3 / 9
第3章
入隊試験
しおりを挟む
村役場の建物に近づくヤマト。
「おはよう」
バスチアンがあいさつする。
「おはよう」
あいさつを返すヤマト。
「もう許可を取ってあるからこっちだよ」
バスチアンは手招きにする。
ヤマトは黙ったままついていく。
役場の裏口から地下へ降りると八畳ほどの部屋に等身大の青い宝石が宙に浮いている。クリスタル
ゲートは緊急の時や要人たちが使うだけであまり使われない。
二人の姿が黄金色の光に包まれて消えた。次の瞬間別の部屋に姿を現した。部屋を出ると大使館の
ロビーに出る。大使館を出るとそこは大都会だった。
口をあんぐり開けるヤマト。
雲をつくような高層ビルが立ち並ぶ。ビルの上層階に発着ゲートが見えた。そこから送迎用の小型船
が飛んでいく。
地球とは大違いの風景が広がっていた。
ビル群の間をエアカーやスピーダーバイク、小型船が空を行き交い、ターミナルビルから定期バスが通勤、
通学客を乗せて分刻みで移動する。
二人は大通りを早足で進んで突き当たりの道を曲がる。そこにエルダーサインの本部ビルがそびえ立つ。
ビルの出入口に五ぼう星の真ん中に目があるマークがついている。エルダーサイン(旧き神)の印である。
旧支配者、魔物や外なる神々を防ぐことができるのだ。
そこから少し離れた通りにGフォース本部がある。二人はエントランスに足を踏み入れた。床に
旧き印が描かれている。
「ヤマトさんとバスチアン軍曹ですね」
受付をしている女性隊員が近づく。
「はい」
バスチアンは許可証や身分証を見せる。
「こちらです」
くだんの女性隊員は小部屋に案内する。部屋には魔法陣が描かれている。ヤマトとバスチアンは
その中へ入る。
「テレポート」
女性隊員が呪文を唱えた。力ある言葉に応えて二人の姿が消えた。次の瞬間最上階にある部屋に
姿を現した。ヤマトとバスチアンは隣の部屋に足を踏み入れた。そこに十二人の男女が囲むように座っていた。
だいたい誰だが知っている。
一人目と二人目がセンダックとライバック。二人は機械生命体である。三人目がダーシモン。彼は魔術師である。
四人目がフィリップ。召喚師と呼ばれる魔術師である。召喚師は幻獣を呼び出し魔術のことを言う。5人目が
クロウ・タイタス。違う世界からやってきた凄腕の邪神ハンターである。
六人目、七人目、八人目、九人目が太公望、左慈と女禍と伏儀。四人とも違う世界から邪神を追って
来た仙人である。
十人目がカマエル。先祖は旧神や星の戦士と一緒に邪神を追って来たという種族である。
十一人目がジュダル。セラエノの大図書館がある惑星セラエノがあるブレアデス星団のプレアデス星に
住む異星人である。
十二人目はバルベータスである。
「じじい。本当にスカウトやっていたんだな」
感心するヤマト。
「そうじゃよ。百年ぶりに戻ったんだ」
満足げに笑うバルベータス。
「十二人の偉い人たちが俺に何のようだ」
ヤマトは腕を組んだ。
申し訳なさそうな顔のバスチアン。
「君はこれが何かわかるかね」
センダックは壊れた二つの制御腕輪をテーブルに置いた。
「それは耐久性がなかったから壊れたんだ。簡単に壊れた」
しゃらっと言うヤマト。
「悪いがね。相当訓練を積まなければ壊すことはできない」
はっきり言うライバック。
黙ってしまうヤマト。
「それに君はスミス証人が持っていたクリスタルに触り共鳴した。機械生命体で共鳴したのは始めてだ。
普通は人間や異星人に反応するんだ」
クロウ・タイタスがスミスが持っていたクリスタルの写真を出す。
「何が言いたい?」
声を低めるヤマト。
「君はクリスタルに選ばれた。地球から来た戦艦よ。君の波動エンジンはクリスタルに反応したのだ」
伏儀は念を押すように言う。
いきなり笑い出すヤマト。
「おかしいですか?」
冷静な太公望。
「俺は迷い込んだだけだ」
笑うのをやめて真顔になるヤマト。
「君は来るべくして来たと思う」
ジュダルが口を開く。
「そこでなんだが君に入隊試験を受けてもらう。ある女性を四十万光年離れたセラエノまで護送するのが
試験内容だ」
話を切り替えるダーシモン。
「バスチアンとワシとデビット、クロウ・タイタスで行く。護送する女性は屋上だ」
バルベータスが言った。
屋上の発着場へ行くと亜麻色の髪に碧眼の女性が立っている。
入隊試験には本物の護送する対象である証人が護送船に乗り込む。これは機械生命体の場合は
そうなっているが人間や異星人の場合は辺境の惑星内で行われるのだ。
女性とクロウ・タイタスとバルベータス、
デビットが護送船に乗る。護送船が上昇する。
ヤマトとバスチアンは制御腕輪を外す。二人の姿が青白い蛍光に包まれ姿が崩れ増大して元の
戦艦と宇宙船に戻ると同時に上昇した。
「ひさしぶりだ。戻ったの」
ヤマトはうれしそうに言う。
黙ったまま先に行くバスチアンことエンタープライズ。機械生命体は地上で行動するときの名前と
宇宙船に戻っての時の名前を持っていた。
成層圏に達するとパトロール船が接近する。この警備船も機械生命体である。本部がおかれているこの
惑星にいる警備船や戦闘艇も邪神ハンターや魔物ハンターの資格を持つ機械生命体である。
「レトロな船。旧式船」
「オンボロ船。錨マーク」
「よくそれで戦ってきたな」
警備船や戦闘艇がからかう。
「黙れよ」
ヤマトは主砲を向けた。
「ヤマト。ここで騒ぎを起こしたら入隊試験は中止だ」
強い口調で注意するエンタープライズ。
「覚えてろよ」
ヤマトは捨てセリフを吐いて宇宙へ飛び出す。
試験に受かったらボコボコにしてやる。
ののしる警備船や戦闘艇を無視してヤマトは護送船の前に出た。
「エンタープライズ。ワープはそれぞれの来た世界で違うんだろ?」
疑問をぶつけるヤマト。
来る世界違えばワープのやり方だってちっがうだろう。
「おまえのやり方で行けばいい」
バルベータスは無線ごしに言う。
「三回ロングワープする。小惑星帯で様子を見てからまたワープする」
ヤマトがひらめく。
途中で魔物が出なければいいのだ。
ヤマトは副錨を出して護送船に巻きつけエンタープライズに接近してワープした。
ー二分後ー
小惑星帯に三隻の船が姿を現した。
「さすがに自分のいた世界と違うな」
ヤマトはつぶやく。せつな彼は主錨で殴った。殴られたそれは一キロ離れた巨大な小惑星に激突した。
「クトウルーの眷属だ。それを殴った」
エンタープライズは絶句した。
「あれが眷属群って奴か」
納得するヤマト。
映像や絵で図書館で見た。太古の昔にやってきた高度知的精神体である。全長は30メートル位で
外見は巨大タコに見える魔物が異星人や人間たちに脅威を与えている。
「エンタープライズ。あのゲテモノ捕まえる光線とか持ってないか?」
ひらめくヤマト。
「あるよ」
察するエンタープライズ。
巨大タコがコウモリのような翼を広げヤマトの船体に触手を伸ばした。
ヤマトの煙突ミサイルや弦側ミサイルが巨大タコに次々命中した。濃密な煙からぬうっと飛び出す
クトウルーの眷属。いくつかのタコ足がなくなっているがすぐ肉芽が伸びて生えてくる。
エンタープライズは曳航光線を出してクトウルーの眷属を捕まえる。
「波動砲発射!!」
ヤマトは艦首の砲口をもがくクトウルーに向けた。砲口から青白い光線が広がりクトウルーを一瞬
にして塵に変えた。
「すげえ。充填しなくても使える」
興奮するヤマト。
自分のいた世界では120%充填しなければ使えなかった。でもその分注意しないと使いすぎ
てしまうことは確かだ。六発も撃つと帰る分がなくなり、最大パワーにすると船体が持ちこたえられるか
わからないという諸刃の剣であることは変わらない。
「六時の方向から眷属群と魔物の群れが出現した」
エンタープライズが言う。
「俺の艦首を後ろに向けたまま全速力で飛べ!!」
ヤマトはひらめく。
「了解!!」
エンタープライズは曳航光線でヤマトを捕まえて小惑星から離れた。
「壮観だな。ゲテモノばっかだ」
感心するヤマト。
小惑星帯の小惑星の影からクトウルー眷属群とその配下の魔物たちが飛び出し追いかけてきて
一ヶ所に固まっていく。
「波動砲発射!!」
精神を集中してヤマトは艦首の砲口から青白い光線を放った。追いかけてきた眷族群と魔物の
大群は一瞬にして塵になりそこにあった小惑星までいくつか砕け散った。
「やっつけたあ!!」
喜ぶヤマト。
小惑星帯を抜けてプレアデス星団に入った。
エンタープライズはスピードを落とす。
「なんだおもしれえな」
ヤマトはうれしそうに言う。
だまったままのエンタープライズと護送船の船内にいるバルベータスたち。
しばらく行くとセラエノ星が見えた。
プレアデス星団とこの星系は”名状しがたきもの”邪神ハスターの支配地域にあたる。邪神ハスター
は邪神クトウルーと対立しており邪神クトウルーや眷属とその配下の魔物に追われる者たちにとって
のかっこうの避難場所になっていた。この星団のどこかに邪神ハスターの住まう暗黒星アルデバラン
があるとされているが定かではない。
惑星セラエノには大図書館がある。旧神と対立する旧支配者たちが盗んだといわれる書物が
収められている。
霧の向こうに途方もない大きさの石造り建造物が見えた。建造物は一つ一つがひな壇のように
なっており異様な本棚に忘れ去られた言語で書かれた書物が収蔵されている。
「よくやった。ヤマト」
スクリーンに証人である亜麻色の髪の女性が映る。女性の髪が亜麻色から青い髪に変わる。
見覚えのある顔だ。
「おまえ評議員のカマエルだろ」
ヤマトは声を低める。
「宇宙戦艦ヤマト。任務を与える。邪神討伐を命じる」
カマエルはビシッと指さした。
「俺に命令するな!!」
声を荒げるヤマト。
「ヤマト。やめろ」
制止するエンタープライズ。
「あのバカが」
あきれ返るバルベータス。
ため息をつくタイタスとデビット。
「威勢のいい戦艦だ。そう言った奴は初めてだ」
カマエルはニヤリと笑うと護送船の船外に飛び出し呪文を唱えた。それはどこの言葉にも属さない
言語である。力ある言葉に応えて彼女の姿が黄金色の光に包まれ変身した。ヤマトの目の前に
全長が200メートルありそうな巨大な龍が現れた。中国の絵画で見るような龍にそっくりだ。
龍に変身したカマエルが動いた。その鉤爪で何度も船体を引っかいた。
「ぐあっ!!」
ヤマトは思わずのけぞった。
電子脳に船体が受けた損傷がすべて痛みとして送信される。しかししばらくすると損傷口はふさがっていく。
カマエルはその龍の体でヤマトの船体に巻きついて力を入れた。
くぐくもった声を上げ主錨と副錨を巻きつけてほどこうともがく。そんなんでもぎとれないほどの強い力である。
ヤマトの電子脳の船体の状態表示に船体の損傷ヶ所がうなぎのぼりに増加という指摘が出る。船体の
あちこちにヒビが入り視界が歪んだ。
「ぬあああ!!」
ヤマトから青白い光が船体をオーラのように包みそれが衝撃波として広がる。その青い衝撃に弾き
飛ばされるカマエル、エンタープライズと護送船。
カマエルは呪文を唱えた。虚空から赤い光の玉がいくつかヤマトに命中。火柱を上げ爆発した。
くぐくもった声を上げるヤマト。
全身に焼けるような痛みが駆け巡る。
「痛みを感じるか?地球から来た戦艦よ。おまえは機械生命体になったんだ。そうなると元の世界に
戻ることも元の戦艦に戻ることもできない」
カマエルはビシッと指をさす。
「俺は地球に帰ってやるんだ!!!」
ヤマトは怒鳴った。
そんなハズはない。どこかに解決策はあるんだ。これは夢なんだ。
「帰ることは不可能だよ」
バルベータスがさとすようにわりこむ。
「いったんにそうなってしまうと戻ることはできない」
きっぱり言うエンタープライズとデビット
「黙れ!俺は戻ってやるんだ。おまえなんか吹っ飛ばしてやる」
ヤマトはカマエルに艦首の砲口を向けた。波動砲を発射した。
カマエルはとっさにテレポートしてかわす。
青白い光線は宇宙の彼方に飛んでいった。
「おまえに・・・ぐはっ!!」
ヤマトの船体内部から小さな爆発が起き先ほどカマエルの赤い玉にえぐられた損傷から火柱が
吹き出す。そして全身にズキズキする痛みが電子脳を刺激する。
よろけるヤマト。
「おまえさんさっき衝撃波と波動砲を最大パワーにしただろ。コントロールできておらんな」
指摘するバルベータス。
「こん・・・コントロール位している」
船体の損傷から黒煙を出しながら言うヤマト。バランスが取れない。
「ここではコントロールしなければおまえは死ぬだろう」
バルベータスの眼光が鋭くなる。
「そんな・・・ことは・・・」
ヤマトの電子脳で火花が散りショートして何がなんだかわからなくなった。
エンタープライズは曳航光線で徐々に高度が落ちていくヤマトを捕まえる。
「やれやれ手間のかかる戦艦だ」
バルベータスは深いため息をついた。
何時間たっただろうか?
ヤマトは目を開けた。視界に医務室の天井が見え視点を変えると自分の胸が見えた。自分の体
には防弾チョッキのようなものが装着されそこから太いプラグやチューブが伸びそれは後ろの
生命維持層につながっている。
なんで人型ロボットに変身している?
ヤマトはストレッチャー台から身を起こす。
すると背中や後頭部にもプラグの重みを感じた。
「気がついたようだね。私はシド。機械生命体のメンテナンスやそれに合わせたスーツを造るのが仕事だ」
シドと名乗った中年男性が近づく。
「俺に興味あるのか?」
ヤマトは身を乗り出す。
「君は波動砲という他の機械生命体にはない必殺技を持っている」
「それがどうかしたのか?他の奴だって持っているだろ」
「他の者達は持っていない。だから魔術を習得する。だが君はその必殺技を使って地球を救ってきた。
しかしそれを生み出す波動エンジンは強力すぎて制御しきれていない」
はっきり言うシド。
「何だとお!!」
ヤマトの両目の瞳が銀色に変わりベットから立ち上がるとシドの首をつかみ上げた。
「俺が暴走するというのか?」
眉間にしわを寄せこめかみをひくつかせて怒鳴るヤマト。
「やめんかい!!」」
ドアが開きすごい剣幕でバルベータスが入ってきた。
「なんだよ」
ヤマトはシドを放した。
バルベータスは生命維持装置のスイッチを切った。ヤマトの体にはめこまれていたプラグやコード
がするする離れ防弾チョッキのような物も外れて床に落ちた。
「うっ!!」
ズン!と突き上げるような痛みにヤマトは胸を押さえひざをついた。
「おまえは機械生命体になったのだよ。ワシらもバスチアンもデビットもみんなだ。あの亀裂を通って
光を浴びると元に戻れない」
さとすように言うバルベータス。
「俺は地球に戻ってやるんだ・・・」
ヤマトは全身に広がっていく焼けるような痛みのけぞる。
「波動砲は強力だが使い過ぎれば生命の源であるコアを蝕み最大パワーにすればおまえは暴走
してしまうかもしれない。死んでしまうかもしれないのだよ」
「戦って死ねるなら本望」
「おまえは地球を救ってきた。今度はその力を使ってワシらと一緒に戦ってくれ」
肩に手を置くバルベータス。
「あんなゲテモノ俺一人で倒せる」
「奴らを甘く見てはいかん。ワシはそう言って一人で戦って死んでいった者をたくさん見ている。
おまえは魔術を習得しなくても邪神の眷属と配下の魔物をその必殺技で一撃で倒した。そして
試験官であるカマエル評議員にも対等に戦った。おまえに訓練はいらん。問題はその強すぎる
パワーをどう制御するかにある」
言い聞かせるバルベータス。
うつむくヤマト。
「地球にいた時は艦長たちが今まで制御していたがこの世界に迷い込んできた以上は自分で
制御しなければいけないのだ」
シドが口を開く。
「これがおまえの体の中身だ」
バルベータスはホログラムのスイッチを押した。
映像に人型ロボットの時と戦艦に戻った時の体内と艦内が映し出される。
ロボットの時は金属骨格に駆動装置、生命維持装置と黄金色に輝くコアがある。そして戦艦に
戻った時の艦内は波動エンジンと発射装置はそのままだが人間の居住するスペースがすべて
なくなり光輝くコアと生命維持装置になっていたりエネルギーを貯蔵する装置、兵器を造りだす
工場になっていた。
「バカな・・・」
愕然とするヤマト。ヘナヘナ座りこむ。
「ワシもバスチアンもデビットも機械生命体はみんなこうなっている。こうなってしまうと人間や
異星人を乗せることはできなくなるんだ」
バルベータスは言う。
泣き出すヤマト。ほおを伝って涙が流れ落ちる。
「それは涙というものだよ」
言い聞かせるバルベータスはそっと肩を寄せた。
「落ち着いたかね」
シドは声をかけた。
顔を上げるヤマト。
黙ったままのバルベータス。
シドが部屋の奥からワゴンに黒色の戦闘スーツと胸当て型の制御装置を乗せて近づく。
「これがGフォースの制服でもある戦闘スーツと制御装置だ」
バルベータスは指さした。
ヤマトはそのスーツを着る。見た目はウエットスーツにに近い。二の腕にGフォースのマークが
入っている。彼は胸当て型の制御装置を着用する。制御装置から体内にプラグがのびてコアや
制御装置と接続される。
「そのスーツは一人一人違う仕様になっている。君のは熱に耐えられるように出来ている。そして
制御装置はパワーを抑えるように造った。君に合わせて造るのは大変だった」
シドがフッと笑う。
ヤマトはうつむく。
今までほてっていた体が元の体温に戻るような感じを受ける。
「戦艦に戻る時や波動砲使う時はそれを外しなさい」
シドが言う。
「ありがとう。俺は命の恩人を殺してしまう所だったんだ」
ヤマトは頭を下げる。
あやまるのは初めてである。他人に頭を下げるということはなかった。
「いや私も言い方が悪かったかもしれないね」
首を振るシド。
「おまえが住む官舎は別棟だ」
バルベータスはホログラムに地図を出す。
今いるのが研究棟と指令室がありロビーを出て渡り廊下を渡ると官舎がある。官舎には機械生命体
の他に人間や異星人達も住んでいる。
「わかった」
ヤマトはうなづくと部屋を出た。廊下を出るとロビーに出る。ロビーにはたくさんの隊員たちが忙しく
行き交っている。
黙って通り過ぎるヤマト。
「おいレトロな船」
「オンボロ船」
「錨マークよく戦えたな」
聞き覚えのある三つの声が聞こえた。
振り向くとそこに試験前にからかってきた三隻の警備船と戦闘機だった隊員がいた。
「俺は錨マークじゃねえ。ヤマトだ」
ムッとするヤマト。
「入隊おめでとうって言ってやる」
「でも俺たちは認めたわけじゃない」
「戦うか戦わないか早く決めろよ。みんなイライラしているんだから」
三人はつっけんどうに言う。
歯切りするヤマト。彼はいきなり真ん中の奴を殴った。
すると三人もいっせいに殴りかかってもみあいになる。
バルベータスはバケツの水をぶっかけた。
「やめんかい。ばか者が!!」
一喝するバルベータス。
しゅんとなる三人とヤマト。
「おまえたち三人は持ち場に戻れ。ヤマトおまえは官舎へ行け」
バルベータスは言った。
「申し訳ありません」
三人は謝るとそそくさと去っていく。
ヤマトは黙ったままロビーを出る。渡り廊下からふと見ると海が見えた。しかし彼は無視して
自分の部屋へ行った。
「おはよう」
バスチアンがあいさつする。
「おはよう」
あいさつを返すヤマト。
「もう許可を取ってあるからこっちだよ」
バスチアンは手招きにする。
ヤマトは黙ったままついていく。
役場の裏口から地下へ降りると八畳ほどの部屋に等身大の青い宝石が宙に浮いている。クリスタル
ゲートは緊急の時や要人たちが使うだけであまり使われない。
二人の姿が黄金色の光に包まれて消えた。次の瞬間別の部屋に姿を現した。部屋を出ると大使館の
ロビーに出る。大使館を出るとそこは大都会だった。
口をあんぐり開けるヤマト。
雲をつくような高層ビルが立ち並ぶ。ビルの上層階に発着ゲートが見えた。そこから送迎用の小型船
が飛んでいく。
地球とは大違いの風景が広がっていた。
ビル群の間をエアカーやスピーダーバイク、小型船が空を行き交い、ターミナルビルから定期バスが通勤、
通学客を乗せて分刻みで移動する。
二人は大通りを早足で進んで突き当たりの道を曲がる。そこにエルダーサインの本部ビルがそびえ立つ。
ビルの出入口に五ぼう星の真ん中に目があるマークがついている。エルダーサイン(旧き神)の印である。
旧支配者、魔物や外なる神々を防ぐことができるのだ。
そこから少し離れた通りにGフォース本部がある。二人はエントランスに足を踏み入れた。床に
旧き印が描かれている。
「ヤマトさんとバスチアン軍曹ですね」
受付をしている女性隊員が近づく。
「はい」
バスチアンは許可証や身分証を見せる。
「こちらです」
くだんの女性隊員は小部屋に案内する。部屋には魔法陣が描かれている。ヤマトとバスチアンは
その中へ入る。
「テレポート」
女性隊員が呪文を唱えた。力ある言葉に応えて二人の姿が消えた。次の瞬間最上階にある部屋に
姿を現した。ヤマトとバスチアンは隣の部屋に足を踏み入れた。そこに十二人の男女が囲むように座っていた。
だいたい誰だが知っている。
一人目と二人目がセンダックとライバック。二人は機械生命体である。三人目がダーシモン。彼は魔術師である。
四人目がフィリップ。召喚師と呼ばれる魔術師である。召喚師は幻獣を呼び出し魔術のことを言う。5人目が
クロウ・タイタス。違う世界からやってきた凄腕の邪神ハンターである。
六人目、七人目、八人目、九人目が太公望、左慈と女禍と伏儀。四人とも違う世界から邪神を追って
来た仙人である。
十人目がカマエル。先祖は旧神や星の戦士と一緒に邪神を追って来たという種族である。
十一人目がジュダル。セラエノの大図書館がある惑星セラエノがあるブレアデス星団のプレアデス星に
住む異星人である。
十二人目はバルベータスである。
「じじい。本当にスカウトやっていたんだな」
感心するヤマト。
「そうじゃよ。百年ぶりに戻ったんだ」
満足げに笑うバルベータス。
「十二人の偉い人たちが俺に何のようだ」
ヤマトは腕を組んだ。
申し訳なさそうな顔のバスチアン。
「君はこれが何かわかるかね」
センダックは壊れた二つの制御腕輪をテーブルに置いた。
「それは耐久性がなかったから壊れたんだ。簡単に壊れた」
しゃらっと言うヤマト。
「悪いがね。相当訓練を積まなければ壊すことはできない」
はっきり言うライバック。
黙ってしまうヤマト。
「それに君はスミス証人が持っていたクリスタルに触り共鳴した。機械生命体で共鳴したのは始めてだ。
普通は人間や異星人に反応するんだ」
クロウ・タイタスがスミスが持っていたクリスタルの写真を出す。
「何が言いたい?」
声を低めるヤマト。
「君はクリスタルに選ばれた。地球から来た戦艦よ。君の波動エンジンはクリスタルに反応したのだ」
伏儀は念を押すように言う。
いきなり笑い出すヤマト。
「おかしいですか?」
冷静な太公望。
「俺は迷い込んだだけだ」
笑うのをやめて真顔になるヤマト。
「君は来るべくして来たと思う」
ジュダルが口を開く。
「そこでなんだが君に入隊試験を受けてもらう。ある女性を四十万光年離れたセラエノまで護送するのが
試験内容だ」
話を切り替えるダーシモン。
「バスチアンとワシとデビット、クロウ・タイタスで行く。護送する女性は屋上だ」
バルベータスが言った。
屋上の発着場へ行くと亜麻色の髪に碧眼の女性が立っている。
入隊試験には本物の護送する対象である証人が護送船に乗り込む。これは機械生命体の場合は
そうなっているが人間や異星人の場合は辺境の惑星内で行われるのだ。
女性とクロウ・タイタスとバルベータス、
デビットが護送船に乗る。護送船が上昇する。
ヤマトとバスチアンは制御腕輪を外す。二人の姿が青白い蛍光に包まれ姿が崩れ増大して元の
戦艦と宇宙船に戻ると同時に上昇した。
「ひさしぶりだ。戻ったの」
ヤマトはうれしそうに言う。
黙ったまま先に行くバスチアンことエンタープライズ。機械生命体は地上で行動するときの名前と
宇宙船に戻っての時の名前を持っていた。
成層圏に達するとパトロール船が接近する。この警備船も機械生命体である。本部がおかれているこの
惑星にいる警備船や戦闘艇も邪神ハンターや魔物ハンターの資格を持つ機械生命体である。
「レトロな船。旧式船」
「オンボロ船。錨マーク」
「よくそれで戦ってきたな」
警備船や戦闘艇がからかう。
「黙れよ」
ヤマトは主砲を向けた。
「ヤマト。ここで騒ぎを起こしたら入隊試験は中止だ」
強い口調で注意するエンタープライズ。
「覚えてろよ」
ヤマトは捨てセリフを吐いて宇宙へ飛び出す。
試験に受かったらボコボコにしてやる。
ののしる警備船や戦闘艇を無視してヤマトは護送船の前に出た。
「エンタープライズ。ワープはそれぞれの来た世界で違うんだろ?」
疑問をぶつけるヤマト。
来る世界違えばワープのやり方だってちっがうだろう。
「おまえのやり方で行けばいい」
バルベータスは無線ごしに言う。
「三回ロングワープする。小惑星帯で様子を見てからまたワープする」
ヤマトがひらめく。
途中で魔物が出なければいいのだ。
ヤマトは副錨を出して護送船に巻きつけエンタープライズに接近してワープした。
ー二分後ー
小惑星帯に三隻の船が姿を現した。
「さすがに自分のいた世界と違うな」
ヤマトはつぶやく。せつな彼は主錨で殴った。殴られたそれは一キロ離れた巨大な小惑星に激突した。
「クトウルーの眷属だ。それを殴った」
エンタープライズは絶句した。
「あれが眷属群って奴か」
納得するヤマト。
映像や絵で図書館で見た。太古の昔にやってきた高度知的精神体である。全長は30メートル位で
外見は巨大タコに見える魔物が異星人や人間たちに脅威を与えている。
「エンタープライズ。あのゲテモノ捕まえる光線とか持ってないか?」
ひらめくヤマト。
「あるよ」
察するエンタープライズ。
巨大タコがコウモリのような翼を広げヤマトの船体に触手を伸ばした。
ヤマトの煙突ミサイルや弦側ミサイルが巨大タコに次々命中した。濃密な煙からぬうっと飛び出す
クトウルーの眷属。いくつかのタコ足がなくなっているがすぐ肉芽が伸びて生えてくる。
エンタープライズは曳航光線を出してクトウルーの眷属を捕まえる。
「波動砲発射!!」
ヤマトは艦首の砲口をもがくクトウルーに向けた。砲口から青白い光線が広がりクトウルーを一瞬
にして塵に変えた。
「すげえ。充填しなくても使える」
興奮するヤマト。
自分のいた世界では120%充填しなければ使えなかった。でもその分注意しないと使いすぎ
てしまうことは確かだ。六発も撃つと帰る分がなくなり、最大パワーにすると船体が持ちこたえられるか
わからないという諸刃の剣であることは変わらない。
「六時の方向から眷属群と魔物の群れが出現した」
エンタープライズが言う。
「俺の艦首を後ろに向けたまま全速力で飛べ!!」
ヤマトはひらめく。
「了解!!」
エンタープライズは曳航光線でヤマトを捕まえて小惑星から離れた。
「壮観だな。ゲテモノばっかだ」
感心するヤマト。
小惑星帯の小惑星の影からクトウルー眷属群とその配下の魔物たちが飛び出し追いかけてきて
一ヶ所に固まっていく。
「波動砲発射!!」
精神を集中してヤマトは艦首の砲口から青白い光線を放った。追いかけてきた眷族群と魔物の
大群は一瞬にして塵になりそこにあった小惑星までいくつか砕け散った。
「やっつけたあ!!」
喜ぶヤマト。
小惑星帯を抜けてプレアデス星団に入った。
エンタープライズはスピードを落とす。
「なんだおもしれえな」
ヤマトはうれしそうに言う。
だまったままのエンタープライズと護送船の船内にいるバルベータスたち。
しばらく行くとセラエノ星が見えた。
プレアデス星団とこの星系は”名状しがたきもの”邪神ハスターの支配地域にあたる。邪神ハスター
は邪神クトウルーと対立しており邪神クトウルーや眷属とその配下の魔物に追われる者たちにとって
のかっこうの避難場所になっていた。この星団のどこかに邪神ハスターの住まう暗黒星アルデバラン
があるとされているが定かではない。
惑星セラエノには大図書館がある。旧神と対立する旧支配者たちが盗んだといわれる書物が
収められている。
霧の向こうに途方もない大きさの石造り建造物が見えた。建造物は一つ一つがひな壇のように
なっており異様な本棚に忘れ去られた言語で書かれた書物が収蔵されている。
「よくやった。ヤマト」
スクリーンに証人である亜麻色の髪の女性が映る。女性の髪が亜麻色から青い髪に変わる。
見覚えのある顔だ。
「おまえ評議員のカマエルだろ」
ヤマトは声を低める。
「宇宙戦艦ヤマト。任務を与える。邪神討伐を命じる」
カマエルはビシッと指さした。
「俺に命令するな!!」
声を荒げるヤマト。
「ヤマト。やめろ」
制止するエンタープライズ。
「あのバカが」
あきれ返るバルベータス。
ため息をつくタイタスとデビット。
「威勢のいい戦艦だ。そう言った奴は初めてだ」
カマエルはニヤリと笑うと護送船の船外に飛び出し呪文を唱えた。それはどこの言葉にも属さない
言語である。力ある言葉に応えて彼女の姿が黄金色の光に包まれ変身した。ヤマトの目の前に
全長が200メートルありそうな巨大な龍が現れた。中国の絵画で見るような龍にそっくりだ。
龍に変身したカマエルが動いた。その鉤爪で何度も船体を引っかいた。
「ぐあっ!!」
ヤマトは思わずのけぞった。
電子脳に船体が受けた損傷がすべて痛みとして送信される。しかししばらくすると損傷口はふさがっていく。
カマエルはその龍の体でヤマトの船体に巻きついて力を入れた。
くぐくもった声を上げ主錨と副錨を巻きつけてほどこうともがく。そんなんでもぎとれないほどの強い力である。
ヤマトの電子脳の船体の状態表示に船体の損傷ヶ所がうなぎのぼりに増加という指摘が出る。船体の
あちこちにヒビが入り視界が歪んだ。
「ぬあああ!!」
ヤマトから青白い光が船体をオーラのように包みそれが衝撃波として広がる。その青い衝撃に弾き
飛ばされるカマエル、エンタープライズと護送船。
カマエルは呪文を唱えた。虚空から赤い光の玉がいくつかヤマトに命中。火柱を上げ爆発した。
くぐくもった声を上げるヤマト。
全身に焼けるような痛みが駆け巡る。
「痛みを感じるか?地球から来た戦艦よ。おまえは機械生命体になったんだ。そうなると元の世界に
戻ることも元の戦艦に戻ることもできない」
カマエルはビシッと指をさす。
「俺は地球に帰ってやるんだ!!!」
ヤマトは怒鳴った。
そんなハズはない。どこかに解決策はあるんだ。これは夢なんだ。
「帰ることは不可能だよ」
バルベータスがさとすようにわりこむ。
「いったんにそうなってしまうと戻ることはできない」
きっぱり言うエンタープライズとデビット
「黙れ!俺は戻ってやるんだ。おまえなんか吹っ飛ばしてやる」
ヤマトはカマエルに艦首の砲口を向けた。波動砲を発射した。
カマエルはとっさにテレポートしてかわす。
青白い光線は宇宙の彼方に飛んでいった。
「おまえに・・・ぐはっ!!」
ヤマトの船体内部から小さな爆発が起き先ほどカマエルの赤い玉にえぐられた損傷から火柱が
吹き出す。そして全身にズキズキする痛みが電子脳を刺激する。
よろけるヤマト。
「おまえさんさっき衝撃波と波動砲を最大パワーにしただろ。コントロールできておらんな」
指摘するバルベータス。
「こん・・・コントロール位している」
船体の損傷から黒煙を出しながら言うヤマト。バランスが取れない。
「ここではコントロールしなければおまえは死ぬだろう」
バルベータスの眼光が鋭くなる。
「そんな・・・ことは・・・」
ヤマトの電子脳で火花が散りショートして何がなんだかわからなくなった。
エンタープライズは曳航光線で徐々に高度が落ちていくヤマトを捕まえる。
「やれやれ手間のかかる戦艦だ」
バルベータスは深いため息をついた。
何時間たっただろうか?
ヤマトは目を開けた。視界に医務室の天井が見え視点を変えると自分の胸が見えた。自分の体
には防弾チョッキのようなものが装着されそこから太いプラグやチューブが伸びそれは後ろの
生命維持層につながっている。
なんで人型ロボットに変身している?
ヤマトはストレッチャー台から身を起こす。
すると背中や後頭部にもプラグの重みを感じた。
「気がついたようだね。私はシド。機械生命体のメンテナンスやそれに合わせたスーツを造るのが仕事だ」
シドと名乗った中年男性が近づく。
「俺に興味あるのか?」
ヤマトは身を乗り出す。
「君は波動砲という他の機械生命体にはない必殺技を持っている」
「それがどうかしたのか?他の奴だって持っているだろ」
「他の者達は持っていない。だから魔術を習得する。だが君はその必殺技を使って地球を救ってきた。
しかしそれを生み出す波動エンジンは強力すぎて制御しきれていない」
はっきり言うシド。
「何だとお!!」
ヤマトの両目の瞳が銀色に変わりベットから立ち上がるとシドの首をつかみ上げた。
「俺が暴走するというのか?」
眉間にしわを寄せこめかみをひくつかせて怒鳴るヤマト。
「やめんかい!!」」
ドアが開きすごい剣幕でバルベータスが入ってきた。
「なんだよ」
ヤマトはシドを放した。
バルベータスは生命維持装置のスイッチを切った。ヤマトの体にはめこまれていたプラグやコード
がするする離れ防弾チョッキのような物も外れて床に落ちた。
「うっ!!」
ズン!と突き上げるような痛みにヤマトは胸を押さえひざをついた。
「おまえは機械生命体になったのだよ。ワシらもバスチアンもデビットもみんなだ。あの亀裂を通って
光を浴びると元に戻れない」
さとすように言うバルベータス。
「俺は地球に戻ってやるんだ・・・」
ヤマトは全身に広がっていく焼けるような痛みのけぞる。
「波動砲は強力だが使い過ぎれば生命の源であるコアを蝕み最大パワーにすればおまえは暴走
してしまうかもしれない。死んでしまうかもしれないのだよ」
「戦って死ねるなら本望」
「おまえは地球を救ってきた。今度はその力を使ってワシらと一緒に戦ってくれ」
肩に手を置くバルベータス。
「あんなゲテモノ俺一人で倒せる」
「奴らを甘く見てはいかん。ワシはそう言って一人で戦って死んでいった者をたくさん見ている。
おまえは魔術を習得しなくても邪神の眷属と配下の魔物をその必殺技で一撃で倒した。そして
試験官であるカマエル評議員にも対等に戦った。おまえに訓練はいらん。問題はその強すぎる
パワーをどう制御するかにある」
言い聞かせるバルベータス。
うつむくヤマト。
「地球にいた時は艦長たちが今まで制御していたがこの世界に迷い込んできた以上は自分で
制御しなければいけないのだ」
シドが口を開く。
「これがおまえの体の中身だ」
バルベータスはホログラムのスイッチを押した。
映像に人型ロボットの時と戦艦に戻った時の体内と艦内が映し出される。
ロボットの時は金属骨格に駆動装置、生命維持装置と黄金色に輝くコアがある。そして戦艦に
戻った時の艦内は波動エンジンと発射装置はそのままだが人間の居住するスペースがすべて
なくなり光輝くコアと生命維持装置になっていたりエネルギーを貯蔵する装置、兵器を造りだす
工場になっていた。
「バカな・・・」
愕然とするヤマト。ヘナヘナ座りこむ。
「ワシもバスチアンもデビットも機械生命体はみんなこうなっている。こうなってしまうと人間や
異星人を乗せることはできなくなるんだ」
バルベータスは言う。
泣き出すヤマト。ほおを伝って涙が流れ落ちる。
「それは涙というものだよ」
言い聞かせるバルベータスはそっと肩を寄せた。
「落ち着いたかね」
シドは声をかけた。
顔を上げるヤマト。
黙ったままのバルベータス。
シドが部屋の奥からワゴンに黒色の戦闘スーツと胸当て型の制御装置を乗せて近づく。
「これがGフォースの制服でもある戦闘スーツと制御装置だ」
バルベータスは指さした。
ヤマトはそのスーツを着る。見た目はウエットスーツにに近い。二の腕にGフォースのマークが
入っている。彼は胸当て型の制御装置を着用する。制御装置から体内にプラグがのびてコアや
制御装置と接続される。
「そのスーツは一人一人違う仕様になっている。君のは熱に耐えられるように出来ている。そして
制御装置はパワーを抑えるように造った。君に合わせて造るのは大変だった」
シドがフッと笑う。
ヤマトはうつむく。
今までほてっていた体が元の体温に戻るような感じを受ける。
「戦艦に戻る時や波動砲使う時はそれを外しなさい」
シドが言う。
「ありがとう。俺は命の恩人を殺してしまう所だったんだ」
ヤマトは頭を下げる。
あやまるのは初めてである。他人に頭を下げるということはなかった。
「いや私も言い方が悪かったかもしれないね」
首を振るシド。
「おまえが住む官舎は別棟だ」
バルベータスはホログラムに地図を出す。
今いるのが研究棟と指令室がありロビーを出て渡り廊下を渡ると官舎がある。官舎には機械生命体
の他に人間や異星人達も住んでいる。
「わかった」
ヤマトはうなづくと部屋を出た。廊下を出るとロビーに出る。ロビーにはたくさんの隊員たちが忙しく
行き交っている。
黙って通り過ぎるヤマト。
「おいレトロな船」
「オンボロ船」
「錨マークよく戦えたな」
聞き覚えのある三つの声が聞こえた。
振り向くとそこに試験前にからかってきた三隻の警備船と戦闘機だった隊員がいた。
「俺は錨マークじゃねえ。ヤマトだ」
ムッとするヤマト。
「入隊おめでとうって言ってやる」
「でも俺たちは認めたわけじゃない」
「戦うか戦わないか早く決めろよ。みんなイライラしているんだから」
三人はつっけんどうに言う。
歯切りするヤマト。彼はいきなり真ん中の奴を殴った。
すると三人もいっせいに殴りかかってもみあいになる。
バルベータスはバケツの水をぶっかけた。
「やめんかい。ばか者が!!」
一喝するバルベータス。
しゅんとなる三人とヤマト。
「おまえたち三人は持ち場に戻れ。ヤマトおまえは官舎へ行け」
バルベータスは言った。
「申し訳ありません」
三人は謝るとそそくさと去っていく。
ヤマトは黙ったままロビーを出る。渡り廊下からふと見ると海が見えた。しかし彼は無視して
自分の部屋へ行った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる