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すずちゃんのJK生活
第20話 夏空の下の消失点
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「異変が再発してる。しかも、昨日とは別の場所」
一郎の報告に、文芸部部室の空気が一瞬で張り詰めた。
旧商店街とは別の地点──今度は住宅街の外れ、造成予定地の裏山付近。
そこに、新たな“靄”が発生していた。
「消失領域が、拡大してる?」
優凜が地図に印をつけながら眉をひそめる。「ただの迷子結界や異能干渉じゃないわね。これ、根が深いかも」
紅葉も静かに頷く。「昨日のは前座だ。今回は本番。小鈴ちゃん、一郎、優凜さん。動ける?」
「もちろんです」
「準備はできてる」
小鈴の胸は少し高鳴っていた。
恐怖ではなく、確信──昨日の自分より、今日の自分はきっと強い。
──私たちは、裏文芸部。
──誰にも知られず、この学園を、この町を、守る存在。
⸻
問題の現場に着いたのは、昼を過ぎたばかりの時間帯だった。
けれど、裏山の林道はどこか肌寒く、湿った空気が肌に張りつく。
蝉の鳴き声が、まるで結界のように途切れる。
その境界を越えた瞬間、空気が明らかに変わった。
「ここが……中心域」
一郎の声は静かだが、緊張がにじんでいる。
「中に、“固定された異能”がある。誰かが“置いた”んだ。悪意を持って」
紅葉が目を細めた。「観察のためか、あるいは……実験か」
声には冷たさが宿っていた。「いずれにしても、止めなきゃいけない」
草むらをかき分け、奥へ進むと、微かに歪んだ空間が見えてきた。
空気が波打つような現象の中心に、ひとつの人影が立っている。
「誰か……いる?」
しかし、すぐに違和感に気づく。そこに“人”はいるが、“気配”がない。
まるで、人という形をした空虚。
「来る!」
その声と同時に、黒い霧が周囲から吹き上がった。
昨日のものよりも遥かに強く、そして……“意志”を感じる。
「《探索》、発動!」
一郎が能力を解放し、空間の構造を展開する。
青いラインが地面を這い、空間全体に霧の根が張り巡らされているのが見えた。
「広がってる! 結界じゃない、これは異能の“端末”だ! 本体は別にある!」
「なら、端末ごと食べてやる!」
小鈴が前へ。スカートの裾を押さえ、手を前に。《貪食》が光を放ち、唸るように浮かび上がる。
吐息を整え、集中を研ぎ澄ます。鼓動が指先まで響いていた。
「──《貪食》、起動」
球体が巨大な口のような亀裂を生み、霧へと突撃。
すさまじい衝撃波が周囲を震わせ、靄が渦を巻いて吹き飛ぶ。
「今のうちに結界外まで転移するよ! 優凜さん、準備!」
「はいはい、ちょっと待って。装填──武装《対・虚影仕様》、完了!」
優凜の手から放たれたのは、エッジの立った刃のような光。
それが結界の縁を切り裂くと、裂け目の奥に明るい空がのぞいた。
「紅葉、今だ!」
「転移展開──“全員跳躍”!」
その瞬間、世界が白く弾けた。
⸻
気がつけば、小鈴たちは丘の上に立っていた。
見慣れた町並みが、遠くまで広がっている。
何の変哲もない風景なのに、息が整うまでにしばらくかかった。
「……霧も、歪みも、消えてる」
優凜が周囲を見渡しながら、やがて静かに頷く。
「うん、もう残滓もない。完全に処理できた」
小鈴も膝に手をついて、深呼吸する。胸の中に、じわじわと達成感が広がっていく。
「よくやった、小鈴ちゃん。一発で封じられるとは思わなかったよ」
「えっ、あ……はい、ありがとうございます……!」
「ねえねえ、また反応大きくない? ねえ?」
紅葉が横からにやにやと突っついてくる。
「ち、違いますぅぅぅぅ……!」
笑い声が空に響いた。照れながら、けれどその音が心地よかった。
今日も町は、平和だった。
⸻
帰り道。
木々の間から洩れる陽が、道をまだらに照らしている。
山道を抜ける手前、紅葉がぽつりとつぶやいた。
「小鈴ちゃん」
「はい?」
「この活動を続けていく中で、絶対に、楓には何も知られちゃダメだよ」
小鈴は頷く。「……はい、わかってます」
「楓は、“異能”を引き寄せる。無自覚で、無防備で、でも──その中心にあるのは人を信じる力だ」
「……知ってます。だから、守りたいです」
その言葉に、紅葉は満足げに微笑んだ。
「それが、君の“意思”なんだね」
──“意思”が、異能のかたちを決める。
小鈴の中には確かに、“守りたい”という願いがあった。
それは誰かに言われたからでも、役割を与えられたからでもない。
自分の、意志だった。
⸻
その夜。
裏チャットには「事件、解決」とだけ短く報告が流れた。
そのすぐ下に、「明日は黒酒家の別荘!準備忘れずに!」という、明るい通知が重なる。
表と裏。
どちらも、彼らの“日常”。
──けれど、次に訪れる非日常は、思ったよりも騒がしいものになる。
そしてそのとき、小鈴が手にする《意思》は、確かな力となるはずだった。
一郎の報告に、文芸部部室の空気が一瞬で張り詰めた。
旧商店街とは別の地点──今度は住宅街の外れ、造成予定地の裏山付近。
そこに、新たな“靄”が発生していた。
「消失領域が、拡大してる?」
優凜が地図に印をつけながら眉をひそめる。「ただの迷子結界や異能干渉じゃないわね。これ、根が深いかも」
紅葉も静かに頷く。「昨日のは前座だ。今回は本番。小鈴ちゃん、一郎、優凜さん。動ける?」
「もちろんです」
「準備はできてる」
小鈴の胸は少し高鳴っていた。
恐怖ではなく、確信──昨日の自分より、今日の自分はきっと強い。
──私たちは、裏文芸部。
──誰にも知られず、この学園を、この町を、守る存在。
⸻
問題の現場に着いたのは、昼を過ぎたばかりの時間帯だった。
けれど、裏山の林道はどこか肌寒く、湿った空気が肌に張りつく。
蝉の鳴き声が、まるで結界のように途切れる。
その境界を越えた瞬間、空気が明らかに変わった。
「ここが……中心域」
一郎の声は静かだが、緊張がにじんでいる。
「中に、“固定された異能”がある。誰かが“置いた”んだ。悪意を持って」
紅葉が目を細めた。「観察のためか、あるいは……実験か」
声には冷たさが宿っていた。「いずれにしても、止めなきゃいけない」
草むらをかき分け、奥へ進むと、微かに歪んだ空間が見えてきた。
空気が波打つような現象の中心に、ひとつの人影が立っている。
「誰か……いる?」
しかし、すぐに違和感に気づく。そこに“人”はいるが、“気配”がない。
まるで、人という形をした空虚。
「来る!」
その声と同時に、黒い霧が周囲から吹き上がった。
昨日のものよりも遥かに強く、そして……“意志”を感じる。
「《探索》、発動!」
一郎が能力を解放し、空間の構造を展開する。
青いラインが地面を這い、空間全体に霧の根が張り巡らされているのが見えた。
「広がってる! 結界じゃない、これは異能の“端末”だ! 本体は別にある!」
「なら、端末ごと食べてやる!」
小鈴が前へ。スカートの裾を押さえ、手を前に。《貪食》が光を放ち、唸るように浮かび上がる。
吐息を整え、集中を研ぎ澄ます。鼓動が指先まで響いていた。
「──《貪食》、起動」
球体が巨大な口のような亀裂を生み、霧へと突撃。
すさまじい衝撃波が周囲を震わせ、靄が渦を巻いて吹き飛ぶ。
「今のうちに結界外まで転移するよ! 優凜さん、準備!」
「はいはい、ちょっと待って。装填──武装《対・虚影仕様》、完了!」
優凜の手から放たれたのは、エッジの立った刃のような光。
それが結界の縁を切り裂くと、裂け目の奥に明るい空がのぞいた。
「紅葉、今だ!」
「転移展開──“全員跳躍”!」
その瞬間、世界が白く弾けた。
⸻
気がつけば、小鈴たちは丘の上に立っていた。
見慣れた町並みが、遠くまで広がっている。
何の変哲もない風景なのに、息が整うまでにしばらくかかった。
「……霧も、歪みも、消えてる」
優凜が周囲を見渡しながら、やがて静かに頷く。
「うん、もう残滓もない。完全に処理できた」
小鈴も膝に手をついて、深呼吸する。胸の中に、じわじわと達成感が広がっていく。
「よくやった、小鈴ちゃん。一発で封じられるとは思わなかったよ」
「えっ、あ……はい、ありがとうございます……!」
「ねえねえ、また反応大きくない? ねえ?」
紅葉が横からにやにやと突っついてくる。
「ち、違いますぅぅぅぅ……!」
笑い声が空に響いた。照れながら、けれどその音が心地よかった。
今日も町は、平和だった。
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帰り道。
木々の間から洩れる陽が、道をまだらに照らしている。
山道を抜ける手前、紅葉がぽつりとつぶやいた。
「小鈴ちゃん」
「はい?」
「この活動を続けていく中で、絶対に、楓には何も知られちゃダメだよ」
小鈴は頷く。「……はい、わかってます」
「楓は、“異能”を引き寄せる。無自覚で、無防備で、でも──その中心にあるのは人を信じる力だ」
「……知ってます。だから、守りたいです」
その言葉に、紅葉は満足げに微笑んだ。
「それが、君の“意思”なんだね」
──“意思”が、異能のかたちを決める。
小鈴の中には確かに、“守りたい”という願いがあった。
それは誰かに言われたからでも、役割を与えられたからでもない。
自分の、意志だった。
⸻
その夜。
裏チャットには「事件、解決」とだけ短く報告が流れた。
そのすぐ下に、「明日は黒酒家の別荘!準備忘れずに!」という、明るい通知が重なる。
表と裏。
どちらも、彼らの“日常”。
──けれど、次に訪れる非日常は、思ったよりも騒がしいものになる。
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