近くて遠い距離

はるた

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終わって始まる

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 草原が目の前に広がっていた。私は白いブランコに座っていて、隣を見ると女の子がいた。その子はゆっくりとブランコを漕いでいる。

「蒼太がごめんね。傷つけちゃったね。あいつ馬鹿だから、女の子の気持ちとか分からないの。許してあげて。」

 女の子はいきなりそう言った。蒼太というのは松野くんと同じ名前だ。
 綺麗な子。制服を着ているから高校生なのだろうか。
 誰なのかは分からないはずなのに、この子が松野くんの好きな人なんだと思った。頭じゃなく、感覚で分かった。
 この子には少なくとも見た目では勝てないなぁ。松野くんはこういう子が好きなんだ。そう思うとズキンと心が痛む。

「あなたは誰?松野くんを知ってるの?」

 傷つくかもしれないと分かっていながら、私は聞く。松野くんのことを知りたいという気持ちの方が大きくて。
 女の子は私の質問に、ブランコを漕ぐのをやめて「初めまして、双葉さん」と挨拶をした。

「私は詩音。蒼太とは幼なじみで、5歳の時から知ってるよ。ちなみに今はこの姿だけど本当なら蒼太やあなたと同い年。」

 詩音は、自分の制服を私に見せるようにして自己紹介をした。
 「だから敬語使わなかったんだけど、初対面なのにタメ口で喋られたら普通嫌だよね。ごめんね」と謝る詩音が変に丁寧で、人の良さが見えて、似ていると思った。幼なじみなんだなと思う。

「大丈夫、気にしてないよ。でも、どうして詩音さんは私のことを知ってるの?」

「ずっと見てたから。だから知ってるの。」

「……どういうこと?」
 
 意味が分からなくて不審げに見る私に、「言い方がストーカーっぽかったね」と詩音は自分でくすっと笑った。

「安心して。そんなことしてないから。私、幽霊だから。蒼太が心配で成仏できずにくっついてたら、よく話す女の子がいるなぁと思って。それが双葉さんだったの。」

「えっ。」

 サラッと今この人、自分のこと幽霊だって言ったけど……。
 え?松野くんにくっついてるってそれって取り憑いてるってことだよね?もしかして私呪われる?松野くんに近付くなって。
 安心してって言われたけどどこに安心する要素があるんだろう。正直ストーカーよりずっと怖い。
 詩音の発言に対する感想が脳内でめちゃくちゃ早口で流れていく。

 ただ、うるさいのは私の脳内だけで実際は無言の間が続いていて、そんなシーンとした空間にいる私たちの間を春になったばかりのスーッとした涼しい風が通り抜けていった。
 詩音は「いい風」と気持ち良さそうに目を閉じる。

 幽霊ってことは死んでるんだよね?でも詩音には足があるし、こうして話せてもいるし、そもそも私に霊感なんてものはない。この人は本当に幽霊なのだろうか。ユカみたいに私をからかって楽しんでいるんじゃないだろうか。

 そんな不信げな私の心を読んだかのように「いきなり幽霊って言われても信じられないよね」と困ったように眉を下げて微笑む詩音。その表情はとても寂しそうに見えて、信じられないこっちが悪いような、申し訳ないような気持ちにさせる。だけど私は「信じるよ」とは素直に言えなかった。

 そんな私を詩音はどう思ったのだろう。詩音はまた話し始めた。
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