女装男子は学校一のイケメンからの溺愛を拒めない

紀本明

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 一難去ってまた一難とは、まさにこのことだろう。
 俺は今、自分の置かれている状況に混乱していた。

「はぁ……」

 盛大なため息が耳元で吐かれた上、密着した体からはじわじわと熱が伝わってきて、俺は一体どうすればいいのかわからなかった。

『今日尊んち行っていい?』

 突然、昼休みに中条から送られてきたメッセージに、俺は食い気味に『いいよ』と返す。同じ教室内にいるのに、わざわざスマホでやり取りするなんて、なんだか秘密の関係みたいで無駄にドキドキしてしまった。
 そして放課後、久しぶりに挨拶以外で会話をし、一緒に下校した。当然、クラスメイトはなんだなんだ、と目を丸くして教室から出ていく俺たちに視線を注いでいた。
 そりゃそうだ、この1週間と少しの間、まるでクラスメイト以下の扱いを受けてきたんだから、俺だって訳が分からない。

 ――なんで、ずっと避けてたんだよ。

 そう聞きたいけど、なんとなく聞けないまま家に着いた俺は、部屋に入るなり中条に抱きしめられたのだった。

 そして、思い知る。

 ――ずっと、こうしたかった。

 中条に、触れたくて、触れてほしくて、たまらなかったんだって、思い知った。何日も何日も砂漠の中をさまよってやっとたどり着いたオアシスのような、乾ききった体に水が染みわたるような感覚だった。

 喉から手が出るほど、欲していたんだと、与えられて初めてわかるそれ。

 変わらない中条の匂いに安堵感を覚えつつも、心拍数はどくどくどくと上がっていく。相反する感情がぶつかり合って、忙しい。


『好きな人には触ってもらいたいし、触りたいって思うんだよ』

 あぁ、俺、中条のことが好きなんだ。

 ひよりに言われた言葉と一緒に、自分の気持ちが乾いた体に染みて広がっていった。
 
 好きな人に抱きしめられている。
 ただそれだけで、この上ない幸せを感じる一方で、心の中は複雑だった。

 中条が好きなのは、きっとひよりで、俺はひよりの代わりのようなもの。こうして抱きしめたり、キスしたりするのも全部「俺に」じゃないんだと思うと胸をぎゅっと鷲づかみにされたように苦しくなった。

 誰かの代わりは、もう嫌だ。

 中条への気持ちを自覚した途端、その思いが加速していくのを止められなくて、気づけば中条の胸を両手で押していた。もくもくと膨れ上がる負の感情に心が支配されていく。

 自分に、こんな汚い感情があったなんて知らなかった。

「尊?」

 きっと今、自分はすごくひどい顔をしている。
 嫉妬と欲にまみれた醜い顔だ。

 触れられるのは嬉しいのに、中条が見ているのは自分じゃないという嫉妬。自分だけを見てほしいという欲。代わりでも構わない、と受け入れていたくせに、勝手につらくなって耐えられなくなって拒む、調子のいい態度を取る自分はなんて卑怯だろうか。

 そんな顔、見られたくなくて、覗き込もうとする中条から逃げるように顔を背けた。 

「なん、で……」
「中条……、俺もう誰かの代わりは嫌だ……」

 どうせひよりと付き合ったらお払い箱だから、と言うつもりのなかった言葉を放つ。

「代わりって、どういうこと? 俺、お前のこと誰かの代わりなんて思ったこと一度も――」
「いいよ隠さなくたって、俺知ってるから……、お前がひよりのこと好きだって……ひよりの代わりに俺にこういうことしてくるんだろ?」
「は? ……あー……、そっか……そうだった……」

 そうだった、ってなんだよ。
 俺は傷ついてるのに。大真面目なのに。
 一人で勝手に納得してて、面白くない。

「あのさ、それ尊の思い違いだから」

 中条がそう言いながら、俺の手に指を絡ませてきた。指と指の間にするりと滑り込んでくる中条の指を拒めずに、なすがままになる。

「俺、あいつのこと、恋愛対象に見たこともないよ」
「うそ……」
「ウソじゃない。つか、いつも喧嘩しかしてないじゃん、俺とあいつ」

 だって、それは……喧嘩するほどなんとかって言うし。

「俺に気使ってるとか……」

 俺が、中条に対して罪悪感を持たないようにそう言ってるんじゃないかって勘ぐってしまう。中条は、優しいから。

「――なぁ、どうしたら信じてくれる?」

 ふわりと、中条の香りに包まれる。絡めた指はそのままに、また抱きしめられた。中条の腕の中は、苦しいけど、ツラいけど、たまらなく嬉しい。信じてほしいと懇願する中条がウソを言っているようにも思えなくて、俺は中条の肩に頭をこてん、と押し当てた。


「……信じるよ」
「ホント?」
「うん」
「尊は代わりなんかじゃないからな」
「うん」

 さっきまでの不安が噓みたいに消えていく。
 俺って、単純だな……。
 なんて思ってると、抱きしめる腕に力が込められてより体が密着する。もう片方の絡めたままの手は、指をすりすりと上下させたり親指で掌をくすぐったりと弄ばれていた。

「この一週間、尊に触れられなくてマジで地獄だった」

 そんなことを言いながら俺の頭に頬をすり寄せたかと思えば、くんくんと匂いまで嗅ぎ出した。とっさに離れれば、眉間に皺を寄せた不満げなイケメンと目が合う。

「汗かいてるからやめろ」

 さすがに頭の匂いを嗅がれるのは、抵抗が……。

「良い匂いだから大丈夫」
「いや、そういう問題じゃない……」
「尊欠乏症だから」
「なにそれ」
「俺の中の尊が足りてないの」
「……つーか、避けてたのはお前だろ」

 そうだ、ひよりに告白されたつぎの日から避けられて、もう嫌われたんじゃないかと怖かったのに……。

「まぁ、それはそうなんだけど……俺だって好きで避けてたわけじゃないから」
「……」

 よくわからないけど、中条が話を濁すのは珍しい気がして、なんとなくそれ以上深追いするのは躊躇われた。
 それに、俺にも非はあったわけだから、強くは出れない。

「俺、一人で勘違いしてて……その、色々ごめん」
「俺とイノシシ女のこと?」
「そう、二人が両想いだと思って、くっつけようとしてた……」

 今思えば、恥ずかしい話だ。これじゃまるでピエロだ。

「もういーよ。終わったことだし。それより、今めちゃくちゃキスしたい。キスさせて」
「なっ……」

 そんな恥ずかしいこと、いちいち聞いてこないでほしい……。どうせヤダって言ってもするんだし。

 あぁ、でも、もうあれこれ考えずに済むんだ。
 罪悪感を持たなくて良いんだ……。

 そう思ったらすっげー気が楽になって、近づいてくる中条を俺は拒むどころか心待ちにして目を瞑ったのに……。

 全然来なくて目を開ければ、またしても眉間に皺を寄せて考え込むイケメンの度アップが視界いっぱいに入る。

 え、キスするんじゃないの?
 目を瞑って待ってたのが恥ずかしくて、顔に熱が集中する。
 そんな俺なんか、目に入ってないのかなんなのか、中条は渋い顔のまま口を開いた。


「――なぁ、尊からキスして」
「……は?」


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