女装男子は学校一のイケメンからの溺愛を拒めない

紀本明

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「尊」

 甘く呼ばれて、俺は固まる。

 だって……、それはキスの予感だ。

 頬にやさしく手が添えられ、「こっち見て」と優しい声。

 覚悟を決めて顔をあげれば、120%の色気を漂わせた安定の美男子がこちらを見下ろしていた。透き通った紅茶のような茶色い虹彩に映る俺は、いったいどんな情けない顔をしてるだろうか。

 そんな俺のフクザツな心情なんかお構いなしに、ヤツは、ふっと笑ってやわらかな眼差しと共に俺にキスをした。

「――っ、ん……」

 中条にきつく抱きしめられたまま、唇を重ねる。こみ上げる快感を、どうしたって拒めない。唇を食まれ、舌でなぞるように絡め取られる度に、ぞくぞくと甘いしびれが体を駆け抜けていく。

 膝からくずおれそうになるのを堪えるのがやっとだ。

 ずっとこうしてたい。
 ずっと、中条の香りに包まれて、抱きしめられて、唇を重ねていたい。

 境界などなくなって、溶けて混ざり合えればどれほど心地いいだろうか。そう思うほど、密着する体が、もどかしい。

「尊……、かわいい」

 気づけば、中条の背中に腕を回して抱きついていた俺。声で我に返ってぱっと手を離せば、目の前のイケメンは不服そうに眉を寄せた。

「なんで離すんだよ」
「だ、だって……」

 恥ずかしいからに決まってるだろうが。

 俺は照れを隠すように、中条を押しやって離れる。まだ激しい胸の拍動を抑えながら、飲み物を取りに行くという本来の目的を思い出して踵を返した。
 なのに、後ろから中条に抱きつかれて、動きを封じられてしまう。ずっしりとした重みが肩に乗っかり、耳に中条の髪が触れる。

「は、離せよ」
「やーだ。もうちょっとだけ。せっかく二人きりなんだから」

 二人きり……。なんだか背徳的な響きのセリフが耳元で囁かれて、俺の心臓はまた無駄に早鐘を打つ。一人ドキドキしてる間にも、中条が首元にすり寄ってきた。

「ん……っ、おい、なかじょ……くすぐった――っ」

 ――ちゅっ、と柔らかな湿った感触がうなじに落とされ、ややしてちくっとかすかな痛みを感じた。

 今の、なに?

 不思議に思ったのと恥ずかしいのとで身を捩るも、回された中条の腕のせいで身動きが取れない。その手を剥がそうと試みるが、俺の力じゃびくともしなかった。両腕は脇の下を通って俺のお腹をがっしりとホールドしてやがる。

「ひぁっ!」

 今度は、れろ、と首筋を舌が這う感覚に全身の毛穴が開いてぞわぞわっと鳥肌が立った。

 な、舐められた……⁉

「いい反応」
「なっ……お、お前……今、なにを……」
「ん? マーキング」
「犬じゃないんだからなっ、ひ、人を、舐めるな!」

 やっと解放された俺は、距離を取って威嚇する。

「えー、舐めてるのはキスだって一緒じゃん」
「い、一緒じゃない……、それに汗かいてて汚いだろ」
「じゃぁ風呂上りならいいの?」
「そういう問題じゃない」

 だめだ、埒があかない。
 まだうるさい心臓をなだめるため、俺は「大人しく待っとけよ」と捨て台詞を吐いて部屋から出ていった。


 リビングに降りていくと、母さんに「遅かったじゃない、用意して待ってたのに」と文句を言われ、適当に返事をしてお盆に乗った麦茶をとりあえず飲み干した。

「ふー」

 ようやく落ち着いてきた。
 あいつといると、心臓が疲れる。このままじゃ、俺、早死に確定じゃないか。

 冷蔵庫から麦茶のポットを取り出してついでいると、玄関の開く音がして姉ちゃんの環が帰ってきた。

「ただいまー。あ、尊。ちょうどそこでひよりんに会ったのよー」
「ナイスタイミングだったよね、たまちゃん」
「二人ともお帰り」

 思ったより来るの早かったな……。
 もう少し中条と二人の時間があると思ったのに。

 …………。

 って、ちょっと待てよ、おい。

 俺……、ひよりの到着を残念がってる……?
 いやいやいや、おかしいだろ、そんなの。なんで俺が中条と二人の時間を楽しみになんて……。

 俺とあいつはただの友だちだろ?
 そ、そうだよ、友だちとしてだ!
 家に遊びにくるような友だちなんていままでいなかったから。なんだかんだ嬉しいんだよな。

 うん、そうだ。それだ。
 大丈夫、どこも不純じゃない。

「つか、姉ちゃんいつもより早いじゃん」

 そう聞けば、姉ちゃんは目をきらきらと輝かせて両手に持っていた手提げ袋を持ち上げた。

「佑太朗くん来るんだもん! 似合いそうな生地買ってきたから合わせたくて!」
「あー、そうですか、よかったね」

 姉ちゃんの服飾バカには付き合いきれない。

「早速佑太朗くんを借りるわよ」
「あー俺の部屋にいるから声かければ」

 あっという間に姉ちゃんは二階に消えていった。

「おばさん、今日はお招きありがとー!」
「今日はひよりちゃんの好きなタコライスよー」
「えー! 嬉しい! おばさんのタコライス大好き」

 キャッキャする二人を尻目に俺はとりあえず麦茶を中条に飲ませてやろう、とお盆を手に二階に上がる。上からは姉ちゃんのテンション高めの声が聞こえてきていた。

 中条……、ひよりが来たってわかって喜んでるかな……。
 そりゃ、好きな人が来れば喜ぶよな。
 でも、なんであいつ、ひよりが好きなのに、俺にあんなこと……。

 ついさっきの事がフラッシュバックする。
 首に、感触がまだ残ってるみたいだ。

 俺は……、ひよりの代わりじゃないんだけどな……。

 なんだかひどく悲しい気持ちになった。

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