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6 尾行
翌日。
「ただいま」
夫はまた羽毛にまみれて小屋から帰ってきた。
どうしていつも、そんなに羽根が着くの?
床で寝転んでいるの?
私はこれまでなら気にならなかったことが気になり始めていた。それでも、口に出して言う勇気はない。
「おかえりなさい……」
「いつもの笑顔は?せっかく君は綺麗なんだから」
夫は私を軽く抱き寄せ、髪にキスをした。
うっ。
鼻をつく鳥の臭いに私の体がこわばった。以前なら、「メイドたちが見てますわ」と恥じらっていたのに。
私から離れて湯浴みに向かう間際の夫の唇に、こすったように紅がかすかについているのを、私は目撃した。
どくっ!
心臓がへしゃげたような音を立てた。
モニカとキスしたの?
私が夫の腕に触れた時、嫌な顔をしたモニカを思い出した。
私は苦痛に顔を歪めた。
どうして今まで気づかなかったのだろう。
きっと、兆候はあったはずだ。
モニカと距離が近くなっていくきっかけや過程が。
夫が置いたテーブルのポットを鋭く見る。
……ミルクティーは?
心臓がはげしく鼓動を刻みだす。
ティーカップを持つモニカの笑顔がよぎる。いつもカップに入っているのは、ミルクティー。
モニカの好物だ──
今更気づくなんて……!
あまりの衝撃に私はどくどくと痛む胸元を掴んだ。
確かめなければ。
私は明日、夫を尾行することにした。
「行ってくる」
「いってらっしゃい」
何気ない午後の挨拶が今日は死刑宣告前の儀式のように感じられた。夫は何も知らず、ポットとスイーツのカゴを持って玄関を出て行った。
数分後。
「ダミアンの忘れ物を届けに行ってくるわね」
私はそう執事に行って鳥小屋に向かった。
歩いて数分で鳥小屋に着く。私の心臓がバクバクと音を立て始めた。
お願い……ダミアン一人でいて。
そう祈りながら、とうとう小屋に到着してしまった。
「ふう」
息を吐いて、思い切って小屋の窓から中を覗き込んだ。
「……!」
中にはダミアンだけだった。ダミアンはテーブルにポットとカゴを置いて、辺りを見回している。
「──よかった……」
一人だった。
私は安堵のため息を吐いた。だがその直後、いきなり絨毯が跳ね上がり、下から誰かが姿を現した。
「じゃーん!!お義兄っ!!」
「うわっ!もう、びっくりさせるなよ」
「うふふふ」
「っ!!」
私は衝撃で体が硬直した。
モニカだった。
二人は慣れた様子で体を寄せ合い、キスをした。
「嘘でしょ……」
私の喉から掠れた声が漏れた。
景色がぐにゃりと歪む。
モニカはそのまま夫の背中に手をまわした。
──っ!!
私はたまらず走り出した。
ダミアンは浮気していた……!
私はついに決定的な現場を見てしまった。認めたくない気持ちと消しようのない事実がぶつかりあい、私を責め立てた。
私は頭が真っ白なまま、心臓が止まりそうなほど息を切らして屋敷に駆け込んだ。
「いかがされましたか?奥様」
事情を知らない執事が微笑みながら私に声をかけた。
「──っ」
とても言えない。
「な、何でもないわ……仕事に戻るわね」
「……承知しました」
少し怪訝そうな視線を私によこしたが、執事はそれ以上何も聞かず、仕事の話に移った。
ギリギリまで耐えた後、私は自室に入るなり、ソファーに崩れ落ちた。
「ああっ……嘘よ、嘘よ」
どっと、悲しみが押し寄せた。小屋で情熱的に抱き合う二人の陰が頭にこびりついて離れなかった。
「どうしてこんな──!う、ぐっ──」
クッションに顔を埋め、外に漏れないよう声を押し殺した。
頑張ってきたのに──
あなたのために頑張ってきたのに──!!
しばらくの間、絶望の涙がクッションを冷たく濡らした。
「ただいま」
夫はまた羽毛にまみれて小屋から帰ってきた。
どうしていつも、そんなに羽根が着くの?
床で寝転んでいるの?
私はこれまでなら気にならなかったことが気になり始めていた。それでも、口に出して言う勇気はない。
「おかえりなさい……」
「いつもの笑顔は?せっかく君は綺麗なんだから」
夫は私を軽く抱き寄せ、髪にキスをした。
うっ。
鼻をつく鳥の臭いに私の体がこわばった。以前なら、「メイドたちが見てますわ」と恥じらっていたのに。
私から離れて湯浴みに向かう間際の夫の唇に、こすったように紅がかすかについているのを、私は目撃した。
どくっ!
心臓がへしゃげたような音を立てた。
モニカとキスしたの?
私が夫の腕に触れた時、嫌な顔をしたモニカを思い出した。
私は苦痛に顔を歪めた。
どうして今まで気づかなかったのだろう。
きっと、兆候はあったはずだ。
モニカと距離が近くなっていくきっかけや過程が。
夫が置いたテーブルのポットを鋭く見る。
……ミルクティーは?
心臓がはげしく鼓動を刻みだす。
ティーカップを持つモニカの笑顔がよぎる。いつもカップに入っているのは、ミルクティー。
モニカの好物だ──
今更気づくなんて……!
あまりの衝撃に私はどくどくと痛む胸元を掴んだ。
確かめなければ。
私は明日、夫を尾行することにした。
「行ってくる」
「いってらっしゃい」
何気ない午後の挨拶が今日は死刑宣告前の儀式のように感じられた。夫は何も知らず、ポットとスイーツのカゴを持って玄関を出て行った。
数分後。
「ダミアンの忘れ物を届けに行ってくるわね」
私はそう執事に行って鳥小屋に向かった。
歩いて数分で鳥小屋に着く。私の心臓がバクバクと音を立て始めた。
お願い……ダミアン一人でいて。
そう祈りながら、とうとう小屋に到着してしまった。
「ふう」
息を吐いて、思い切って小屋の窓から中を覗き込んだ。
「……!」
中にはダミアンだけだった。ダミアンはテーブルにポットとカゴを置いて、辺りを見回している。
「──よかった……」
一人だった。
私は安堵のため息を吐いた。だがその直後、いきなり絨毯が跳ね上がり、下から誰かが姿を現した。
「じゃーん!!お義兄っ!!」
「うわっ!もう、びっくりさせるなよ」
「うふふふ」
「っ!!」
私は衝撃で体が硬直した。
モニカだった。
二人は慣れた様子で体を寄せ合い、キスをした。
「嘘でしょ……」
私の喉から掠れた声が漏れた。
景色がぐにゃりと歪む。
モニカはそのまま夫の背中に手をまわした。
──っ!!
私はたまらず走り出した。
ダミアンは浮気していた……!
私はついに決定的な現場を見てしまった。認めたくない気持ちと消しようのない事実がぶつかりあい、私を責め立てた。
私は頭が真っ白なまま、心臓が止まりそうなほど息を切らして屋敷に駆け込んだ。
「いかがされましたか?奥様」
事情を知らない執事が微笑みながら私に声をかけた。
「──っ」
とても言えない。
「な、何でもないわ……仕事に戻るわね」
「……承知しました」
少し怪訝そうな視線を私によこしたが、執事はそれ以上何も聞かず、仕事の話に移った。
ギリギリまで耐えた後、私は自室に入るなり、ソファーに崩れ落ちた。
「ああっ……嘘よ、嘘よ」
どっと、悲しみが押し寄せた。小屋で情熱的に抱き合う二人の陰が頭にこびりついて離れなかった。
「どうしてこんな──!う、ぐっ──」
クッションに顔を埋め、外に漏れないよう声を押し殺した。
頑張ってきたのに──
あなたのために頑張ってきたのに──!!
しばらくの間、絶望の涙がクッションを冷たく濡らした。
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