世界最強の俺は正体を明かさない ~眠れる獅子のもがれた牙が生えるまで~

ケムケム

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初仕事

38 練習?

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 闘技場まで来ると着替えるため、一次別れた。そこの更衣室では、

 「ねぇアリサ」

 「何ですか?」

 「「大人になりましたね」」

アイリーンとリンネルが口を揃えて言った。それはエリックが疑問に思っていた、アリサとオルバの関係のことである。どうやら2人にはバレていたようだ。

 「え、いや、あの………。分かります?」

 「ええ、こう見えても私は公爵家令嬢よ」

 「と、その従者ですよ。」

 と言いつつ、実はただそういう事に人一倍関心が強く、敏感な乙女というだけだ。気づかないはずが無い。
 バレましたか、ハハハ。と苦笑いをするアリサは、この後質問攻めに遭う。あれやこれやと聞いてくる乙女たちの興味は尽きない。ましてやあのアイリーン様だ。話さない訳にもいかず、聞かれたこと全てに答えたアリサは、特訓の前から疲れ切った表情をしていたそうだ。

 時折女子更衣室からは黄色い声が上がっていた。

 そんな状況になっていたの男子更衣室でも同じだ。

 「おいオルバ君? 何抜け駆けしてんだよ」

  ブフォッ!

  オルバはドリンクを盛大にぶちまけた。ファーゼンはやはり目ざとい。オルバは零したドリンクを拭きながら誤魔化す。

  「ファーゼン君、君は何を言ってるのかな。僕には全く理解出来ないな」

  「あ~とぼけるんだ。じゃあ、学院中に触れ回っても『ごめん、僕は一足先に卒業しました。何ていうか天にも昇る気持ち良さでした』…………」

 「ブハハハッ! 誰も感想までは求めてねーよ」

 (こいつアホだ)

 ファーゼンにアホ呼ばわりされるオルバは、少し気の毒だが、実際ファーゼンはそういう所は鋭い。だがエリック違う。

 「2人ともさっきから何言ってんだ? 卒業ってなんだよ、まだ1年だろ? 俺にも分かるように話してくれよ」

 (嘘……だろ(でしょ))

 2人は唖然としてしまう。
 
 それから2人は、教えてくれよ、とせがむエリックに手を焼かされるのだった。

 闘技場に皆が集まると、アリサとオルバは何故か元気が無かった。違う理由でファーゼンもだが。

 闘技場に入って早々、エリックが言った言葉が、

 「女子の皆聞いてくれよ。2人が卒業だとか、意味わかんな会話しててよ、全然教えてくれないんだよ」 

 「ちょっ、バカかお前………」

 ファーゼンが止めに入るが、既に遅かった。

 「な、何を……このバカーーー!」

 アイリーンの魔力を込めた一撃が、エリックの顔にヒットする。クリティカルヒットと言ってもよい。いつもは丁寧な言葉遣いのアイリーンが、はじめ取り乱した。

 ファーゼンは頭を抱えていた。

 「どうすんだよ………この空気」 

 アリサはアリサで、オルバをひたすらボコっていた。

 「バカバカバカ、何で言っちゃうのよ!」

 恥ずかしさからか、顔がリンゴのように赤く、涙目になっていた。

 「アリサは人の事言えませんがね」

 と笑うリンネルだけが、この場で唯一平常運転であった。そんなこともあってか、今日はまともな練習を行うことが出来なかった。

 「はぁ~…… 全く今日は酷い1日だったわ。何なんです? あの無神経さは」

 「そうですね、無神経以前にアホですからね」

 そうだったわね、と笑いながも、アイリーンはアリサを少し羨ましい思った。

 (私もいつかは素敵な男性と………)

 (アイリーン様はエリックのことを考えてるのでしょうか)

 その頃、

「痛って!何であんなに強く殴るんだよアイリは。見ろよ、腫れちなったじゃないか」

 「それはお前が悪い」

 ファーゼンはこの日の初めて、一人部屋を望むのだった。

 (もうコイツとの相部屋…… 嫌だ)
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