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第二章
第10話『不意打ち』
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翌朝、私は部屋の窓から日の光を浴びて目を覚まし、夢見心地だったが空腹には代えられず目を擦りながら食堂へ向かった。提供された食事は部屋に持っていってもいいらしい。食堂に人が多かったことも相まって、部屋で朝食を摂ることにした。折角なのでシェーラから貰った紅茶も淹れて飲んでみた。美味しい。体を動かす前にうってつけの飲み物だ。
ギルドへ向かうと、既にトリッシュが掲示板の前で作業をしていた。どうやら新規の依頼書を貼っているらしい。掲示板から溢れそうなほどに依頼書を貼り終えると、彼女は私に気がついた。
「おはようレイン!朝からギルドに来るなんて、精が出るね!」
「おはよう。トリッシュも元気だね」
「まぁね。私は元気が取り柄だから!」
そんな会話をしつつ、依頼書で継ぎ接ぎに見える掲示板を眺める。依頼内容と報酬金が良さそうなものを選び、多少の準備をしてから街から出る。数時間経って依頼が達成できたら、ギルドへ報告しに行く。
その報告し終えるのが昼頃である。報酬金を受け取り昼食を挟み少し体を息めたら、また依頼を受けにゆく。
そしてその依頼も達成したらギルドに戻り、報酬金を受け取る。それで丁度夕方頃になり、トリッシュと別れて宿屋へ戻る。夕食を食べ、お風呂に入り、日記をつけて、就寝する。
そんな生活を続けて丁度一週間が経った。
いつものようにギルドへ行き、トラッシュと合流して依頼書と睨めっこをして依頼を一つ選んでそれを達成する。
そして昼食を挟み、また依頼を受けに行くところだった。
「これにしようかな」
選んだのは「アロマッシュ」というキノコの採取だ。ギルド繁華街の近くの森に生えており、食材としては勿論、芳香剤や石鹸などの材料にもなるらしい。
「おっけー、じゃあ行こっか!」
トリッシュと共にギルドへ出ると、先日見た馬車が街から出てゆくのが見えた。きっとここでの荷造りを終えて別の街に移動するんだろう。通りの人々も見送りの声を掛けている。
「いってらっしゃーい!」
トリッシュも子どものように声を張り上げて手を大きく振った。
「ねぇトリッシュ。あの馬車はどこへ行くの?」
「ヴェレンって街だよ。ここから東にあるアルガード王国内の街だけど、主に農産業が活発なんだよね」
トリッシュは丁寧に答えてくれた。ヴェレンという街で農作物を収穫し、それをギルドへ届ける…といったところか。街の人々が笑顔て見送りに来ているということはとても重要な仕事なのだろう。魔物が出るこの世界では、馬車一つでも多くの命を背負っているということを改めて認識した。
「さ、私たちも森に行こっか!」
森についた時、私はその薄暗さに驚いた。日の光は出ているのに木漏れ日はどこにも見えない。そのせいかちょっとじめじめしている。確かにキノコが生えていてもおかしくない。
魔女の森に比べて少し空気が重い気がする。どこからでも魔物が襲いかかってきそうな、長く居座ると気が滅入ってしまうような…。これが瘴気というやつか。
「さて、あくまで私は付き添いだからちょっとしか手伝わないけど、レイン、アロマッシュがどんなキノコか分かる?」
トリッシュにそう聞かれて私は首を横に振った。
「おっけー。じゃあまずは一緒に探そっか」
私は頷いて、二人足並みそろえて森の中へ入っていった。
鬱蒼とした森にはまだ見たこともない植物が沢山あった。一個一個分析していったら、それだけで一日を潰せてしまいそうだ。
そうだ、一週間に一日ぐらいは散策する日を設けてもいいのかもしれない。依頼がない分儲けは無いが、その代わり知識はたんと蓄えられる。そうしたら、依頼書を見て何を採取するのか、討伐するのかがより鮮明に分かる。
「おっ、あったあった。これがアロマッシュだよ」
トリッシュが指差すその先に白色のキノコがあった。周りの土や木などの暗い色の中でくっきりと輪郭が見えるほどに浮いていた。
【名称】アロマッシュ
【成分】アロマッシュ
【属性】地
【破損】0%
【効果】-
実際に分析してみると、確かにアロマッシュだとわかる。効果がない、ということは本当に食用とかなんだな、と思った。
ん?そういえば私には分析能力があるのだから、依頼されたものがどういうものなのかは分からなくても、名前さえわかればいいんじゃないだろうか。なんだ、散策する理由が一つ減ってしまった。
いや、それでも散策してみたい。成果がゼロでも探検してみたい。そんな子どものような心が宿っていた。__実際子どもではあるけれど。
それはさておき、キノコと聞かれて少し心配になるのが毒の有無である。特にこんな白くて目立ってしょうがないキノコなら、強力な毒があってもおかしくない。
「毒はないの?」
「大丈夫。でも、生で食べるとお腹を壊しちゃうよ。だから料理に使う場合必ず焼かないといけないんだよ」
へぇ、と私は言いながらキノコをツンツンと触ってみた。半球形の傘は弾力があって面白い。赤ん坊の頬のようだ。
その場にあったアロマッシュを一通り集めてみたが、まだ必要な量には足りていない。もっと歩き回って集めなければならない。
「レインってさ、採取依頼好きだよね」
アロマッシュを見つけては採っている私にトリッシュが話しかけてきた。不思議そうに私を見つめている。この一週間、殆どが採取依頼だった。それ以外は常設依頼。討伐依頼や護衛依頼は請け負ったことがまだない。
「好き…なのかな。わかんない。でも、発見があって楽しいよ」
「へぇ、そうなんだ。私は討伐依頼のほうが好きだからさ。なんか、冒険者ー!って感じするじゃん?」
「あはは、確かに。そろそろ討伐依頼もやってみようかな?」
「うん!いいと思うよ。レイン、結構戦闘も上手いし」
トリッシュに褒められて嬉しかった。採取依頼中にも魔法を使う機会はそこそこあり_まぁ全て氷魔術だったわけだけど_何回見られてもトリッシュは持ち上げてくれた。それが心地よかった。不思議とトリッシュは素直な感想を言ってくれていると思ったからだ。
討伐依頼はそろそろ考えてもいいが、護衛依頼はまだ手を付けられない。というか手を付けたくない。採取や討伐も依頼者という人物は存在するものの、その責任は全て私自身が負うことになる。しかし護衛は実際に目の前に守らなければならない相手がいる。守りながら、戦う。私にはそんな自信がまだなかった。
数時間は経ったか、すでに納入分は手に入っていたが、あればあるだけ困らないだろうと只管アロマッシュを採っていた。
そして転移宝石でギルドに送り、森から出たところだった。日が地平線に触れそうな時刻だ。
「レインもそろそろランクアップの時期かな?」
「本当?」
「多分ね。この一週間見てて依頼を卒なく熟しているし、戦闘も十分にやっていけてるし」
トリッシュの言葉を聞きやる気が出た。今までの依頼はほぼ私個人で達成していて、彼女はあくまでナビゲートのようなものだった。だから一人でも依頼を請け負えるという自信はあった。
うきうきな気分で街を帰ろうとすると前を歩いていたトリッシュが立ち止まった。私もブレーキを掛けて止まる。
どうしたのだろうかと目の前を見ると、男が一人立っていた。冒険者…という割には身なりが汚い。なにより卑しい目をしていた。
周りから足音が聞こえた。見回すと、似たような男たちが計10人いた。何事かと思いトリッシュの顔を窺う。トリッシュはいつになく真剣な面持ちをしている。
「へへっ、女二人でこんなところを歩いてるなんて、ちょっと不用心すぎじゃあねぇか?」
男の一人がゆっくりと抜刀した。それに続いて周りの男達も剣を持つ。
トリッシュは顔色一つ変えずに返答した。
「ご忠告どうも」
「そんなお嬢ちゃん達にゃ、俺達がしっかり躾けてやるよ」
男たちの体勢が変わった。いつでも襲ってきそうな雰囲気だ。トリッシュも腰につけたダガーを手に持った。私も杖を握り直す。
(レイン)
トリッシュは小声で私に話しかけてきた。こちらに顔を向けていない。ずっと男たちの動きを警戒している。私も囁くような声で、どうすればいい、と訊いた。
(こいつらから足で逃げるってのはまず難しい。私は貴女を守りきってみせる。だけど貴女も捕まらないように、自分の身を優先して守って)
私はコクリと頷いた。冒険者になったからには自分の身を自分で守るのは当然のことだ。
今回の相手は魔物ではなく人間である。しかし、ギルド繁華街で人間はいつも見ているのに、魔物を相手にするよりも緊張している。捕まったらどんな扱いをされるか分からない。死ぬよりも辛いかもしれない。そんなことを考えると更に恐怖も込み上げてくる。
大丈夫。やれる。私は自分自身を知るために生きるんだ。そんな自己暗示をかけて心を落ち着かせた。
遂に悪党たちが襲いかかってきた。それに合わせてトリッシュが迎撃する。明らかに悪党たちが使う剣よりも短いダガーでは不利なはずなのに、トリッシュには傷一つない。だが表情は全く変わらず、常に次の相手を見定めている。
トリッシュの剣技に見惚れている場合ではない。私もなんとか加勢しないと。
悪党をそれぞれ分析してみると、体力は皆凡そ1000前後だった。これまで相手にしてきた魔物よりもかなり多い。加えてスキルも二つ三つ持っている。
「…!」
正面から悪党が剣を振り下ろしてきた。大ぶりだったため避けるのは難しくなかったが、一回でもモロに受ければ敗北へ驀地だ。
「<<アイスクアッシュ>>!!」
一人を返り討ちにした。だがここいらの魔物とは違い一発では倒れてくれない。起き上がると今度は別の一人と合図をして二人がかりで襲いかかってきた。
「<<マジック>>!!」
無魔術を唱えると私の周囲に陣が出来上がり襲いかかった悪党二人を吹っ飛ばした。そのときトリッシュが一瞬こちらを見た気がした。
一人は気絶したようだが、もう一人はまだこちらへ向かってくる気だ。一対一ならまず負けないだろう。
「<<アイスクアッシュ>>!!」
氷の礫は向かってきた相手に対し無慈悲にも顔面に直撃する形となった。一週間使ってきたからか、既に杖はぼろぼろだが、なんとかなった。よし、これで__。
「うぉおおおお!」
後ろからの雄叫びに驚き振り向くと、傷だらけの男が今にも私を斬ろうとしていた。しまった、この距離だと__。
「う゛ぁあ゛!」
咄嗟に目を瞑り腕で顔を守ろうとしたとき、喉が潰れるような男の濁声がした。どこも痛みがない。目を開けると目の前にトリッシュの背中が見えた。それから周りを見ると既に取り囲んだ悪党は全員大の字になって倒れていた。私が二人を相手しているときに、八人も…?
「レイン、今からこいつらを縄で縛る。誰も逃げ出さないように見張ってて」
トリッシュの声はいつもより低く感じた。そしてその背中はより頼りになるものだった。反面、いつも笑っていたあの顔をしていないことは見ずとも明らかだった。__少し怖かった。
悪党を全員縄で縛り付けるとトリッシュは何かを取り出してそれを耳に当てた。
「こちら、パトリシア・ローレンツ。アルガード王国の黒い森付近にて悪党を捕らえた。人数は__」
なにやら事務的な会話をしている。携帯電話みたいなものだろうか。そこはかとなくトリッシュを見ていた。
「へへっ、いい気になったもんだ」
縄に縛り付けられた一人の男が口を開く。私はまだ悪足掻きをしてくるのかと身構えた。
「どのみちギルドは大損を食らうだろうよ。今頃うちの親分が馬車を襲ってんだからな」
「…え?」
男の言葉を聞いて驚きの声を漏らした。馬車?今日日私が見た馬車は一つしかない。しかも、それも昼時に見た…。
考えるより先に走り出していた。
「…それから付き添いのレインについてですが…。レイン!?どこへ行くの!?」
トリッシュの呼び声に気づかないまま、既に私はその場からいなくなった。採取で歩き疲れていたことも忘れて、昼に馬車が町を出ていった方角を思い出す。もし悪党の言ってることが本当なら、あの馬車が…。
ギルドへ向かうと、既にトリッシュが掲示板の前で作業をしていた。どうやら新規の依頼書を貼っているらしい。掲示板から溢れそうなほどに依頼書を貼り終えると、彼女は私に気がついた。
「おはようレイン!朝からギルドに来るなんて、精が出るね!」
「おはよう。トリッシュも元気だね」
「まぁね。私は元気が取り柄だから!」
そんな会話をしつつ、依頼書で継ぎ接ぎに見える掲示板を眺める。依頼内容と報酬金が良さそうなものを選び、多少の準備をしてから街から出る。数時間経って依頼が達成できたら、ギルドへ報告しに行く。
その報告し終えるのが昼頃である。報酬金を受け取り昼食を挟み少し体を息めたら、また依頼を受けにゆく。
そしてその依頼も達成したらギルドに戻り、報酬金を受け取る。それで丁度夕方頃になり、トリッシュと別れて宿屋へ戻る。夕食を食べ、お風呂に入り、日記をつけて、就寝する。
そんな生活を続けて丁度一週間が経った。
いつものようにギルドへ行き、トラッシュと合流して依頼書と睨めっこをして依頼を一つ選んでそれを達成する。
そして昼食を挟み、また依頼を受けに行くところだった。
「これにしようかな」
選んだのは「アロマッシュ」というキノコの採取だ。ギルド繁華街の近くの森に生えており、食材としては勿論、芳香剤や石鹸などの材料にもなるらしい。
「おっけー、じゃあ行こっか!」
トリッシュと共にギルドへ出ると、先日見た馬車が街から出てゆくのが見えた。きっとここでの荷造りを終えて別の街に移動するんだろう。通りの人々も見送りの声を掛けている。
「いってらっしゃーい!」
トリッシュも子どものように声を張り上げて手を大きく振った。
「ねぇトリッシュ。あの馬車はどこへ行くの?」
「ヴェレンって街だよ。ここから東にあるアルガード王国内の街だけど、主に農産業が活発なんだよね」
トリッシュは丁寧に答えてくれた。ヴェレンという街で農作物を収穫し、それをギルドへ届ける…といったところか。街の人々が笑顔て見送りに来ているということはとても重要な仕事なのだろう。魔物が出るこの世界では、馬車一つでも多くの命を背負っているということを改めて認識した。
「さ、私たちも森に行こっか!」
森についた時、私はその薄暗さに驚いた。日の光は出ているのに木漏れ日はどこにも見えない。そのせいかちょっとじめじめしている。確かにキノコが生えていてもおかしくない。
魔女の森に比べて少し空気が重い気がする。どこからでも魔物が襲いかかってきそうな、長く居座ると気が滅入ってしまうような…。これが瘴気というやつか。
「さて、あくまで私は付き添いだからちょっとしか手伝わないけど、レイン、アロマッシュがどんなキノコか分かる?」
トリッシュにそう聞かれて私は首を横に振った。
「おっけー。じゃあまずは一緒に探そっか」
私は頷いて、二人足並みそろえて森の中へ入っていった。
鬱蒼とした森にはまだ見たこともない植物が沢山あった。一個一個分析していったら、それだけで一日を潰せてしまいそうだ。
そうだ、一週間に一日ぐらいは散策する日を設けてもいいのかもしれない。依頼がない分儲けは無いが、その代わり知識はたんと蓄えられる。そうしたら、依頼書を見て何を採取するのか、討伐するのかがより鮮明に分かる。
「おっ、あったあった。これがアロマッシュだよ」
トリッシュが指差すその先に白色のキノコがあった。周りの土や木などの暗い色の中でくっきりと輪郭が見えるほどに浮いていた。
【名称】アロマッシュ
【成分】アロマッシュ
【属性】地
【破損】0%
【効果】-
実際に分析してみると、確かにアロマッシュだとわかる。効果がない、ということは本当に食用とかなんだな、と思った。
ん?そういえば私には分析能力があるのだから、依頼されたものがどういうものなのかは分からなくても、名前さえわかればいいんじゃないだろうか。なんだ、散策する理由が一つ減ってしまった。
いや、それでも散策してみたい。成果がゼロでも探検してみたい。そんな子どものような心が宿っていた。__実際子どもではあるけれど。
それはさておき、キノコと聞かれて少し心配になるのが毒の有無である。特にこんな白くて目立ってしょうがないキノコなら、強力な毒があってもおかしくない。
「毒はないの?」
「大丈夫。でも、生で食べるとお腹を壊しちゃうよ。だから料理に使う場合必ず焼かないといけないんだよ」
へぇ、と私は言いながらキノコをツンツンと触ってみた。半球形の傘は弾力があって面白い。赤ん坊の頬のようだ。
その場にあったアロマッシュを一通り集めてみたが、まだ必要な量には足りていない。もっと歩き回って集めなければならない。
「レインってさ、採取依頼好きだよね」
アロマッシュを見つけては採っている私にトリッシュが話しかけてきた。不思議そうに私を見つめている。この一週間、殆どが採取依頼だった。それ以外は常設依頼。討伐依頼や護衛依頼は請け負ったことがまだない。
「好き…なのかな。わかんない。でも、発見があって楽しいよ」
「へぇ、そうなんだ。私は討伐依頼のほうが好きだからさ。なんか、冒険者ー!って感じするじゃん?」
「あはは、確かに。そろそろ討伐依頼もやってみようかな?」
「うん!いいと思うよ。レイン、結構戦闘も上手いし」
トリッシュに褒められて嬉しかった。採取依頼中にも魔法を使う機会はそこそこあり_まぁ全て氷魔術だったわけだけど_何回見られてもトリッシュは持ち上げてくれた。それが心地よかった。不思議とトリッシュは素直な感想を言ってくれていると思ったからだ。
討伐依頼はそろそろ考えてもいいが、護衛依頼はまだ手を付けられない。というか手を付けたくない。採取や討伐も依頼者という人物は存在するものの、その責任は全て私自身が負うことになる。しかし護衛は実際に目の前に守らなければならない相手がいる。守りながら、戦う。私にはそんな自信がまだなかった。
数時間は経ったか、すでに納入分は手に入っていたが、あればあるだけ困らないだろうと只管アロマッシュを採っていた。
そして転移宝石でギルドに送り、森から出たところだった。日が地平線に触れそうな時刻だ。
「レインもそろそろランクアップの時期かな?」
「本当?」
「多分ね。この一週間見てて依頼を卒なく熟しているし、戦闘も十分にやっていけてるし」
トリッシュの言葉を聞きやる気が出た。今までの依頼はほぼ私個人で達成していて、彼女はあくまでナビゲートのようなものだった。だから一人でも依頼を請け負えるという自信はあった。
うきうきな気分で街を帰ろうとすると前を歩いていたトリッシュが立ち止まった。私もブレーキを掛けて止まる。
どうしたのだろうかと目の前を見ると、男が一人立っていた。冒険者…という割には身なりが汚い。なにより卑しい目をしていた。
周りから足音が聞こえた。見回すと、似たような男たちが計10人いた。何事かと思いトリッシュの顔を窺う。トリッシュはいつになく真剣な面持ちをしている。
「へへっ、女二人でこんなところを歩いてるなんて、ちょっと不用心すぎじゃあねぇか?」
男の一人がゆっくりと抜刀した。それに続いて周りの男達も剣を持つ。
トリッシュは顔色一つ変えずに返答した。
「ご忠告どうも」
「そんなお嬢ちゃん達にゃ、俺達がしっかり躾けてやるよ」
男たちの体勢が変わった。いつでも襲ってきそうな雰囲気だ。トリッシュも腰につけたダガーを手に持った。私も杖を握り直す。
(レイン)
トリッシュは小声で私に話しかけてきた。こちらに顔を向けていない。ずっと男たちの動きを警戒している。私も囁くような声で、どうすればいい、と訊いた。
(こいつらから足で逃げるってのはまず難しい。私は貴女を守りきってみせる。だけど貴女も捕まらないように、自分の身を優先して守って)
私はコクリと頷いた。冒険者になったからには自分の身を自分で守るのは当然のことだ。
今回の相手は魔物ではなく人間である。しかし、ギルド繁華街で人間はいつも見ているのに、魔物を相手にするよりも緊張している。捕まったらどんな扱いをされるか分からない。死ぬよりも辛いかもしれない。そんなことを考えると更に恐怖も込み上げてくる。
大丈夫。やれる。私は自分自身を知るために生きるんだ。そんな自己暗示をかけて心を落ち着かせた。
遂に悪党たちが襲いかかってきた。それに合わせてトリッシュが迎撃する。明らかに悪党たちが使う剣よりも短いダガーでは不利なはずなのに、トリッシュには傷一つない。だが表情は全く変わらず、常に次の相手を見定めている。
トリッシュの剣技に見惚れている場合ではない。私もなんとか加勢しないと。
悪党をそれぞれ分析してみると、体力は皆凡そ1000前後だった。これまで相手にしてきた魔物よりもかなり多い。加えてスキルも二つ三つ持っている。
「…!」
正面から悪党が剣を振り下ろしてきた。大ぶりだったため避けるのは難しくなかったが、一回でもモロに受ければ敗北へ驀地だ。
「<<アイスクアッシュ>>!!」
一人を返り討ちにした。だがここいらの魔物とは違い一発では倒れてくれない。起き上がると今度は別の一人と合図をして二人がかりで襲いかかってきた。
「<<マジック>>!!」
無魔術を唱えると私の周囲に陣が出来上がり襲いかかった悪党二人を吹っ飛ばした。そのときトリッシュが一瞬こちらを見た気がした。
一人は気絶したようだが、もう一人はまだこちらへ向かってくる気だ。一対一ならまず負けないだろう。
「<<アイスクアッシュ>>!!」
氷の礫は向かってきた相手に対し無慈悲にも顔面に直撃する形となった。一週間使ってきたからか、既に杖はぼろぼろだが、なんとかなった。よし、これで__。
「うぉおおおお!」
後ろからの雄叫びに驚き振り向くと、傷だらけの男が今にも私を斬ろうとしていた。しまった、この距離だと__。
「う゛ぁあ゛!」
咄嗟に目を瞑り腕で顔を守ろうとしたとき、喉が潰れるような男の濁声がした。どこも痛みがない。目を開けると目の前にトリッシュの背中が見えた。それから周りを見ると既に取り囲んだ悪党は全員大の字になって倒れていた。私が二人を相手しているときに、八人も…?
「レイン、今からこいつらを縄で縛る。誰も逃げ出さないように見張ってて」
トリッシュの声はいつもより低く感じた。そしてその背中はより頼りになるものだった。反面、いつも笑っていたあの顔をしていないことは見ずとも明らかだった。__少し怖かった。
悪党を全員縄で縛り付けるとトリッシュは何かを取り出してそれを耳に当てた。
「こちら、パトリシア・ローレンツ。アルガード王国の黒い森付近にて悪党を捕らえた。人数は__」
なにやら事務的な会話をしている。携帯電話みたいなものだろうか。そこはかとなくトリッシュを見ていた。
「へへっ、いい気になったもんだ」
縄に縛り付けられた一人の男が口を開く。私はまだ悪足掻きをしてくるのかと身構えた。
「どのみちギルドは大損を食らうだろうよ。今頃うちの親分が馬車を襲ってんだからな」
「…え?」
男の言葉を聞いて驚きの声を漏らした。馬車?今日日私が見た馬車は一つしかない。しかも、それも昼時に見た…。
考えるより先に走り出していた。
「…それから付き添いのレインについてですが…。レイン!?どこへ行くの!?」
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