世界最強の俺は正体を明かさない ~眠れる獅子のもがれた牙が生えるまで~

ケムケム

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誘拐事件

16 素直じゃない

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キーンコーンカーンコーン

 「おはようございます、皆さん!」

 「「「おはようございます。」」」

 ファーゼンとエリックはAクラス。その担任はというと………。

 「レベッカ先生ってやっぱり良いよな」

 「ああ。1度でいいからあの張りのある胸に飛び込みたい!」

 など……、非常に人気である。
 もちろん女子生徒からも人気が高いと付け足しておく。その親しみやすさとルックス、そして何より生徒思いだからだ。

 「そこ、私語は謹んで下さい」

 本当にいい先生だ。年齢の事に触れなければ………。それはファーゼンとエリックだけが知っている禁忌だ。やはり、誰にも触れてはいけないものというのは存在するらしい。

 「それで、以前から話していた通り来週からクラブ活動の体験が始まります」

 「「「イヤッホォォォォォオオオ! 」」」

 ホントやかましいクラスだ。

 「だから静かにして下さい! 説明が出来ません」

 レベッカ先生はしょうがない子たちね、とため息をつきながらも、少し嬉しそうにしている。それはもはやオバチャ…………
 
 ギロォッ!

 ((やべ、睨まれた………))

 「もう入学して一月が経つので、学校生活には慣れてきたと思います。ですが、あまり調子に乗らないようにして下さいね。以上で終わりです」

 「きり~つ」

 締りのない号令だ。Aクラスの学級委員長は少し間延びしている。

 それはそうと、珍しくファーゼンとエリックが席を経っている。その理由は

 「おい、エリック。どの部にするか決めたか?」 

 「まだだ。お前こそ決まったのか?」

 ファーゼンもまだだと言うが、実は2人とも入りたいクラブは決まっている。決まっているというより、入りたいクラブはあるという方が正しい。

 では何故口に出さないのかというと、どちらかが口にするのを待っているのである。なぜなら、基本的に2人とも寂しがり屋であると同時にプライドが高い。だから2人は寂しいから合わせるのではなくて、
 
『入りたい部活が無いから、それじゃお前に合われるわ』
 
 という展開にしたいのだ。入りたいクラブはあるが、同じクラブであればぶっちゃけどこでもいい。それが2人の考えだ。

 だが皮肉なことに、お互いにそう思っているとは気づけていない。気付いているのは周りだけだ。

 クラスで孤立していた2人。入学当初から近付きづらかった2人だが、普段様子を見ていると、実は案外内気なだけだ。シャイボーイであると周りの女子は気付き始めている。実は自分に自信が無いだけで、エリックも女性受けする少し可愛い顔をしている。そんなわけで、ルックスはいい2人だ、あとはきっかけさえあればクラスに打ち解けられるだろう。そこへ1人の女子生徒が声をかける。

 「ねぇねぇ、そこのお2人さん。来週の放課後、一緒にクラブ見学しない?」

 誰かと思えばアリサだ。アリサは若干脳天気気味だが、その親しみやすさとルックスから、クラスでも人気者だ。そんなアリサがなぜ話しかけてきたかというと、

 「アリサちゃん、あの2人とも仲良してあげてくれないかな?」

 「レベッカ先生、あの2人って?」

 「ファーゼンとエリックのことよ。本当はとってもいい子なんだけど……。プライドだけは高くてね~」

 「ハハ。分かる気がします」

 といったやり取りがされていた。いつも2人のオルバも2人とは仲良くしたいと思っていたので、

 「どうかな、4人で行ってみない?」

当の2人は

 「まぁ~そう言うなら、せっかく誘ってくれたんだし。なぁ~」
 (おいファーゼン、断るなよ?)

 「無下にするのも良くないよな」
 (良くやったエリック!)

 めちゃくちゃ浮かれていた………。
 本当に素直じゃない。

 2人はアリサに好意を抱いていた訳ではない。ただ単にクラスメイトと話せたのが嬉しかったのだ。アリサは笑いを堪えながら話を続ける。オリバもその事に気付いているので、後ろを向いて腹を抱えていた。

 (ふ~ん、あの2人とも案外可愛いわね。
でも、あの2人にエルドールの件のことを任せることは出来ないわ)

 「リンネル。分かっていると思うけど、」

 「はい。ですが、良かったですね。」

 「へ? な、何よいきなり。別に私はあの2人を気にしていたなんて……… いえ、何でもありません」

 これ以上は自分を不利にするだけだと思い、アイリーンは口を閉じた。アイリーンは実は甲斐甲斐しいのである。アイリーンには5人の兄弟がいて、上から2番目だ。だからよく下の子の面倒をみていて、困っている人を見ると放っておけない質なのである。

 見た目は凛とした美しさで見る者を虜にするアイリーンだが、長く接しているとそういった一面にも魅力を感じるのだとか。
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