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第三章
第Ex話『目標』
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私の名前はジェイシー。チーム『雷神』の魔法使いです。今は護衛依頼を請けてヴェレン街を旅立ち、再びアルガード王国に帰ろうとしています。
時の流れは早いもので、私たちがヴェレン街に滞在してもうすぐ二ヶ月となる頃です。こんなに早く王都アルガードへ蜻蛉返りするとは思っていませんでした。窓の外の風景はこの間と全く変わりませんが、少し夕方になるのが怖いという感覚が多少あります。
私の右隣にいるアンナとその向かいのポールは、貨物馬車の振動も気にしない面持ちでぐっすり眠っています。私の向かいにいるデニスはというと、左手(デニスからすれば右手)の窓から、高大なパルドニア山脈をずっと眺めていました。
あとは、一つ空間を置いて、アンナとポールの隣にもう二人いました。今回私たちと一緒に護衛依頼を遂行する冒険者なのですが、どちらも目を瞑って佇んでいるので恐いです。でも、私たち以外に誰かがいるという安心感もありました。これも一度失敗したという結果があるからでしょうか。
「ジェイシーは寝ないの?」
乗客車に乗るみんなをちらちらと見ていたからでしょうか、デニスから話しかけてきました。
「うん。眠くないから。デニスは?」
「どっちでもないんだけど、前回のことがあるからかな、なんか身体が休まらないんだよね」
デニスは頭の後ろに腕を回して、困ったように笑いました。丁度デニスも私と同じことを思っていたことに、ふふっと笑ってしまいました。
一昨日レインさんも言っていた、幼馴染だ、という言葉がふと頭に浮かびました。本当に考えが似ることがあるのかもしれません。少し嬉しい気持ちが湧いてきました。
「アンナもポールも暢気だよね。ぐっすりと眠っちゃってさ」
反対に寝ている二人も、寝ている体勢は違えども、安心しきった顔つきで眠っていました。
「でも、二人らしくていいよ」
「…まぁね」
デニスは少し緊張が解けたのか、両肘を膝に乗せて頬杖をしながら二人を見ていました。もしチーム内で位置付けするなら、デニスはお父さんっぽいといつも感じます。たまにみる女性に気障なところは全然違いますけど、いずれにせよ縁の下の力持ちというか、大事なところで頼りになる存在だと思っています。
アンナは姉っぽいなといつも思います。私を引っ張ってくれるところとか、チームを元気づけてくれるところとか、ときどきデニスと喧嘩するところとか、お姉ちゃんっぽいです。
ポールはお兄さんって感じがします。手を引いて私を連れてってくれるというよりも、私がそこへ辿り着くまでずっと待ってくれるイメージです。それで辿り着くと、喜びを分かち合ってくれる存在です。
一人っ子の私からすれば、この三人は家族みたいな存在です。勿論本当の両親も大事ですけど、同じくらいに大事な存在なのです。
「ジェイシー、聞いたよ。レインさんに魔法のアドバイスを色々貰ってたんだって?」
デニスの問いかけに一瞬ドキリとしました。が、その言い方を鑑みたときに、ただ私が魔法を教えてもらっただけで、その理由まではデニスも知らないんだろうと思い、冷静を取り繕いました。
「うん。すごく為になったよ」
レインさんに勇気を出して声をかけてよかったと常々思いました。あの時に声をかけていなければ、私は何もつかめないままただ不安を抱えて過ごしていたでしょうし、レインさんと仲良くなることも、戦いを間近で見ることもなかったでしょう。まだまだ高い壁かもしれませんが、少しはレインさんに近づけたかもしれない、と多少自信を持ち始めていました。
「いいなぁ。僕も教えてもらえばよかった」
「デニスは治癒師だし、魔法使いのレインさんが教えられそうなことは無さそうだけど」
「や、実はね、ちょっと前に街でレインさんを見かけたんだけど、そのときに転んだ子供に治癒術をかけていたんだよ」
「え?そうなの?」
少し意外でした。確かに魔法使いでも治癒術を使える人は一定数いますが、レインさんの年齢で、あれだけの魔法を使えるにも関わらず治癒術まで使えるなんて。
「間違いないよ。あれはレインさんだった。見習いの魔法使いで治癒術まで使えるなんて、すごくない?」
「でもそのくらいの治癒術ならデニスも使えるんじゃ?」
「まぁそうなんだけど。でもね、聞いた話によると、こないだのバルドニア鉱山での緊急依頼、元凶を倒したのが眼帯の少女と白髪の少女だってさ」
「それって、レインさんとあのお友達…?」
「だと思う。友達の方は全然分からないけど、レインさんの方はギルドに入って半年も経ってないらしいじゃん?なのに、ヴァンパイダーの親玉を倒せるって、毒回復の治癒術を持ってるとしか考えらんないよ」
「毒回復ってことは…レベル4ぐらい?」
魔法を使うようになるために知識が必要なのと同じく、治癒術を使うためにはそれ専用の知識が必要になるはずです。治癒術のレベル4となれば、教会の聖職者になれるかもしれないくらいの話です。本当にそうだとしたら、どうして最近ギルドに入会したのでしょうか。そもそもレインさんの年齢でそれほどの魔法を使えるなんて…。
「それを知ったのがさ、昨日だったんだよ。いやぁ、惜しいことしたなぁ」
残念がるデニスを傍らに、少し辺りが暗くなりました。太陽が雲に遮られ日陰となったようです。窓の外を見ると、明るいけれど、雲に隠れて太陽の姿が見えなくなりました。
レインさん…あなたは私が想像する以上に、手の届かない場所にいる人なのですね。
私の思い描いていた壁は、あのパルドニア山脈よりも、雲よりも高い壁だと再認識しました。
時の流れは早いもので、私たちがヴェレン街に滞在してもうすぐ二ヶ月となる頃です。こんなに早く王都アルガードへ蜻蛉返りするとは思っていませんでした。窓の外の風景はこの間と全く変わりませんが、少し夕方になるのが怖いという感覚が多少あります。
私の右隣にいるアンナとその向かいのポールは、貨物馬車の振動も気にしない面持ちでぐっすり眠っています。私の向かいにいるデニスはというと、左手(デニスからすれば右手)の窓から、高大なパルドニア山脈をずっと眺めていました。
あとは、一つ空間を置いて、アンナとポールの隣にもう二人いました。今回私たちと一緒に護衛依頼を遂行する冒険者なのですが、どちらも目を瞑って佇んでいるので恐いです。でも、私たち以外に誰かがいるという安心感もありました。これも一度失敗したという結果があるからでしょうか。
「ジェイシーは寝ないの?」
乗客車に乗るみんなをちらちらと見ていたからでしょうか、デニスから話しかけてきました。
「うん。眠くないから。デニスは?」
「どっちでもないんだけど、前回のことがあるからかな、なんか身体が休まらないんだよね」
デニスは頭の後ろに腕を回して、困ったように笑いました。丁度デニスも私と同じことを思っていたことに、ふふっと笑ってしまいました。
一昨日レインさんも言っていた、幼馴染だ、という言葉がふと頭に浮かびました。本当に考えが似ることがあるのかもしれません。少し嬉しい気持ちが湧いてきました。
「アンナもポールも暢気だよね。ぐっすりと眠っちゃってさ」
反対に寝ている二人も、寝ている体勢は違えども、安心しきった顔つきで眠っていました。
「でも、二人らしくていいよ」
「…まぁね」
デニスは少し緊張が解けたのか、両肘を膝に乗せて頬杖をしながら二人を見ていました。もしチーム内で位置付けするなら、デニスはお父さんっぽいといつも感じます。たまにみる女性に気障なところは全然違いますけど、いずれにせよ縁の下の力持ちというか、大事なところで頼りになる存在だと思っています。
アンナは姉っぽいなといつも思います。私を引っ張ってくれるところとか、チームを元気づけてくれるところとか、ときどきデニスと喧嘩するところとか、お姉ちゃんっぽいです。
ポールはお兄さんって感じがします。手を引いて私を連れてってくれるというよりも、私がそこへ辿り着くまでずっと待ってくれるイメージです。それで辿り着くと、喜びを分かち合ってくれる存在です。
一人っ子の私からすれば、この三人は家族みたいな存在です。勿論本当の両親も大事ですけど、同じくらいに大事な存在なのです。
「ジェイシー、聞いたよ。レインさんに魔法のアドバイスを色々貰ってたんだって?」
デニスの問いかけに一瞬ドキリとしました。が、その言い方を鑑みたときに、ただ私が魔法を教えてもらっただけで、その理由まではデニスも知らないんだろうと思い、冷静を取り繕いました。
「うん。すごく為になったよ」
レインさんに勇気を出して声をかけてよかったと常々思いました。あの時に声をかけていなければ、私は何もつかめないままただ不安を抱えて過ごしていたでしょうし、レインさんと仲良くなることも、戦いを間近で見ることもなかったでしょう。まだまだ高い壁かもしれませんが、少しはレインさんに近づけたかもしれない、と多少自信を持ち始めていました。
「いいなぁ。僕も教えてもらえばよかった」
「デニスは治癒師だし、魔法使いのレインさんが教えられそうなことは無さそうだけど」
「や、実はね、ちょっと前に街でレインさんを見かけたんだけど、そのときに転んだ子供に治癒術をかけていたんだよ」
「え?そうなの?」
少し意外でした。確かに魔法使いでも治癒術を使える人は一定数いますが、レインさんの年齢で、あれだけの魔法を使えるにも関わらず治癒術まで使えるなんて。
「間違いないよ。あれはレインさんだった。見習いの魔法使いで治癒術まで使えるなんて、すごくない?」
「でもそのくらいの治癒術ならデニスも使えるんじゃ?」
「まぁそうなんだけど。でもね、聞いた話によると、こないだのバルドニア鉱山での緊急依頼、元凶を倒したのが眼帯の少女と白髪の少女だってさ」
「それって、レインさんとあのお友達…?」
「だと思う。友達の方は全然分からないけど、レインさんの方はギルドに入って半年も経ってないらしいじゃん?なのに、ヴァンパイダーの親玉を倒せるって、毒回復の治癒術を持ってるとしか考えらんないよ」
「毒回復ってことは…レベル4ぐらい?」
魔法を使うようになるために知識が必要なのと同じく、治癒術を使うためにはそれ専用の知識が必要になるはずです。治癒術のレベル4となれば、教会の聖職者になれるかもしれないくらいの話です。本当にそうだとしたら、どうして最近ギルドに入会したのでしょうか。そもそもレインさんの年齢でそれほどの魔法を使えるなんて…。
「それを知ったのがさ、昨日だったんだよ。いやぁ、惜しいことしたなぁ」
残念がるデニスを傍らに、少し辺りが暗くなりました。太陽が雲に遮られ日陰となったようです。窓の外を見ると、明るいけれど、雲に隠れて太陽の姿が見えなくなりました。
レインさん…あなたは私が想像する以上に、手の届かない場所にいる人なのですね。
私の思い描いていた壁は、あのパルドニア山脈よりも、雲よりも高い壁だと再認識しました。
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