世界最強の俺は正体を明かさない ~眠れる獅子のもがれた牙が生えるまで~

ケムケム

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誘拐事件

24 制圧

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 アリサと別れた5人は、男子寮と貴族寮へと向かう。

 「まだついてきてるわね」

 「その様ですね。やはりアイリーン様を警戒しているされているのかと」

 「まあ無理もないわ。何といっても私の妹を攫ったのですから。余程のバカでない限り私の動きには注意をするわね」

 それから2人は、何事も無かったかのように寮へと入って行く。それを確認も、尾行の者の気配が無くなることは無い。 どうやら暫くは動けそうにない。

 「あれで尾行とは、私たちも舐められたものですね」

 「全くだわ、お粗末にも程があるわ」

 2人をつけていた者は、学生であったためか、技量がかなり拙かった。故に、そんな集団から妹を守れなかったアイリーンは自分を情けなく思っていた。

 (どうして私はこうも無力なの……)

 「アイリーン様、お茶が入りました」

 「頂くわ」

 リンネルが入れる紅茶はなかなかのものだ。それは王家専属の給仕にも引けを取らない。

 「今日もリンネルの紅茶は美味しいわね。でも、いつものとは違うわ。これは何ていうの?」

 「よくお気づきになられましたね。今日はクリッパーという茶葉を使ってみました」

 「いつものウェッジウッドではダメなの?」

 「大した理由はありませんが、おまじないには丁度いいかと。願掛けとも言いますね」

 「願掛け?」

 「はい。それはクリッパーの歴史に関係がありましす。以前安く買い叩かれていましたそうです。ですが、今は比較的善良な取り引き、フェアトレードで取り引きされていると聞きます。それは農家の方々がフェアトレードと勝ち取ったと言えるでしょう。だから今日のような日には、縁起が丁度いいかと。」

 実際にクリッパーはフェアトレードの対象品目となっていることや、オーガニック栽培がされている事で非常に人気が高い。

 「そう」

 アイリーンは一言呟くと、それっきり話さなくなった。ちなみに言うと、2人は怠けている訳では無い。まだ見張りがいて、身動きが取れないので、普段通り過ごして気を落ち着かせているのだ。

 それなら2人は、部屋で少し時が過ぎるのを待った。エリックらも同じように過ごしていた。違うことと言えば、エリックとファーゼンの部屋にオルバもいたことだ。ただ3人とも終始無言であった。

 完全に日が落ちて、時間にして8時半ごろ。見張りがいなくなったのを確認して、5人が一斉に動きだす。

 「いいかオルバ、これからは妙な物音を一切立てるなよ」

 「分かった」

 やはりこの5人の中では、オルバが一番の不安要素だ。何が足りないのかと言うと、技量や経験もそうだが、何より自分に自信が無い。オルバも自分でその事を理解しているので、ファーゼンの忠告に素直に従う。

 5人は揃うと、帝都の裏門へと移動する。草陰に隠れて馬車が来るのを待った。暫くすると、少し妙な物音をたてた馬車がやって来た。恐らくアリサによるものだろう。狭い樽の中に入れられているせいか、恐怖に陥っているみたいだ。

 「でも、ホントにあれで間違いないのですか?急用があればこの時間でも馬車の往来は珍しくありません」

 「その心配はご最もだ。けど大丈夫だ。御者の席にトリンの姿を確認した。確実にこの馬車はアリサを乗せている」

 ファーゼンは皆には隠しているが、本当は魔族であるため夜目が利く。

 「ファーゼン君よく見てるね。魔法かなにか?」

 「それは後でな、今は追うぞ」

 5人は馬車が通り過ぎるのを確認すると、門番を気絶させ、その隙に帝都を脱出する。その間は帝都の門が手薄になってしまうので、アイリーンの部下が代わりを務めた。

 5人は徒歩で馬車を追う。本当ならアイリーンたちも馬車を使いたかったが、それではバレてしまう恐れがあった。それ故仕方なく歩くことにした。だが、ここにいる5人はただの一般人ではない。魔法を極めつつある雄才学院の生徒だ。魔法による補助で数時間の徒歩は何の問題もない。

 気がつけばエルドール男爵家の屋敷についていた。

 「完全に油断しているわね」

 アイリーンの言う通り、屋敷の門以外は警備がザルと言っても過言ではない程だ。恐らく捉えた女で遊んでいるからだろう。門番の会話からもそう裏ずけられる。

 「なんで今日が仕事なんだよ」

 「全くだ。他の連中は今頃楽しんでんだろうな」

 同じ女性としては決して見逃せない会話だ。女性でなくても、オリバからしたら許せるものではない。故に、本当は門番には危害を加える予定では無かったが、この2人の門番には眠ってもらうことにした。強制的に。恐らく目覚めた後も後遺症が残る程には。

 一行屋敷に着いて早々、別れて行動をした。それは屋敷を制圧する班と、アリサの救出をする班で別行動を取るためだ。エリック、ファーゼン、アイリーン、リンネルの4人は屋敷の制圧を担当する。4人は玄関からは入らず、人気の無さそうな部屋から屋敷へと侵入した。だが、屋敷には給仕の女性が数人いるだけで、護衛の者は見当たらない。

 「手薄なのは屋敷周辺だけではないようね。中もスカスカだわ。っと!」

 それでもエルドールの部屋と思わしき部屋の前には護衛らしき2人の男が、ドアの前に立ちはだかっていた。この2人は救出に邪魔になる可能性があるので、無力化させる必要がある。

 「エリックは防音結界を張れ。俺が左をやる。アイリには右はお願い出来るか?」

 「ええ、任せて。リンネルは倒れる男をささえて」

 「はい。私はいつでも行けます」

 「オーケー。行くぜ!」

 エリックの合図とともに、リンネルは駆け出す。リンネルは足音をほとんど立てず、男たちが気づいた時にはもう既に遅かった。アイリーンとファーゼンの簡単な魔法が炸裂し男どもの意識を奪う。男達の呻き声があがるが、防音結界により中に気づかれることは無い。倒れる男たちをリンネルが支えて、この部屋の入口を完全に制圧した。

 「後はオルバ、お前の出番だぞ」
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