空っぽな彼と空っぽな私

ユン

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どうでもいい。
何もかもがどうでもいい。

何を食べても、何を言われても、何をされても、何も感じない。

だって、感情を持ってしまうと生きていけなかったから。痛いのも、お腹が空くのも感じるから辛くなる。

『なに泣いてるのよ!!!』
泣くと怒られる。涙を枯らした。
『なに笑ってるのよ!!!』
笑うと怒られる。笑わなくなった。
『その気持ち悪い目を向けないで!!』
目を見せると怒られる。目を隠すようになった。

何にも感じないから、全てがどうでも良くなった。ただ機械的に毎日を生きていく日々だった。



そんなモノクロな日々が変わったのは、そう、ある夏のあの日からだった。




「藍ちゃんは何食べたい?」
「何でもいいです」
「じゃあ僕のオススメのメニューにするね」

「これも捨てがたいな…」と呟きながらメニュー表を凝視している、私の目の前に座っている男は、金城右京カネシロウキョウ。私こと藤森藍フジモリアイの1個上で高校3年の先輩だ。

サラサラストレートの黒髪に、同じ人間とは思えない整った顔立ち、右目の下には黒子が1つあり、色気が出ている。

(なるほど、確かにこれは学校1の美男子と言っても過言ではないな)

ぼーっと目の前の彼を見ながら、なぜ私が学校1の美男子とデートすることになったのかを思い出していた。



時は数時間ほど遡り、昼休みのこと。

昼休みが始まるや否や、もはや私の仮眠室となっている生物準備室にいつも通り向かっていた私に、廊下で偶然すれ違った右京が、すれ違いざまに突然言い出したのだ。

「ねえ藍ちゃん、僕と付き合ってみない?」
(誰だこの男。見たことあるような無いような……まあ、どうでもいいか)
「はい、わかりました」
「即答なんだ。まあいいや。じゃあ放課後、教室まで迎えにいくからデートしようね」
「…はい。」


この間、20秒。話したこともない人と爆速で付き合うことになった私。

右京に対して恋愛感情など特に無かったが、基本的に全てのことに対して断る事をしない性分なので、思わず条件反射でOKしてしまった。

ちなみに右京のことは一切知らなかったので、それとなくクラスメイトの里奈に聞いてみて、そこで初めて学校1の美男子であることを知ったのだった。





という経緯で私と右京はカップルになった。
とはいえ、右京の方は(里奈曰く)相当の遊び人らしいので、たぶん1ヶ月経たずして私に飽きて別れるだろう。


「オムライス、美味しい?藍ちゃん」
「はい、美味しいです」
「良かった。沢山食べてね」


(いつまで続くのかわからないけど、タダ飯食べさせてもらえるし、彼の飽きるまで付き合うことにしよう)


人生初のオムライスを食べながら、そんな事を思う私であった。
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