世界最強の俺は正体を明かさない ~眠れる獅子のもがれた牙が生えるまで~

ケムケム

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誘拐事件

29 ヒュドラ

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 屋敷に駆けつけた者たちは見る。屋敷を踏み潰しているヒュドラを。

 ヒュドラ、この世界に存在する最強の種族。『龍』だ。竜の上位に位置する、知識を有した種族。ランクは強いものでSS、最低でもSランクに相当する彼らは、漏れ無く災害扱いだ。その中でもヒュドラは強い部類に属する。純粋な戦闘力ならSランク。それだけでも有り得ないのだが、ヒュドラは首の本数の数だけ特殊な能力を有する。その能力の厄介さがSSランクたる所以だ。
 
 だが、それはあくまで言い伝えによる判定だ。そもそも龍との遭遇は一生に1度あればいい方だ。と言われるくらい位希少な存在。逢いたくて逢えるような存在ではないのだ。だから確かな情報があるはずも無い。

 (クソッ。何でこんな所にいるんだよ。無理ゲーかよ)

 「ハハハハハハッ! 伝説上の存在であるヒュドラだ。もはや貴様らに勝ち目はない。大人しく死ねーー!」

 ヒュドラの背に乗ったエルドールが得意げに叫んでいた。
 そこにエルドールの部屋で警備していた者が駆け付けて来る。その全身には酷い傷と火傷を負っていた。

 「すいませんドミニク団長。エルドール様が身辺整理をしたいと言うので、目を離した隙に」

 「チッ。これは軍法会議ものだからな、覚悟しておけ。あとは俺らに任せて避難していろ」

 この国の記録に残っているヒュドラは首が6本。その記録をもとにSSランクとなるっている。しかし、この場現れたヒュドラの首は8本………。

 ファーゼンはこのヒュドラに見覚えがあった。

 「貴様ッ! そのヒュドラはどうやって召喚した」

 エリックは入学試験以来初めてファーゼンの怒声を聞いた。そして、その頭には2つの角を生やして。

 「召喚?なぜ分かるの、ファーゼン……… 貴方まさか」

 アイリーンが振り向ことそこには、立派な2本の角が生えていた。

 魔族は角が生えてるはずなのに何故お前は? その秘密をエリックは1度も聞かなかったが、知っていた。
 
 魔族は戦闘時に頭から硬い角を生やしているため、常にそうだと思われていたが、実際は違う。
  
 犬が牙を隠しているように、普段は髪に隠れるサイズのコブになっているが、いざ戦闘となると、高揚してコブが天を貫くようにそびえる。マナと親和性の高い角を有する魔族は、戦闘において無類の強さを発揮する。

 「伝鳳の崩玉、それをどこで手に入れたのかと聞いている」

 ファーゼンは自分が魔族とバレてしまった事など、気にもとめなかった。いや隠していたことを忘れてしまったのだ。それくらい許せないことだった。何故ならその伝鳳の崩玉はファーゼンの家に代々伝わる家宝。いや呪いと言っても間違いでは無いかもしれない。
 
 それは800年前に、ファーゼンの祖先が多大な犠牲を出してようやく討伐、いや封印することのできた伝説上の生物。封印であるため、再び召喚することが出来る。そのため、力を求めた他部族から、人族から追われる身となってしまったファーゼンの村は、戦いに明け暮れていた。そして5年前、ついにファーゼンの村は討ち取られてしまったのだ。故に伝鳳の崩玉は呪われた宝玉ともとれる。  

 伝鳳の崩玉。それは遥か昔、神時代と呼ばれた頃に作られた遺物(アーティファクト)だ。元々は捕獲用ではなく、生きた魔物を魔石化させるための道具だった。鳳凰、フェニックスと呼ばれるような、最強の幻獣種を魔石化させ、夢の永久機関を作り上げる。そのためのマジックアイテムであった。しかし今では失われた技術で、魔力の抽出すら叶わない。
 故にファーゼンの村では、ヒュドラの封印に多大な犠牲を出してしまったのだ。

 (あ~あ、だからファーゼンを怒らせないようにしたかったのによ。みんなにバレちまったぜクソッ)

 「悪いなエリック、堪えきれなかった」

 ファーゼンを見ると、爪が皮膚に食い込むほど力が込められていた。ファーゼンの持つ剣の柄から流れる赤い血。同じ赤い血が流れていることに、エリックは何故だか安心した。魔族は人間と同じ血が通う仲間だ、と証明出来ると思ったのかもしれない。

 (やっぱり気付いていたか)
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