46 / 55
第三章 非/日常編
手がかり
しおりを挟む大鳥居に向かう道中で遭遇したシノノメから「ツラを貸せ」と凄まれたユメビシとヨミト。
しかし彼女が進もうとする方角は、二人が今しがた通ってきた山道。
つまり本来の目的地とは、真逆にあたる。
戸惑うユメビシをよそに、シノノメをひらりと躱そうとしたヨミトだったが、即座に突き出された彼女の腕に絡め取られ、半ば引きづられように連行されていく。
首元をがっしりとホールドされ、「あ~~~」と情けない声を出すも無抵抗なヨミトの姿に、ユメビシは驚くばかりであった。
それどころか、常に周りを振りまわしている男が反撃出来ないさまに、感動すら覚える始末だ。
ユメビシの中でも早々に『逆らわない方が良い人物』として、シノノメが位置づけられた瞬間である。
そのピンと伸び、堂々とした背中にどこか眩しさを感じながら。
見失わないよう、黙ってついていくことに専念した。
***
「……と、そんな具合でアリマ達に指示は出してある。で、君がそのユメビシ君だったと」
「は、はい」
足を止めず、シノノメは移動しながらここに至る経緯を端的に告げた。
巷で猛威を振るっている、通称人喰い箱の存在。
それを偶然にも入手していたオリィが入島し、よりにもよって俺と接触した反動で吹っ飛び、落としてきてしまったとの事。
これまでの傾向からいくと、箱が人を襲うのは夜のため、被害はまだ出ていないはずなのだとか。
ただ一つ気がかりなのは、チナリの行方が分かっておらず、また箱が落ちてると推測される地点は、彼女がよく通る路地でもあるらしい。
「にしてもあんたがいながら、異変に気づかなかったわけ?」
「すまないね。今の話を聞いて『あぁ、言われてみれば』くらいの違和感さ。ほら彼女達って、職業柄ああいうの多く扱ってるから、気配からじゃ分からないんだよ。枝を隠すなら森の中、みたいにね」
シノノメの僅かに怒気をはらんだ物言いに全く動じないヨミトは、普段と変わらない調子で答える。
この二人を責めてもしょうがないことは、シノノメとて重々分かっていながらも、言わずにはいられない程、彼女から余裕は奪われていた。
そんな自分に嫌気がさし、つい自然に舌を打ってしまうが、ふと、申し訳なさそうに目を伏せている青年の能力に意識を向ける。
(あー、確かトオツグが……なんか言ってたな。なんだっけか? ガッツがあるとか、そんな感じのこと)
広義で捉えればそんな感じだったろうと割り切り、ならば少しでも戦力はあるに限るな、と方針を固めた。
何より、オリィと接触した当事者なら、より正確な場所もわかっているはず。
シノノメ自身、普段は鞠月神社にこもっている為、島への訪問は久方ぶりなのだ。
地図で確認したとはいえ、やはり心許なかったためにヨミトを引っ張ってきた訳だが、戦力としての期待値は野良猫以下。
「ヨミト。あんたはそれ持って傘ザクラへ。こっちの彼は借りて行くから」
シノノメはようやく足を止めると、持っていたを赤いファイルをヨミトに押し付け、空いた手でユメビシの肩を自身の方へ引き寄せた。
前方に広がるのは、分かれ道。
左に進めば傘ザクラに、右に進めば街に出る寸法だ。
「かまわないよ。これは……あぁ、なるほど捜査書類かな」
「そう、アリマ達と共有して。んじゃ、最短で神域を抜けるから、ユメビシはしっかり着いてくること」
自分より少し背の低い青年を見下ろせば、呆気に取られたような丸い瞳と視線が交わる。
最後に一言「行くぞ」と発し、後はひたすら前を見据えて山中を駆けていった。
***
「この通りで間違いないか?」
「……そう、ですけど……」
あれからシノノメは宣言通りに、無駄の一切ない順路で、先刻の大通りまで移動した。
実際は無駄がなさすぎて、かなり無茶な道中を軽やかに乗り越えていくもんだから、着いていく方は生きた心地がしなかったのだ。
そんな肩で息をする俺とは対照的に、彼女は会った時と変わらない凛々しさを保ったまま。
髪の乱れも、汗の一粒も見受けられない。
「ご苦労様、と言ってあげたいけど、仕事はここから。具体的にはどのあたり?」
「あそこの、店……の前で」
「ちょうど、あららぎ通りの手前か……ん? あれは」
店の脇に続く、少し奥まった路地裏で、見覚えのある姿の人影が佇んでいた。
肩より上で切り揃えられた短い髪型の主――ホマロは、シノノメの声に振り返り、少し驚いたような表情を浮かべる。
「二人、一緒だったんですね。シノさんこれ……チナリの物じゃないかって」
ホマロの掌に乗せられていたのは、小さな銀色の花が付いたペンダント。
普段からチナリが肌身離さず身につけている、彼女にとっては命より大事にしている物だ。
しかしこのペンダントの存在は、ごく限られた人物しか認知してない。
「……これをどこで?」
「あそこの植木鉢に、引っかかっていたんです」
――それは不自然だ。
シノノメが即座にそう思えたのは、このペンダントに関する因縁を誰よりも知っているからに他ならない。
チナリ自らこれを手放すことは絶対あり得ない、という確信。
だからこそ考えられる可能性――このペンダントの存在こそが、答えを指し示している。
現場は間違いなくここであり、必ず彼女は近くにいるのだと。
「三人とも、気をつけろ! その周辺、黒い煙が立ちこめてる……!」
ホマロの片耳に付けられた無線機から、アリマの慌てた声が響く。
現地にいる三人よりも早く、その異変に気づいたのは、皮肉にも遠く離れた場所から覗いていた二人。
それもそのはずで、ユメビシ達はすでに、敵の術中にはまっていたのだから――。
現地組の周辺にその異常が浸透するまで、さほど時間はかからなかった。
周囲の景色を不明瞭にするほど濃い煙は、その見た目に反して軽く、甘い香りを漂わせる。
しかし、現状それだけであり、身に迫る危険性は低いように思えていた。
……一名を除いて。
「……二人には、何も聞こえない?」
ポロリとこぼされた問いは、あまりに覇気がなく、まるで独り言のように周囲に溶けていった。
通常時の彼女らしからぬ声音に、ユメビシどころか、ホマロさえも呆気に取られてしまう。
「何か……かすかに引きずる様な音はしますけど」
「そうなのか……? 俺には、全然」
二人の反応を以て、シノノメの抱いた疑問は一つの確信を得た。
なるほど……こうやって捕食対象を誘き寄せていたのか、と。
薄ら笑を浮かべながら、上空を仰ぎ見る。
当然何も見えないが、律儀にも、ほぼ完璧に近い声音が反響し降ってくる。
『……ねえ? どこにいるの、もう一度……会いたい』
急速に心が覚めていく。
今自分にだけ聞こえているこの声は――侮辱に等しい、ただの雑音だ。
『たくさん、謝りたいことがあるの。あの時は言えなかったこと、今なら……』
しかし何より許せないのは、その声を、体のいい餌として勝手に使われたこと。
――心底胸糞悪い。
『×××××、』
「……解釈違いなんだよ。その声の主は、そんな素直な言葉を吐かない。愛情表現のレパートリーが少ないね、お前」
シノノメをターゲットとし、執拗に語りかけていた声の主は、まさかダメ出しされるとは思ってなかったらしく、次の台詞に詰まった。
さらに「もういいよ、黙れ」と拒絶されるとは、夢にも思ってなかったどころか、初めてだったのかもしれない。
明らかに狼狽えている声の発信源に対して、シノノメは畳み掛ける。
「調子に乗って喋りすぎたのが仇になったな? 丸見えなんだよ、バカでかい図体が!」
シノノメが『見えてるぞ』と宣言し視線が交わった瞬間、煙は効力を失ったかの様に薄くなり、彼女が対峙してる『なにか』を明るみにさせた。
それは同時に人喰い箱の正体に直結する。
「グギィャアアアアアアアアア」
――貝だ。
それもユメビシとほぼ同じ高さを誇る、超巨大な図体。
ゴツゴツした表面は岩肌を連想させ、所々筋の様なものが全身に伸びている。
トク、トクと規則的に動いていることからも、恐らくは脈なのだろう。
それはこの奇怪な存在が、生き物であると証拠づけるものとなってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
転職したら陰陽師になりました。〜チートな私は最強の式神を手に入れる!〜
万実
キャラ文芸
う、嘘でしょ。
こんな生き物が、こんな街の真ん中に居ていいの?!
私の目の前に現れたのは二本の角を持つ鬼だった。
バイトを首になった私、雪村深月は新たに見つけた職場『赤星探偵事務所』で面接の約束を取り付ける。
その帰り道に、とんでもない事件に巻き込まれた。
鬼が現れ戦う羽目に。
事務所の職員の拓斗に助けられ、鬼を倒したものの、この人なんであんな怖いのと普通に戦ってんの?
この事務所、表向きは『赤星探偵事務所』で、その実態は『赤星陰陽師事務所』だったことが判明し、私は慄いた。
鬼と戦うなんて絶対にイヤ!怖くて死んじゃいます!
一度は辞めようと思ったその仕事だけど、超絶イケメンの所長が現れ、ミーハーな私は彼につられて働くことに。
はじめは石を投げることしかできなかった私だけど、式神を手に入れ、徐々に陰陽師としての才能が開花していく。
守り守られ
ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師
患者 瀬咲朔
腸疾患・排泄障害・下肢不自由
看護師
ベテラン山添さん
準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん
木島 尚久 真幌の恋人同棲中
WIN5で六億円馬券当てちゃった俺がいろいろ巻き込まれた結果現代社会で無双する!
TB
ファンタジー
小栗東〈おぐりあずま〉 二十九歳 趣味競馬 派遣社員。
その日、負け組な感じの人生を歩んできた俺に神が舞い降りた。
競馬のWIN5を的中させその配当は的中者一名だけの六億円だったのだ。
俺は仕事を辞め、豪華客船での世界一周旅行に旅立った。
その航海中に太平洋上で嵐に巻き込まれ豪華客船は沈没してしまう。
意識を失った俺がつぎに気付いたのは穏やかな海上。
相変わらずの豪華客船の中だった。
しかし、そこは地球では無かった。
魔法の存在する世界、そしてギャンブルが支配をする世界だった。
船の乗客二千名、クルー二百名とともにこの異世界の大陸国家カージノで様々な出来事はあったが、無事に地球に戻る事が出来た。
ただし……人口一億人を超えるカージノ大陸と地球には生存しない魔獣たちも一緒に太平洋のど真ん中へ……
果たして、地球と東の運命はどうなるの?
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる