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レイ編
10 爆売り
しおりを挟むトールは重要事項説明書を取り出して見せながら説明を始めた。
「先ず一番多いのですが、ギルド証を紛失した場合は申し出てください。再発行手数料が掛かりますが街へ移動する際の身分証になりますので必要かと思います」
「気を付けます」
失くさない様にレイはポーチに、ラウラはミスティリングに仕舞った。ラウラの手から突如消えたカードに、トールや、二人を勧誘しようと考えて眺めていた冒険者達は唖然とした。
鞄の一つでも買ってやろう、とレイは無言で決めた。
ハッと思い出した様にトールは咳払いをすると続ける。
「冒険者は一般市民を恐喝したりトラブルを起こした場合は厳重注意または降格になりますので、ラウラさんは大丈夫でしょうが、レイ君は気を付けてください」
「うるせぇ」
「そういう態度が誤解を生むんですよ」
パーティーに加われとしつこい勧誘を無視してトラブルを回避してきたレイは、ソロで討伐専門でやってきた。だがこう見えて昇格試験の一時的なパーティーのリーダーを務めた事があるし、護衛依頼を受けて盗賊団を一網打尽にした事もある。見かけに依らず常識人でカリスマを備えているのであった。
「冒険者が犯罪を犯すとギルド証剥奪の上、二度と登録出来無くなります」
「一ついいですか?」
姿勢良く微笑んで説明を聞いていたラウラは不躾で申し訳無いと思いながらも口を挟む。
「既に登録している人が、何年後かに再登録してギルドカードを作る事は出来るでしょうか」
「お前…」
つまりラウラは将来やって来るだろうレイが冒険者登録出来なくなる事を懸念しているのだと分かった。
自分でも失念していた可能性に良く気付くものだ。
「それは大丈夫だと思います。時々双子の冒険者が登録に来ますが、問題無く登録出来ますし、普通これ迄の経歴を無駄にする人はいないでしょう」
過去に戻って若返った、最高ランクのSから最低ランクのFに登録し直したレイは異常と言われてしまった。
レイは複雑な感情を表に出さない様に真顔で話を聞いていた。
その後もいくつか説明を受けると手続きは終わった。
「そうだ、ギルド口座は作りますか?」
「口座…?」
「あれ?レイも知らないんですか?」
口座と言うとギルドに現金を預ける仕組みなのか。
中に何が入ってるのか全て把握出来てないが、報酬は全部マジックバッグのこのポーチに仕舞っていたし、金銭が尽きた事は無かった。
必要が無かったから知らなかったが、普通は預けるものなのか。
「宵越しの金を持たない阿呆な冒険者が、パーティーリーダーの管理していたお金に手を出して武器防具が買えなくなったと言う、阿呆な悲劇から生まれた現金預入システムですよ。
個人で預けてる人は、万が一亡くなった場合に家族に残すと言う使い方をしてる人もいますし、家を買う為に貯めている人もいます」
トールは呆れた目で遠くを眺めた。それが自分がパーティーリーダーを務めていた時に起きた体験談だったからだ。
「俺は要らないな」
「そうですね。私も自分の分は自分で稼ぎますので不要です」
「そうか。まっ、いつでも作れるし、作りたくなったら申し出てください」
「有難うございます」
手続きを終えて、二人は依頼掲示板で適当に依頼用紙を剝がしていく。
昨日倒した森の魔物の討伐依頼を、最初に混乱していた受付嬢に持って行って手続きすると、買取カウンターに向かった。
「これの解体と買取を頼む」
登録したてのレイがリザードマンをポーチから出す度に、ギルド員は頬を引き攣らせた。
「おら、お前も出せ」
「ふふっ、分かりました」
そしてラウラも隣のカウンターにダークポイズンスパイダーの親を出すと、それを皮切りに大量の子蜘蛛を乗せていった。
「どうしましょう、これ以上乗せられません…」
「床に置け」
「待って待って!ごめん!解体場に直接持って行ってくれるかな!?」
理不尽、と思いながら出した物を回収すると、ギルド員にギルドの裏の建物に案内されてそこで出した。
「討伐依頼は直ぐに報酬を渡せますが、解体は今からするとして買取の支払いは明日でも良いですか?」
「素材は要らねえし良いんじゃねえ」
「私は何かに使うかも知れないのでそれぞれ一体分は欲しいですね」
そして翌日の昼、レイとラウラの姿はギルドにあった。
レイはいつも通り、赤いラインの入った黒いコートを纏い、腰に刀を差したスタイルで。
ラウラは青いラインの入った白いコートを着て、白いシャツに白いパンツ、焦げ茶色のポーチに焦げ茶色のトップブーツと清潔感のある服装にチェンジしていた。
赤い宝石の付いたシルバーネックレスを着け、それを嬉しそうに撫でている。
「有難うございます」
「気に入ったなら何よりだ」
「はい、とても嬉しいです」
工房に頼んでいたラウラの防具が出来たので、昼前に向かい、早速着たのだが以前よりもきらびやかで目立つ服になっていた。
タイやジャボが付いてなく首周りが寂しいとラウラが恥ずかしそうにしていたので、状態異常を無効にするネックレスをレイが渡した。
「貴方には貰ってばかりです」
幸せそうに照れるラウラに、此方まで恥ずかしくなるじゃないかとレイも恥ずかしくて顔を顰める。
幸せな雰囲気全開の二人に、受付嬢のハンナは気まずそうにしながらも咳払いをすると、解体費用を差し引いた買取代金と、ダークポイズンスパイダーの親蜘蛛とリザードマンの一体の素材をラウラに渡した。
「素材はお前が持っておけ」
「分かりました。お金は半分で良いですか?」
「あぁ。それで良い」
良いのか!?
迷宮で一泊して昼帰りをした隣の冒険者達は、誰が倒したか、役割による取り分などで揉めるのが当たり前だったので、信じられない者を見る目でレイ達を凝視した。
Aランクの魔物とCランクの魔物を計百数十体納品したので、金貨銀貨が大量に遣り取りされる。
今日はどうするかと話し合うレイ達に、そう言えば、と副ギルドマスターのトールが声を掛けた。
「3ヶ月後にダヴ殿下が10歳になられるそうで、私もギルドの幹部として王都に行かなければなりません。良かったら二人に指名依頼を出しても良いですか?」
俺はドキッとした。何故このタイミングでそんな話が出たのか…
目を見開いて固まるレイに、何か気付いた様なラウラはレイの袖を引っ張ると微笑みかけた。
「レイ、如何したいですか?」
「俺は…」
正直迷っている。王都に行けば昔の自分に会うかも知れないが、弟の10歳の誕生パーティーで母を目にする事が出来るかも知れない。
もしかしたら関係者に気付かれるかもと思ったが、それはそれで良いかと考える自分もいて答えを出せない。
「明日、返事をしても良いですか?」
「あぁ。それで良いですよ。明後日には出発予定なので良い返事を期待して待ってますね」
無言で怖い顔をしているレイを引っ張って、ラウラは旅館に帰った。
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