31 / 36
31 家族会合
ルイーゼ、ダミアン、モニカ、ルイーゼの父ヴェリオール子爵、義母ローラ、そして実兄ネイサンが一堂に会した。
ダミアンは開き直ったようにふてぶてしく、そっぽを向いている。ローラはいつも以上に胸を張り、虚勢を張るように前を凝視していた。一方のモニカは、悲劇のヒロインを気取るようにうつむいている。
沈黙の中、ヴェリオール子爵が怒りで震える唇を引き結び、圧倒的な威圧感を放った。隣に座るネイサンは、眉根を寄せたまま静かに目を閉じている。
「ダミアン。お前は両親が説得しても、離縁はしないと言い張ったそうだな」
重苦しい空気の中、子爵が口火を切った。
「はあ……まあ、そうですが」
ダミアンは面倒くさそうに生返事をした。
「お前はかつて、ルイーゼを一生大切にすると誓った。想い人からの連絡が途絶え失意のどん底にいたルイーゼにお前は微笑みを取り戻してくれた。さらに何度も私に結婚を直談判しに来た熱意を買って、私は結婚を許したのだぞ!それなのに娘を不幸に陥れてこのザマは何だ!?」
子爵の怒声に、ダミアンはびくりと肩を震わせた。
「モニカ、お前もだ!姉の夫と知りながら関係を持つなど、非常識にも程がある!……ローラ、お前は知っていたのか?」
「え──」
急に矛先を向けられ、ローラは青ざめて言い淀んだ。子爵の全てを見通すかのような目がローラから冷静さを奪っていった。ローラは子爵を敵に回さないために言い繕い始めた。
「わ、私はもちろん、存じませんでしたわ!ええ、知るはずがございません!知っていれば厳しく嗜めておりましたもの!」
「お母様!?」
その卑怯な言葉にモニカが目を割れんばかりに見開いて母に噛みついた。
「私を裏切る気!?お母様は知っていたわ!知った上で『ダミアンをお姉様から奪え』って、私をけしかけたじゃない!」
「何だと!?おい、ローラ、本当なのか?お前はルイーゼの保護者でありながら、私と娘を裏切ったのか!!」
子爵が鬼の形相でローラを睨みつけた。
「あっ、いえ、まさか、その……」
ローラは冷や汗を流しながら慌てふためき、子爵とモニカの顔をせわしなく見比べた。挙句の果てに、彼女はあろうことかルイーゼに泣きついてきた。
「ルイーゼ、助けて頂戴!」
「は?」
ルイーゼは耳を疑った。
「あなたを裏切る気なんてなかったのよ!モニカがあんまりダミアンが欲しいと言うから、私は仕方なく……ね?ネイサンも私を哀れだと思うのなら助けて頂戴!」
「何を馬鹿なことを……母上──あなたは私の大事な妹であるルイーゼを絶望の淵に落とす手助けをしました。私はもうあなたを母上と呼ぶのは今日限りやめます」
「そんなっ」
ネイサンに冷たく拒絶されたローラはうろたえた。
さんざん冷遇し、手ひどく裏切っておきながら、今さら助けを求める。この女は一体どんな神経をしているのか。
「ルイーゼ、ルイーゼはわかってくれるわよね?」
ルイーゼも兄同様、冷徹な眼差しでローラを突き放した。
「『仕方なく』、夫との不貞を黙認したと?母とは本来、娘の愚行を止める役目ではないのですか?」
「う」
ローラはぐうの音も出なかった。
「ルイーゼの言う通りだ!ローラ、お前とはもう離縁だ!娘ともども今すぐこの屋敷から出ていけ!」
「えっ!?」
子爵の怒りにローラはガタガタと震え出した。離縁されるなど、微塵も思っていなかったのだろう。モニカも「私まで!?」と口をパクパクさせている。
ローラの実家は貧しい男爵家だ。裕福な子爵との再婚は彼女にとって最高の『玉の輿』だった。放り出されれば待っているのは困窮と借金地獄である。もちろん娘のモニカにとっても絶体絶命のピンチだった。
冗談じゃないわ。
どうして私まで追い出されなくちゃならないの!?
今こそ切り札を使うのよ──
「皆んな……ちょっと待ってくれる?──」
追い詰められたモニカが、震える声で呟いた。
「私には……宝物が宿っているの」
「宝物?」
全員の視線がモニカに集中した。
「実は私、お義兄様との子を身ごもったの!」
「それは本当か!」
絶望に染まっていたダミアンの顔が、ぱあっと明るくなった。
「まあ! モニカ、素晴らしいじゃない! 跡継ぎを授かったのね! この家にとって最高のニュースだわ。ねえ、旦那様?」
ローラは調子よくモニカの策に乗ろうとした。だが、そこにルイーゼの静かな声が響いた。
「ダミアンの子だなんて、ありえないわ」
「は? お姉様、負け惜しみ? 自分が授かれないからって……」
「黙れ、モニカ」
厳しい声音でネイサンが割って入った。ルイーゼは兄の視線に応えるように、深く頷いた。
その時が来たわ。
「……ダミアン、あなたには黙っていたけれど。残念ながら、あなたには子をなす能力がありません」
「────は?」
ダミアンも、モニカも、ローラも。全員が呆然と固まった。
ダミアンは開き直ったようにふてぶてしく、そっぽを向いている。ローラはいつも以上に胸を張り、虚勢を張るように前を凝視していた。一方のモニカは、悲劇のヒロインを気取るようにうつむいている。
沈黙の中、ヴェリオール子爵が怒りで震える唇を引き結び、圧倒的な威圧感を放った。隣に座るネイサンは、眉根を寄せたまま静かに目を閉じている。
「ダミアン。お前は両親が説得しても、離縁はしないと言い張ったそうだな」
重苦しい空気の中、子爵が口火を切った。
「はあ……まあ、そうですが」
ダミアンは面倒くさそうに生返事をした。
「お前はかつて、ルイーゼを一生大切にすると誓った。想い人からの連絡が途絶え失意のどん底にいたルイーゼにお前は微笑みを取り戻してくれた。さらに何度も私に結婚を直談判しに来た熱意を買って、私は結婚を許したのだぞ!それなのに娘を不幸に陥れてこのザマは何だ!?」
子爵の怒声に、ダミアンはびくりと肩を震わせた。
「モニカ、お前もだ!姉の夫と知りながら関係を持つなど、非常識にも程がある!……ローラ、お前は知っていたのか?」
「え──」
急に矛先を向けられ、ローラは青ざめて言い淀んだ。子爵の全てを見通すかのような目がローラから冷静さを奪っていった。ローラは子爵を敵に回さないために言い繕い始めた。
「わ、私はもちろん、存じませんでしたわ!ええ、知るはずがございません!知っていれば厳しく嗜めておりましたもの!」
「お母様!?」
その卑怯な言葉にモニカが目を割れんばかりに見開いて母に噛みついた。
「私を裏切る気!?お母様は知っていたわ!知った上で『ダミアンをお姉様から奪え』って、私をけしかけたじゃない!」
「何だと!?おい、ローラ、本当なのか?お前はルイーゼの保護者でありながら、私と娘を裏切ったのか!!」
子爵が鬼の形相でローラを睨みつけた。
「あっ、いえ、まさか、その……」
ローラは冷や汗を流しながら慌てふためき、子爵とモニカの顔をせわしなく見比べた。挙句の果てに、彼女はあろうことかルイーゼに泣きついてきた。
「ルイーゼ、助けて頂戴!」
「は?」
ルイーゼは耳を疑った。
「あなたを裏切る気なんてなかったのよ!モニカがあんまりダミアンが欲しいと言うから、私は仕方なく……ね?ネイサンも私を哀れだと思うのなら助けて頂戴!」
「何を馬鹿なことを……母上──あなたは私の大事な妹であるルイーゼを絶望の淵に落とす手助けをしました。私はもうあなたを母上と呼ぶのは今日限りやめます」
「そんなっ」
ネイサンに冷たく拒絶されたローラはうろたえた。
さんざん冷遇し、手ひどく裏切っておきながら、今さら助けを求める。この女は一体どんな神経をしているのか。
「ルイーゼ、ルイーゼはわかってくれるわよね?」
ルイーゼも兄同様、冷徹な眼差しでローラを突き放した。
「『仕方なく』、夫との不貞を黙認したと?母とは本来、娘の愚行を止める役目ではないのですか?」
「う」
ローラはぐうの音も出なかった。
「ルイーゼの言う通りだ!ローラ、お前とはもう離縁だ!娘ともども今すぐこの屋敷から出ていけ!」
「えっ!?」
子爵の怒りにローラはガタガタと震え出した。離縁されるなど、微塵も思っていなかったのだろう。モニカも「私まで!?」と口をパクパクさせている。
ローラの実家は貧しい男爵家だ。裕福な子爵との再婚は彼女にとって最高の『玉の輿』だった。放り出されれば待っているのは困窮と借金地獄である。もちろん娘のモニカにとっても絶体絶命のピンチだった。
冗談じゃないわ。
どうして私まで追い出されなくちゃならないの!?
今こそ切り札を使うのよ──
「皆んな……ちょっと待ってくれる?──」
追い詰められたモニカが、震える声で呟いた。
「私には……宝物が宿っているの」
「宝物?」
全員の視線がモニカに集中した。
「実は私、お義兄様との子を身ごもったの!」
「それは本当か!」
絶望に染まっていたダミアンの顔が、ぱあっと明るくなった。
「まあ! モニカ、素晴らしいじゃない! 跡継ぎを授かったのね! この家にとって最高のニュースだわ。ねえ、旦那様?」
ローラは調子よくモニカの策に乗ろうとした。だが、そこにルイーゼの静かな声が響いた。
「ダミアンの子だなんて、ありえないわ」
「は? お姉様、負け惜しみ? 自分が授かれないからって……」
「黙れ、モニカ」
厳しい声音でネイサンが割って入った。ルイーゼは兄の視線に応えるように、深く頷いた。
その時が来たわ。
「……ダミアン、あなたには黙っていたけれど。残念ながら、あなたには子をなす能力がありません」
「────は?」
ダミアンも、モニカも、ローラも。全員が呆然と固まった。
あなたにおすすめの小説
あなたの破滅のはじまり
nanahi
恋愛
家同士の契約で結婚した私。夫は男爵令嬢を愛人にし、私の事は放ったらかし。でも我慢も今日まで。あなたとの婚姻契約は今日で終わるのですから。
え?離縁をやめる?今更何を慌てているのです?契約条件に目を通していなかったんですか?
あなたを待っているのは破滅ですよ。
※Ep.2 追加しました。
マルグリッタの魔女の血を色濃く受け継ぐ娘ヴィヴィアン。そんなヴィヴィアンの元に隣の大陸の王ジェハスより婚姻の話が舞い込む。
子爵の五男アレクに淡い恋心を抱くも、行き違いから失恋したと思い込んでいるヴィヴィアン。アレクのことが忘れられずにいたヴィヴィアンは婚姻話を断るつもりだったが、王命により強制的に婚姻させられてしまう。
だが、ジェハス王はゴールダー家の巨万の富が目的だった。王妃として迎えられたヴィヴィアンだったが、お飾りの王妃として扱われて冷遇される。しかも、ジェハスには側妃がすでに5人もいた。
あなたの絶望のカウントダウン
nanahi
恋愛
親同士の密約によりローラン王国の王太子に嫁いだクラウディア。
王太子は密約の内容を知らされないまま、妃のクラウディアを冷遇する。
しかも男爵令嬢ダイアナをそばに置き、面倒な公務はいつもクラウディアに押しつけていた。
ついにダイアナにそそのかされた王太子は、ある日クラウディアに離縁を突きつける。
「本当にいいのですね?」
クラウディアは暗い目で王太子に告げる。
「これからあなたの絶望のカウントダウンが始まりますわ」
(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?
青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。
けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの?
中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。
いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた
奏千歌
恋愛
[ディエム家の双子姉妹]
どうして、こんな事になってしまったのか。
妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。
【完結】よりを戻したいですって? ごめんなさい、そんなつもりはありません
ノエル
恋愛
ある日、サイラス宛に同級生より手紙が届く。中には、婚約破棄の原因となった事件の驚くべき真相が書かれていた。
かつて侯爵令嬢アナスタシアは、誠実に婚約者サイラスを愛していた。だが、サイラスは男爵令嬢ユリアに心を移していた、
卒業パーティーの夜、ユリアに無実の罪を着せられてしまったアナスタシア。怒ったサイラスに婚約破棄されてしまう。
ユリアの主張を疑いもせず受け入れ、アナスタシアを糾弾したサイラス。
後で真実を知ったからと言って、今さら現れて「結婚しよう」と言われても、答えは一つ。
「 ごめんなさい、そんなつもりはありません」
アナスタシアは失った名誉も、未来も、自分の手で取り戻す。一方サイラスは……。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。