世界最強の俺は正体を明かさない ~眠れる獅子のもがれた牙が生えるまで~

ケムケム

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入学式

2 試験

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 「あ~緊張する~私はやるぞー!」

 「アリサうるさい!」

 ここは、雄才帝国学院の試験会場である雄才の校門前だ。皆の緊張とやる気で空気がピリピリしていた。何せここは名門中の名門、例えるならば、北アメリカ大陸のハーバード大学と言った所である。皆この日のために並々ならぬ努力をしてきたに違いない。

 その為、この2人の男女は非常に目立っていた。

 「もう分かったからアリサ黙って! それより受験票の確認とかしてよ」

 「分かったよ~。全く~いつもオリバ優しいのに」

 無理もない。先程の例えで分かる通り、この雄才帝国学院はこの国、大陸だけにとどまらず、世界各地からも人が集まる最難関の魔法学院だ。しかもこの学園の方針は、浪人は留年するものは才能が無いという判断である為、16歳までしか入学が認められていない。
 
 だがどの世界も、やはり権力と政治は密接に結びついており、金と権力による裏口入学は存在する。もっともそれは裏口入学と言うより、貴族専用入試方式と言うべきなのだろうが。

 この世界において、貴族とは、地位とは絶対である。事実は白でも、位が高いものが黒といえば、それは黒になる。泣いて喚こうが、変わることの無い、決して逆らうことは許されない絶対の掟だ。

 その為、やはりこの学院でも貴族は優遇されている。いや、優遇さらざるおえない。それにより合格枠を減らし、学院の質を下げ、一般受験者に高い質を求める要因となっている。そのせいで、一般の者たちの難易度が底上げされてしまった。

 こういった制度が、貴族とそうでない者の軋轢を生んでいる。何とも報われない制度だ。

 「チッ! やかましい、これだから平民は。躾がなっておらん」

 どうやらこの貴族は、アリサの態度が気に食わなかったらしい。

 ふてぶてしい態度通りというか何というか。これまでずっと甘やかされて育ったのだろう、そのお腹は服の上からでも分かるくらいに膨れており、とても動ける体型とは思えない。貴族という地位に溺れ、好き勝手やってきたであろうことは、話さずとも理解できる。

 「いや、待てよ? あの小娘顔だけはいいな。おいお前!」

 取り巻きの1人が答える。

 「そうですね~ 入学式が終わってからなら問題無さそうですね。それまでお待ち頂けますでしょうか? エルドール様」

 配下のこの者は、エルドールと呼ばれた貴族に指示されるまでもなく、既に拉致する算段を立てていた。この手のことには慣れているのだろう。

 権力社会とは、権力を持つ者が持たざる者を虐げる社会。そう言い換えてもいい。これまでの民は何の反抗も出来ず、疑うことさえ許されなかった。ただそれに従うしかなかったのである。そう、これからも………。

 「ふん! 仕方ない。分かった、抜かりなくやれよ。エストリル男爵家の跡取りであるこの私を不快にさせたのだ。躾をせねばならんからな、フハハハハ」

 「ごもっともです。エルドール様のおっしゃる通り」

 エルドールは取り巻き達に煽てられて、気分を良くしながらこれからの事を考えていた。

 「醜いな」

 ボソッ、と誰かが呟いた。もしこれが聞かれていた大変なことになっていただろう。周囲の受験者はそれを悟り、エリックには関わるまいと考える。その為にエリックの半径1mは空間ができる。それを知ってか知らずか、エリックは気にした様子も無く進んでいく。

 (いつの時代になっても変わらないものがある。とは言うが、醜いな…… 人の欲望というものは。それも特に貴族というものは。そのせいで師匠も!)

 「おっと……  思わず力が入ってしまった」

 くしゃくしゃになった受験票に、エリックは何を思ったのだろうか。自分でも整理のつかない感情に動揺していた。

 「始め!」

 カリカリカリカリッ

 試験官の始めの合図に緊張感が一気に高まる。それは殺気と言ってもいいほどだ。試験会場は殺伐としていた。試験官となった者は息を呑んで、試験が早く終わるのをただ願うのだった。

 試験中、思うことはそれぞれだ。


~エルドール~

 ふん、なかなか難しい問題を出すじゃないか。

 コロコロコロ……

 3と。は? ……筆記問題だと……
どれどれ隣は~


~アリサ~

 いける! いけるいける。
これなら……… あれ?詰まったな……

仕方ないな~♪

 コロコロ……

 4ね。


~オルバ~

 カリカリカリ、カリカリカリ………ガリッ!

 やかましい! どいつもこいつもサイコロ振りやがって。まずなんでサイコロを持ってるだよ!


~エリック~

 くだらねぇ~。

 コクッコクッ…………z z Z Z……

 本当にそれぞれだった…………

 「オルバどうだった?」

 「アリサ、サイコロ振る音がうるさかったんだけど」

 この2人は席が隣だったらしい。

 「ごめんごめんって! でもお陰で乗り切れたよ」

 「そこはせめて、僕に勉強を教えてもらったお陰って言ってよ……」

 「あっ!そうだったね。ありがとう、教えてくれて」

 (もうやだ)

 ここが日本であれば、親友のひとりや2人にL○NEで愚痴の一つでもこぼしていただろう。泣き絵文字付きで。

 一次試験終了から1時間位経った頃、校内アナウンスが入った。

 「それではこれより一次試験、筆記学力テストの合格者。並びに二次試験の受験仕様の発表を行います。受験者は校門前までお集まり下さい」

 先程一次試験を行ったばかりばかりではないか、早すぎないか?と普通の人は思うだろう。だがここは泣く子も黙るあの雄才帝国学院。

 ここの受験方式は一次試験で足切り。二次試験の結果次第で合格判定が決まる、という採点方式だ。
 ここの採点は早く、すぐに結果がでる。なぜなら魔道具で採点をするからだ。しかしそれでは、早いのはいいが間違いは起きないのか、と思うかもしれない。
 だかここ雄才帝国学院に、部分点なんてものはない。完全解答以外の答えは有り得ないのだ。だから採点には魔道具で事足りる。

 「あ~緊張するね!」

 相変わらず元気なアリサに、オルバは少し緊張が和らぐ気がした。

 「あった! あったよオルバ。私たち2人とも合格よ」

 思わず抱き合ってしまった2人は、周囲から恨み辛みの視線を向けられる。
 男子からは羨ましさから来る嫉みの視線も含まれていたが。

 すぐにその場を離れた2人は、次の受験会場に向かっていた。

 「あの小娘どもめ、実に不愉快だ!」
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