13 / 55
すずちゃんのJK生活
第11話 “裏”文芸部、始動
しおりを挟む
放課後のグリフィンチ学園は、夕陽の傾きとともに徐々に静けさを取り戻しつつあった。
けれどその日、文芸部の部室奥にある秘密の通路を抜けた先──裏文芸部の活動拠点では、ただならぬ緊張感が漂っていた。
「……“反応”がある。旧資料棟の地下、奥の倉庫室付近」
モニターを覗き込みながら、黒酒一郎が静かに告げる。手元のタブレットには青白い反応点が点滅していた。
「やっぱり、探索って便利だね~。裏の活動にはもってこいだわ」
呑気そうな口ぶりで椅子に腰掛けているのは乃斗先輩。
だがその視線は、まっすぐ座標を示す地図から一瞬も離れていなかった。
「気配の揺らぎがある……多分、“異能者由来”の反応だと思う。人か、それとも、もっと危険な何かか……」
「旧資料棟って、立入禁止区域なんだよね……?」
私は思わず声を漏らしていた。指先の震えを悟られないように、制服の袖口をぎゅっと握りしめる。
「そう。元々は図書館の倉庫だった場所だよ。古い記録や傷んだ備品が山積みになってて、今はもう使われてない。……でも、妙に“集まりやすい”場所なんだ」
紅葉が、少し苦い顔で答える。
「空気が澱んでるっていうかね。異能ってさ、放っておくと寄り合って濃くなることがあるんだ。……で、そういう場所に“目覚めたばかり”の力が引き寄せられる」
「つまり……そこに“何か”がいるってことか」
「その通り」
真剣な表情の乃斗先輩が、背後の棚からナイフのような装備を取り出す。
それを受け取ったのは、優凜先輩だった。
「初任務だし、準備はちゃんとねー。よーし、やる気出てきたぞ!」
優凜先輩は指を鳴らし、鞄の中から紙の束を引き寄せる。
舞い上がった紙が渦を巻き、中心に光の刃を形成していく。
「紙を素材に作るんだね……すごい」
感嘆の言葉が、自然と口をついて出る。
それぞれの能力が、こんな風に役立つのか。
“探索”で状況を把握し、“造形”で武器を生成し、そして“転移”で接近する。
でも、私は──
「私は……《貪食》。役に立てるのかな……」
小さく、でもはっきりと声に出す。
誰かの能力をサポートするような機能はない。
ただ“喰らう”という本質は、いくら言い換えても、どこかおぞましい。
そのとき、乃斗先輩がそっと肩に手を置いた。
「大丈夫だよ、小鈴ちゃん。ここにいる誰も、君を怖がらない。……少なくとも、俺はね」
その穏やかな言葉に、緊張がほんの少しだけほどけた気がした。
「じゃ、転移で近くまで飛ぼう。地上からだと時間もかかるし、目立つ」
紅葉が右手をかざす。掌に浮かぶ魔法陣のような紋様が光を放ち、床に淡い円が描かれていく。
「いくよ、“裏”文芸部。第一任務、出動だ!」
⸻
次の瞬間、視界が反転し、空気の重さが変わった。
転移先は、鉄と土の匂いが混じる、ひんやりとした地下倉庫だった。
天井の低さが圧迫感を生み、壁には古びた書棚と使われていない備品が積み上がっている。
「ぱんっ」
優凜が指を鳴らすと、紙片がランタンの形を取り、周囲を淡く照らし始めた。
「……びりびりするね」
私は空気の張り詰める感じに、思わず背筋を正す。
床には、教員用IDカードが無造作に落ちていた。
そして──その奥に、“それ”はいた。
「……“異形”が、いる」
黒い影。焦点の合わない瞳。歪んだ肉体。
明らかにヒトではない存在。
異能の暴走、あるいは失敗作。正体は分からなくても、それが“敵”であることだけは明らかだった。
「探索──空間把握、敵の軌道予測」
一郎の目が青く淡く光り、その言葉と共に彼の視線が敵の動きを追う。
「支倉先輩、右側を開けてください。そこが一番脆いです」
「了解。紙刃、穿て!」
鋭い刃が光をまとい、異形の右肩を切り裂く。
霧のような黒い液体が舞い、異形が叫び声のようなうめきを上げる。
「今だ、小鈴ちゃん!」
「……っ、わかった!」
私は一歩前に出る。
内臓の奥で何かが軋むように動き出し、右手に熱がこもる。
私は腕を伸ばし、異形に触れる。
「喰わせて──!」
指先から黒い霧がほとばしり、異形の腕を包む。
それは抵抗もできず、私の中に“取り込まれて”いった。
……生々しい感触はなかった。
けれど、確かに一部が“欠けて”私に流れ込んだ。
「……やった、か……」
異形は崩れ落ち、跡形もなく消滅した。
「完璧だったよ、小鈴ちゃん」
「冷静だったな、一郎。一発目とは思えない」
「ありがとうございます。でも、まだまだ手探りなんね…」
先輩たちの言葉に、小さく頷きながら、私は静かに息を整える。
──これが、“裏文芸部”の初任務。
きっとこの先、もっと強くて恐ろしいものと対峙することになる。
でも、今ならはっきり言える。
「……私、ここにいていいんだね」
自然にこぼれたその言葉に、誰もが黙って頷いた。
⸻
こうして、裏文芸部の初任務は幕を閉じた。
だが、この異形の出現は、序章に過ぎない。
数日後、また新たな“反応”が観測されることになる。
グリフィンチ学園の、誰にも知られていない“裏の戦い”は、静かに幕を開け始めていた──。
けれどその日、文芸部の部室奥にある秘密の通路を抜けた先──裏文芸部の活動拠点では、ただならぬ緊張感が漂っていた。
「……“反応”がある。旧資料棟の地下、奥の倉庫室付近」
モニターを覗き込みながら、黒酒一郎が静かに告げる。手元のタブレットには青白い反応点が点滅していた。
「やっぱり、探索って便利だね~。裏の活動にはもってこいだわ」
呑気そうな口ぶりで椅子に腰掛けているのは乃斗先輩。
だがその視線は、まっすぐ座標を示す地図から一瞬も離れていなかった。
「気配の揺らぎがある……多分、“異能者由来”の反応だと思う。人か、それとも、もっと危険な何かか……」
「旧資料棟って、立入禁止区域なんだよね……?」
私は思わず声を漏らしていた。指先の震えを悟られないように、制服の袖口をぎゅっと握りしめる。
「そう。元々は図書館の倉庫だった場所だよ。古い記録や傷んだ備品が山積みになってて、今はもう使われてない。……でも、妙に“集まりやすい”場所なんだ」
紅葉が、少し苦い顔で答える。
「空気が澱んでるっていうかね。異能ってさ、放っておくと寄り合って濃くなることがあるんだ。……で、そういう場所に“目覚めたばかり”の力が引き寄せられる」
「つまり……そこに“何か”がいるってことか」
「その通り」
真剣な表情の乃斗先輩が、背後の棚からナイフのような装備を取り出す。
それを受け取ったのは、優凜先輩だった。
「初任務だし、準備はちゃんとねー。よーし、やる気出てきたぞ!」
優凜先輩は指を鳴らし、鞄の中から紙の束を引き寄せる。
舞い上がった紙が渦を巻き、中心に光の刃を形成していく。
「紙を素材に作るんだね……すごい」
感嘆の言葉が、自然と口をついて出る。
それぞれの能力が、こんな風に役立つのか。
“探索”で状況を把握し、“造形”で武器を生成し、そして“転移”で接近する。
でも、私は──
「私は……《貪食》。役に立てるのかな……」
小さく、でもはっきりと声に出す。
誰かの能力をサポートするような機能はない。
ただ“喰らう”という本質は、いくら言い換えても、どこかおぞましい。
そのとき、乃斗先輩がそっと肩に手を置いた。
「大丈夫だよ、小鈴ちゃん。ここにいる誰も、君を怖がらない。……少なくとも、俺はね」
その穏やかな言葉に、緊張がほんの少しだけほどけた気がした。
「じゃ、転移で近くまで飛ぼう。地上からだと時間もかかるし、目立つ」
紅葉が右手をかざす。掌に浮かぶ魔法陣のような紋様が光を放ち、床に淡い円が描かれていく。
「いくよ、“裏”文芸部。第一任務、出動だ!」
⸻
次の瞬間、視界が反転し、空気の重さが変わった。
転移先は、鉄と土の匂いが混じる、ひんやりとした地下倉庫だった。
天井の低さが圧迫感を生み、壁には古びた書棚と使われていない備品が積み上がっている。
「ぱんっ」
優凜が指を鳴らすと、紙片がランタンの形を取り、周囲を淡く照らし始めた。
「……びりびりするね」
私は空気の張り詰める感じに、思わず背筋を正す。
床には、教員用IDカードが無造作に落ちていた。
そして──その奥に、“それ”はいた。
「……“異形”が、いる」
黒い影。焦点の合わない瞳。歪んだ肉体。
明らかにヒトではない存在。
異能の暴走、あるいは失敗作。正体は分からなくても、それが“敵”であることだけは明らかだった。
「探索──空間把握、敵の軌道予測」
一郎の目が青く淡く光り、その言葉と共に彼の視線が敵の動きを追う。
「支倉先輩、右側を開けてください。そこが一番脆いです」
「了解。紙刃、穿て!」
鋭い刃が光をまとい、異形の右肩を切り裂く。
霧のような黒い液体が舞い、異形が叫び声のようなうめきを上げる。
「今だ、小鈴ちゃん!」
「……っ、わかった!」
私は一歩前に出る。
内臓の奥で何かが軋むように動き出し、右手に熱がこもる。
私は腕を伸ばし、異形に触れる。
「喰わせて──!」
指先から黒い霧がほとばしり、異形の腕を包む。
それは抵抗もできず、私の中に“取り込まれて”いった。
……生々しい感触はなかった。
けれど、確かに一部が“欠けて”私に流れ込んだ。
「……やった、か……」
異形は崩れ落ち、跡形もなく消滅した。
「完璧だったよ、小鈴ちゃん」
「冷静だったな、一郎。一発目とは思えない」
「ありがとうございます。でも、まだまだ手探りなんね…」
先輩たちの言葉に、小さく頷きながら、私は静かに息を整える。
──これが、“裏文芸部”の初任務。
きっとこの先、もっと強くて恐ろしいものと対峙することになる。
でも、今ならはっきり言える。
「……私、ここにいていいんだね」
自然にこぼれたその言葉に、誰もが黙って頷いた。
⸻
こうして、裏文芸部の初任務は幕を閉じた。
だが、この異形の出現は、序章に過ぎない。
数日後、また新たな“反応”が観測されることになる。
グリフィンチ学園の、誰にも知られていない“裏の戦い”は、静かに幕を開け始めていた──。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる