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第2部 敗北者達の復讐編
第71録 再びマーレ港へ
コソコソと泥棒のように周囲を見回しながら、エリスは再びマーレ港に足を踏み入れた。
そこから素早く店通りの隅にある薬屋に向かう。
念入りに周囲を見回して人影がないのを確認すると、素早くドアを開けた。
「こ、こんにちは……」
エリスが中に入ると棚を整理していたロイトが振り向いて青い目を輝かせる。
「おお、エス!久しぶりだね!元気だったかい!?」
「はい。おかげさまで……」
以前と変わらない態度で接してくれるロイトにエリスはホッと胸を撫でおろした。
それから自分のオレンジの髪と白いローブフードにチラリと目を向けてからオズオズと言う。
「髪色と服を変えたのに、よく私だと……」
「そりゃあ君の手配書を見ちゃったからね――エリス?」
その瞬間、エリスを背中に庇うようにしてベルゼブブが割って入った。
眉をつり上げて、まるで敵対したかのように思い切り睨みつけている。
「って、そんなに怖い顔しないでよ使い魔君⁉
アレキサンドルとエベロスの戦争についてはこっちにも広まってるし!
それにもう君達は追われていないんだろう⁉」
「信用できるか」
「でもロイトさんの言うことは間違ってないから、そんな警戒しなくても……」
エリスが肩をすくめながら言うと、ベルゼブブは明らかに不機嫌な顔で小さく舌打ちして彼女の真横に移動する。
今度はロイトが安堵して大きく息を吐いた。
「あービックリした。
まぁ、追われる心配がなくなっても今みたいに警戒しておくのは良いことだと思うよ」
「驚かせてしまってすみませんでした……」
「いやいや謝ることじゃないよ。君がテオドールであってもなくても、僕は変わらないから」
微笑みながら言うロイトにエリスは複雑な気持ちを抱く。
彼が嘘をついているとは思っていなかった。
しかし知り合った時から自分を疑いもせずに置いてくれたり、
素性が判明した今も深堀しようとしたりしてこないその態度に何か裏があるのではないかと勘ぐってしまう。
そんなエリスの心情に気づいているのかいないのか、ロイトは話題を変えた。
「ああ、そうそう。デジール大陸の貴族達を言い負かしたんだって?
常連さんが興奮気味に知らせに来てくれたんだけど」
「はい。相棒が……。もう広まっているんですね……」
エリスが気まずそうに目をそらして、まだ業を煮やしているベルゼブブの袖を引っ張りながら言う。
「そりゃあもう!みんな、清々したって言ってたよ!
見ていて気持ちよかったって」
「え?」
てっきり非難の言葉をかけられると思っていたエリスは、瞬きを繰り返した。
「デジール大陸の貴族達は最近来始めたんだ。
なんでも、海流のせいでこっちに来れなかったらしくてさ。
それで彼等が威張り散らすものだから、皆不満を抱えててね」
「そういえば……」
エリスは人々がお辞儀をしている時に体が震えている人が多かったのを思い出した。
あれはやはり怒りからきていたものだったらしい。
「でも歯向かったらデジール大陸に連行されるから誰も言えなかったんだよ。
それで使い魔君,「ブタ野郎」って言ったんだって?」
「よくご存知で……」
「ははっ、そりゃあ常連さんが洩れなく教えてくれたからね」
おかしそうに笑うロイトを、エリスは恥ずかしさから少し顔を赤くして眺めていた。
ようやく少し落ち着いたベルゼブブが答える。
「……思ったことを言ったまでだ」
「そう……。
ああ、その貴族達は慌てて帰っていったよ。負けたのがそうとう応えたんだろうね」
ロイトは一息ついて改めてエリスに尋ねた。
「ところで、どうしてエリスはここに来たんだい?
いや、立ち寄ってもらって全然構わないんだけどちょっと気になってさ」
「以前、薬を一緒に作ろうという約束をしていたことを思い出して……。
私の周りも落ち着いてきたので、ちょうど頃合いかと」
エリスの言葉を聞いたロイトはパッと目を輝かせた。
「本当!?じゃあまたしばらくお手伝いさんとして居てくれるってこと!?」
「そのつもりです。ロイトさんの迷惑でなければ」
「迷惑だなんてとんでもない!むしろ万々歳だよ!
ちょっと2階を片付けてくるね!」
言い終わらないうちにロイトは勢いよく立ち上がって上機嫌で2階へ姿を消す。
慌ただしく出ていった彼をエリス達は目を丸くして見送った。
「物置になってるみたいね……」
「そりゃあ使うヤツがいなければそうなるだろ」
そう答えたベルゼブブの声は何故か不機嫌だった。
そこから素早く店通りの隅にある薬屋に向かう。
念入りに周囲を見回して人影がないのを確認すると、素早くドアを開けた。
「こ、こんにちは……」
エリスが中に入ると棚を整理していたロイトが振り向いて青い目を輝かせる。
「おお、エス!久しぶりだね!元気だったかい!?」
「はい。おかげさまで……」
以前と変わらない態度で接してくれるロイトにエリスはホッと胸を撫でおろした。
それから自分のオレンジの髪と白いローブフードにチラリと目を向けてからオズオズと言う。
「髪色と服を変えたのに、よく私だと……」
「そりゃあ君の手配書を見ちゃったからね――エリス?」
その瞬間、エリスを背中に庇うようにしてベルゼブブが割って入った。
眉をつり上げて、まるで敵対したかのように思い切り睨みつけている。
「って、そんなに怖い顔しないでよ使い魔君⁉
アレキサンドルとエベロスの戦争についてはこっちにも広まってるし!
それにもう君達は追われていないんだろう⁉」
「信用できるか」
「でもロイトさんの言うことは間違ってないから、そんな警戒しなくても……」
エリスが肩をすくめながら言うと、ベルゼブブは明らかに不機嫌な顔で小さく舌打ちして彼女の真横に移動する。
今度はロイトが安堵して大きく息を吐いた。
「あービックリした。
まぁ、追われる心配がなくなっても今みたいに警戒しておくのは良いことだと思うよ」
「驚かせてしまってすみませんでした……」
「いやいや謝ることじゃないよ。君がテオドールであってもなくても、僕は変わらないから」
微笑みながら言うロイトにエリスは複雑な気持ちを抱く。
彼が嘘をついているとは思っていなかった。
しかし知り合った時から自分を疑いもせずに置いてくれたり、
素性が判明した今も深堀しようとしたりしてこないその態度に何か裏があるのではないかと勘ぐってしまう。
そんなエリスの心情に気づいているのかいないのか、ロイトは話題を変えた。
「ああ、そうそう。デジール大陸の貴族達を言い負かしたんだって?
常連さんが興奮気味に知らせに来てくれたんだけど」
「はい。相棒が……。もう広まっているんですね……」
エリスが気まずそうに目をそらして、まだ業を煮やしているベルゼブブの袖を引っ張りながら言う。
「そりゃあもう!みんな、清々したって言ってたよ!
見ていて気持ちよかったって」
「え?」
てっきり非難の言葉をかけられると思っていたエリスは、瞬きを繰り返した。
「デジール大陸の貴族達は最近来始めたんだ。
なんでも、海流のせいでこっちに来れなかったらしくてさ。
それで彼等が威張り散らすものだから、皆不満を抱えててね」
「そういえば……」
エリスは人々がお辞儀をしている時に体が震えている人が多かったのを思い出した。
あれはやはり怒りからきていたものだったらしい。
「でも歯向かったらデジール大陸に連行されるから誰も言えなかったんだよ。
それで使い魔君,「ブタ野郎」って言ったんだって?」
「よくご存知で……」
「ははっ、そりゃあ常連さんが洩れなく教えてくれたからね」
おかしそうに笑うロイトを、エリスは恥ずかしさから少し顔を赤くして眺めていた。
ようやく少し落ち着いたベルゼブブが答える。
「……思ったことを言ったまでだ」
「そう……。
ああ、その貴族達は慌てて帰っていったよ。負けたのがそうとう応えたんだろうね」
ロイトは一息ついて改めてエリスに尋ねた。
「ところで、どうしてエリスはここに来たんだい?
いや、立ち寄ってもらって全然構わないんだけどちょっと気になってさ」
「以前、薬を一緒に作ろうという約束をしていたことを思い出して……。
私の周りも落ち着いてきたので、ちょうど頃合いかと」
エリスの言葉を聞いたロイトはパッと目を輝かせた。
「本当!?じゃあまたしばらくお手伝いさんとして居てくれるってこと!?」
「そのつもりです。ロイトさんの迷惑でなければ」
「迷惑だなんてとんでもない!むしろ万々歳だよ!
ちょっと2階を片付けてくるね!」
言い終わらないうちにロイトは勢いよく立ち上がって上機嫌で2階へ姿を消す。
慌ただしく出ていった彼をエリス達は目を丸くして見送った。
「物置になってるみたいね……」
「そりゃあ使うヤツがいなければそうなるだろ」
そう答えたベルゼブブの声は何故か不機嫌だった。
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