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ver.冷夜
3.語られる伝説と、曖昧な記憶の断片
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見知らぬ宿屋の、簡素なベッドで冷夜は目を覚ました。
昨日の記憶は曖昧で、気がつけばこの村の住人に助けられていた、ということだけを覚えている。
なにこの世界俺の記憶刈り取ってる?
「おはようございます、冷夜様」
部屋に入ってきたのは、 昨日へべれけになるまで酔わされた冷夜を介抱してくれたらしい、 親切な宿の女将だった。彼女の目には、 明白な尊敬の色が宿っている。
「あなたは、本当に 偉大な英雄なのですね!」
突然の言葉に、冷夜は奇妙な顔をした。
「英雄……ですか?」
女将は、目を輝かせながら語り始めた。「ええ! あなたは一人で 巨大な魔物を倒し、 私たちの村を救ってくださったと!」
冷夜は全く身に覚えがなかった。
「あの……何か、勘違いでは……?」
人の褌で相撲を取る予定はない。虎の威を借る気持ちもない。
しかし、女将は首を横に振った。
誰ぞやの功績が誤って伝わっている。
「いいえ!村人たちは皆、 あなたの勇姿を目撃しました! 輝かしい剣技で、魔物を 一瞬のうちに斬り捨てたと!」
(俺、剣なんて持ってたっけ……?)
冷夜の記憶には、 昨日の出来事の断片的な映像しか残っていない。あれこれ終わったあと腰抜けて倒れている自分、心配そうに声をかける村人たち……剣を振るった記憶など、 全くなかった。
その日、村を歩いていると、多くの村人が冷夜に 深いお辞儀をした。
「英雄様!」「 私たちの命の恩人!」
子供たちは、好奇心旺盛な目で冷夜を見つめ、キラキラとした瞳で話しかけてくる。
「英雄様は、どんな凄い技を使うんですか?」
「あの魔物は、本当に一瞬で倒したんですか?」
冷夜は、 彼らの期待に応えられない申し訳なさでいっぱいだった。
「いや、あの……実は、あまり覚えていなくて……」
と正直に答えても、村人たちはそれを謙遜だと受け取るばかりだった。
「なんと謙虚な!」
「 偉大な英雄ほど、自分の功績を語らないものなのです!」
そのうちに、冷夜が過去に成し遂げたという伝説が、村の中で 多様なバリエーションを生み出し始めた。
「冷夜様は、かつて 一人で ドラゴンを退治したことがあるらしい!」
「いやいや、 古代の魔法を操り、 国を救った 偉大な魔法使いの生まれ変わりだという噂もあるぞ!」
「私の祖父は、冷夜様が 悪魔の大軍を 一騎で打ち破ったのを見たと言っていました!」
聞く 伝説はどれも聞き覚えのないもので、冷夜自身も混乱してきた。
(本当に、俺はそんな凄いことをしたことがあるんだろうか……?いや、酔っ払った時になんか言ったのかもしれん)
夜になり、村長が開いた宴で、冷夜は村人たちに囲まれた。皆、彼の過去の武勇伝を聞きたがっている。
「冷夜様、あなたが 悪魔の大軍を打ち破った時の 詳細を教えてください!」
「ドラゴンと戦った時、どんな魔法を使ったのですか!?」
冷夜は言葉に詰まった。何も覚えていないのだから、話せることなど何もない。
覚えてないというか、誰それ状態。この国の英雄譚すら知らんのだが。
「あの……その時のことは、 少し記憶が曖昧で……」
詳細もなにも、言えることなど何もない。というか、自分のごまかしが下手すぎる。
適当にドラゴンの色とか言っとけばよかったか?
そう答えると、村長は 深く頷き、 予期せぬことを言った。
「それも 偉大な英雄の証でしょう!あまりの激戦に、記憶が 部分的に失われているのです!」
なんて都合の良い解釈なんだ……!
感謝感激雨あられ。鼻水までサービスだ。
冷夜は、自分が全く知らない過去の英雄として、この先も生きていかなければならないのかと、 軽い絶望を感じ始めていた。しかし、村人たちの希望に満ちた目を見ていると、 全てを 否定することもできなかった。
(しかし、飯の種は譲れねぇのよな。)
果たして冷夜は、尾ひれがついた伝説を背負いながら、記憶を取り戻すことができるのだろうか?そして、もし記憶が戻った時、彼は本当に英雄だったのだろうか?
へべれけよ来たれ。
昨日の記憶は曖昧で、気がつけばこの村の住人に助けられていた、ということだけを覚えている。
なにこの世界俺の記憶刈り取ってる?
「おはようございます、冷夜様」
部屋に入ってきたのは、 昨日へべれけになるまで酔わされた冷夜を介抱してくれたらしい、 親切な宿の女将だった。彼女の目には、 明白な尊敬の色が宿っている。
「あなたは、本当に 偉大な英雄なのですね!」
突然の言葉に、冷夜は奇妙な顔をした。
「英雄……ですか?」
女将は、目を輝かせながら語り始めた。「ええ! あなたは一人で 巨大な魔物を倒し、 私たちの村を救ってくださったと!」
冷夜は全く身に覚えがなかった。
「あの……何か、勘違いでは……?」
人の褌で相撲を取る予定はない。虎の威を借る気持ちもない。
しかし、女将は首を横に振った。
誰ぞやの功績が誤って伝わっている。
「いいえ!村人たちは皆、 あなたの勇姿を目撃しました! 輝かしい剣技で、魔物を 一瞬のうちに斬り捨てたと!」
(俺、剣なんて持ってたっけ……?)
冷夜の記憶には、 昨日の出来事の断片的な映像しか残っていない。あれこれ終わったあと腰抜けて倒れている自分、心配そうに声をかける村人たち……剣を振るった記憶など、 全くなかった。
その日、村を歩いていると、多くの村人が冷夜に 深いお辞儀をした。
「英雄様!」「 私たちの命の恩人!」
子供たちは、好奇心旺盛な目で冷夜を見つめ、キラキラとした瞳で話しかけてくる。
「英雄様は、どんな凄い技を使うんですか?」
「あの魔物は、本当に一瞬で倒したんですか?」
冷夜は、 彼らの期待に応えられない申し訳なさでいっぱいだった。
「いや、あの……実は、あまり覚えていなくて……」
と正直に答えても、村人たちはそれを謙遜だと受け取るばかりだった。
「なんと謙虚な!」
「 偉大な英雄ほど、自分の功績を語らないものなのです!」
そのうちに、冷夜が過去に成し遂げたという伝説が、村の中で 多様なバリエーションを生み出し始めた。
「冷夜様は、かつて 一人で ドラゴンを退治したことがあるらしい!」
「いやいや、 古代の魔法を操り、 国を救った 偉大な魔法使いの生まれ変わりだという噂もあるぞ!」
「私の祖父は、冷夜様が 悪魔の大軍を 一騎で打ち破ったのを見たと言っていました!」
聞く 伝説はどれも聞き覚えのないもので、冷夜自身も混乱してきた。
(本当に、俺はそんな凄いことをしたことがあるんだろうか……?いや、酔っ払った時になんか言ったのかもしれん)
夜になり、村長が開いた宴で、冷夜は村人たちに囲まれた。皆、彼の過去の武勇伝を聞きたがっている。
「冷夜様、あなたが 悪魔の大軍を打ち破った時の 詳細を教えてください!」
「ドラゴンと戦った時、どんな魔法を使ったのですか!?」
冷夜は言葉に詰まった。何も覚えていないのだから、話せることなど何もない。
覚えてないというか、誰それ状態。この国の英雄譚すら知らんのだが。
「あの……その時のことは、 少し記憶が曖昧で……」
詳細もなにも、言えることなど何もない。というか、自分のごまかしが下手すぎる。
適当にドラゴンの色とか言っとけばよかったか?
そう答えると、村長は 深く頷き、 予期せぬことを言った。
「それも 偉大な英雄の証でしょう!あまりの激戦に、記憶が 部分的に失われているのです!」
なんて都合の良い解釈なんだ……!
感謝感激雨あられ。鼻水までサービスだ。
冷夜は、自分が全く知らない過去の英雄として、この先も生きていかなければならないのかと、 軽い絶望を感じ始めていた。しかし、村人たちの希望に満ちた目を見ていると、 全てを 否定することもできなかった。
(しかし、飯の種は譲れねぇのよな。)
果たして冷夜は、尾ひれがついた伝説を背負いながら、記憶を取り戻すことができるのだろうか?そして、もし記憶が戻った時、彼は本当に英雄だったのだろうか?
へべれけよ来たれ。
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