺達は揃って黙って従った……。

 何やってんだ、俺達は……?

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