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すずちゃんのJK生活
第26話 書けない、締切、どうしよう
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「やばい……筆が進まない……!」
私はノートを前に、頭を抱えていた。
文化祭に向けた部誌制作。文芸部は今、その真っ只中だ。
形式自由、ジャンル不問。
だけど、締切は目前。
「うーん……やっぱり文章って難しいな……」
ため息まじりに呟くと、机の向かいから、いかにも「言い訳する気満々」な顔がのぞく。
「ねえねえ、小鈴ちゃん。私って、ほら、準部員じゃん? どっちかというと運動部の人じゃん?」
「……準部員でも作品出すって決まってたけど……?」
「え、でも私だけ別にいいよね? 紅葉も“自由でいい”って言ってたし……私、文才ないし……ぐすっ……書けないよぉ……」
机に突っ伏し、袖で目元をぬぐうポーズ。あからさまな泣き落とし。
「わ、わかったから落ち着いて!? ちょっとだけでも頑張ろう?」
「……ちょっとだけ、ね……」
拗ねた顔でノートを開いたかと思えば――
「──できた!」
「はやっ!?」
「“運動部のコーチ目線で見た初心者指導のコツ”っていうエッセイ風にした! 絶対実用的! どう!?」
「それ書けるなら最初からやって……」
毎回驚かされる。楓ちゃんの要領の良さは、もはや芸術的だ。
「私は完成っと。さあ、小鈴ちゃんの番だよ!」
「うう……プレッシャーが……」
その隣、一郎くんは黙々とタイピングしている。
内容はミステリーらしい。集中のオーラがすごい。
「黒酒くんは順調そうでいいなあ……」
「まあ、得意分野だし。小鈴も、困ったら一度書き出してみなよ。“書けない”って言ってるときほど、意外と中に溜まってたりするよ」
「……そう、かも」
私はそっとノートを開き、ペンを握る。
(裏文芸部のことは書けない。でも、あの時感じた気持ちなら――)
でも、どこから、どう始めればいいのかわからない。
そんな私の様子を見かねたのか、一郎くんがふっと立ち上がった。
「ちょっとだけ、都斗呼んでくる」
「え?」
彼は言葉少なに、部室を出ていった。
──10分後。
「連れてきた」
「……いや、来たというより、無理やり連れてこられた感があるんだが?」
都斗くんが困ったように部室を見渡す。
「小鈴、悩んでる」
「……お前、俺を便利屋か何かと勘違いしてないか?」
呆れたように言いつつも、都斗くんは机の端に腰をかけ、私のノートをちらりと見た。
「創作ってさ、“書く”じゃなくて、“思い出す”方が先かもしれないよ」
「え……?」
「お前は、何を覚えてる? 最初に学園で出会ったもの。最初に“変だな”と思った瞬間。最初に“怖い”と思った相手。……最初に、笑えた出来事」
ぽつぽつと並べられる言葉たちが、不思議と心に染みた。
「書くのが怖いなら、先に思い出せ。順番はそれでいい」
「……うん」
そのアドバイスは、あまりにも都斗くんらしくて、まっすぐだった。
「じゃ、俺は帰る」
「えっ、もう!?」
「一郎に“呼んで”って頼まれたから来ただけだし」
そう言って去っていく背中に、一郎くんが静かに呟いた。
「……あいつ、意外といいこと言うよな」
「うん……ありがとう、一郎くん」
そうして再び静かになった部室。
その時だった。
「──ねえ、小鈴ちゃん」
優凜さんが、ふいに声をかけてきた。
彼女はすでに何枚か書き終えていたらしく、余裕のある顔で私を見ている。
「もしもさ、高校に入学してからの出来事を、全部“物語”にしちゃったら?」
「え……?」
「たとえば、もしも異世界の力を持った不思議な生物に出会って、そこから毎日のように事件が起きて、仲間ができて、秘密の戦いに巻き込まれて――っていう、そんな“ありえない高校生活”」
まるで、私の現実をそのまま語っているかのような内容に、思わず口を押さえた。
「えっ、あ、あの、それ……」
驚く私の横で、楓ちゃんがきらきらと目を輝かせている。
「それすっごく面白そう! 読みたい! 読ませて! 小鈴ちゃんってば、そういうの絶対向いてるって!」
「えっ、えええ!? ちょ、待って楓ちゃん、知らないってことになってるから!」
「ん? 何が?」
「そ、それは……!」
「安心して、小鈴ちゃん。これはあくまで“もしも”の話」
優凜さんが意味ありげに笑う。
「“実話ベースのフィクション”ってやつ。誰にもバレないように、あくまで“創作”として」
「……そっか。そうだよね。創作なら、何でも自由……だよね」
私は、そっとペンを持ち直した。
非日常の中で感じた戸惑い、驚き、不安、そして少しだけの誇り。
それを“物語”として綴ってみること。
──それなら、書けるかもしれない。
「……ちょっとだけ、書いてみる」
「いいね、そういうの。締切までは、あと……四日半」
優凜さんのさらりとした言葉に、私は思わず笑ってしまった。
部室には紙の音と、キーボードの打鍵音、そして眠りについた楓の寝息が静かに混じっている。
部誌の完成まで、あとわずか。
けれど、この静かな時間の中で、小さな“物語”が今、確かに動き出そうとしていた。
私はノートを前に、頭を抱えていた。
文化祭に向けた部誌制作。文芸部は今、その真っ只中だ。
形式自由、ジャンル不問。
だけど、締切は目前。
「うーん……やっぱり文章って難しいな……」
ため息まじりに呟くと、机の向かいから、いかにも「言い訳する気満々」な顔がのぞく。
「ねえねえ、小鈴ちゃん。私って、ほら、準部員じゃん? どっちかというと運動部の人じゃん?」
「……準部員でも作品出すって決まってたけど……?」
「え、でも私だけ別にいいよね? 紅葉も“自由でいい”って言ってたし……私、文才ないし……ぐすっ……書けないよぉ……」
机に突っ伏し、袖で目元をぬぐうポーズ。あからさまな泣き落とし。
「わ、わかったから落ち着いて!? ちょっとだけでも頑張ろう?」
「……ちょっとだけ、ね……」
拗ねた顔でノートを開いたかと思えば――
「──できた!」
「はやっ!?」
「“運動部のコーチ目線で見た初心者指導のコツ”っていうエッセイ風にした! 絶対実用的! どう!?」
「それ書けるなら最初からやって……」
毎回驚かされる。楓ちゃんの要領の良さは、もはや芸術的だ。
「私は完成っと。さあ、小鈴ちゃんの番だよ!」
「うう……プレッシャーが……」
その隣、一郎くんは黙々とタイピングしている。
内容はミステリーらしい。集中のオーラがすごい。
「黒酒くんは順調そうでいいなあ……」
「まあ、得意分野だし。小鈴も、困ったら一度書き出してみなよ。“書けない”って言ってるときほど、意外と中に溜まってたりするよ」
「……そう、かも」
私はそっとノートを開き、ペンを握る。
(裏文芸部のことは書けない。でも、あの時感じた気持ちなら――)
でも、どこから、どう始めればいいのかわからない。
そんな私の様子を見かねたのか、一郎くんがふっと立ち上がった。
「ちょっとだけ、都斗呼んでくる」
「え?」
彼は言葉少なに、部室を出ていった。
──10分後。
「連れてきた」
「……いや、来たというより、無理やり連れてこられた感があるんだが?」
都斗くんが困ったように部室を見渡す。
「小鈴、悩んでる」
「……お前、俺を便利屋か何かと勘違いしてないか?」
呆れたように言いつつも、都斗くんは机の端に腰をかけ、私のノートをちらりと見た。
「創作ってさ、“書く”じゃなくて、“思い出す”方が先かもしれないよ」
「え……?」
「お前は、何を覚えてる? 最初に学園で出会ったもの。最初に“変だな”と思った瞬間。最初に“怖い”と思った相手。……最初に、笑えた出来事」
ぽつぽつと並べられる言葉たちが、不思議と心に染みた。
「書くのが怖いなら、先に思い出せ。順番はそれでいい」
「……うん」
そのアドバイスは、あまりにも都斗くんらしくて、まっすぐだった。
「じゃ、俺は帰る」
「えっ、もう!?」
「一郎に“呼んで”って頼まれたから来ただけだし」
そう言って去っていく背中に、一郎くんが静かに呟いた。
「……あいつ、意外といいこと言うよな」
「うん……ありがとう、一郎くん」
そうして再び静かになった部室。
その時だった。
「──ねえ、小鈴ちゃん」
優凜さんが、ふいに声をかけてきた。
彼女はすでに何枚か書き終えていたらしく、余裕のある顔で私を見ている。
「もしもさ、高校に入学してからの出来事を、全部“物語”にしちゃったら?」
「え……?」
「たとえば、もしも異世界の力を持った不思議な生物に出会って、そこから毎日のように事件が起きて、仲間ができて、秘密の戦いに巻き込まれて――っていう、そんな“ありえない高校生活”」
まるで、私の現実をそのまま語っているかのような内容に、思わず口を押さえた。
「えっ、あ、あの、それ……」
驚く私の横で、楓ちゃんがきらきらと目を輝かせている。
「それすっごく面白そう! 読みたい! 読ませて! 小鈴ちゃんってば、そういうの絶対向いてるって!」
「えっ、えええ!? ちょ、待って楓ちゃん、知らないってことになってるから!」
「ん? 何が?」
「そ、それは……!」
「安心して、小鈴ちゃん。これはあくまで“もしも”の話」
優凜さんが意味ありげに笑う。
「“実話ベースのフィクション”ってやつ。誰にもバレないように、あくまで“創作”として」
「……そっか。そうだよね。創作なら、何でも自由……だよね」
私は、そっとペンを持ち直した。
非日常の中で感じた戸惑い、驚き、不安、そして少しだけの誇り。
それを“物語”として綴ってみること。
──それなら、書けるかもしれない。
「……ちょっとだけ、書いてみる」
「いいね、そういうの。締切までは、あと……四日半」
優凜さんのさらりとした言葉に、私は思わず笑ってしまった。
部室には紙の音と、キーボードの打鍵音、そして眠りについた楓の寝息が静かに混じっている。
部誌の完成まで、あとわずか。
けれど、この静かな時間の中で、小さな“物語”が今、確かに動き出そうとしていた。
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